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(´・ω・`)とある酒場のようです('A`)

 
はじめてブーン系小説を読む方はこちらへどうぞ




ささやかな薄明りの中で男は夢幻のような音をたてシェイカーを振る。

男の目は草食動物のように澄んでいて、まるで攻撃性というものがなかった。
それは人が苦手な俺にとっても実に親しみやすいものだった。

猫の額のように狭い店内。
バーカウンターの前にぽつんと置かれた席は俺のためのものだと、直感的に思った。

(´・ω・`)「どうぞ」

男は草食動物の目線で着席を促す。
俺は言うとおりにした。男の声色には言い知れぬ安心感があった。

(´・ω・`)「最初の一杯と最後の一杯はサービスするよ。何がいい?」

('A`)「つまり二杯、ただで飲めるってことか?」

(´・ω・`)「いいや、一杯だ。理由はじきに思い出すさ」

男の言葉はまるで異国の不思議な踊りのようで、俺には理解し難いものだった。

('A`)「何かお勧めは?」

酒に疎いわけではないけれど、男が何を勧めてくるのかには興味があった。

(´・ω・`)「ギムレットなんかどうだい?」

('A`)「フィリップ・マーローか」

(´・ω・`)「そうさ。『長いお別れ』気が利いてると思わないか?」

('A`)「『ギムレットには早すぎる』」

男は毒のない顔でにやりと笑った。

(´・ω・`)「そんなことはないさ」



20090223213817.jpg



結局俺は辛口のギムレットを頼むことにした。
ライムジュースでは無く生のライムで割ることによって、ジンの味はずっと引き立つ。

男は氷の大きな塊――ブロックオブアイス――をアイスピックで丁寧に砕き、削ると、
やがて静かな動作でシェイカーを振り始める。

柔らかでしかし機械的な冷たさも感じる動作は、素人には真似できないような、玄人にも到達し難いような、
まだ誰も足を踏み入れていない新雪よりも繊細なシェイクだった。

(´・ω・`)「ジンはボンベイだ。ボンベイと柑橘系の相性は、まさか知らないわけじゃないだろう?」

そういいながら男は宝石みたいに綺麗な薄緑で満たされたカクテルグラスを差し出す。
少し触っただけで折れてしまいそうな、細い細い脚を持つグラスだった。

('A`)「いただくよ」

(´・ω・`)「あ、ちょっと待って」

男は今度は脚のないオンザロックグラスを持った。中はやはりカクテルが満たされているけれど、俺にはそれが何かは分からない。

(´・ω・`)「マタドール。ジュースみたいなものだけど、今日はテキーラな気分だったんだ」

恐らくは来た時に作っていたカクテルがこれだったのだろう。よく冷えて堅い氷は溶けにくい。
作ってからほんの少し時間が経っているとはいえ、そう薄くはなっていないのだろうと思った。


(´・ω・`)「乾杯しようか」

('A`)「俺たちの未来に?」

(´・ω・`)「いいや。昨日までの僕たちに、乾杯」

('A`)「乾杯」

かちんと水面に一滴穿つように硬質な音が響いた。
辺りを支配する深遠な響きで、それはバースペースで溶けていった。

一口ギムレットを含み、舌で転がした。ジンのソリッドな芳香が鼻を抜けていく。
アルコールと新鮮な果実の、それは豊かな味わいだった。

('A`)「…うまい」

(´・ω・`)「どうも」

言われ慣れているのか、それとも照れているのか。
男の言葉は春の風よりそっけない。


('A`)「ところで、やけに静かな店だな。何かBGMでもないのか?」

(´・ω・`)「BGMねえ。キース・ジャレットでもかけようか」

('A`)「ここはジャズ・バーか」

(´・ω・`)「違うけど、今日はジャズな気分なんだ」

('A`)「何にせよやめてくれ。キース・ジャレットのスキャットは苦手だ」

(´・ω・`)「あれがいいのになあ」

('A`)「聞いてると辛くなるんだよ。あれって魂剥き出しな感じがするじゃないか」

(´・ω・`)「だがそれがいい。けど嫌いなら仕方がない、何か話しでもしようか」

男はそう言ってグラスをテーブルに置く。グラスから結露した水が側面を伝ってテーブルを少しだけ濡らした。

(´・ω・`)「お客さんはバーにはよく行った人なのかな?」

('A`)「いや、深夜に見たいアニメがあるから、仕事が終わればまっすぐに帰るよ。
    終電を逃しても、大抵はバーじゃなくて24時間営業のファミレスで時間を潰す。ネカフェは金が勿体無いし」

