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喰うようです

 
はじめてブーン系小説を読む方はこちらへどうぞ

※閲覧注意




男は神社に居た。
その男は寒空の下、上着も着ずに薄着で、裸足で砂利を踏みしめていた。
痛むであろう足を気にする素振りも見せずに、男は歩き出す。

じゃり、じゃり、と絶え間なく裸の足を傷付ける小石を踏み、男は首を巡らせて何かを探している様だった。
何かを探す男は虚ろな目をして、神社の周りに広がる、鬱蒼とした森の中へと足を踏み入れる。

小石が敷き詰められていた道から、湿った土の地面に移動する。
足の痛みが和らいだ筈なのに、男はやはり顔色を変えない。
眉一つ動かさずに歩く男は、せわしなく頭や目を動かして何かを探し続ける。

白くよれたシャツを着た男の背中は少しずつ、少しずつ、森の中へ吸い込まれて行き、


ついには、背中が見えなくなった。

男は一度も振り返る事なく、ただ足と頭を動かして、森の暗さに消えていった。

神社には足跡一つも無く、ただただひたすらに静か。
不気味なまでの静けさは、男の存在をゆっくりとかき消していった。



20090312065534.jpg


 
ほう、ほう、ほう。
夜の鳥はひっきりなしに声を上げ、森の中で己の存在を知らしめる。
風もなく、木々のざわめきすら感じられない森には、鳥の声と足音だけが広がるばかり。

夜でも無いのに鳴く鳥と、暗く重い森の闇。
男は相変わらず、ただひたすらに歩いて何かを探している。
少し前すら見えない闇であるにも拘わらず、男の足取りは大した迷いも見せずにひたひたり。

四方を木々に囲まれた森は、ひどく湿った空気を広げさせていた。
肺がずっしりと重くなる様な空気の中ですら、男は表情を動かしはしない。

まるで死人の様な目で、唇を半分ほど開いたまま歩く。
左右に頭を動かして何かを探し続けるものだから、男の伸びた髪はすっかり乱れ果てていた。

それでも顔に落ちる前髪を払いもせずに歩き続ける男は、ひどく痩せていた。
貧相なまでに細い身体を休まず動かす男の顔には、生気は感じられない。

けれど男は確かに生きていて、尚且つ己の意思で歩き、何かを探しているのだ。



湿った土と木々の妙な緑臭さに満ちた森の中。
男がその中を歩いたのは、生まれて二度目。

一度目は幼い頃。
少年と言うには少し早い様な、一桁の子供の頃。

男は神社の近所に住む、ごく普通の子供だった。
子供だった男にすれば、神社の境内は遊び場でしか無かった。

毎日飽きる事なく足を運び、遊び仲間と一緒にはしゃぎまわる子供。
夕暮れ時、遊び仲間が帰った後もまだ一人で残っていた子供は、境内から神社全体をぐるりと見渡した。
今よりも広く広く感じられた神社の中で、子供は森に目を向けた。

いつもは気にする事も無かった、背景でしか無かった森。
改めてそこに目を向けた子供の胸には、妙な好奇心が宿る。

「あの中はどうなってるのかな」

誰に言うでもない呟きを溢すが早いか動くが早いか、子供はふらふらと森の中へ入って行く。


今と変わらぬ重く暗く湿った森。
その中を、何か無いかときょろきょろ見回して歩く子供。

夕方であるにも拘わらず、光を感じられない森には、夜の鳥が鳴いていた。
ほう、ほう、ほう。
子供はその声を聞きながら、ただただ森の奥へと進んで行く。

何があるか分からない、だからこその好奇心。
子供は心細さも感じずに、全身を好奇心で満たして歩くばかり。


そして見付けた物は、今までと変わらない四方を囲む木々の海。
その中にぽつんと存在する、小さな箱。

三角の屋根に観音開きの扉、子供の胸辺りまでの高さをした四本の足。
箱と言うより小さな家みたいだと、それが何か分からない子供は思った。

扉の取っ手には、元は赤かったであろう汚れた房が飾られている。
子供は何を思うでもなく、躊躇う事もなく、その房を両手で掴み、引いた。


軋みながら開いた扉は、ぱらぱらと木屑を溢しながらその中を晒す。
子供はその中を見て、驚いた様に目を丸くした。
開いた扉から溢れた物は赤い袖、鮮やかすぎる程の赤い着物の袖だった。

