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犯罪者のようです


はじめてブーン系小説を読む方はこちらへどうぞ




どこまでも続く荒野があった。
右も左も、前も後ろも、視界に映るのは赤い岩に覆われた地面だけだった。
赤一色に染められた土地。

では、ここには本当に何も無いのかと言うと、そうではない。
空を見上げれば青い空がある。
そして視線を下に向ければ、

太陽の光が届かない、真っ黒な谷があった。

その谷はとても深く、また広かった。
覗き込んでも、目に映るのはひたすらに終わりの見えない深淵だけだ。
だからこそ、誰も考えはしないだろう。

まさかこの下に、建物が。
それも、世界でも最高峰の危険度と重要性を誇る、建築物があるなどとは、夢にも。



20090322230759.jpg


 
谷の底、そこには黒塗りの建造物があった。

その建物の周りには、分厚い金属の門が何重にも設置されている。
出入りするには、網膜、指紋、静脈、認証コードの提示と、夥しい数のチェックを通過する必要があった。
更に正規の方法以外で入ろうとすれば、それこそ常人では命が幾つあっても足りないであろう
セキュリティで守られていた。

立地条件を考えれば必要ないのでは無いかと思われる、
むしろ立地条件を考えなくても過剰と思えるその防護は、この建物の関係者に言わせれば、
これでも不足だとの事だった。

果たして、ここは一体何なのか。
答えは、中を見てみれば分かる。

丁度、この建物に入ろうとしている二人の男がいた。
とても大きなワゴンを、一人が押し一人が引いて、運んでいる。
彼らはここの職員で、屋内に至るまでの全てのチェックを通過する術を持っていた。

最後のチェックを終えて開かれたドアを潜ると、真っ白な廊下が彼らを迎える。
何の変哲もない、普通よりは少し広いだけの、ただの廊下。

ただおかしな所は、左右の壁が透明である事。
またその壁の向こう側に、幾人もの人がいる事だ。
それぞれが隔壁によって区別されている。


ミ,,゚Д゚彡「おいコラ屑共! 飯だぞ!」

運んできたワゴンを足蹴にして、男の片割れが叫ぶ。
瞬間、壁の向こう側がどっと湧き上がる。

その反応を待たずして二人の男はワゴンを開けた。
中にはずらりと、食事の乗ったトレイが並べられている。
彼らはそれを手に取ると、透明な壁に設けられた小さな穴へと差し入れていく。


ここは、刑務所。

それも尋常でない。
狂人と言ってもいい――否、狂人としか言いようの無い犯罪者のみが収監される刑務所だ。


ある者は一夜の内に、一つの街を地図から消してみせた。
ある者はたった一人で、世界最強と呼ばれる軍隊を相手に勝利してみせた。
ある者は医術の発展の為だと、病院の職員と患者を全員解剖してしまった。
ある者は正義の名の下に、政治界の頭を司る人物を根こそぎ殺してみせた。

ある者はたった一晩で、都市に立ち並ぶビルの林を崩そうとした。
ある者は50年に渡って、ただの一度も見つかる事なく人々を殺しまわった。
ある者はついカッとなって、部下同僚から上司まで皆殺しにしてしまった。
ある者は万人の心を奪い国家転覆を図り、事実軍事基地を一つ陥落せしめた。

この刑務所には筋金入りの狂人で、尚かつ通常の刑務所ではとても抑えられないであろう犯罪者しかいない。


男二人の作業は、とても慎重だった。
彼らと犯罪者を隔てる壁は大型トラックの正面衝突すら防いでのける代物だが、それでも油断は出来ない。
壁に近づきすぎた余りトレイの差し入れ口から拳の一撃を見舞われて、
反対側の壁に脳漿をぶち撒ける事になった者も、ここの職員にはいたのだ。


川 ゚ -゚) 「……うぉーい、飯はまだかーい?」

隔壁の向こうで、一人の女が声を発した。
濡羽色の長髪に、サファイアのように青い瞳、一面の雪景色を思わせる白い肌。
街を歩いていたならば十人中十人が振り返るであろう、端整な容姿。

