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(-_-)ゾンビダンスのようです

 
はじめてブーン系小説を読む方はこちらへどうぞ




(-_-)「また、ここか」

小さくため息。

レム睡眠だかノンレム睡眠だか知らないが、折角眠っているのに、僕の頭は無駄に稼働しているらしい。
いや、厳密に言えば、レム、ノンレムのいずれの状態であろうが夢は見るらしいけど、
夢のメカニズムなんて学のない僕には分からないわけで。
でも身体は眠っているけど、脳は覚醒している時が夢を見やすい状態であるのは間違いない話らしいし。

まぁ、どうでもいい。それは僕にとって、とてもつまらないこと。
身体も脳みそも、もっと単純にずっとずっと何も考えず何も感じずに眠っていたらいい。

そういう具合で、僕は夢について何の感慨もないわけだが、
デレならば「夢とは」という枕から、
「現実からはぐれてしまった意識の溜まり場」
という具合に、つまらないリリシズムを顔いっぱいに湛えて言うのかもしれない。


爪'ー`)y‐「またここですよ。お生憎さまですがね」

夢の中で顔馴染みと言うのも妙な話だが、僕は目の前の男と言葉を交わすことにすっかり慣れていた。
現実では人見知りの、どうしようもないひきこもりの僕だが、
夢の中では名前も知らないような相手と話すことができる。
かといって、この夢が僕にとって愉快なイベントであるかと言えば、そうではない。

(-_-)「帰りたい気持ちでいっぱいなんだけどね。正味な話」

時折おかしな夢をみる。
いや、言ってしまえば世界自体が人知を超えておかしくなってしまっているわけで、
今更この程度のことがおかしいというのもさらにおかしな話かもしれない。

改めて時折、僕は眠った後に扉の前に立っている。

暗いし、何だか豚肉が腐ったみたいな嫌な匂いのする空間だから、
僕は早くこんなところからはおさらばして温かい布団の中で目覚めたいと思う。
でも、夢はそう甘くなくて、僕は目覚めることもできずに、男の口上を聞く羽目になる。

爪'ー`)y‐「よくもまあこんな薄汚れたところへ、ようこそ、ようこそ。
       主人に代わりまして厚く御礼申し上げます。や、本当のことを言えば不本意なんですがね。
       この扉の先では『鹿鳴館』もかくやと言う絢爛たる舞踏会が行われております。
       ゲストにおかれましては、今宵も是非とご参加いただきたく」

(-_-)「嫌だ。さっさと目覚めて、僕は僕の小規模なひきこもり生活を満喫するんだ」

爪'ー`)y‐「それは十全。ここは夢ですから、ゲストがどうしようと、ここにいる限り
       ゲストは永遠に引きこもりと言えるでしょう。
       さあ、扉を開けて皆さんとポルカでもひと踊り。いかがですか?」

鹿鳴館やらポルカやら、なかなか時代考証とかそういったものを丸投げにしてる感じの夢で、
僕は少しゲンナリする。

(-_-)「嫌だなあ。ここにいるのも嫌、舞踏会に行くのも嫌で、選択肢がその二つしかないって
     残酷だと思わない?」

爪'ー`)y‐「人生というのはだいたいそんな感じでしょう」

(-_-)「そんなもんかなあ」

爪'ー`)y‐「そんなものです。さて、準備は整ったようですね」

僕は何もしていないのに、いつの間にか時代がかった感じのタキシードを着ていて、
手には舞踏会でつけるべき仮面を持たされていた。
笑い顔の道化みたいな仮面。いつもこうだったら、僕の人生は少しは楽しいんだろうか?

(-_-)「いつもどおり仕事が速いね」

爪'ー`)y‐「何のことでしょうか、ゲスト。あなたの夢ですよ」

(-_-)「僕の夢なのにゲストとはこれいかに。僕にはヒッキーっていう立派すぎる名前があるのに」

爪'ー`)y‐「さあ、もう宴は始まっています。どうぞ、御楽しみください」


ぎい、と扉が開かれる。あふれる光に僕は思わず目を閉じる。

「それでは」

男の声がした。目を閉じているから顔はわからない。
僕は一歩足を進める。


――か細い糸を手繰って手繰って、ようやく紡いだ夢です――

――どうか、最後まで御覧ください――


その言葉を背中に浴びた。
半ば無視して、僕は光の中に足を踏み入れていた。




20090207103900.jpg



光の中には社交場があった。

往年の、しかし小洒落た映画で見るような仮面舞踏会そのままの風景がそこにある。
数えようもないほどの男女の組み合わせ。
色とりどりのドレスに、黒のタキシード、あるいは燕尾服。顔には一様に仮面が付けられている。
僕は彼らの素顔を見ることはできないし、彼らにも僕の素顔は見えない。

( ^ω^)「面倒くさいなあ」

僕のゲンナリした顔を覆う笑い顔。
一見して無機質な仮面ではあるものの、その笑顔にどこか人目を引く温かさを持っているのか、
擦れ違う人々が僕の方を次々と注目し、そして僕に社交の意思がない事を悟ると
次々パートナーとの世界に戻っていく。
それは視線のさざ波のようだった。

