はじめてブーン系小説を読む方は
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風のない、綺麗に晴れた夜だった。
地平線の果てまで、星が無造作に瞬いている。
月は静かに、しかし圧倒的な存在感を持って世界を照らし出していた。
大きく深い湖に、一つの橋が架かっている。
その欄干に、一人の男が凭れかかっていた。
彼の脇には大きな荷物が置いてある。
水を汲んだバケツ。
折りたたみ椅子。
( ´∀`) ・・・・・・。
男は手摺から身を乗り出し、深く水をたたえている湖の底を眺めていた。
男の耳に足音が届いた。
彼は振り返らなかった。
ただ湖の底を見つめていた。
川 ゚ -゚) 何かが見えるのか?
男の脇に、赤いドレスを着た美しい女性が立った。
男は彼女を一瞥すると、再びその視線を湖に戻した。
( ´∀`) 鯉を見ているんだモナ。
その時、水面に影が浮かんだ。
大きく、美しい赤い鯉だった。
川 ゚ -゚) ・・・・・・。
女性も、湖の底を覗き見た。
鯉はその深淵の奥に消えていった。
彼女の視線はその深淵を追い、深淵もまた深く彼女を見つめた。
男は女性の顔を改めてまじまじと見た。
薄く化粧を施された陶器のような肌が、青白い月の光を反射して輝いている。
赤いドレスは、彼女の女性的な体のラインをより強調させていた。
首には宝石がちりばめられたネックレスが掛けられている。
( ´∀`) ・・・この湖は自殺の名所らしいモナ。
川 ゚ -゚) そうか。
彼女もそのことを知っていたのだろう。特に驚いた様子はない。
女性は空を仰ぎ、見えない星を探すかのように視線を彷徨わせた。
そして、誰に向けるでもなくただ淡々と、独白した。
川 ゚ -゚) ・・・私は苦労するということがなかった。
親から望むものはすべて与えられていた。
今思えば、私は親たちの人形だったのだろう。愚かだとしか言いようがない。
短い沈黙。
( ´∀`) 籠の中の鳥は外に出るのを望むモナ。
でもたいていの鳥は、外での生き方が解らずに死んでいくんだモナ・・・。
男の声もまた、誰かに向けられて発せられたものではなかった。
月が、彼らのすべてを受け入れるかのように輝いている。
川 ゚ -゚) 私は外の世界なんて望んでない。
同様に、だれかの言いなりになるつもりもない。
( ´∀`) 虚構としての幸福を拒否し、残酷な現実も受け入れないなら、
もはや貴方に残された選択肢は一つしかないモナ。
川 ゚ -゚) ・・・・・・。
女性は黙った。男は湖の底に釘付けている視線を彼女へと向けた。
( ´∀`) 人がなぜ死を恐れるか、その理由を知っているかモナ?
( ´∀`) ――それは、死が人生で最も美しい冒険だからだモナ。
川 ゚ -゚) 冒険・・・。
湖の底から鯉が浮かび上がった。
それは水面に映る二人の影をかきまわすように泳ぎ回ると、再び深淵へと去ってゆく。
( ´∀`) 証拠に、この湖にはこんな言い伝えがあるモナ。
( ´∀`) ここで入水した人は、美しい赤い鯉に生まれ変わる、と・・・。
そうか、とまた女性は呟いた。手に持っているポーチを手摺に置いた。
ネックレスを外し、無造作に橋の上に投げ捨てた。
男は再び湖の底に視線を戻した。
湖に大きな水柱が上がった。静謐を保っていた水面が大きく揺れた。
その波が収まり、水面が始めそうであったように静止したとき、
女性の姿はもはや橋の上になかった。
*
・・・男は顔を上げた。
手摺に置いてあるポーチを手に取り、中身を確認する。
大粒の玉石がちりばめられたネックレスも拾い上げると、
それらをまとめて大きな荷物の中に入れた。
そして荷物の中から、折りたたみ式の大きな竹竿を取り出した。
( ´∀`) ふんっ。
大きく振り、しなりを確かめた。
仕掛けを取り付ける。
男は椅子に腰かけ、それを湖の中に垂らした。
*
月が大きく傾き、丑三つ時を示している。
水を汲んだバケツには、赤く大きな鯉が窮屈そうにその身を収めていた。
( ´∀`) 君は外に出たいのかモナ?
鯉は苦しそうに口を水面で開け閉めする。
それは、男の問いに対する返答の様でもあった。
――ここから出たい。外に出してくれ。
( ´∀`) 残念だけど、そうする訳にはいかないモナ。
君の赤い鱗は美しい。きっと高く売れるモナ。
男は仕掛けを取り上げた。
竹竿を折りたたみ荷物に戻す。
その時、足音が聞こえた。
男は咄嗟に、バケツに蓋を少しずらして取り付けた。
男の傍らに立ったのは、背の低い、痩せた男だった。
('A`) こんばんは。何をしているんですか?
( ´∀`) こんばんは。今宵はいい夜だモナ。
・・・だから、こんな晩は天体観測に限るモナ。
('A`) 天体観測、ですか。
( ´∀`) そうだモナ。
痩せた男は大きなコートを着ていた。
手には、これもまた大きな革のスーツケースを抱えていた。
( ´∀`) ・・・・・・。
そして男は、この痩せた男の顔に、
湖に消えた女性と似たようなものを感じていた。
それはこの湖の、この橋の上に来る者全てに共通する感情でもあった。
( ´∀`) 実は、この湖にはある言い伝えがあるんだモナ。
( ´∀`) この湖に入水した人は、天上を覆う星のうちのひとつになれる。と・・・
*
夜が明け始めていた。
朝霧が差し込む曙光を錯乱させ、奥に見える針葉樹林の影を滲ませていた。
もはや、痩せた男の姿は橋の上にない。
ただ、大きな革のスーツケースが、彼がそこに存在していたことを示しているのみだった。
( ´∀`) モナモナ。
男は、ずしりと重いスーツケースを手に取った。
荷物を背負い、もう一方の手でバケツを持ち上げる。
痩せた男は天上を覆う無数の星のひとつとなり、
美しい女は湖畔を遊泳する赤い鯉となった――。
( ´∀`) ――信じる者は己の愚かさを知らず、
信じぬ者は己の救いの無きを知る。モナ。
その言葉は誰に向けられるでもなく、静かに響く。
そして男は、濃い霧の向こうへと消えていった。
この小説は2008年7月17日ニュース速報(VIP)板に投稿されたものです
作者はID:3p9Dz0zQ0 氏
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