名はクー。
こんな所にいる事が信じ難い程に美しい彼女だが、やはり油断は禁物だった。

彼女は数年前に起こったヴィップ国とラウンジ国の戦争に、ヴィップ国のゲリラとして参戦していた。
それも、たった一人でだ。

戦場となる土地を完全に把握して、一人で戦う。
一人だからこそ理想の罠が張れ、理想の隠れ方が出来、理想の戦果を上げる事が出来る。

彼女はただ一人で戦場に赴いては、その度にラウンジの軍を壊滅させていた。

どれだけ獣達が足掻こうとも、大空を舞う鷹に牙が届く事はない。
彼女はその一方的な戦闘と青い瞳から、『空色の鷹』と呼ばれ畏怖の対象となった。

結局戦争はラウンジが政治的な面で手を回して勝利となった。
際してクーの存在を放置しては危険だと、彼女の身柄はラウンジが預かる事となったのだ。

川 ゚ -゚) 「わたしゃ腹が減ってるんだ。早くしてもらいたいものだね」

今でこそまるでニートのような態度を取っているが、男達は惑わされまいと彼女を強く睨んだ。


ミ,,゚Д゚彡「うるさいぞクー、お前らに近寄る位なら動物園行ってゴリラとハグする方がマシだ」

川 ゚ -゚) 「んー? 何だ、欲求不満なのか? だったらほら、丁度良くここに穴がある。入れればいいじゃないか」

トレイ用の差し出し口を指して、彼女は言う。
そして唇に人差し指を当てて、妖しい舌遣いで舐めて見せた。
思わず、男達の気が緩む。

ミ,,゚Д゚彡「……次馬鹿な事言ったら飯抜きだぞ。ったく、ほれ」

とは言え、一時の情動程度で崩せる程、彼らの理性も弱くはなかった。
何せ気を許せば、訪れるのは絶対の死なのだ。

川 ゚ -゚) 「なんだ……つまらん」

言葉通りに興ざめた口調で、クーはぼやいた。

彼女の他にも、この刑務所には多くの犯罪者がいた。
この刑務所はとても広いが、やはり収監数には限界がある。

となると数を減らす必要があるのだが、そこで一つ問題が生じる。
言うまでも無く、一体どのようにして彼らの数を減らす――始末するか、だ。

死刑に処そうにも、恐らくは処刑場に運ぶまでに運搬係は皆殺しにされてしまうだろう。
かと言って、他の場所に移す訳にもいかない。
移動のリスクが高過ぎる上に、ここを除いて彼らを収容出来る所など、そうそう見つかる物ではない。

しかし、一つだけ。
一つだけ、彼らの数を減らす術があった。


彼らに、脱走してもらえばいい。

ある日偶然、システムの誤作動で囚人達の牢から壁が取り除かれ、
同様にセキュリティもオフにされて、

ノハ ゚⊿゚) 「……お?」

川 ゚ -゚) 「む?」

( ゚д゚ )「むぅ?」

( ・∀・)「あれ?」

彼らは、外に出るのだ。

牢を出ると、囚人達はそのまま監獄の外へと歩き出す。
防壁を一つまた一つと潜っていき、数分もしない内に、彼らは刑務所の外壁前まで辿り着いた。
だが、最後の外壁が開く事はない。

何故なら彼らはここで、殺し合いをするのだから。

外壁の上から、弾けるような音と共に光が降り注いだ。
真っ暗だった囚人達の周りを照らす、強力なサーチライトだ。
建物の秘匿性を護る為に、上方には光が漏れない造りになっている。
光源の傍には、看守と思しき人影が幾つも立っていた。