(´・ω・`)「その割には酒に詳しそうだけど」

('A`)「酒は学生時代にちょっと齧ったんだ。と言ってもバイトしてたとかじゃなくて趣味程度だけど」

(´・ω・`)「ふうん。やっぱりもてようとして?」

('A`)「まあ、な」

(´・ω・`)「首尾は?」

('A`)「聞くなよ。俺の顔見りゃ判るだろ?」


カクテルで少し舌を湿らせる。新ためて思うに本当にうまいカクテルだ。
桃源郷の霊泉から湧き出る水みたいに、ある種の神秘を伴う味と言っていいほどだった。

('A`)「こういう味はどうやったら出せるんだ?」

(´・ω・`)「長い間シェイカーを振っていれば、嫌でも出せるようになるさ」

('A`)「長い間?」

(´・ω・`)「気が遠くなるほど、長い間だよ」

男は手元のグラスでからんと氷を揺らせた。音のない店内での唯一の音。
人類の始まりのように遠くから響いて、それは俺の耳に届いた。

(´・ω・`)「仕事ってのは、やっぱりやりがいがあったほうがいい?」

('A`)「そりゃそうだろ。俺はしがないプログラマーだけど、やっぱやりがいがなけりゃ
    毎日終電近くまで会社に残れない」

そう言うと、男は羨ましそうに俺を見た。
しかしそれは大人が子どもの自由さを羨望するような種類の目で、俺は少しだけ不快だった。

俺は仕事にやりがいを感じているつもりだ。

そりゃあ残業が長引いてファミレスしか行き場がなくなった時には退職を考えたりもするが、
そうでない時、特に今日のような大きな仕事に一区切りつけられた日の達成感は異常だし、
また仕事の終った日に見る深夜アニメのワクテカは何にも代えがたい。
この気持ちは働いたものじゃないと分からないと思う。