僕は人々をかき分け、豪華なシャンデリアの下、二階のラウンジに続く大階段の一段目に腰掛ける
巻き毛の少女を見つける。

ζ(゚  ゚*ζ「あ、やっと来た」

膝の上に両肘を立て顎を支える仕草のまま、その子は言った。
無地の白に両眼だけぽっかりと空いた仮面の彼女は、間違いようがない。
デレだった。

( ^ω^)「別に待ち合わせとかしてないし」

ζ(゚  ゚*ζ「またまた。私を探してたくせにぃ」

( ^ω^)「そんなんじゃないし」

ζ(゚  ゚*ζ「独りじゃ心細かったんでしょう? 大丈夫だよ。私がキミを独りにするわけないじゃない」

( ^ω^)「ふん。それはどうも」

僕は手を差し出す。桃色の手袋が重なり、僕はそれを引いてデレを立ちあがらせた。
ドレスについた過剰なフリルが揺れる。今日のデレの装いは桃色で統一されていた。

ζ(゚  ゚*ζ「今日のはどうかな。似合ってる?」

裾をちょいとあげてデレが聞いてくる。ドレスのことを指しているのは言わずもがな。

( ^ω^)「知らないよ。ファッションとかよく分からないし」

ζ(゚  ゚*ζ「んもー、デリカシーに欠けるなあ。そう言う時はとにかく褒めとけばいいのに」

( ^ω^)「分からないものは分からないっていう主義」

ζ(゚  ゚*ζ「捨てちゃえそんなの」

仮面の中でクスクス笑ったデレが、フロアの中央にくるくる回りながら躍り――あるいは踊り――出る。
僕はやれやれと思いながらそれについていく。デレは器用に人と人の間を縫って、僕に先行する。

やがてフロアに曲が流れ始める。緩やかでしっとりとした曲調。チークダンスを踊る時にかかる曲だった。

ζ(゚  ゚*ζ「ねえ、来て」

デレは僕の少し先で手を伸ばし、ダンスの時を待っていた。

僕はデレの手をとり、体を密着させ、顎を彼女の肩に乗せた。デレも同様に。
これでゆらゆら揺れていれば、チークダンスは概ね問題ないと、僕は考えている。
周りだってだいたいそんな感じだった。いくつものタキシードとドレスが密着し、フロアを漂っていた。

だから、特別みっともないことではないんだ、と僕は自分に言い聞かせる。
正直に言って、ダンスなんてまったくと言っていいほどわからないが、
分からないことは、分からないなりにどうどうとしていたらいいんだ。

ζ(゚  ゚*ζ「ねえ」

デレが言う。僕は黙っていた。

ζ(゚  ゚*ζ「心臓、ドキドキしてる」

( ^ω^)「うるさいな。黙って踊ればいいのに」

ζ(゚  ゚*ζ「キミも、そして私もすごく大きくドキドキしてる。私たちは生きてるんだね」

デレがいっそうぴったりと体を寄せてくる。右半身に、デレの鼓動を感じた。

ζ(゚  ゚*ζ「黙ったら死んじゃうんだ、私たちは」

デレの手に力がこもる。

ζ(゚  ゚*ζ「話そうよ、何でも良いから何か」

僕は黙って踊り続けた。体にデレを感じ、耳元にデレの吐息を感じながら。
デレが何か言っているが、僕はそれを無視し続けた。
チークダンスは終わらない。いつまでも続くような気がした。

( ^ω^)「デレ」

と、僕は話の流れを遮っていった。

ζ(゚  ゚*ζ「なに?」

( ^ω^)「これはいつまで続くの?」

ζ(゚  ゚*ζ「分からないの?」

質問に質問で返された。

( ^ω^)「分からないよ」

ζ(゚  ゚*ζ「じゃあずっと終わらないのかも知れないね」

( ^ω^)「そっか。面倒くさいな」

ζ(゚  ゚*ζ「面倒くさいって言うの禁止」

( ^ω^)「面倒くさい」

ζ(゚  ゚*ζ「もう!」

僕はゆらゆら揺れながらデレの匂いをそっと嗅いだ。
甘くて、とても甘くて何かが腐り落ちるような匂いがした。

( ^ω^)「デレ、香水つけてる?」

ζ(゚  ゚*ζ「つけてるけど、何で?」

( ^ω^)「首筋から甘い匂いがする」

ζ(゚  ゚*ζ「……えっちだね」

( ^ω^)「ごめん」

ζ(゚  ゚*ζ「いいよ、許す」

そう言って、ほんの少し、かする程度首筋を僕に擦り合わせてきた。
そして、


ζ(゚  ゚*ζ「他ならない、ブーンだからね」

恥ずかしそうに囁く声。右半身に感じていたデレの心臓が大きく跳ねる。
逆に僕の心臓は止まりそうなほど凍りつく。
分かっていたはずなのにな。


そして僕に目覚めと言う救済が訪れる。舞踏会が消え、デレが消える。

ひきこもりのヒッキーは温かな自分の布団で目覚めた。
目覚めたとき、もちろん僕は独りだった。

朝目覚めると泣いていた、ということはまるでなく。
それどころか目はカラカラに乾いて、ついでに時間は夕方だった。
いつも通りの起床時間。それはひきこもり特有のタイムスケジュールだった。

ひきこもり生活も三年に及べば、もはや自分との対話は日常茶飯事と言っていい。

(-_-)「こんなことでいいのかなあ」

この言葉を約三年間、起きる度に繰り返している。
しかしながら改善策は打ちたてられないので、僕はずるずる三年間こうして引き籠っている。

(-_-)「またあの夢か」

やけにくっきりと覚えている夢。幼馴染みのデレと舞踏会でダンスを踊る夢。
ただし、デレは僕の事をヒッキーではなく、また別の幼馴染のブーンだと思っている。
すこしだけ哀しい夢。

僕は多分、ひきこもりの分際でデレのことがとても好きだから、すこしだけ、とても哀しくなる。

(-_-)「んん、なんか日本語おかしいな」

自分の心情に突っ込みを入れる。
でも、日本語の微妙なニュアンスでも言えないような、
とても小さくてけれど深い傷が出来たような気持ちなんだ。
「憂愁」よりはもう少し鋭くて、「愁嘆」「悲傷」ほど大袈裟じゃない。
でもまあ、きっと僕の語彙にはないだけなんだろうけど。