彼らの目の前には、幾つもの武器が揃えられていた。
投獄される前、彼らが好んで使った物だ。

囚人達はそれぞれ自分に宛がわれたであろう武器を手に取っていく。
そして――出し抜けに自分の傍にいた他の囚人に、明らかな殺意を持ってそれを振るった。


一瞬にして、無数の激音が響き渡る。

これが、彼らの数を減らす唯一の方法。
偶然の名の下に囚人達を牢から出して、殺し合わせる。
どうせ外壁を越える事は出来ないのだから、囚人達に他の選択肢は無い。

ノハ ゚⊿゚) 「……はっはぁ! 汚物は消毒だあああああああああああああ!」

身の丈程の長さをした朱色の槍を豪快に振り回しながら、一人の女が叫んだ。

犯罪者とは思えない程にまっすぐで力強い眼光。
体の動きに合わせて振り乱れる髪は、燃え盛る炎を連想させる。

彼女の名はヒート。
汚職に塗れていたラウンジ官職を、皆殺しにした罪で投獄された者だった。

先のヴィップ国との戦争が終わって以来、ラウンジの政治は乱れに乱れてしまった。
戦争の責任の押し付け合い、他人を引きずり落とし、私欲の為に政治を執る者が溢れていた。

それに並々ならぬ義憤を覚えた彼女はあろう事か単身議会に乗り込み、
彼女が悪だと判断した時の官職全員を殺害してしまったのだ。

言うまでもなく、彼女の取った行動は罪、重罪だ。
しかくして、彼女もその事を理解していた。
事が終わると、彼女は全ての武装を解除して投降した。


かくして、彼女はこの刑務所に収監されたのだ。

ノハ ゚⊿゚) 「貴様らのような犯罪者は! 私が! 今! ここで粛清してくれるわああああ!」

( ・∀・)「馬鹿らしいね。君も同じ犯罪者じゃないか」

余りの速さに、最早空間に描かれる紅色の線となっている槍をしなやかな体捌きで躱しながら、
彼女に相対する男が言葉を零す。

ノハ ゚⊿゚) 「心外な! 私は正義の為に已む無く罪を犯したのだ!」

叫びを上げ、彼女の攻撃は更に激化する。

彼女は自身が罪を犯した事を自覚していた。
だが、同時に自分が正義を行ったと言う事も、疑ってはいなかった。
今でも彼女は、自分が正義のヒーローであると思い込んでいるのだ。

ノハ ゚⊿゚) 「はぁッ!」

男の腹部目掛けて、ヒートが超高速の槍を突き出す。
刃と柄の境界が無くなり、槍がただの紅い閃光になる程に鋭い彼女の一撃は、

( ・∀・)「っと、あっぶないなぁ」

男の軽い驚きの言葉と共に、呆気なく横に避けられてしまった。
槍を振り回していたこれまでと違い、腕を突き出すと言う行為から比較的大きな隙が生まれる。

( ・∀・)「直情馬鹿は嫌いでね。ちょっとどこかに行ってもらえるかな」

回避行動と併行して、男は自分の背後に腕を回す。
取り出されたのは、今まで隠し持っていた武器。
厳めしい造形をした刃を幾つも連ねた、多節鞭だ。

バックステップと共に、男が手首をしならせて鞭を振るう。
咄嗟にヒートは槍を戻し防御をするが、無意味な事だ。

鞭は槍ごと彼女を巻き付けると衣服等に食い込み、
また特殊な形の刃同士が絡み合うようにして、ヒートの自由を奪い取った。

( ・∀・)「よい……しょっと!」

掛け声と一緒に、男は鞭を両手で握り、全身の動きに連動させて大きく振るう。
男は決して体格がいいとは言えなかったが、上手く力を使ったのだろう。
ヒートの体は地面を離れ、次いで鞭からも解放され、空中へと放り投げられた。

