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川 ゚ -゚)ξ゚⊿゚)ξ今を憂い、未来を望むようです


450 :川 ゚ -゚)ξ゚⊿゚)ξ今を憂い、未来を望むようです 1/6:2008/06/30(月) 22:23:59.12 ID:h4ZwBeA10

天を仰いだ。
真っ青な空には、ある種その象徴とも言うべき、太陽が燦々と輝きを放っている。
私は、太陽から浴びせられる熱気と、
それにより暖められたコンクリートの熱さを背中に感じた。

風が一つ吹いた。
颯爽と私の傍を駆け抜けて行ったそれは、私に一瞬の心地よさを与えた。
不意にずっとこのまま微睡んでいたいという、堕落思考的な衝動に駆られる。

だが、所詮こんな想いや感覚など一時のものに過ぎないと、
現実に生きる自分の理性はそれを振り払った。同時に私は、視線を隣へと向けた。

そこには、私と同じ制服に身を包み、
私と共に、ここ屋上にて仰向け寝転んでいる少女が一人。
そして彼女も、今し方の私同様に天を仰いでいた。


「ねぇ、最近どう?」

視線を相変わらず天空に向けたままの彼女から、
突然の質問が投げかけられる。
何てことはない、世間話の切り口として常用され尽くしている文句だ。


「そうだな、特に変わりないな」

「そう……それは残念ね」


私が答えると彼女は、本当に残念だ、と言った調子で更に答えた。



451 :川 ゚ -゚)ξ゚⊿゚)ξ今を憂い、未来を望むようです 2/6:2008/06/30(月) 22:25:26.60 ID:h4ZwBeA10

「相変わらず、ウチの父は仕事をせず酒ばかり飲んでいる。
 あと五年もすれば、亡くなった母の遺した保険金を完全に食い潰してしまうよ」

私は具体的な補足説明を交えて更に返答する。
今朝、久方ぶりに見ただらしなく、そして汚く床に横たわっていた父親を想起し、
少し不快感を覚え、再度天を仰いだ。


「本当に、相変わらずなのね」

彼女は、心底残念だ、と言った調子で私に言葉を返す。


「ちなみに、あたしは少し変わったことがあったわ」

「ほう? それは良いことか?」

「いいえ……」

そう言うと、彼女は一つ倦怠感を帯びた溜め息を吐いた。
これは、彼女が落ち込んでいる時の特徴だ。
話を聞いたら慰めてやらねばなと、私は思った。


「……バイト、クビになったの」

失職。

私は、私が幾つか予想していた中の一つの不幸であることに、軽い安堵を覚えた。
同時に彼女を途轍もなく不憫に思った。



452 :川 ゚ -゚)ξ゚⊿゚)ξ今を憂い、未来を望むようです 3/6:2008/06/30(月) 22:26:38.16 ID:h4ZwBeA10

安堵したのは、起こった不幸に代用が効くからだ。
目が見えなくなったとか、耳が聞こえなくなったとか、その手の取り返しのつかない不幸ではないからだ。

不憫に思ったのは、彼女の努力が報われなかったからだ。
約半年。その間、彼女はずっと一度の欠勤もなく勤労に励んでいた。
それ以前から彼女と一緒にいる私は、彼女が学校の勉強とそれを、
精一杯努力して両立させていたのを知っていた。


「親がね、バイト先に来て、私が中学生だってことバラしやがったの。
 それで当然だけど、あっさり解雇」

これも私の予想の範疇であった。
私たちは中学三年生。齢にして十四だ。
最近の世間では、現役中学生を雇ってくれる職場など殆どないだろう。
だから、彼女は年齢を偽ってアルバイトを始めた。

私は、それがいつかは明るみになることだろうとは思っていた。
そしていつか辞めさせられるに決まっている。だから止めておいた方がいい、そう考えた。
だが、彼女の心情を重んじれば、その様な無責任な正論を宣うのは躊躇われた。


