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(´・ω・`) 部屋から出ないようです


はじめてブーン系小説を読む方はこちらへどうぞ




 煙草の煙が部屋を白く染めていた。
 部屋にあるもの全てがぼんやりしている。iPodでさえも、幻想的なものに見える。
 電源が付かない壊れたiPodだからだろうか。壊れてしまったものに哀愁を感じているのかもしれない。
 だからiPodを窓から放り投げた。
 ガシャン、と音がした。
 ポイ捨てはいけないと思った。あとで拾いに行こう。

 一箱分のキャスター全部に火を付けて、灰皿の上に置いた。
 もくもくと立ち上る煙はますます部屋を白くした。
 キャスターのバニラフレーバーの香りが感じられない。ヤニ臭い。
 お香の代わりに焚いてみたのだが、効果がなかった。

 灰皿の隣にあったコーヒーをキャスターにかけた。
 火が消えた。机がコーヒーまみれになった。

 しかし部屋は白いままだ。換気を一切していない部屋だから仕方ない。


20080716201122.jpg



ζ(゚ー゚*ζ「何吸ってるの?」

(´・ω・`)「煙草」

ζ(゚ー゚*ζ「銘柄を聞いてるんですよ?」

(´・ω・`)「キャスター・マイルド」

ζ(゚ー゚*ζ「ふぅん。それはいいものなの?」

(´・ω・`)「これはいいものだ。僕の伴侶」

ζ(゚ー゚*ζ「普通、そういう時は相棒って言うものじゃない?」

(´・ω・`)「マルボロなら相棒だけど、キャスターは伴侶になるんだよ」

ζ(゚ー゚*ζ「ふぅん?」


 相変わらず視界は悪い。
 女の声は煙の中から聞こえた。もしかしたら煙が話かけてきているのかもしれない。

 綺麗な声だった。
 デパートのアナウンスのように聞き取りやすく、
 コンビニ店員のいらっしゃいませのように印象に残らない声だった。


(´・ω・`)「何の用?」

ζ(゚ー゚*ζ「あなたを理解しに来たわ」

(´・ω・`)「僕を?」

ζ(゚ー゚*ζ「そう、あなた」

(´・ω・`)「何で?」

ζ(゚ー゚*ζ「何でだと思う?」

(´・ω・`)「見当もつかない」

ζ(゚ー゚*ζ「ちょっとは考えなさいな」

(´・ω・`)「うーん」

ζ(゚ー゚*ζ「分かった?」

(´・ω・`)「やっぱり見当つかないな」

ζ(゚ー゚*ζ「まあそうよね」

(´・ω・`)「まあそうだね。今重要な事は、あなたに僕を理解できるかって事じゃないかな。
      だけど僕自身、僕をよく理解できてないんだ」

ζ(゚ー゚*ζ「みんなそう。埼玉県民が東京都民より東京に詳しいように、あなたは私より私に詳しいのよ
       とある部分に限った話だけどね」

(´・ω・`)「その、とある部分ていうのは、当人には分からない部分なのかな?」

ζ(゚ー゚*ζ「そう。決して分からない」

(´・ω・`)「僕は、あなたのとある部分を知っている、と?」

ζ(゚ー゚*ζ「そう」

 女の姿は相変わらず見えなかった。
 それどころか、気配のようなものですら感じられない。声が聞こえるだけだ。
 本当に女はいるのか? 僕を理解したがっている女は存在しているのか?