ヒートの行く先には――クーがいた。
刀を持つ年老いた男を相手取り、大振りのナイフを手に切り結んでいる。

彼女の青い瞳は完全に目の前の男に集中しており、
故に飛んでくるヒートに対しての反応が僅かに遅れた。


川;゚ -゚) 「……なッ!?」

そして、気づいた時には既に遅い。
クーはヒートの直撃を受け、彼女諸共遠くへ吹っ飛んでいった。

( ・∀・)「いやぁー、飛んだ飛んだ。体が鈍ってなくてほっとしたよ」

残された男二人の視線が、交錯する。
ヒートを投げ飛ばした男は、微かに歪んだ笑みを形作って。
刀を携える老人は、双眸を鋭く細めて。

( ・∀・)「やぁどうも。どうです? 美女二人の争いを男同士眺め興じるってのは……」

男が冗談めかして口を開いた。

直後、老人の刀から、刀身が消失する。
そう言った錯覚さえ抱き得る、尖鋭な一撃だった。

(;・∀・)「わわっ!?」

不可視の刃に辛うじて反応した男は、間一髪で上体を後ろに大きく反らす。
彼の目の前を銀色の閃光が走り、取り残された前髪が数本、宙に舞った。

間髪入れずに、男は数回後ろに飛び退く。
老人も無理に追撃しようとはせず、両者の間に距離が生まれた。


( ・∀・)「……あっぶないなー、もう」

つい数秒前、危うく命を落としかけたにも関わらず、男の軽口は健在だった。
不愉快に思ったのか、老人は微かに眉を顰め、

( ・∀・)「流石は不見の異名を持つ老戦士、ミルナってとこですかねー」

続く男の言葉に、今度は大きく目を見開いた。

( ゚д゚ )「……儂を、知っておるのか?」

今まで固く結ばれていた、ミルナと呼ばれた老人の唇が、初めて開かれる。

( ・∀・)「そりゃ裏の世界じゃ結構有名ですからねぇ」

へらりと笑みを浮かべ、男は言葉を返す。

( ・∀・)「大戦時には刀一本で数々の戦場を打破して回った、日本きっての大英雄。
      ですが結局日本は戦争に負けた。あなたは日本に置いておくには危険過ぎると、
      ラウンジに身柄の受け渡しを要求された。そして……」

( ゚д゚ )「儂は日本に裏切られ、ラウンジへと送られた」

男が紡いだ言葉の最後を、ミルナが自ら締め括った。

( ・∀・)「そう。しかしあなたはラウンジに着いてすぐに逃亡した。
      以来、あなたはラウンジ人のみを殺して回る殺人鬼となったんですね。
      それも、50年間一度たりとも見つかる事なく」

やはり復讐ですかと、男が問い掛ける。
ミルナは首を横に振った。

( ゚д゚ )「違う。……あの時日本が降伏していなければ、儂が負ける事は無かった。
     当時まだ若かった儂は、日本の勝利と自分の勝利を同じ物として考えておった」

( ・∀・)「違うんですか?」

( ゚д゚ )「あぁ違う。儂の中で、戦争はまだ終わっておらなんだ。儂は勝てたのだ。
     50年前の勝ちを返してもらう為に、儂はラウンジ人を殺し回った」

ミルナの答えに、男は鞭を持たない左手を顎に当て、少し考え込んだ。

一拍の間を置いて、男が口を開く。


( ・∀・)「じゃぁ、何であなたは捕まったんですか?」

( ゚д゚ )「……」

男の質問にミルナは答えなかった。
彼の口は再び固く閉じられ、開く気配はない。

( ・∀・)「……ま、言う義務はありませんしね。……さて、そろそろやりますか」

これ以上会話は広がらないと考えたのか、男は鞭を持つ右手を上げた。
応じてミルナもまた、刀を体の真正面、正眼に構える。

先に動いたのは、男の鞭だった。
獲物を狙う大蛇のように、鞭がしなりミルナの脚へと襲い掛かる。

対してミルナは、鋭利極まる太刀筋でそれを弾く。
弾かれた鞭は一瞬宙に踊るが、

( ・∀・)「よ……っと! 女王様とお呼び! って奴ですかね?」

モララーが素早く腕を振るうと、再び速度を取り戻してミルナを襲った。
ミルナも同様に再度鞭を弾くが、次の瞬間には既に次なる一撃が彼に喰らい付かんと迫っている。


( ゚д゚ )「……埒が明かんな」

ミルナが小さくぼやいた。
不可視の太刀筋を以ってすれば、鞭を弾く事は難しい事ではない。
だが延々これでは、戦局に変化が生まれない。

他の囚人達が介入してくるのを待つと言う手もあるが、不確実な上にリスクが高い。
ならばと、ミルナは刀を握る手に力を込めた。
もう何度目か、鞭が彼に襲い掛かる。
その鞭を、ミルナは全力で弾き上げた。

