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九十八のようです

 
はじめてブーン系小説を読む方はこちらへどうぞ




ショボン。
君は、私の全てだった。

ゆっくりと私の体が落ちて、大地に叩きつけられるまでの僅かな時間だが、
君との思い出を語ってみようと思う。
所詮は敗者の戯言だ、真剣には聞かないで欲しい。

いや、真剣に聞いてほしい。
私は、君を、ショボン。どうしようもなく愛していたのだから。

正確な日付はすっかり忘れてしまったが、君と出会ったのは、春の日。
陽光零れるアンティークショップで、陳腐なセリフだがまるで運命の赤い糸に
導かれたかのように出会い、そうして惹かれあったな。


「一目惚れしたんだ」

今でもそのセリフを思い出すと、気恥ずかしく、くすぐったく感じるよ。

君と出会い、君を知り、そうして君と共に暮らすようになるのに、時間はさほどかからなかった。
それからの、君と紡いだ私の日々は、恐ろしいほどの幸福に満ち溢れていたんだ。

君の瞳に映りこんだ私は、自分でも気恥ずかしくなるほどに輝いていたよ。
壊れ物を扱うように、いつだって繊細な手つきで私に触れてくれる度、私はほんの僅かばかりの
照れと、溢れんばかりの愛情をもって、自分という存在がこんなにも輝くのかと感動すらしたんだ。

君は、今までのどんな相手とも違う。
君が見せてくれた風景は、これまでの年月に見てきたものを風景と呼ぶのもおこがましい程に輝き、
鮮やかな色彩に包まれていたんだ。


私は君に愛情と、そうしていつも感謝をしていたんだ。
口下手だからな、私は。だから君には何一つ伝わっていなかったかもしれない。
……いいや、伝わっていたよな。きっと。
私を見る君の眼は、いつでも三日月のようにゆるやかなアーチを描いていたのだから。

君はいつでも優しかった。
私は君さえいてくれれば、もうそれで充分だったというのに、君はたくさんの贈り物を私にくれたね。
赤や白、薄いピンク。ふんわりと揺れる、まるでビロードのように美しい質感のドレスや、
色とりどりの花束を。

君と共に在るだけでも、過ぎた幸福だったというのに、君は私を着飾らせ、花束を添えるたびに
「素晴らしい」とうっとり息を吐き、それから優しく口づけをしてくれたものだった。


あぁ、けれど、君が「これは僕だ」と言って私にくれた、あの紫の花を思い出す度、
今でも胸を締め付けられるよ。
トリカブト、と言うのだろう? 花言葉だって知っている。君が言っていたから。


「僕は、人嫌いだから。だから、これは僕なんだ」

伏した目で君は力なく呟き、そうして君さえいればいいんだ、と弱く笑っていたな。

私は――あぁ、本当の意味で君を愛しく感じたのは、この時だったのかもしれない。
私だけがいればいいと、優しく触れた手に強烈な愛情と、何があってもこの手を失わないと
強く決意したのは。

私が君から逃げられないと。君を逃がすつもりもないと、はっきり感じたんだ。
こんな気持ちになったのは、初めてだった。今までのどんな相手とも違う。
同じ人嫌いの、けれどどうしようもない孤独を感じている私に似ているとすら思えたんだ。


だから、決意した。
どんな時だって二人、いつでも側にいると。










あの日までは。




20081016052318.jpg



あぁ。まるで理想的だった幸福は、ほんの些細な事で崩れてしまったんだ。

初めは、小さな違和感だった。
いや、気付いていたのに無理矢理無視していと言った方がいいかもしれない。


                 ノハ ゚⊿゚)


君と私だけだった世界に、見知らぬ顔があらわれたんだ。
見知らぬあの女が――崩壊に繋がっていたのだろう。

破滅のトリガーたるあの女は、騒々しく騒ぎながら私を不躾に、まるで値踏みでもするかのように
ジロジロと無遠慮な視線を投げつけて来たんだ。

けれど、君はそれでも私を庇ってくれた。解ってくれていたんだよな、君は。
だって君は、ショボン、君は今までの相手とは違う。
私の感じていたどうしようもない孤独と、心にあいた隙間を愛情で埋めてくれたのだから。
だから私は、生まれて初めて誰かと共に在ろうと決意したんだよ。