(-_-)「夕方のニュースやってるかな」

気分に折り合いをつけないまま、テレビのスイッチを押した。
ちょうどニュースキャスターがゾンビ関連の報道をしているところだった。

僕が生まれる少し前、正確には分からないにしても、具体的に言えば二十数年前、
世界に異常が現れ始めた。
最初はアメリカだったらしい、彼らは遺体を焼かずにそのまま埋めるから、
特にそいつらが発生しやすかったようだ。

そいつらとは、まあ、ゾンビなわけで。

死者が腐った体を引っさげて街を徘徊するホラー・メディアの産物。
僕が生まれた時にはすでに街をうろうろしていたから、僕からしてみれば
彼らが想像上のモンスターだったということの方が違和感があるものの。

それはともかく、彼らはわずかな間に随分増えた。
死者は毎日でるのだから、そのうち推奨されている対ゾンビ用の処理――死者の首は速やかに落とすべし――
がなされない死体も多い。
かくして今日のゾンビが跋扈する世の中が出来上がったのだった。

ただし、現実ではホラー映画のような大惨事は起きなかった。
だってそうだろう。あんなにのろまな奴らにわざわざ噛まれてやることもない。
大量に発生したところで、しかるべき機関の人々がマシンガンの掃射でも行えば
たちどころに彼らは二度目の生を損なうことになる。

たまにやたら凶暴なゾンビが現れるが、最近ではそれにすぐさま対応できる民間のゾンビ駆除会社も出来て、
ますますゾンビに対する危機感が薄れていった。

それに加え、ゾンビを擁護する人権団体も現れ、大人しいゾンビは色々面倒なので放っておく始末だ。
ホラー映画の世界は、現実には訪れなかったんだ。

遠く離れた北の方の街で凶暴なゾンビが現れた、というニュースが流れていた。
冬は寒いから、ゾンビが腐りにくく、凶暴なものも現れやすい、
とよくわかるようなわからないことをキャスターは言う。
幸いにも駆除会社の人がすばやく捕獲、処理したおかげで怪我人一人として出なかったらしい。
それに関連して、なぜゾンビが現れたのかと言う議論が展開される。

こればかりは二十数年間進歩しない。
二十数年前に某国で起きた大量虐殺や、別の某国に落ちた核爆弾などが原因ではないかと言われるものの、
それとの関連性は、現実的に考えてないように思われる。

「地獄のふたが開いた」「あの世が死者を許容できる数を超えた」

それらはファンタジックな解釈とされ、議論の場でそう発言すれば白々とした失笑が聞こえるばかり。
でも分からない以上、それでお茶を濁すのが落とし所だろうと思う。

仕方がないじゃない、いるんだから。

議論に飽きたらしい女性キャスターの顔に、そう書いてある気がした。

(-_-)「少なくとも僕が生まれて十七年間、この議論の繰り返しだもんなあ」

先週誕生日を迎えたので、僕は十七歳だった。気がつけば十七歳になっていた。

(-_-)「こんなことでいいのかなあ」

良いわけがなかった。
その時、こんこんとノックの音がした。僕は身構えた。返事はしない。

「ヒッキー?」

姉さんの声だった。そろりそろりとドアに近づいて、覗き穴から外を見た。
こちらからは覗けて外からは見えない優れものだ。

('、`*川「いるのはわかってるけど、返事位しなさいよ」

やはりペニサス姉さんだった。今日は大学でコンパだとかサークルの集まりだとかはなかったんだろうな。
こちら側からノックを二つして、それを返事とした。

('、`*川「もう……。デレちゃんが来てくれたわよ。開けて良い?」

ノックを三回。ノーの合図。

('、`*川「まったくこの子は……」

大仰にため息をついた姉さんの後ろから、ひょこりとデレが顔を見せた。

ζ(゚ー゚*ζ「ペニ姉さん良いですよ。いつもどおりここで」

ぺたんとフローリングに座りこむ。冷たいだろうに。姉さん、座布団の一枚でも持ってきてあげて。
そう言いたいが、言葉は出ない。申し訳程度にノックを二回した。

('、`*川「座布団とお茶、持ってくる。ストーブもあるけどいる?」

ζ(゚ー゚*ζ「お構いなく~。あ、お茶はダージリンがいいな。ペニ姉さん特製の奴!」

('ー`*川「はいはい」

デレの冗談めかした要求にくすりと笑う姉さん。
姉さんは僕から見て奥の方に引っ込む。
帰って来るまでの僅かな間、デレは寒そうに手を擦り合わせている。

僕はそのデレのしぐさに罪悪を感じる。
僕が部屋に入れてあげられたら、あるいは暖かい居間に行ければ、何の問題もないのに。
僕は最低だ。

('、`*川「ほいほい、お待たせ」

片手に小さな電気ストーブと、もう片手に湯気の立つカップ。
そして足の間に座布団を挟んだひょこひょこした足取りで姉さんが帰って来る。

ζ(゚ー゚*ζ「わあ、ありがとう」

('、`*川「ストーブのコードは私の部屋から引っ張ってあるから、適当に電源入れてね」

ζ(゚ー゚*ζ「ダージリンは?」

('、`*川「もちろん、蒸らし、温度に構わず適当に仕上げた特別製」

ζ(゚ー゚*ζ「流石です、ペニ姉さん」

デレはニヤりと笑って、しかし美味しそうに一口含んだ。
姉さんが自室に引っ込んだところで、デレとの会話が始まる。
ほとんどデレが一方的に喋る、けれど僕にとっての会話が。