ζ(゚ー゚*ζ「あなたは村上春樹を読んだ事ある?」

(´・ω・`)「あるよ」

ζ(゚ー゚*ζ「スプートニクの恋人は読んだ?」

(´・ω・`)「『理解とは誤解の総体に過ぎない』」

ζ(゚ー゚*ζ「そうなのよね」


 声が途切れた。切れた。切った?
 僕が切ったのか? 面倒だ。会話とかそういうコミュニケーション的なもの全て。

 ぐっすり眠りたい気分になった。
 僕は毛布にくるまって眠る事にした。毛布にくるまると眠気が一気に襲いかかってきた。
 僕の意識はここで途絶えた。






ξ ゚⊿゚)ξ「アンタを理解したいんだけど、別に構わないでしょ?」

 さっきとは違う声の女がいた。
 今度はちゃんと姿が見える。綺麗な顔立ちをした女だ。

 女は薔薇の香りを纏っていた。煙草の煙が充満しているのに。
 女は淡い桃色の服を着ている、高飛車な女の雰囲気を持つ女だ。

ξ ゚⊿゚)ξ「なにボケっとしてんのよ。返事もできないワケ?」

(´・ω・`)「はい」

ξ ゚⊿゚)ξ「それは何に対しての返事?」

(´・ω・`)「『返事もできないワケ?』に対する返事」

ξ ゚⊿゚)ξ「あー……、なに、アンタはいつもそうやって人をバカにしてるワケ?」

(´・ω・`)「いつもじゃないし、バカにする相手を選んでる」

ξ ゚⊿゚)ξ「アンタは最低な人間だって理解したわ」

 女はそっぽ向いてふくれっ面でむくれていた。かわいらしい。
 が、わざとらしい仕草だな、と思った。
 それは何の意味があるんだ? 何を求めてる仕草なんだ? 僕はどうすればいい?

 女はチラッと僕を見た。更にふくれっ面を膨らませた。
 謝れっていうのか? 僕が?

 一体何が起こっているんだ、と改めて思った。
 なんで僕の部屋に見ず知らずの女がいるんだよ?

 恐怖は感じなかったが、喜びも感じなかった。
 ただ、やらなくてはならない事が目の前にある。僕は謝らなくてはならないのだ。
 このままでは何も変わらない。進まない。進めない。

(´・ω・`)「悪かった。
      あなたとは初対面のハズなんだけど、何年も付き合ってきた友人みたいに感じた。
      だからこんなイジワルした。本当はバカにしちゃいない。
      初対面の人間をバカにする人ようなバカではないつもりだ
      からかっただけなんだよ。許してくれるかい?」

ξ ゚⊿゚)ξ「……ホントに?」

(´・ω・`)「ホントに」

ξ ゚⊿゚)ξ「じゃあ許してあげなくもないわよ」


 女をバールのようなもので殴った。
 彼女は消えてしまった。殴られた時の女の顔は、驚きに満ちていた。

 僕も驚いた。まさか煙のように消えるだなんて。

 二人の女がこの部屋にいた。女っ気のなかったこの僕の部屋に、二人の女がいたのだ。

 一人の顔は見ていないが、綺麗な声だった。
 印象に残らないが、綺麗な声だった。BGMにしたい声だった。
 もう一人は綺麗な顔立ちだった。
 しかし、僕には釣り合わなそうな女でもあった。友人になって欲しい女だった。

 部屋は相変わらず白く染まっていた。女達はこの中にいるのだろうか? この煙の中に。

 僕はまた眠気に襲われた。もしかしたらまた女達に再会できるかもしれない。
 眠気に逆らわず、毛布にくるまって寝る事にした。





 部屋のドアが乱暴に開かれる音で目が覚めた。
 開けたのは兄貴だった。
 空気の流れが変わる。煙がドアから溢れ出た。ドアを開けた兄貴がむせた。
 兄貴はどかどかと部屋へ侵入し、窓を開けた。