それに、君がそうしてくれる度、私は優越感すら感じていたんだよ。
君が愛しているのはその女ではない。私なのだと。

粗野で、知性の欠片さえなさそうなあの女は、その日以降何度も君と私の世界に介入してきたな。
あの女が君に乱暴に触れるのを見るにつけ、私は内心ハラハラしていたんだよ。
けれど、不思議と嫉妬の心は芽生えなかった。

だって、そうだろう?
どんな状況下にあっても、相変わらず君は三日月のアーチを描く目で私を見、私に優しく触れてくれたのだから。
だから、私は君に愛されているのだと揺るぎようのない自信を持っていたんだ。


だが、現実はどんな時でも残酷で。


君が、人嫌いだと言っていた君が、あの女と話し、笑い合う姿を見て私は動けなかったんだ。
私を捨ててあの女の元に君が向ってしまうのではないかと、君を失う恐怖で
体中の血が引いていくのを感じることも度々あったんだ。
まるで自分の体に、血液など初めから流れていないように。

君は、私を愛しているのではないかと。
何故あの女を追い出さないのかと。
愛していないのなら、何故私を選んだのだ、どうして共に暮らしているのだと。
問い詰めたい事は山ほどあったのに、動けなかった。

そう、動く事すらできなかったのだ、私は。


そして、世界は本日、今この瞬間に崩壊したのだ。


相変わらずあの女は君と私の世界に騒々しさを振りまいていた。
少々辟易しながら私が聞いていたその瞬間。
一瞬感じた僅かな揺れ。
不思議に思った瞬間、ズ、ンと腹に響くような衝撃が私たちに走ったのだ。


「地震だ!」


君は慌てて立ち上がった。ぐわんぐわんと左右に揺れるぶれ幅はどんどん大きくなる一方で、
あまり地震を経験したことのない私にも、とても大規模なものなのだと理解できた。

それほどの揺れの中、君は焦りを含んだ声で叫ぶなり、手を差し伸べたんだよな。


私にではなく、あの女に。

以前の私なら、何があっても自分の事だけを考えていられた。
だから、私を望まない形で束縛する相手から、様々な手段を使って逃げてこられたのだ。

けれど、どうだ、このザマは。

君があの女の手を取って、逃げ出すその後ろ姿を。
この揺れを気にすることもなく、ただ、私は逃げもせずにただ、茫然と眺めているに過ぎなかった。

いつぞやか、聞いたことがある。
本当に大事なものは、危機的状況になると特にわかると言う、その言葉を。

つまり、ショボン。
君は、私よりその女が大事だったという訳なのだな。


……ははは、ははははは。
笑える。これを笑わずに何を笑う?
君を心底愛していたのは私だけだったのだ。
感じていた愛情も、すべては私の幻だったという訳なのだ。ははは、あはははは。

それで、ショボン。聞こえるか?
私は、君に選ばれることのなかった敗者たる私は、無様にも地に向って落下しているのだよ。
重力が私をかの地へと運ぶのを、ただ唯々諾々と受け入れる事しかできないのだよ。
せめて、あと一年。あと一年あれば。
口下手な私でも、君に想いを、不安を、愛情を告げることができたというのに、だ。


どこかで、鈴の音のように高く、切ない響きが聞こえた。
あぁ、それは私が私という存在を繋ぎ止めていたものが、壊れてしまった音なのだろう。
体中が激しく痛む。
きっと、砕けているのだろう。君が奇麗だと褒めてくれた体も、君を愛していると、
愛されていると疑うことすらせず、愚かにも信じ切っていた心も。


なぁ、ショボン。
最後まで君から逃げることはできなかったな。
なぁ、それは今までずっと逃げ続けてきた私が、唯一誇るべき事なのか? 
なぁ、ショボン。


そう思ったのが最期。私の目は、何も映さなくなり。心は何も感じなくなり。
そうして、私は死んでしまったのだ。
君を愛していた、いや、愛している、この浮かばれない想いと共に。