そういえば、今日だって俺は仕事終りのアニメを楽しみにしていたんだ。

(゚A゚)「アッー!」

(;´・ω・`)「ど、どうしたんだい、いきなり大声出して」

(゚A゚)「きょ、きょきょきょ、今日は『ゼロ巫女ナースウィッチーズ☆夏目メイドガイの憂鬱』の日じゃないか!
    俺何でこんなとこいるの!? ねえなんで!?」

(´・ω・`)「なんだ、そんなことか」

(゚A゚)「一大事でござる! 一大事でござる!」

(´・ω・`)「落ち着きなよ。今日のこと、思いだせる?」

(゚A゚)「25時30分から『フルメタル骨董洋菓子店るフロンティア』! 
    26時00分から『ゼロ巫女ナースウィッチーズ☆夏目メイドガイの憂鬱』!」

(´・ω・`)「そうじゃなくてさ。うん、本当に、落ち着いた方がいいと思うんだ」

少し取り乱したものの、俺はすぐに平静を取り戻した。
人間には時としてチャンネルを回すような切り替えが必要なのである。

('A`)「俺は…そう、前々からの仕事が今日ようやく片付いたんだ」

(´・ω・`)「それはめでたいことだね」

('A`)「だろう? 俺もそれが嬉しくて、しかも終電に余裕で乗れると来てる。
    今は忙しい時期だから、これでも奇跡みたいな日だったんだ」

(´・ω・`)「それから?」

('A`)「近くのコンビニで缶ビールと弁当を買って、
    マンションの前の横断歩道で、タバコ吸いながら信号が変わるのを待ったんだ」

(´・ω・`)「歩きタバコって奴かい?」

('A`)「深夜で周りに人がいなかったし、携帯灰皿もあったから別に良いだろ?
    んで、信号が変わって……あれ? そこからどうしたっけ?」

(´・ω・`)「本当に信号は変わったのかな?」

('A`)「え?」

(´・ω・`)「今日まで根つめて仕事してたんだろう?
      信号機を見間違えたとしても不思議じゃないくらい、君は疲れていた」

それから先の男の言う事は、うまく聞き取れなかった。
風の音みたいに俺の耳に入って来て、そしてそのまま出ていったみたいだ。

(´・ω・`)「運が悪かったんだ。君が歩きだすと同時に、車が突っ込んできた」

判然としない。

(´・ω・`)「深夜で他の車もいない。運転手にとってはさぞ気持ちいいドライブだったろうね。
      車は高速道路みたいにぶっ飛ばしてた」

何が言いたいんだ。子どもだってまだましな伝達力を持ってるはずだと思うくらい、男の言葉はじれったい。


(´・ω・`)「残念だけど、君は死んだ。茶化す気にもなれないくらい、即死だった」

馬鹿なこと言うなよ。

('A`)「それじゃまるで俺が死んだみたいじゃないか」

(´・ω・`)「『まるで』じゃなくて、『そう』言ったんだ」

('A`)「そうかあ……うん、そうなんだな」

(´・ω・`)「あれ、意外と取り乱さないね」

('A`)「俺は冷静沈着な男として勇名を馳せている」

(´・ω・`)「ダウト」

('A`)「なんてこったい」

でも、俺の言葉は本当で、不思議と心は落ち着いていた。
受け入れがたいことであるのは事実だ。けど、しっくりとも来ている。

桃源郷に湧き出るような酒。

('A`)「じゃあ、ここは」

(´・ω・`)「死ぬ人間が間際に立ち寄る場所さ」

('A`)「じゃあさしずめあんたは神様だな」

本当に神仙の飲み物だったとは。

(´・ω・`)「そんな大層なものじゃないさ。近いものかもしれないけど、僕は神様なんてものに会ったことはない」

('A`)「だったらなんであんたはこんな事をしてるんだ?」

男は考える間をとるためにか、グラスをぐいと煽った。
俺も自分のギムレットを飲もうとしたが、残り少ないのを見て、止めた。
終電の差し迫った心境と同じように、今はこの杯が枯れるのが惜しかった。

(´・ω・`)「そう決められていたからさ。それ以上の理由はない」

('A`)「それで長い間シェイカーを振ってきたのか」

(´・ω・`)「時には自分の死を受け入れられず暴れる人を宥めたりね。その点、君は楽で良かったよ」

('A`)「自覚がないだけかもしれないけどな」

俺ももちろん未練がないとは言えない。でも俺は俺の死と言うものを、すっかり受け入れてしまっていた。

でもそれは人間としては、ひょっとしたら間違っているのかもしれない。

人生のスタート、つまり赤ん坊は生まれたてであっても『生』に自覚的だ。
泣く事によって、赤ん坊は生きようとするのだ。
翻ってゴール、死ぬ事を自覚する時もまた、泣き、そして初めてそれを受け入れ、
自覚するのではないだろうか?

そういうことを、俺は男に聞いた。

(´・ω・`)「違うね。『ゴール』と『死』は全然違う。同一の関係にあるって前提条件がまずおかしい」

('A`)「どういうことだ?」

(´・ω・`)「スタートがあってゴールがあるってのは良い。そしてみんなスタートは一緒だ。
      確かに『生』に似てるね」

と、男は言って、さらに続けた。

(´・ω・`)「でもゴールする時、場所は違う。ゴールはそれぞれ違うところにある。人生はかけっこじゃないんだ。
      早くゴールすればいいってもんじゃないし、無駄に遠くまで走ればいいってもんじゃない。
      走者はいつだって君一人だ。君は君の考えた事、思ったことを大事にすればいい。」

(´・ω・`)「つまり『死』の瞬間泣くだの、取り乱すだのなんてのは、どうでもいいことだ
      むしろ泣かず、取り乱さず『死』を受け入れることができた君は立派だ」


男は俺を褒めた。まるで俺が何か凄いことをやってのけたみたいに。
しかしそれはどうなのだろう。生への未練はいまだ水飴みたいに甘くべったりと心の側面に張り付いている。
やりたかったこと、やれなかったこと、そういったものにしくしくと身体を犯されているみたいだった。