ζ(゚ー゚*ζ「まずはひーくん、おはようかな?」

ノックを二回。そう、今起きたところなんだ。

ζ(゚ー゚*ζ「相変わらずダメな子だねぇ。そんなんじゃ大きくなれないよ」

ノックを三回。いいや、もう身長は伸びきってるし。多分デレと同じくらいだけどさ。

ζ(゚ー゚*ζ「前に話した夢の話、憶えてる?」

ノックを二回。憶えてる。

ζ(゚ー゚*ζ「またブーンが出てきたんだ。そして一緒に踊ったの」

ノックを二回。そう。

ζ(゚ー゚*ζ「ブーンったら途中で甘い匂いがどうのって変な事を言うんだよ。いつからあんな子になったのかなぁ」

笑いながら言うデレに、ノックを三回。知らないよ。

ζ(゚ー゚*ζ「ひーくんは、最近夢、見た?」

ノックはしない。

――ねえデレ。僕も君と同じ夢を見たんだ。
   君は今朝見たんだろうから、夢同士は繋がってないのかもしれないけど。

   そこでは僕がブーンなんだ。そして君と踊って、君の体を感じて、君の匂いを感じたんだ――。

ζ(゚ー゚*ζ「そっかぁ。見てないのか」

ζ(゚ー゚*ζ「ひーくん、三年、経っちゃったね」

ノックを二回。そうだね。僕が引き籠ってから、もしくは――。

ζ(゚ー゚*ζ「ブーンが死んじゃってから」

ノックを二回。自分でもわかる弱弱しい音。気づくと手が震えていた。
僕のひきこもりとブーンの死は縁深い。何せブーンが死んだ翌日から僕はひきこもり始めたのだ。

それは何もブーンが悪いという話では無い。

三年前の今と同じ冬。僕らは同じ中学に通う幼馴染で、とても仲が良かった。
もっといえば僕とブーンは多分デレが好きで、つまり恋愛におけるライバルで、それでいて親友だった。
そしてデレは多分、ブーンのことが好きだったんだろう。

僕らはその日公園で遊んでいた。三つのブランコを占拠し、デレを真ん中にしてゆらゆら揺れて。
とりとめのない話をした。昨日見たテレビの話。学校の話。駅前で見た滑稽なゾンビの話。
話の切れがいいのはデレで、僕は楽しんで相槌を打ち、ブーンが楽しげにデレのボケに突っ込んだ。

いつも通りの光景がそこにあった。

僕はそこでぼんやりとしていた。デレの上げる小さな悲鳴に気づくまで、その光景に浸りきっていたんだ。


真ん中のブランコに乗るデレ。その肩にゾンビの腐った両手が乗っていた。


それ自体は特に異常なことでもない。
腐った両手を払えば、それで済む話だった。
けれど、ゾンビの膂力はデレの、あるいは僕とブーンの想像をはるかに超えて強かった。

冬に多いと言われる凶暴なゾンビで、僕らがその種のゾンビを見たのは初めてだった。

それに気づいて動いたのはブーンだった。デレの両肩にある手を、必死になってひきはがしに行った。
そしてそのブーンと同じだけあるデレとの距離を、僕は埋められなかった。

僕は怯えて、ブランコの上で、ただ二人とゾンビのやりとりを見ていた。
歯をかちかち言わせてデレに噛みつこうとするゾンビ、悲鳴を上げるデレ、ゾンビに立ち向かうブーン。
怯えて見ている僕。

やがて、デレの両肩からゾンビの手が離れた。代わりにブーンとゾンビがもみ合いになった。

(;゚ω゚)『ヒッキー!』

と、僕に声がかかった。

(;゚ω゚)『デレを!』

連れて逃げろと、勇敢なブーンは言ったんだ。

そして、情けない事に。
僕はそれでも動けなかった。

僕の手を引く力を感じた。
逃げよう、ひーくん。という涙交じりの声。
ブーンに任せればきっと大丈夫。

僕はその声に、救うべき女の子の声に救われた気になって。
僕らは走って公園の出口を目指した。


『ああああああああああああああ!!』

血しぶきの上がる音と共に、叫び声が聞こえて。
振り返ると、首筋を喰い破られたブーンが。

ブーンが。

ブーンが。



ζ(゚ー゚*ζ「ひーくん聞いてる?」

デレの声で現在に帰って来る。
ノックを二回した。聞いてるよ、という嘘。

ブーンが絶命したのち、その凶暴ゾンビは然るべき機関により駆除された。
巨視的に見ればゾンビによる被害が一つ増えただけだった。
僕の主観では大事な友達と、自分でも気付かなかった自分の醜さを隠す仮面を失ったという、
そういう事件だった。

自分の醜さに気づいた僕は、自分の世界から出られなくなってしまった。

ζ(゚ー゚*ζ「じゃあ、ひーくん。今日はもう帰るね」

唯一の自分以外の世界との接点であるデレ。
心配して、こうして時折様子を見に来てくれるのだ。

ζ(゚ー゚*ζ「次は、会ってお話しできるといいね」

いつも通りの言葉を置いて、デレは帰ってしまう。

「あ、デレちゃん帰るの? 夕飯食べて行ったらいいのに」

「いいえー。もう冬だし、暗くならないうちに帰って来なさいってお母さんに言われてるから、残念だけど」

「そう? まあ確かに冬は物騒だしね。じゃあ……その」

「また来ますよ。特製のお茶、用意しといて下さいね」

玄関の戸が閉まる音がして、デレが帰ったことが分かる。
どんどんどんと、僕の部屋に向かってくる足音。

('、`*川「デレちゃん、帰ったわよ。あんたいつまでそうしてる気?」

ノックは出来なかった。


僕は再び夢を見ている。
あの扉の前で、豚の腐ったような臭いを嗅いでいる。


(-_-)「今日も舞踏会?」

爪'ー`)y‐「そうです。主人は踊りが好きですからね。
       ポルカ、ジルバ、コンチネンタルタンゴ、なんでもござれです。
       さてゲストにおかれては――」

