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ζ(゚ー゚*ζデレは新しい恋を探すようです


はじめてブーン系小説を読む方はこちらへどうぞ




ζ(゚ー゚*ζ「ひーくん、お母さんと一緒にお出かけしよっか!」

(-_-)「え……うん……」

母さんの唐突な言葉で、僕は実に三ヶ月と少しぶりに、母さんと出かけることになった。

僕は急いでパーカーを羽織り、どたどたと音を立てて階段を駆け下りる。

かなり急いだはずだったけど、そのときには母さんはすっかり支度を済ませていた。
玄関で鼻歌を歌いながらぼくを待っている。

ぼくは、母さんと出かけるときだけ履くとっときのスニーカーを履いて外に出た。

(-_-)「あれ、母さん。いつものカバンは……?」

ζ(゚ー゚*ζ「今日は要らないの。ひーくんさえいれば大丈夫」

(-_-)「ふーん……どこいくの……?」

ζ(゚ー゚*ζ「うふふ、ひーみつー」

母さんはぼくの手を握って、力強く前後に揺らしながら歩いてゆく。

今日の母さんは随分機嫌がいいようだ。
最近は仕事が忙しいのか、帰りが夜遅くや朝になることはざらだったし、
たまの日曜日にも、綺麗に描いた眉毛をしかめる姿を見かけていたので、ぼくは少しほっとした。

ζ(゚ー゚*ζ「ねえひーくん、これから行くところはね、ここからだとちょっと遠いんだ。
       だからお母さんが、面白いお話をしてあげる!」



20080903061046.jpg


------------------------------------------------------------------------------

あのね、お母さんはちっちゃい頃から恋多き乙女だったの。

確か初恋は幼稚園の頃だったなあ。同じ組にすっごくカッコいい男の子がいてね。
名前はモララーくんって言うんだけど、スポーツ万能でね。
すごいんだよ、幼稚園なのに鉄棒の逆上がりができたの!! お母さんなんか未だにできないよ。

それでね、お母さんはモララーくんともっと仲良くしたくって頑張ったんだ。
お花で編んだ首飾りあげたりね、スコップやバケツなんかもたくさん貸してあげたよ。

そしたらモララーくんがある日、お母さんにお花をくれたの!
あの時は嬉しかったなあ。
急いで幼稚園の先生に報告に行ったらね、先生はお花を押し花にしてくれたんだ。
こうしたらずうっと大事にできるよねって。

重石にする電話帳を運ぶの、お母さんも手伝ったんだよ。
ちゃんとできてるか心配だったけど、お花がだめになったら嫌だったから、我慢して触らなかったの。
押し花ができたら、モララーくん宛てのラブレターに入れて渡そうと思ってたんだ。

だけどね、モララーくんは押し花にできあがる前に引越ししちゃったの。
お母さんすごく困ったよ。挨拶とかもぜんぜんなし。
いつもどおりバイバイして、次の日来たらモララーくんはいなかった。
引越しの理由?うーん、忘れちゃったなあ。

すっごくすっごく泣いたよ。涙がぽろぽろこぼれて止まらなくて、海ができちゃいそうなぐらい。

でもね、泣いてばかりじゃだめだよって幼稚園の皆に慰められてね、なんとか立ち直れたの。
思い出の押し花は、幼稚園の桜の木の下に埋めたんだ。
見てると寂しくなっちゃうから。



次にお母さんが恋をしたのは、中学校一年生のとき。
お相手はソフトテニス部の先輩だったジョルジュ君。

部活動体験のときに、コートの中でやたらおっぱいおっぱい言ってる人がいてね。
そのときは変な人だなあって思ったぐらいで、特に気にしてなかったんだけど。

ところで、お母さんの行ってた中学校は結構大きくてね、
良い人もいたけど、そうでない人も結構いたんだ。

お母さんその頃からドジだったから、いろんな部活を巡るうち、
いつのまにか迷子になっちゃって。
不良のたまり場だった体育館裏に迷い込んじゃったの。

金髪の人や、腕に変なシール貼った人や、ピアスしてる人や。
怖い人が六人ぐらい溜まってて、何の用だーってニヤニヤ笑うの。

お母さん怖くって怖くって腰が抜けちゃって。
逃げようにも体はうまく動かないし、声も出なかった。もうだめだ、殺されちゃう!! 本気でそう思った。

そこに颯爽と現れたのがジョルジュ先輩。
あっという間に不良をけちょんけちょんにやっつけてね、大丈夫か?って。
まだ震えてたお母さんをおんぶして、はぐれた友達を一緒に探してくれてね。
それで好きになっちゃった。


でも、ずっと片思いだったの。
先輩目当てでソフトテニス部のマネージャーになったのは良かったんだけど、
明るくって優しい先輩はすっごくもてたし、おんなじ理由でマネージャーになった子いっぱいいてね。
それがまたみんな、可愛くて優しい良い子ばっかりだったの。