(;´・ω・`)「いやぁ……大きい揺れだったねぇ」

ノハ;゚⊿゚)「び、びっくりしたぞぉ……」

ほうほうの体で逃げ出した二人が、安全を確認してから戻った部屋は惨状、
と呼ぶべき有様だった。
本棚は倒れ、食器は割れ飛び散り、配置してあったなにもかもが床一面にばらまかれている。

ノハ;゚⊿゚)「うぉお……こ、これは片付けが大変そうだぞぉおお……あれ、ショボン」

(´・ω・`)「いや全くって、何?」

ノハ;゚⊿゚)「これ、割れてるのショボンが大事にしてたワイングラスじゃないのか?」

(;´・ω・`)「え、あ、あぁあ……見事に割れてる……」

破片を拾おうとしたヒートを片手で制したショボンは、室内灯を反射している破片を
名残惜しそうに見たあと、溜息を吐いた。

(´・ω・`)「はぁ……九十八」

ノハ ゚⊿゚)「九十八ってなんだ?」

不思議そうな顔で問いかける彼女に、ショボンはやんわり笑ってみせる。

(´・ω・`)「このワイングラス、九十八年前に作られたんだけどね。持ち主に不幸を呼び寄せては
      所在をくらませていた、曰くつきのワイングラスなんだ」

ノハ;゚⊿゚)「そ、そんなものだったのかぁああっ! で、ショボンに不幸は来たのかぁああ!?」

(´・ω・`)「来てたらこうして君と今話してないと思うよ? 例外なく持ち主死んでるみたいだし」

ノハ;゚⊿゚)「そ、それは何よりだッ!」

あわあわと慌てる彼女を尻目に、ショボンはもう一度破片に視線を落とす。
彼が愛した燦然と輝きを放ったワイングラスは、今や鈍く光る破片のみ。
その一つひとつの輝きが、言外に彼を責めているようにも思えて、彼は溜息を零す事しかできない。

(´・ω・`)「九十八年。来年で、九十九年。『彼女』はきっと、付喪神になっただろうに」

ノハ ゚⊿゚)「え?」

(´・ω・`)「長い年月を経た物には、精神が宿って具現化するのさ。このワイングラスは物質の段階で
      様々な不幸を起こしてきた。きっと、九十九年目には具現化すると思って買ったんだけどなあ」

ノハ;゚⊿゚)「な、なんだそりゃ!?」

首をかしげたヒートは、心底訳のわからないといった顔をしていたが、ショボンは割れたグラスの中でも
大きめの破片を一つ手に取ると、彼女に向って器用にウィンクをする。

(´・ω・`)「見たいと思わない? このワイングラスに宿った『彼女』が、どんな姿なのか」

ノハ ゚⊿゚)「そーゆー事ばっか言ってるからお前は友達がいないんだぞぉおお!」

(´・ω・`)「ハイハイ。人嫌いの僕に優しく接してくれる君が好きだよ、ヒート。感謝してる。
      あっちに掃除機あるから持ってきて」

ノハ*゚⊿゚)「私もお前のネクラっぽいくせに優しいところが好きだぞぉお、ショボオオオン!!
      掃除機だなぁああ、待ってろぉおおお!!」

騒々しく納戸へ向かっていくヒートの後ろ姿を苦笑しつつ見てから、ショボンはしゃがみこむ。

(´・ω・`)「……君を選べなくて、ごめんね」

(´・ω・`)「それから……今まで一緒にいてくれて、どうもありがとう。
      君といることができて、幸せだったよ」




砕けた破片は、何も語らない。







この小説は2008年8月13日ニュース速報(VIP)板に投稿されたものです
作者はID:NS6JkCZy0 氏
作者がお題を募集して、それを元に小説を書くという形式のものです



お題
トリカブト
ワイングラス



ご意見等あれば米欄にお願いします


[ 2010/01/08 20:01 ] ナギ戦記 | TB(0) | CM(0)

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