(-_-)「ああ、もう良いよ。扉を開けて」

爪'ー`)y‐「聞きわけがよくなりましたね、ゲスト。
       喜ばしいことです。もちろんそんなこと微塵も思ってないですが。
       それでは、よい夢を」

光があふれる。僕は足を踏み出す。最後まで見られない夢の世界に、僕はやって来た。

ζ(゚  ゚*ζ「ブーン、こっちだよ」

いつも通りの大階段の一段目でデレは待っている。
大げさなフリルはいつも通りだけど、色は目が覚めるような黄色。

( ^ω^)「似合ってる」

と、笑い男の仮面をつけた僕が言った。デレが目を丸くした気配を感じる。

ζ(゚  ゚*ζ「キミからドレスを褒めるなんて珍しいね」

( ^ω^)「良さが分かれば褒めるよ」

実際にデレに黄色のそのドレスはよく似合っていた。
前回の桃色はデレには少し過剰な色に思えた。デレにはひまわりのような明るい色が合っていると思う。

フロアにはアップテンポの曲が響いていた。
今日の演目はいわゆる社交ダンスと言うもので、専門的なステップが要求されるから、
僕とデレは踊らずに階段に座りその光景を眺めていた。

( ^ω^)「みんなこういうのはどこで覚えるんだろうか?」

ζ(゚  ゚*ζ「知らないけど、必要に迫られたら分かるんじゃないかな」

( ^ω^)「必要な時って?」

ζ(゚  ゚*ζ「取引先の偉い人の趣味が社交ダンスだった時と、社交ダンスしかすることがない時」

( ^ω^)「そうかも知れないな。けど、今は社交ダンスしかすることがないよ」

ζ(゚  ゚*ζ「分からないってことは覚えなくて良いってことだよ。
       分からないって言える間は。それより、話、聞いてよ」

デレは真剣な声で言った。

ζ(゚  ゚*ζ「ひーくんの話」

( ^ω^)「……うん」

正直に言ってすぐにでも逃げ出したかった。
けれど、いつかのように僕の体は動かない。頷いて、デレの言葉を待った。

ζ(゚  ゚*ζ「ブーンが死んじゃったあと、ひーくん引き籠っちゃったんだ」

ノックを二回したかった。知っている、と。
けれど、僕とデレの間には扉はない。

( ^ω^)「そうなのか」

僕は知らないふりをした。

ζ(゚  ゚*ζ「もう三年くらい。ペニ姉さんもすごく心配してる。毎日様子をメールしてくれるくらい」

( ^ω^)「え……?」

知らなかった。姉さんが僕のことをどう思ってるかなんて、想像したこともなかった。
なんて言えばいいんだろう。なんて返せばいいんだろう。

( ^ω^)「それは……」

僕は悩んだ。たっぷりと時間をかけて最良の返答をしたかった。
そしてその間デレは待ってくれていた。けれど、

( ^ω^)「それはうざったいくらい?」

ああ、出てしまった。僕が引き籠り始めて思い至った欠点の一つ。
僕は口下手で、苦し紛れに人の好意を踏みにじるようなことを言ってしまう。
デレとメールのやり取りをしてくれている姉さんには本当に感謝しているのに、苦し紛れにそう尋ねてしまった。

ζ(゚  ゚*ζ「ううん、そんなことちっともない。
       ペニ姉さんが心配する気持ちも分かるし、私もひーくんの近況をマメに知れてうれしい」

( ^ω^)「それなら良かった」

本当に良かった。ごめんなさい、ありがとう、姉さん。

ζ(゚  ゚*ζ「それで、私もちょくちょく様子見に通ってるんだけどね」

( ^ω^)「うん」

ζ(゚  ゚*ζ「偉い?」

( ^ω^)「中々出来ないことだと思う」

そして感謝してる。

ζ(゚  ゚*ζ「でもひーくんはそう思ってくれてないのかな。この三年間、私ひーくんの顔も見てないんだ」

と、デレは言った。その言葉の後半は少し震えていて、

ζ(゚  ゚*ζ「悔しいなあ。頑張ってるのに、気持ちが通じないのはとても悔しいよ、ブーン」

僕は叫び出したい衝動に駆られた。
違うんだデレ、僕は本当に感謝していて、本当にデレが来てくれるのが嬉しくて。
でも、そんなことを言う資格は、僕にはないと思った。
顔を見せられない僕に、そんな言い訳を連ねる資格はない。
顔を見せる勇気もない。

ζ(゚  ゚*ζ「ひーくんと面と向かって話したいよ」

( ^ω^)「何を話すの?」

ζ(゚  ゚*ζ「何でも良いよ。内容なんて本当にどうだっていいんだ」

それは前回の夢でデレが言っていたことと同じで。

( ^ω^)「黙ったら死んじゃうから?」

ζ(゚  ゚*ζ「そうだよ」

と、デレは言った。

ζ(゚  ゚*ζ「対話がない人生なんて死んだも同然だ」

それはリリシズムに満ちたつまらない言葉だったし、あまりにも正論過ぎるように思えた。
けれど、僕はそう思う自意識を恥じ、そして泣きそうになっていた。

三年もの間、彼女は僕の家に通ってくれた。そして寒い廊下で僕に話しかけてくれた。
僕は言葉を発しないのにもかかわらず、自分一人で喋るのではなく、僕から言葉を引き出すように話してくれた。