甲高くも小気味いい音が響き、鞭が高くへと跳ね上がる。
ちょっとやそっと腕を振った位では、制御を取り戻せない高さだ。

瞬間、ミルナが硬い地面を蹴り、男目掛けて疾駆した。
体勢を低くして、刀も下段に構え、瞬く間に男との距離を詰めていく。

モララーの体が、ミルナの間合いに捉えられた。
鞭に釣られ右腕が完全に上がっている、隙だらけの胴体。
ミルナが刀を振るえば、簡単に両断出来る。

そして、目では捉えられない横薙ぎの一閃が、放たれた。




場所は変わらず、時は少し巻き戻り。

赤い地面に、二人の人間が転がっていた。

一人はクー、もう一人は素直ヒート。
飛んできたヒートに、クーが下敷きにされている形だった。

川#゚ -゚)「えぇい……重い! どけ!」

言葉通りに圧迫感は勿論、敵に上を取られている現状はいかにもマズい。
クーは上体を起こすと、ヒートの体を足蹴にしてどかした。

無防備な脇腹を蹴飛ばされ、ヒートの喉の奥からくぐもった声が漏れる。

ろくに受身も取れなかった為にふらつきながらクーが立ち上がるのと、
鈍く痛む脇腹を押さえつつヒートが立ち上がるのは、殆ど同時の事だった。

川;゚ -゚) 「まったく、何なんだいきなり」

クーは軽く四肢を動かし、五体満足である事を確認する。

ノハ ゚⊿゚)「いつつ……、おのれ悪党め! よくもやってくれたな!」

蹴られた箇所を左手で擦り、残った右手をクーに突きつけてヒートが叫ぶ。
若干どころではなく、会話が噛み合っていない。
溜息を吐いて、クーが体を半身にしてナイフを構えた。

対峙するヒートは、後ろ腰に横向きで差してあった中華風の刀を手に取る。
地面に転がった槍は、そのまま放置された。


川 ゚ -゚)「何だ、刀も使えるのか」

ノハ ゚⊿゚)「ヒーローたる者、何でも使いこなせなきゃな!」

言葉と同時、ヒートは刀を振り被り飛び掛かった。
野猫よりも尚俊敏な動作で、優に十数歩はあった距離がたったの一歩で詰められる。

殊更大きな剣戟の音が、響き渡った。

目一杯の力を以って振り下ろされた刀を大降りのナイフが防ぎ、大きな火花を咲かせる。

ノハ ゚⊿゚)「やるな悪党!」

ヒートが叫び、そのまま体重を刀に掛ける。
斬撃は防がれたが、得物の大きさとヒート自身の膂力が相まって、体勢は彼女に有利な状況だった。
刀を防いだナイフが段々と押されていき、刀の切先がクーの眼前へと迫る。

川;゚ -゚)「く……っ!」

堪らず、クーは状況の打開を図った。
素早く、且つ最小の動作で身を横に逸らし、同時にナイフの刃を斜めにして刀を受け流す。
上手い事流れた刀に左手を添えつつ、前のめりになったヒートの首筋を狙いナイフを突き出した。

とは言え、これは所詮苦し紛れの反撃。
ヒートは多少体勢を崩しながらも難なく刃を避け、一旦クーとの距離を取った。


川 ゚ -゚)「ちっ……」

クーが小さく舌を打ち、再びヒートと向かい合う。
右手でナイフを保持し、左手は胸の辺りで軽く握って、戦闘に備えている。

先に仕掛けたのは、またもヒートだった。
先程とは打って変わって、彼女は軽やかなステップで間合いを詰める。
右腕を脱力して小さく上げると、刀の重みを利用して素早く小さく刀を振り下ろした。