(`・ω・´)「こんな状態じゃあ何も見えないだろう」

(´・ω・`)「いや、見えたよ。いろんなものがね」

(`・ω・´)「意味ありげなセリフだな」

(´・ω・`)「深読みしてみなよ」

(`・ω・´)「なんかもう疲れきって幻覚が見えちゃったとか」

(´・ω・`)「ハハハ」

(`・ω・´)「ふふん? 機嫌よさそうじゃないか」

(´・ω・`)「ちょっとね」

(`・ω・´)「部屋に引きこもってたら、悟りを開いちゃったか?」

(´・ω・`)「あー……、『明日のことはわからない』」

(`・ω・´)「見事な悟りだ」

(´・ω・`)「ビートルズは素晴らしい」

(`・ω・´)「久しぶりに聞こうか」

(´・ω・`)「アビィ・ロードにしようぜ」

(`・ω・´)「ここはリボルバーだろ、流れ的に」

 兄貴はポケットからiPodを取り出した。
 それは投げ捨てたiPodだった。裏に僕の名前が刻印してあるから間違いない。
 兄貴が電源を入れた。付いた。

(`・ω・´)「ハートに火を付けて」

 コンポにiPodを接続すると、リボルバーのファーストトラック、タックスマンが流れ始めた。
 兄貴は気持ち良さそうに聞いている。
 リモコン操作でラストトラックのトゥモロー・ネヴァー・ノウズに切り替えた。

(´・ω・`)「ミスチルも同じタイトルの曲あったよね?」

(`・ω・´)「そっちもいい曲だ」

(´・ω・`)「やっぱり、なんだかんだで僕ら日本人だからさ、日本語の歌詞は安心するよ」

(`・ω・´)「英語できれば、もっとビートルズが楽しめるんだろうなあ」

(´・ω・`)「勉強してみようかな……」

(`・ω・´)「俺ァ年齢的にもうダメだ。お前が代わりに勉強してくれ」

(´・ω・`)「うん」

 Of the beginning, of the beginning...
 Of the beginning, of the beginning...
 Of the beginning, of the beginning...

(´・ω・`)「明日のことはわからない」

(`・ω・´)「そうそう理不尽な目に遭うこたァねぇだろうよ」

(´・ω・`)「遭うかもしれない」

(`・ω・´)「かもしれないな」


 次の日、兄貴は交通事故で死んだ。
 理不尽な暴力によって死んだ。

 明日のことはわからない。トゥモロー・ネヴァー・ノウズ。



 それから何日も部屋に籠もり続けた。両親は兄貴の事でいろいろしていたようだ。
 僕は何も関与しなかった。立派な葬式をしてあげたからって、兄貴が戻ってくるわけではないからだ。

 籠もり続けた数日間、ずっと煙草を焚いて部屋を白く染めた。
 買い溜めた煙草がいくらでもあるので、買い出しに行く必要はなかった。
 女たちは現れなかった。あの薔薇の香りの女を殴ってしまったからだろうか。女たちと話がしたかった。

 話し相手が欲しい。
 強く願いながら煙草を吸い続けた。音楽も流し続けた。
 ビートルズ、ローリング・ストーンズ、キンクス、フー。
 しかし誰も現れてはくれなかった。選曲が悪かったのか?
 僕は一人になってしまった。兄貴がいたらこう言うだろう。悟り開いちゃったか?

 僕という人間について、一つ悟った。
 僕はとても諦めるのが早い人間だという事だ。
 僕はどんな時だって、どんな事だって、諦める。諦めるまで時間がかかるが、いずれは諦めてしまう。
 でも生きるのを諦めたりはしない。実に都合良くできているんだ。
 僕はそういう人間だって悟ったんだ、兄貴。
 だから兄貴、心配しないでくれよ。僕、まだ生きるよ。

 煙草を止めた。
 部屋を閉め切るのも止めた。
 とにかく生活環境を変える事に専念した。

 太陽の光は、煙草の煙とは違う幻想を僕に見せる事が分かった。
 あの光を見ていると、自分がまともに生きているような気持ちにさせられる。
 光を浴びながらパソコンをいじるのはそんなに悪い気はしなかった。
 ただ、画面が光で反射して見づらくなる事が多くあった。

 しかし我慢した。環境が変わるとはこういう事なのだ、と。







(*゚∀゚)「おはよう!」

(´・ω・`)「もう11時だが」

(*゚∀゚)「じゃあ、こんちは!
     ……いや、起き抜けでこんにちはって言うのは、なんだかおかしい気がするなあ」

(´・ω・`)「僕にとっては、おはようって言われる方がおかしい気がする」

(*゚∀゚)「いいや、起きた時の挨拶はおはようだ! 時間関係なく、おはよう。
     そいで、時計を確認して『あ、いっけね。もうこんにちはの時間じゃないか!』と
     独り言を言ってから、こんにちはって挨拶すんの。理解した?」