勝ち目なんか無かったし、それに恥ずかしかった。遠くから先輩の姿を見てるだけで精一杯。
練習後にタオルを渡すのだって、他の子がいつもだーって先に行っちゃうから無理。
あの頃は毎日ため息ばっかりついてたなあ。

おまけに先輩は三年生だったの。
もじもじしたまま時間は矢のようにすぎてって、あっという間に卒業式の日になっちゃった。

うちの部ではね、卒業していく先輩が後輩に自分の使ってた道具を譲るって伝統があってね。
ジョルジュ先輩はもう大人気で、最終的には身包みはがれてぱんついっちょになっちゃってた。

ぜんぜん話しかけられなかったし、絶対私のことなんか忘れてると思って、
お母さんははじっこのほうでしょんぼりしてたんだ。

そしたらいつの間にかジョルジュ先輩が目の前にいてね。
これやるよって、大事な大事なラケットをお母さんの胸にぎゅっぎゅって押しつけてきたの。
お母さんが呆然としてたら、今度はわらって、頭をくしゃくしゃってなでてくれてね。

泣きながら、いっしょうけんめいお礼を言ったよ。ありがとうございます、ずっと大事にしますって。
高校に行っても頑張ってください、そして、できれば私のことを忘れないでくださいって。
一番最後のは心の中でしか言えなかったけど。


ラケットはすっごく大事にした。
それから二年間、先輩が行った高校に入ろうって、お母さん一生懸命勉強した。

でもね、結論から言うとお母さん、ずっと片思いのままだった。

高校にあがってみたら、先輩にはすっごく綺麗な彼女ができてたんだ。クーさんっていうの。
つやつやの黒髪でね、きりっとした目元が本当に色っぽくて。おっぱいもすごく大きかった。

ああ、もうだめだって思った。とってもかなわない。
その夜は先輩のラケットを抱いて寝たなぁ。

で、ここでまたお母さんはドジをやらかすのね。
お母さん、ラケットを下敷きにしてベッドから落ちてね、ラケットを真っ二つにしちゃったの。

起きたときは、ショックで頭が真っ白になっちゃった。でもね、不思議なことに、涙は一粒も出なかったの。
むしろすっきりしたかなあ。先輩のことばっかり思いつめすぎて、結局重荷になっちゃってたみたい。
そこで二度目の恋はおしまい。



三度目の恋は、一気に燃え上がってすぐに終わった。
大学の同級生だったドクオ君に、ある日突然告白されたの。

ドクオ君は優しかった。
女の子と話すのは苦手みたいだったけど、その代わり全力でお母さんのことを理解しようとしてくれた。

ドクオ君はタバコを吸ってたの。高校のときから吸ってたんだって。
毎日二箱あけるなんてざらで、時には五箱いくくらいのヘビースモーカーだったんだけど、
ある時お母さんがタバコは苦手だって言ったら、次の瞬間お母さんの手を引いて
大学の焼却炉へダッシュしてね。

持ってたタバコを箱ごとぜんぶ炉の中にほうりこんで、「もう吸わない」だって。
そのせいで煙突から真っ白い煙がもくもく出て、あとですっごく怒られたけど。

ドクオ君はね、もともと体が弱かったんだ。
その上かっこつけてタバコなんか吸ってたから、余計に寿命を縮めたみたい。
卒業間近って時に、突然発作を起こしてそれっきり。

卒業したらすぐ結婚して、夫婦二人で小さな会社を立ち上げるんだって決めてたのに。

このときはなかなか立ち直れなかった。
毎日毎日ドクオ君のことばっかりが頭の中をぐるぐるしてね。体重が一週間で五キロも落ちた。


ずーっと、大学にも行けずにふらふらしてたんだけど、ある日ビックリすることが起きたの。

その時、お母さんは交通量の多い道路の、車道ぎりぎりのところに立ってたの。
死んでしまおうって思ってたんだけど、なかなか最後の一歩が踏み出せなくてね。
ぼーっと、しばらく道の向こう側を眺めてた。

そしたらいつの間にか、どこかで見たことある顔の、気の強そうな女の子が向こうの歩道に立ってたの。

女の子がお母さんに向かって小さく手を振ったから、お母さんも振り返した。
そうしたら女の子はすごく嬉しそうに笑って、ばいばいって言って。
いきなり車道に飛び出したの。

お母さんの目の前で、女の子の小さいからだがトラックにはねられた。
ゴムまりみたいに数回大きく弾んで地面に叩きつけられて、ごろごろってお母さんの方に転がってきた。

お母さん、急いで駆け寄って女の子を抱きかかえて、しんじゃだめ、デレ!!って、大声で叫んだ。

そこで、女の子が誰だかようやくわかった。女の子の正体はちっちゃい頃のお母さん。
女の子はうすく目を開いてこう言ったよ。

大丈夫、もうこれ以上悲しまないで。
あなたの辛い気持ちを、私が一緒にもっていってあげる。

気が付いたらお母さんは病院にいた。真夏の炎天下、帽子も被らず外にいたから倒れたんだって。
女の子のことを覚えてたのは、結局お母さんだけだった。

女の子は本当に、お母さんの辛い気持ちを全部もっていってくれたよ。
それからお母さんは、あの死んでしまいそうなぐらいに辛くて、泣きたくて、悲しくなることは無くなった。