振るわれた刀は常人ならば視界に映る事さえ無く絶命せしめる速さを誇っていたが、
さはさりながら、クーとて常人の域は明らかに逸脱している。
ナイフを軽く持ち上げ、彼女は容易く刀を防いだ。

ノハ ゚⊿゚)「まだまだぁ!」

だが、ヒートは怯まず更に刀を振るった。
刀は銀色の線となって、縦横無尽にクーを襲う。

やはり優勢なのは、ヒートの方だった。
クーは始めこそ余裕を持って防げていたものの、合が重なるに連れて次第に危うげになっていく。
防ぎ損ねた一撃が彼女の左腕を掠め、白い雪のような肌に真紅の線が刻まれた。

川;゚ -゚)「ぐっ……」

クーが苦悶の声を零した。
更に回を重ねる程、彼女の体には真紅の線が増えていく。
ヒートの表情が嬉々とした物に変わっていき、反してクーの表情は苦しげだ。

ノハ ゚⊿゚)「てい!」

攻め時だと判断したのだろう。
ヒートが強く刀を斬り上げた。
クーの右手が跳ね上がり、ナイフが宙に舞い、致命的な隙が出来上がる。

ノハ ゚⊿゚)「貰ったぁ!」

返す刀で、ヒートは斜めに刃を振り下げた。
回避は間に合わない。
猛然と迫る刃は、クーの胴体をいとも容易く両断するだろう。

しかし、


ノハ;゚⊿゚)「っ……!?」

刀を振り終えるよりも早く、彼女の体に激痛が走った。
その正体は、クーの蹴り。
右腕が跳ね上がる反動を逆に利用して、クーは左足を渾身の力で蹴り上げたのだ。

苦し紛れとは言えかなりの力を以って放たれた蹴りは、
狙い澄ましたかのようにヒートの股間に突き刺さる。

股間が急所なのは男性だけだと思われがちだが、実際には女性でも十分に痛い。
子宮や恥骨がある上に、衝撃を和らげる筋肉が殆どない。
金的とどちらが痛いと聞かれたら回答に困るが、いずれにせよ激痛だ。

堪らずヒートは刀をも取り落とし、股間を押さえのた打ち回った。


ノハ;゚⊿゚)「あっ……がっ……!?」

目は痛みに大きく見開かれ、口からは粘り気のある涎が垂れる。
みっともなく無様に転がるヒートを、クーは冷淡な視線で見下ろした。

川 ゚ -゚)「悪いね。ゲリラ戦じゃいかに相手を素早く黙らせるかが肝になってくる。急所打ちはお手の物って事さ」

言葉と同時、彼女は右足を振り上げる。
ヒートが反応を示すも、未だ続く激痛に動く事は出来なかった。

クーの爪先が、ヒートの腹部に突き刺さる。
ヒートの体内で、骨の軋む音がした。

胸の中身を全て絞り出されたような声が、彼女の口から漏れた。
喉から口内に掛けて、酸味のある液体がこみ上げる。

重なる痛みに悶えながらも、ヒートは地を這い必死にクーとの距離を取った。
逃げる先は、手放した刀。
地面に転がったそれを手に取ると、彼女は無造作に振り回して追撃を牽制した。

流石に振り回される刃を掻い潜って攻め立てる気はないらしく、
クーはヒートと距離を取り弾かれたナイフを拾い上げた。

その隙に、ヒートは刀を地面に突いて、ふらつきつつも立ち上がる。

彼女は杖代わりにした刀を後ろ腰に戻すと、今度は両腰に手を伸ばし、備えてあった物を手に取った。
シンプルなデザインのガントレットだ。
彼女はそれを両手に填めると、軽く腕を上げてクーに飛び掛かった。