その袖の元へと視線を上げて行ったなら、そこには、幼い娘が膝を抱えて目を瞑っていた。
白い顔に長い黒髪、娘はとても愛らしかった。

川 - -)

('A`)「あ……」

川 - -)「……ぅ」

('A`)「あ、の」

川 ゚ -゚)「ん、ぁ、あ……外、?」

('A`)「あ、その、こんにち、は?」

川 ゚ -゚)「こん……にちは、君は、誰?」

('A`)「僕は、えっと、ドクオ、です」

川 ゚ -゚)「ねぇ、ドクオ」

('A`)「は、い?」

川 ゚ -゚)「狭い、から、出してくれない、かな」

('A`)「ぁ、は、はい」

川 ゚ -゚)「すまない、ね、ああ、足がうごかない」

('A`)「大丈夫、?」

川 ゚ -゚)「大丈夫、だよ、ありがとう」

膝を抱えてぼんやりした目を子供に向ける娘は、子供に抱かれる様にして箱の外へと抜け出した。
力の入らない足に、地面にぺたりと座り込んでしまう娘。

その娘を支えながら、隣に腰掛ける子供は、箱を見上げて首を傾げていた。

('A`)「なんで、箱のなかに?」

川 ゚ -゚)「さあ、きっと、捨てられたの、かな」

('A`)「捨てられた?」

川 ゚ -゚)「ああ、私は邪魔だった、らしいから」

('A`)「かわいそう、」

川 ゚ -゚)「ありがとう」

('A`)「ねぇ、」

川 ゚ -゚)「ん、?」

('A`)「君の、なまえ、は?」

川 ゚ -゚)「なんだった、かな……ええと、ええと、」

('A`)「思い出せないの?」

川 ゚ -゚)「ああ、思い出せない、どうしてだろう」

('A`)「じゃあ、えっと、思い出すまで、僕が名前をつけてあげるよ」

川 ゚ -゚)「ほん、と?」

('A`)「うん、えっと、えっと、」

川 ゚ -゚)「……く、ぁ、う」

('A`)「へ?」

川 ゚ -゚)「ああ、すまない、あくびしちゃった」

('A`)「そっか……あ、クーって、どう、かな?」

川 ゚ -゚)「くぅ?」

('A`)「うん」

川 ゚ -゚)「どうして?」

('A`)「どうしてだろう」

川 ゚ -゚)「くぅ、くぅ……くぅ、うん、」

('A`)「いい、かな?」

川 ゚ -゚)「うん、ありがとうドクオ、私は今日から、くぅだ」


ただの一度だけ。
一度だけしか会った事もなく、話した事もない娘。
けれど子供と娘は不思議と仲良くなり、その日は楽しく過ごした。

夜が更けてきた頃に、子供はやっと立ち上がる。


もう帰らないとおこられる

また遊びに来てくれるかい?

うん、また遊ぼうね

約束、つぎは食べるもの、ほしいな

じゃあお菓子とか、たくさん持ってくるね、約束

うん、じゃあまたね、ドクオ、約束破ったら、ひどいぞ

またね、クー、約束破らないように、するね


娘を箱に戻した子供は来た道を引き返し、迷う事なく神社へと戻れた。
そして帰路に就き、帰りが遅くなった事を親に叱られて、いつもと変わらぬ夕飯の時間。

その時に、子供は家族に森で出会った娘の話をした。
すると家族は顔色を変えて、森には行くなと子供に怒鳴る。
子供は何が起きたのか分からなくて、必死に森に行くなと叫ぶ家族に、ただ頷くしか出来なかった。