それは僕を生かそうとしてくれたのだと、今気づいた。
デレの行為の意図に気付かず、表面をなぞって感謝していただけの僕は、本当に馬鹿だった。

( ^ω^)「デレ」

ζ(゚  ゚*ζ「うん?」

( ^ω^)「ありがとう」


それで、今日の夢は途切れる。僕は一人の布団で目覚める。
ドアをがすがす蹴るけたたましい音がしていた。それで目覚めたのだろう。


('、`#川「いーかげんにしなさい!」

ペニサス姉さんだった。素足でドアを滅茶苦茶に蹴っていた。

('、`#川「デレちゃんが来てくれたのにシカトなんてあんた何様よ!?」

寝ている間にデレが来てくれたらしい。
外はすでに暗くなっていた。今日は寝過ぎたようだった。
申し訳ないことをしてしまった。

(-_-)「デ……き……」

現実で人と話すのはずいぶん久しぶりだから、喉がうまく働いてくれない。

('、`#川「ヒッキー! 返事位しなさいよ!」

(#-_-)「デレが来てくれたんだね!」

喉を振り絞って、大声を出した。
ドアを蹴る音が止んで、かわりに姉さんの間の抜けた声を聞いた。

('、`*川「へ?」

さっきまでドアを蹴り怒り狂っていた人間とは思えない反応だった。
けど、正しいのかもしれないと思った。なにせ姉さんも、僕の声を聞くのはずいぶん久しぶりなんだろうから。

僕はまず深呼吸をした。深く吸って、身体に溜めたものごとすべて吐き出す。
それを何度も何度も繰り返した。

('、`*川「ヒッキー?」

これは機会だと思った。今までにも何度もあったかも知れないチャンス。
けれど、これをチャンスだと思ったのは初めてだ。

(-_-)「待って、今出る」

そうだ。ひきこもりが外に出るチャンスなんて、いつだってあったはずなんだ。
僕は周りに甘えて、それに気づかなかっただけなんだ。

息を吸う。吐く。吸う。吐く。

気づいた以上、今出なければ、これから先チャンスがあった所で、一生出られないだろう。
これは今やらなきゃいけないことなんだ。

それに何より、どうしようもなく、僕はデレに面と向かって謝罪がしたかった。
ドアを開けると、あたりまえだけど、覗き穴から見るより広い視界で、廊下が見えた。

('、`*川「ヒッキー?」

姉さんの驚いた顔があった。僕は今どんな顔をしてるんだろうか。
どうしようもない、情けない顔をしてるんだろうな。

('、`*川「なんで?」

と、姉さんが聞く。無理もない。
三年間出てこなかった弟が、自分が怒ったからとはいえ、部屋から出てきたのだ。

(;-_-)「デ、デレにあ、謝って来る……」

僕はつっかえながら言った。

(;-_-)「ね、姉さんも、その、あの」

僕は姉さんの瞳に大粒の涙を見た。そして僕は次の瞬間姉さんの腕の中にいた。
ぎゅうと抱きしめられたのだ。

( 、 *川「偉い」

姉さんはそう言った。悪いことをして謝るのは当然のことなのに、と、ドキドキする頭の片隅で思った。

(;-_-)「あの、メール、ありがとう」

( 、 *川「メール?」

(;-_-)「ね、姉さんがデレに送ってくれたメール」

( 、 *川「……なんであんたが知ってるのよ。デレちゃんから聞いたの?」

(;-_-)「う、うん、そう」

( 、 *川「そっか。ヒッキーには言わないでって言っておいたのにな」

(;-_-)「大丈夫。デ、デレは約束破ってないから」

小声でそう言った。
聞いたのは夢の中のブーンで、現実の僕は聞いてないから。

( 、 *川「なに?」

(;-_-)「な、何でもない。ぼ、僕、その、行くから」

( 、 *川「うん、頑張ってらっしゃい」

と、姉さんは言った。それから続けて、こうも言った。

( 、 *川「でも、行く前にシャワーくらい浴びていきなさい。今のあんた、かなり臭う」

僕を抱きしめたまま、姉さんはそう言った。

シャワーを浴び、髭を剃った。
伸びた髪がウザったかったから、自室で適当にばしばし切っていたのだけど、
シャンプーしてみるとそのバラバラさ具合がよく分かって、妙な気分になった。
ひょっとしなくても、恐ろしくヘンテコな髪形をしてるのだろうな。少しだけ外に出るのが怖くなったが、
それでも一度つけた弾みが損なわれることはなかった。

ただ、一つ問題があった。
成長期に引きこもっていたせいか、外行きの服がまったく着られなくなっていたのだ。
仕方がないから部屋着のスウェットのまま行こうとしていたら、

('、`*川「あんたそのままで行くの?」

と、姉さん。そのつもり、と答えると、

('、`*川「あたしのジーパンと昔のGジャン貸してあげるから、それ履いて、ジャンパーの前閉めていきなさい」

そう言ってくれた。

(*-_-)「あ、ありがとう」

僕と姉さんは背丈はそう変わらないが、ジーパンのすそがかなり余ってしまった。一度折り返して履いた。

(;-_-)「じゃ、い、いってきます」

('、`*川「いってらっしゃい」

姉さんの見送りが、ずいぶん嬉しかった。

久々の外をおっかなびっくり歩いた。
人とすれ違いそうになるたびに部屋に飛んで帰りたくなったが、デレに会うまではそうもいかない。
デレの家は小さなころよく行ったので、今さら迷うこともないし、迷うほどの距離もない。