(´・ω・`)「全く意味が分からんが、ここは理解したって言わなきゃ話が進まなそうだから
      理解したって事にしておく」

(*゚∀゚)「よしよしいい子だ。ぎゅー、ってしてやる!」

 煙草を止めたら、この女が現れるようになった。
 太陽が昇っている時のみ現れる、やかましい女だ。
 この女が現れてから、かれこれ半月くらい経った。生活を変えてから半月経った。

 前の生活と比較してみると、良い所と悪い所が挙がる。
 7:3の割合で良い所の方が多い。生活は改善したのだ。
 この女が、僕を人並みに修正してくれているのだ。しかし一つ、恐怖があった。
 この女が消えてしまったら、僕はどうなってしまうのだろう? また諦めるのだろうか?

(´・ω・`)「ぎゅー」

(*゚∀゚)「ぎゅー!」

(´・ω・`)「いいご褒美だった」

(*゚∀゚)「ママ直伝のぎゅー、だぞ!」

(´・ω・`)「豊満な乳房が特に素晴らしかった」

(*゚∀゚)「だろうだろう! もっと褒めろ!」

(´・ω・`)「豊かなお胸だ。ミス・ミルタンク。おっぱいデカデカだ。ボインちゃん。ゆっさゆさ。
      クパァリゾート。夢の詰まった脂肪パンで僕のストロングでデリシャスな肉棒を挟むと
      愛のホットドッグが完成する」

(*゚∀゚)「いやあ照れるなあ。もっかいぎゅー、するぞ!」

(´・ω・`)「わあい」

 毎日楽しくて仕方がなかった。

 女は僕が望む事だけをしてくれた。
 僕の望んだ事を既に把握しているらしく、言葉にしなくても望んだ事を実行してくれた。どんな事でも。
 僕の全てを理解してくれていた。
 何も言っていないし、聞いてもいないのに、女は僕を理解していたし、僕も女を理解していた。
 初めてこの女と会った日から、この女は僕のような人間に仕えるのが好きなのだ、と理解していた。

 声が綺麗な女と高飛車な女は言葉で僕を理解しようとしていた。それではダメだ。
 行動しなければならない。行動しなければ何も始まらない。言葉だけでは足りないのだ。

(*゚∀゚)「あ」

(´・ω・`)「どうした?」

(*゚∀゚)「帰らなきゃー」

(´・ω・`)「ん、ああ、雨が降りそうだからか」

(*゚∀゚)「ゴメンなー。お別れのぎゅー、だ!」

(´・ω・`)「ぎゅー」

(*゚∀゚)「ぎゅー!」


 雨粒が窓を叩いた。
 女はいなくなった。まるで煙のように。

 ああ、と思った。寂しくてたまらない。今すぐ会いたい。

 女が帰った後、僕は一人になった。一人でいる間は、もっぱら音楽を聴いている。
 ビートルズは聴かないようにしている。
 レッド・ツェッペリンやキング・クリムゾンなど、今は主に70年代の曲を聴いている。
 天国への階段。21世紀のスキッツォイド・マン。天国に昇るスキッツォイド・マン。

 雨が降ったので、窓を閉めた。カーテンも閉めた。
 窓とカーテンを閉めると、煙草を吸いたくなってきた。
 まだストックはあるので、それを引っ張り出して吸った。

 不思議と心地良かった。旅行から帰ってきた時の気持ちになった。
 原点回帰。
 元の鞘に収まってしまった。


 あの女はもう現れないだろうな、と思った。
 声が綺麗な女と高飛車な女も現れない。兄貴も現れない。


 キャスター・マイルドを焚いて、コーヒーをかけた。






この小説は2008年7月6日ニュース速報(VIP)板に投稿されたものです
作者はID:dNWQAlsk0 氏



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[ 2010/01/07 20:51 ] ナギ戦記 | TB(0) | CM(0)

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