出来ることなら、もう一度生きたい。

('A`)「そうだ…」

(´・ω・`)「ん、どうしたの?」

('A`)「来世ってあるのかな? つまり、俺はもう一回人間やれないのかな?」

(´・ω・`)「さあね」

('A`)「さあねって、そんな無責任な」

(´・ω・`)「さっきも言ったけど、僕は神様じゃないんだ。
      ここを出た後、君がどこに行くのかは、残念だけど知らないんだ」

('A`)「そんな…」

(´・ω・`)「でもまあ……あ、そうだ。やっぱり音楽かけさせてもらうよ」

男は俺の返答を待たずに、CDをセットした。
ここでもCDを使ってるんだなんて、少しだけとぼけたことも思った。

やがてスピーカーを通してピアノの音が響いた。
聞き覚えのある音だった。学生時代、好きだった女の子に振られた時に、知り合いが貸してくれた。
元気が出るぞと言って、このCDを貸してくれたのだ。
そのことを思い出してしまうから、最近では聞くのを避けている曲だ。

キース・ジャレットの魂剥き出しのスキャットは相変わらずだった。

('A`)「『God Bless the Child』だな」

(´・ω・`)「御名答。僕は君に次があるかは分からないけど、少なくとも君はちゃんとやってた。
      大丈夫、神様は君のことを嫌っちゃいないさ」

('A`)「…だといいけどな」

照れ隠しにグラスを煽った。冷えた氷が唇に当たる。
もう中身は空だったのだ。


('A`)「おかわりはもらえないんだよな」

(´・ω・`)「残念ながら、提供できるのはこの店に入って最初の一杯と」

('A`)「人生最後の一杯ってか。同じものを指してたんだな」

(´・ω・`)「その通りだ。うん、すまないと思ってる」

男は本当に申し訳なさそうだった。
でも、その姿は天災のような理不尽なものの代りを引き受けているみたいに見えた。

('A`)「あれだけ美味い酒をすまないと思いながら作ってたのか?」

(´・ω・`)「所詮僕の酒は気休めだからね。一杯飲んで、みんなすぐに次に行ってしまう。
      さっきの話じゃないけど、この仕事にやりがいはないね」

『すぐ』は、本当にすぐ訪れた。俺の身体が消えかけていた。
指先から、海が水位を上げるようなゆっくりとした速度で。

こうして俺は『次』に行くのだろう。

('A`)「最後に教えてくれよ。この店、なんて名前なんだ?」

(´・ω・`)「名前なんてないさ。考えたこともない」

男はきっぱりと言い放った。
だからダメなんだと、俺は思った。


('A`)「…俺は仕事にやりがいを感じてた」

(´・ω・`)「うん、そう言ってたね」

('A`)「金がもらえるって理由だけじゃない」

(´・ω・`)「うん」

('A`)「そりゃ上司は厳しいし、女の子たちは生意気だけど」


体が消えかけていた。もう首元までしか、俺の身体は見えていないだろう。


('∀`)「仕事終りに見るアニメはサイコーだった。うちの社名、『VIPファクトリ』って言うんだけど、
    『VIPファクトリ』の社名をかけたプロジェクトを進めるのはこれ以上なく、やりがいがあった!」


口元まで消えかけていた。やっぱり口がなくなったら喋れないのだろうか。
今現在喋っていること自体、不思議なのだが。


('∀`)「気休めで何が悪いんだ! あんたの酒は文句なしで美味かった!
    名前、付けろよ。俺もう一遍ここに来るからさ。その時まで、じゃあな!」

(´・ω・`)「…ありがとう」


男のそんな言葉を無い耳で耳にして、俺は消えた。

思えば俺と男はお互い名前すら知らないはずだ。
男は俺の名前を知っているかもしれないが、俺は男の名前を知らない。
言い足りないこと、聞き足りないことは山ほどある。

失敗したな、と思った。


やっぱり、俺はもう一度この店に来なくちゃいけない。









この小説は2008年9月6日ニュース速報(VIP)板に投稿されたものです
作者はID:twsEkyhE0 氏
作者がお題を募集して、それを元に小説を書くという形式のものです



お題
深夜アニメ
名前のない酒場
24時間営業のファミレス



ご意見等あれば米欄にお願いします


[ 2010/01/09 11:01 ] ナギ戦記 | TB(0) | CM(0)

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