ゾンビの数がかなり増えていた。
暗がりでよく見えないものの、人を五人見かけると、ゾンビを一体見かけるような具合だ。
どうなってるんだろうか。早く駆除してくれたらいいのに、と僕は思った。

(..;;;*,,*;;)「う……ああ……」

ゾンビがコンビニのゴミ箱をあさっていた。
それは何の意味もない行動で、そいつが何がしたいのかよく分からない。

コンビニから出てきた店員が、そいつを蹴って追っ払った。
蹴った瞬間に腐った手がぼとりと落ちて、後にそれが残る。
店員はそれを摘んで、今までゾンビがあさっていたゴミ箱に入れた。

こう言った光景は、僕が引き籠る前からあったものだが、
それでも店員はもう少し怯えながらやっていたものだった。
もう慣れてしまったのだろうな、と思った。

ゾンビとはなんなのだろうか。この二十数年間で人々はそれを解明できなかったし、
これから先解明できるかも怪しい。
本当に。キミらは死んだのに、なんで動いてるんだよ。

かつてブーンがゾンビに殺された公園は僕とデレの家の間にある。
他に道はないから、僕は嫌でもそこを通らざるを得ない。

妙に公園の辺りがざわついていた、けれど人だかりができている様子はない。
何人かが遠目に公園の中をのぞいている感じだった。

興味本位で僕もそれに倣った。公園の中の電灯は妙に明るく光っていた。

(..;;;*A*;;)「あう……あう」

凶暴なゾンビが暴れていた。気の毒な誰かが襲われている。
かつての光景が思い出されて、僕は嫌な気持ちになる。

よく目を凝らして誰が襲われているのかを見た。
ちょうどゾンビに隠れる形になって、よく見えなかった。けれど、声は聞こえる。


「は、離してよ……止めて!」

よく見えなかったが、間違いなかった。
それはデレだった。


(;-_-)「え、ええ?」

何でデレなんだ! 僕は必死にそれを否定しようとした。何で、何で!
人影がもがき、電灯の下に出る。ゾンビの陰から出てきた顔はやはり、

ζ(゚ー゚;ζ「ちょ、ちょっと……」

デレに間違いなかった。何でだよ、何でデレがここにいるんだ。
夢でも見てるんじゃないだろうか。
だって、デレのおばさんに暗くならないうちに帰って来なさいって言われてるんだろう?
約束破っちゃ駄目じゃないか。

僕はデレを直視できなくて、やっぱり凶暴なゾンビが怖くて、そこから目をそらしてしまった。

目に飛び込んできたのはブランコの下に飾られた瓶と真新しい花。
いくらなんでも三年経って未だに花が飾られていたら、町内の人も迷惑だろうに。

僕は考えた。あれが、デレが自分で持ってきたものだったら?
デレがブーンと対話するために持ってきたものだったら?
夢だけでは足りずに、現実でも対話しようと持ってきたものだとしたら。

デレならばあり得るかもしれないと思った。

だったら、夢だろうが現実だろうが、やはりあれはデレには違いないだろう。

僕はしかし、さらに葛藤する。
あそこまで僕は走れるのか?

かつて僕は隣のブランコと言うごく僅かな距離すらうめられなかった。
その何倍もの距離が、今の僕とデレにはある。

僕はこの距離をうめられるのか?

そしてこの距離は僕がかつてブーンから逃げた距離でもある。
逃げることすらデレ頼みだったが、逃げること自体は、立ち向かわない事は、ひどく容易なことだ。

三年前からこの距離をうめられずに苦しんでいた気がする。
僕は今この距離をうめられなければ、デレが助かった所で、さらに苦しみ続けるのだろうと思った。

「あの女の子、しぶといなぁ」

僕のすぐ近くで、痩せぎすの男が下卑た笑みとともにそう言った。

「生の血しぶき、見たいのに」

彼は何かのマニアと言う奴なのだろうか。
若い女の子がゾンビに襲われているのを見て、心底興奮しているようだった。

彼に何か見せてやる義理はないし、なによりデレを助ける義務がある。
僕は走った。

一メートル二メートルと走り、デレとゾンビに近づく。
怖じ気づく気持ちを必死に抑えつけて、ゾンビとデレの間に割って入った。


ζ(゚ー゚;ζ「え?」

一瞬、デレは僕が誰だか分からないようだった。

(;-_-)「ご、ごめん。お、遅くなった」

と、僕は言った。三年もの間、待たせてしまった。

ζ(゚ー゚;ζ「ひーくん!?」

ゾンビの力は異常に強かった。
この力強さは個体差なんだろうか、それとも何か変化が起きているのか。
なんにせよ、さっきのコンビニのゾンビとは迫力も何もかも大違いだった。

(..;;;*A*;;)「ああああ……」

ゾンビは新しい肉が増えたことを喜んでいるようだった。
割って入った無防備なその首筋にためらいなく歯をたてた。

(;-_-)「あれ?」

首が凄く痛い。すごくすごくすごくすごく、痛い。

けど、ゾンビの標的はそれでデレから僕に移ったようだった。
ゾンビの手が僕の両肩にかかり、首筋の歯をゆっくりと沈めていく。

おかしいなあ。漫画の主人公とかだと、こういう無鉄砲な行動でも案外うまくいくんだけどなあ。

面と向かって、僕の顔と声で、デレと話したいことは、正直そんなになかった。
せいぜい、今までのことの謝罪と、お礼を言うくらいだ。
今更好きです、なんて告白しても詮無い話だし、ブーンの思い出話をしたって仕方がないじゃないか。