それは、これまでで最速の動きだった。
余計な重みが無い故の、ヒートそのものが赤い彗星と化したかと錯覚する程の速さ。

さしものクーも、完全に反応する事は叶わなかった。
眼前まで迫った右拳を、寸での所で回避する。

ノハ ゚⊿゚)「甘いっ!」

クーの頭の横を通り抜けた拳が開かれた。
そして棚引く髪を握り閉めて、勢いよく自分の方へと引き寄せる。

重心が崩れ、クーの体が極端に前のめりになった。
近づいてくる彼女の動きに合わせて、ヒートは腰を入れたアッパーを繰り出す。
唸りを上げる拳は、クーの腹部に綺麗に減り込んだ。

クーの体がくの字に折れ曲がる。
全身が震え、ナイフが彼女の手から零れ落ちた。
彼女はおぞましいまでの衝撃に、苦痛の声すら零せないでいる。

意識が飛びかねないダメージだが、この状況での停滞は、それこそ致命的な事態に繋がりかねない。
むしろ、考えようによってはこれは好機だ。
野生の猛獣顔負けの運動能力を持つヒートが、自分のすぐ目の前にいる。

力なく弱弱しいながらも彼女は右手で拳を握り、そこから親指だけを立てて、ヒートの顔面目掛け突き出した。

狙うは眼球。

右手は未だ髪を掴んでいる。
左手は腹に突き刺さっている。
防ぐ手立てはない。

ノハ ゚⊿゚)「……っ!」

慌ててヒートが身を引こうとする。
だが彼女が引くよりも早く、打ち込まれた左腕をクーが掴んだ。

ゲリラであったクーの目潰しは、視界を奪うだけでは留まらないだろう。

右目の奥には左脳がある。
行動を司る器官で、破壊されれば即、死に繋がる。
親指で眼球を抉り出し、ぽっかりと空いた眼窩に中指を突っ込んで脳を穿る。
彼女ならば、造作も無い事だ。

クーの親指がヒートの右目へと迫る。

そして、



ミ,;゚Д゚彡 「……っ、眩し……!」

外壁の上で、声が零れた。

不意に谷の中が、眩い光に溢れた。
その正体は、絶壁の真上から降り注ぐ陽光。

普段は一切の光が入らない谷の底も、一日にほんの数十分だけ。
太陽が真上に来る時だけは、こうして中が照らされる。
突然目に差し込んだ光に、看守達は揃って目を閉ざした。
時間にすれば、ほんの数秒だ。

目をしばしばさせながら彼らは目を開いて、


ミ,,゚Д゚彡 「……は?」

信じられない光景を見た。

刑務所の敷地内に、巨大なヘリが一台、停められていた。
軍用の、兵輸送に用いられる物だった。

囚人達が、挙って乗り込んでいる。

ミ,;゚Д゚彡 「な、どう言う……」


( ^Д^)「モララー様ー! やりました! 俺やりましたよー!」

零される疑問の声を掻き消して、大きな叫び声が響いた。
若い新人の男が、外壁の中に向けて手を振っている。
彼の顔には、満面の笑みが張り付いていた。


( ゚д゚ )「……命拾いしたな」

モララーと呼ばれた男の脇腹に刀を食い込ませて、ミルナが言う。
後一瞬でも刀を止めるのが遅ければ、モララーは致命の損傷を受けていただろう。

( ・∀・)「……いやぁ、そのようですねぇ。
      いやはや、脱走計画を立てた本人が死んでちゃお笑い種ですからね。助かりましたよ」

多少引きつった笑いを浮かべながら、モララーは言葉を返した。


モララー。

人身掌握の達人で、今回看守を篭絡し脱走を企てた張本人だった。
その能力は最早単なる技術とは言い難く、心を絡め取る呪縛の域にさえ達している。
ほんの僅かに言葉を交わすだけでも、彼を以ってすれば心を奪う事は難くない。