「親が言うのよ。『勝手なことをするな。問題を起こすな。
 大人しく私たちの言う通りにしていろ』って……」

そこでまた彼女は、一つ倦怠感を帯びた溜め息を吐いた。


「それを聞いてやっぱり思ったわ。“なによ、結局あたしのことなんかどうでも良くて、
 ただあたしの所為で、自分たちの世間からの評判が悪くなるのが嫌なだけなんでしょ”って」



454 :川 ゚ -゚)ξ゚⊿゚)ξ今を憂い、未来を望むようです 4/6:2008/06/30(月) 22:28:06.53 ID:h4ZwBeA10

彼女と私は同様に、“親”というモノに信頼を置けない子供だった。

働かず、養育を完全に放棄した親。
娘をただ問題を生み出す害としか見なさず、世間体的な惰性のみでただ養うだけの親。

前者は無責任さを含め、そして双方共に愛情など欠片もありはしない。

それ故に、彼女はそんな親の扶助など受けたくないと、
校則違反だと知りつつ、アルバイトを始めた。

ちなみに私は、社会のゴミ当然な父親のいる家に帰るのが嫌で、
日がな浮浪する、世間的に見ればただのろくでもない不良少女だ。

つまるところ私たちは、素行不良の生徒同士。
そして今二人は、素行不良の生徒にはお似合いの授業放棄の真っ最中。

私は、天空を正面に向けていた身体を少し横に、
彼女のいる方向に転がした。


ξ゚⊿゚)ξ「……」

川 ゚ -゚)「……」

恐らく、彼女も私と同じ様に身体をこちらに傾けてきたのだろう。
彼女の顔が眼前にあったので、内心少しドキリとした。

どちらも相手の顔から視線を逸らさず、見つめ合う。

そうして、気づけば二人は互いの掌を繋ぎ、重ね合わせていた。



455 :川 ゚ -゚)ξ゚⊿゚)ξ今を憂い、未来を望むようです 5/6:2008/06/30(月) 22:29:21.86 ID:h4ZwBeA10

ξ゚⊿゚)ξ「……ねぇ、クー。あたし、早く大人になりたい」

川 ゚ -゚)「私もだ……」

成人するまであと六年。
私たちにとって、それはあまりに遠い未来だ。

義務教育中の未成熟な子供である私たちは、あまりに弱い。
職には就けないし、不自由なく生活を送るための資金も居場所もない。
そして、それに対する責任すら取らせて貰えない。

しかしだからと言って、私たちには自分たちの考えが間違っているとは思えなかった。

川 - -)「……ツン」

ξ-⊿-)ξ「……ん」

そして、それは私たち自身の想い合う心も――


視界を閉じた。
すると、あっという間に目の前は暗闇に包まれてしまう。
そう、いともあっさりと。

それでも不安は抱かなかった。

彼女のこの小さな掌から私の全身に伝わる温もり。
それは燦々と天上で輝き続ける太陽よりも、暖かで神々しい。

この世界中の何もかもを差し置いて、唯一彼女だけが未来永劫、私の希望だった。



456 :川 ゚ -゚)ξ゚⊿゚)ξ今を憂い、未来を望むようです 6/6:2008/06/30(月) 22:30:39.87 ID:h4ZwBeA10
「なぁ、ツン。私には夢があるんだ」

「……それは初耳ね。聞かせて貰える?」


私の唐突な発言に訝しむこともなく、彼女は即座にそう聞き返してくれた。
優しい子だな、と私は思い、そのまま発言を続けた。


「いつか大人になって、そして君と一緒に暮らすことだ」

「…………奇遇ね」


彼女がそう呟いたのと同時に、私は瞼を開いた。
そして私の眼前には、いっぱいの太陽光に包まれた、彼女のはにかんだ様な笑顔があった。


ξ*゚ー゚)ξ「……あたしの夢も、同じよ」


私は、僅かに頬を赤らめた彼女を愛しさのあまり、強く抱き寄せた。







川 ゚ -゚)ξ゚⊿゚)ξ今を憂い、未来を望むようです-Fin-


[ 2008/06/30 22:32 ] 総合短編 | TB(0) | CM(0)

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