でも、僕はデレと話がしたかった。対話をしたかった。
僕から自発的に、デレと生きてみたかった。

ζ(゚ー゚;ζ「ひーくん?」

ゾンビの標的から外れたデレは、でも逃げずにその場にへたり込んでしまった。
なにやってるんだよ、逃げてくれよ、と僕は思った。
声はもう出なかった。

人は死に際になると妙に冷静になるものだと聞いたことがあるが、その通りだった。
僕は今更、誰かこの凶暴なゾンビを通報してくれただろうか、と疑問に思った。

ζ(゚ー゚;ζ「ひーくん、ひーくん!」

デレが僕を呼んでいる。お願いだから早く逃げてくれ。
あるいは、デレが噛まれる前に、しかるべき機関の人でも、処理会社の人でも良いから、早く来てくれ。

間にあってくれ。


気が付くと、僕はあの夢の中にいた。
豚の腐ったような臭いに、光のない空間。
そして体はタキシードに包まれていて、手には笑い顔の面。僕は仮面を付けた。

( ^ω^)「ところでさ、これ以外の仮面ってないの?」

と、僕は聞いた。タキシードは微妙に変わることはあるが、仮面は必ずこの笑い顔だ。

爪'ー`)y‐「何をおっしゃるのですか。あなたが自分で用意した仮面じゃないですか」

と、男は答えた。

( ^ω^)「そうかもしれないな」

僕は何となく理解した。

( ^ω^)「今日も舞踏会はやってるんだろう?」

爪'ー`)y‐「もちろんです、ゲスト。主人は踊り好きですからね」

( ^ω^)「うん。今日は最後まで踊れると思う」

爪'ー`)y‐「ほう。それは良いことです。本心からそう思いますよ。では一つアドバイスしましょうか」

( ^ω^)「アドバイス?」

爪'ー`)y‐「いえ、まあ、つまらないことですか。
       パートナーを必要とするダンスのコツは、相手の呼吸を読むことです。
       相手がこうステップを踏めば、自分はこう」

男は暗い空間にたたんとリズムよく足音を響かせた。

爪'ー`)y‐「それさえうまくできれば、ダンスは永遠に続けられます。
       BGMなどというものは、ダンスの補助にすぎません」

ああ、そうなのか、と僕は思った。

( ^ω^)「ダンスっていうのは、対話なんだね」

爪'ー`)y‐「その通りです、ゲスト。さて、私のつたないアドバイスはこれだけです。それでは、よい夢を」


扉が開け放たれる。
ところで、この夢って結局何だったんだろうな。

学のない僕には分からない。

けれど。
誰かが細い糸を紡いで出来た世界。
細い糸と言うのは、もしかしたら僕らのことだったのかもしれないと思った。

人ごみの間を縫って、僕は彼女を探した。
いつもの場所にいるだろうという楽観した気持ちと、
ひょっとしたらいないかもしれないという不安がごちゃ混ぜになって、自然と足が早まっていた。

今日の曲は緩やかでしっとりとした曲。人々はダンスフロアを漂う水草のようだった。
踊っている最中は、笑い顔の仮面を付けていようと彼らは僕の方を見ない。

彼らは自分たちの対話に必死なんだ。
でも、それは醜いことじゃない。けして、浅ましいことじゃないんだ。

僕は大階段の下に立った。


( ^ω^)「デレ」

彼女はいなかった。大階段には人一人いない。
いつだってフリルのついたドレスを着て僕を待ってくれていたデレは、そこにいなかった。

( ^ω^)「僕は独りなのか?」

ζ(゚  ゚*ζ「ちょっと遅れたくらいで拗ねなくてもいいじゃない」

( ^ω^)「うわっ!」

後ろから急に話しかけられてのけぞってしまった。
でも、彼女は居た。デレは僕の後ろにいたんだ。

ζ(゚  ゚*ζ「踊ろうか」

デレが手を伸ばす。
黄色い手袋。今日のデレは、僕が前回褒めた黄色のドレスそのままのようだった。

( ^ω^)「その前に」

と、僕は仮面に手をかけた。ふちを強く持って、、それを外した。

(;;-:_*:)「ふう」

僕の顔はゾンビに噛まれたことで、半分腐っていた。

(;;-:_*:)「今はこんな腐った顔で申し訳ないけど、ブーンは僕だったんだ」

ζ(゚ ゚*ζ「え……」

(;;-:_*:)「黙っててごめん」

デレの驚いた顔が想像できた。デレはどう思うんだろうか。僕を拒絶するだろうか。
しかしデレは何も言わずに、自分の面に手をかけた。

ζ(;;*, ゚;ζ「いいの」

と、デレは言った。ゾンビの処理は間に合わなかったようだ。
僕は少しだけ残念に思って、けれど嬉しく思う気持ちも抑えられなかった。
デレは、こんな僕でも拒まず、受け入れてくれたという事実が、「いいの」という一言が、どうしようもなく嬉しい。

ζ(;;;*, ゚;;ζ「ひーくん。踊ろうか」

黄色の手袋と共にデレが言った。
ぴんと僕に伸ばしたその手を、僕は取った。

(;;-:_*:)「踊ろう、デレ」

誰かが細い糸を紡いだこの世界が終るまで、僕らはくるくる踊り続ける。

ζ(;;*, ゚;ζ「ひーくん」

(;;-:_*:)「デレ」

腐った僕らはお互いを感じ合い、対話し続ける。









この小説は2009年1月12日ニュース速報(VIP)板に投稿されたものです
作者は◆HP1.OKeCPA 氏



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[ 2010/01/09 10:08 ] ナギ戦記 | TB(0) | CM(0)

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