愚かな新人看守は何かしらの理由で彼と言葉を交わしてしまい、
そして彼の言いなりとなってヘリを手配してしまった。

脱走計画自体は、とても簡単なものだった。

普段は絶対の暗闇を守っている外壁内にヘリを置かせて、光が差し込むと同時に乗り込み谷を出る。
ただ、手抜きをして勘付かれては全てが台無しになってしまう為、
時が来るまでは本気の殺し合いをする必要があった。
事実、辺りには内臓やら鮮血やら脳漿をぶち撒けた死体が幾つも転がっている。

本当なら殺し合いもせずにヘリに乗り込む事が出来れば良かったのだが、
暗闇では囚人達自身がヘリを見つけれなかった事と、谷から出る際の危険が大きくなる為、
それは出来なかった。


川 ゚ -゚) 「……運が良かったな」

眼球に爪の先が触れるまでに迫っていた親指を引いて、クーが吐き捨てた。


ノハ;-⊿゚) 「……っ、みたいだねぇ」

抉られる事は無かったものの、爪が触れ激痛を訴える右目を擦りながら、ヒートは笑った。
股間の痛みと視界が利かない事からふらふらとした足取りでヘリへと向かい、

ノハ ゚⊿゚)「……? どうした? 行かないのか?」

ふと、自分の後ろで足と止めていたクーを振り返った。

川 ゚ -゚)「……誰かさんの一撃が効いててな」

冗談半分、恨み半分の細められた目で、クーはヒートを睥睨する。

ノハ ゚⊿゚)「おぉっと、そりゃすまない。肩を貸そうじゃないか」

川 ゚ -゚)「……いいのか? 悪党にそんな事をして」

甚だ疑問だと言った口調でクーは問うたが、

ノハ ゚⊿゚)「なに、悪党と手を組むってのもヒーローには良くある話じゃないか」

ヒートは能天気に笑って答えた。
呆れたように、クーは眉を顰め細めた目を完全に閉じた。

一瞬の空白を経て、彼女の口が微かに開く。


川  - )「私は……お前達と会えたら……また、ガキのころみたいに、一緒に笑えるだろうか……」

唇の隙間から零れた言葉は、すぐ傍にいるヒートの耳にさえ届く事無く、泡の如く消えた。




数分もしない内に、囚人達は全員がヘリに乗り込んだ。
ヘリのエンジンが唸り、ローターが徐々に回転の速度を上げていく。

看守達が慌てて警報を鳴らすが、既に遅かった。
今現在の彼らの武装は、殺し合いが終わった後万全を期すべく死体を狙う為の狙撃銃と、
腰に吊った自動拳銃だけだ。
軍用ヘリを落とす事など出来はしないのだ。

( ^Д^)「モララー様ー! やりました! 俺はやりましたよー!」

外壁の上で狂ったように、若い看守が手を振っている。

ミ,;゚Д゚彡 「……今すぐ大統領にお知らせしろ……。囚人が集団脱走をしたと……」

次第に小さくなり、見えなくなっていくヘリを見上げながら、呆然と看守の一人が呟いた。

( ・∀・)「はは、さらば諸君! 我々は再び手にした自由を満喫させてもらうとするよ!」

ヘリを自動操縦に設定したモララーが立ち上がり、ハッチを開けて叫んだ。




かくして世界は、未曾有の危機に晒される事となった。






この小説は2009年2月8日ニュース速報(VIP)板に投稿されたものです
作者はID:F/yPfyG20 氏
作者がお題を募集して、それを元に小説を書くという形式のものです



お題
空色の鷲と恐れられた最強の女ゲリラクー
ニートなクー
ノハ ゚⊿゚)「汚物は消毒だあああああああああああ!!」
赤き彗星のヒート
かくして世界は、未曾有の危機に晒される事となった
地下300mの秘密機関
( ・∀・)「女王様とお呼び!」
不見の異名をもつ伝説の老戦士( ゚д゚ )
金的
「私は……お前達と会えたら……また、ガキのころみたいに、一緒に笑えるだろうか……」



ご意見等あれば米欄にお願いします


[ 2010/01/09 14:20 ] ナギ戦記 | TB(0) | CM(0)

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