それから子供は森に行きたくとも出来ず、月日は流れ流れて子供は大人になって行く。
子供は男となり、森どころか神社に近付く事すら無くなった。
男の中から森も神社も娘も消えて、随分と経った頃。

男はふと、壁にかかるカレンダーを見上げた。


白地に黒と赤で数字が書かれている、素っ気ないカレンダー。
そこには今日の日付、今年が何年かを表す数字が存在する。

男は大した理由もなく、子供の頃を思い出した。
今から十年前は何をしていたか、二十年前は何をしていたか。
二十代も後半に差し掛かろうと言う、しっかりと仕事に精を出す様になった男。
その頭の中では、二十年前の事を思い出そうと、様々な事が浮かんでは沈みを繰り返していた。


そうして浮かぶ物は、赤い袖。

右手で掴み、口に近付けていた湯飲みをがちゃんと落とし、男はカレンダーを見詰めたまま目を丸くした。
湯飲みから溢れて、机や床を濡らす熱いお茶。
濡れるそれらをそのままに、男は靴も履かずに外へと飛び出した。

外は未だ夕方で、明るさは十分にあった。
それなのに、男の頭の中は重苦しい森の闇でいっぱいだった。



ほう、ほう、ほう。
夜の鳥の声を聞きながら、男は探していた。
赤い袖を、娘の顔を見るために、ただただ森を歩いていた。

ひたりと冷たい湿った土を踏み、足が止まる。
巡らせていた首が、正面を向いたまま動かなくなった。


すっかり小さくなった箱。
男の腰までもない高さの箱。
あの頃よりも更に汚れた房。

小さくなってしまった、二十年もの間に、こんなにも小さくなってしまった。

男は悲しそうな、申し訳なさそうな顔をして、扉を飾る房に両手を伸ばした。


川 ゚ -゚)「やあ、ドクオ」

('A`)「やあ、クー……遅くなって、御免」

川 ゚ -゚)「それでも君は、また、遊びに来てくれたじゃないか」

('A`)「でも、随分待たせた」

川 ゚ -゚)「私は、気にして、ないよ」

('A`)「有り難う、クー」

川 ゚ -゚)「ふふ、大きくなった、ドクオ」

('A`)「クーは、小さいままだ」

川 ゚ -゚)「ああ、そうだ、それより」

('A`)「ん、?」

川 ゚ -゚)「約束、」

('A`)「あ……悪いクー、食べ物、持ってくるのを忘れた、御免」

川 ゚ -゚)「酷いな、約束、破るなんて」

('A`)「御免な、クー」

川 ゚ -゚)「じゃあ、ドクオ?」

('A`)「何だ? クー」

川 ゚ -゚)「いただきます、して、良い?」

('A`)「ぇ、」

川 ゚ -゚)「約束破ったら、ひどいぞって、言った、ね?」

('A`)「あ……ああ、そう、か」

川 ゚ -゚)「だからドクオ、いただき、ます」

('A`)「ぁ、あ、ああぁあ、あ゙、」

川 ゚ -゚)「いただき、ます、いただきます、ドクオ」

('A`)「は、ぁ、あは、は、お上がりなさい、クー」


男は少しずつ無くなって行く身体と意識に、約束を破ったら事に対する罪悪感に涙を溢した。
二十年も待たせて、約束を破ったのだ。
悪いのは自分だと、男は左腕が無くなったところで改めて思った。

痩せこけた自分だけれど、腹は膨れるだろうかと、両手足が無くなったところで思った。

小さな箱の扉の脇、そこに存在するかすれた文字が、男の目に入った最後のいちまい。


( A )「……く、ぅ」



男の意識はぷつりと消えて、娘は口を拭いながら箱を見上げる。

そして口の端を持ち上げて、


「ごちそうさま」




 『喰うようです。おわり』






この小説は2009年1月19日ニュース速報(VIP)板に投稿されたものです
作者はID:fkUxxi2hO 氏



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[ 2010/01/09 14:08 ] ナギ戦記 | TB(0) | CM(0)

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