ブーン、ひーくんのお父さんは、お母さんの七番目。

ドクオ君が死んでから、女の子が死んでから、お母さんはちょっと変になった。
今までとても色鮮やかに見えてた世界が、急に味気なくなっちゃったの。

大好きだったパフェを食べてもいまいち美味しくないし、友達とのおしゃべりも苦痛になった。
新しい恋をしようと、いろんな男の人と仲良くなったけどぜんぜんだめ。

それでね、お母さん思ったの。
これはきっと、恋をわすれてしまったせいだって。

そこにちょうどよく現れたのがお父さん。お父さんは人目でデレの事気に入ってくれてね、
結婚を前提にお付き合いしましょうって言われたから、じゃあ結婚しましょうって返したの。

結婚して一ヶ月で、ひーくんがお腹にできたことがわかってね。
そんで、ひーくんも生まれて。お母さんはすっごく充実した毎日をおくってた。
ああ、よかった。
お母さん、ちゃんと恋のしかたを思い出せたって、安心してた。


------------------------------------------------------------------------------



そこまで話すと、母さんはぼくに向き直ってにっこり笑った。
相手になにか喋ってほしいとき、母さんはこういう風に笑う。

(-_-)「……そうなんだ」

ζ(^ー^*ζ「うん! そうなんだよ。今のお母さんはね、ひーくんのことが世界で一番だーいすき!」

(*-_-)「……ふーん」

相変わらず、母さんの愛情表現はストレートだ。
ぼくは恥ずかしくて、素直に大好きって言葉を返すことができなかったけど、
代わりに母さんの手を握る力をちょっぴり強めた。

だけど、急に母さんはするりと繋いでいた手のひらをほどくと、
大きな道路にかかった陸橋の階段を、一段飛ばしで上っていった。

一段飛ばしがまだできないぼくは、いっしょうけんめい走った。
走って走って、ようやく陸橋の真ん中で風に吹かれている母さんに追いついた。


(;-_-)「ぜえ、はあ、はやいよ母さん」

ζ(゚ー゚*ζ「ふふ、ごめんね?」


そう言って、母さんはぼくを抱き上げた。

ぼくはもう小学校の二年生だ、こんな風に抱き上げられるのは、さっきとおなじくらい恥ずかしい。
でも、陸橋の上ではあばれちゃいけませんって先生が言ってたのを思い出して、
ぼくはおとなしく母さんの両腕に納まることにした。

ζ(゚ー゚*ζ「ねえ、ひーくん?」

(-_-)「なに……?」

ζ( ー *ζ「おかーさんね、最近思うんだあ」

突然、母さんの顔がとってもさびしいものになった。
僕の顔を見つめてはいるけれど、見ているのはきっと、僕に似た誰か別の人。


ζ( ー *ζ「ほんとうに、お父さんに恋、してたのかなって」


ζ(゚ー゚*ζ「ドクオ君のときみたいに、かーってなって、そのことしか考えられなくなる」

ζ(゚ー゚*ζ「そんな激しさを、お父さんからはもう感じないの」

(;-_-)「……え、」


ζ(^ー^*ζ「だからね、お母さん決めたんだ、新しい恋をしようって」


じっと、僕の顔のうえをさまよっていた母さんの目が、すっと下の大通りへ向けられる。
たくさん車が通る道。
昔母さんが飛び込もうとした道も、こんなふうだったんだろうか。

(;-_-)「どういう、こと?」

ζ(゚ー゚*ζ「あのね、お母さんは今まで、いろんな人から大事なものをもらってもらってここまで来たの」

ζ(゚ー゚*ζ「モララーくんからはお花、先輩からはラケット、そしてドクオ君からはきっと、
       『本気で人を愛すること』をもらったの。その後に恋した人からも、たくさん、たくさんもらったよ」

ζ(゚ー゚*ζ「そしてね、お母さんは一つの恋が終わるたび、
       その人からもらった一番一番大事なものを捨ててきた」

ζ(゚ー゚*ζ「そしたらいつも、新しい恋がやってくるの」

ζ(゚ー゚*ζ「だからね、お父さんからもらった一番大事なものを捨てたらきっと、
       また新しい恋ができるはずなの」

ζ(^ー^*ζ「ごめんね?」




それが、僕が一番最後に見た、だいすきな母さんの笑顔だった。







ζ(゚ー゚*ζ「さあ、また新しい恋を探そう!!」







ζ(゚ー゚*ζデレは新しい恋を探すようです    終わり





この小説は2008年8月16日ニュース速報(VIP)板に投稿されたものです
作者はID:J+VzK0k70 氏



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[ 2010/01/08 19:50 ] ナギ戦記 | TB(0) | CM(0)

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