FC2ブログ










( ^ω^)無題


205 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 04:33:16.03 ID:Fi8MQeBX0

死体の山の中で、確かにそれは聞こえてきた。
激しい剣戟の音、存在するべくしてそこにいる、一人の勇者<<エインフェリア>>。
それと対峙するのは、同じく一人の勇者。
彼らは自分の命を賭けて、その場に居る。
一人は、まだ成人にもならぬ若き青年。
その両肘から下は白銀と漆黒の金属で、手首より先は剣になっている。
一人は、長い荒れ放題な髪と髭を生やした大男。
身丈よりも大きな大斧を、まるで木の棒を振り回すかの様に扱っている。
男の振るう一撃は、確実にその剣を壊さんと一撃に全身全霊を込め叩き付ける。
弾かれ、地面に叩き付ける度に、大地を揺らし、削る。
一方はその一撃で得物が折れぬ様、軌道を逸らしつつ空いた手で切り込みを掛ける。
しかし、切り込むより先に相手の武器が目前と迫り、同じように軌道を逸らし続ける。
傍から見れば、大斧を使う男が勝っている様にも見えるが、実際はその逆だ。
一撃は速く重いが、逆を言えば体力の消耗が激しく、徐々に鈍くなっていく。
対するは受けに徹し、陽光が差し込む隙を今かと待ち続ける。

簡潔に言えば、これは狩りなのだ。



206 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 04:34:16.14 ID:Fi8MQeBX0

殺す機会を待ち続ける狩人と、ただ我武者羅に逃げ惑う獣。
しかし獲物は逃げる事をせず、戦う事を選んでしまった。
それは手に余る武器が、彼を闘争本能に駆り起たせてしまったが故。
しかし、獣に人間の武器は扱えず。結局は手に余るただのガラクタと化すだけだ。
そうなれば、結果は見えている。幾分か後、結末は変わる事無く終った。

――横たわる、首の飛んだ体だけがそこに転がっていた。

あれ程激しい戦いだったにも関わらず、呼吸一つ乱れて無く。
その顔は目元だけが微笑んでいて、何かを喜んでいる様に見える。
ふと、夜空を見上げると月が眩しく輝いている。
緑の草原と、黒く焦げただ大地と、赤黒い血溜まり。
そして胸から足元に掛けて、大量の返り血を浴びた青年が立っていた。

( ^ω^)「今日は三日月、かお」

雲はその全てを包み隠してくれた。



207 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 04:35:21.29 ID:Fi8MQeBX0

陽光の照る城下街、サン。
(そこに住む人々、正確には訪れた人もだが、街全体が活気で満ち溢れている。
この街には全ての人に人権があり、また一部の権力と言う物が存在しない。
そのため、この街では自由貿易が可能且つ、自由な民権が等しく与えられている。
だが同時に、差別や侮蔑、そういった著しく他人を侮辱する行為。
もしくは利益、損害などを個人で大規模に所有する、させる事などが禁止されている。
これを行った者は厳罰に処され、最悪数年単位の禁固刑となり、二度とこの街に入ることは出来ない。)

この街に門や、憲兵と言うものは存在しない。
城までは、門を抜け、城下街の中央通りを真っ直ぐ進み、噴水のある大きな広場の正面に橋が架かっていて
そこから入る事が出来る。流石に城の前には自分を含め、衛兵が数名居るが、彼らは受付役でしか無い。
基本的に、簡易的な受付さえ行えば、誰でも王に面会する事が可能なのも、この街の特殊な所と言える。
そこに、一人の青年がやってきた。
白く、脛ほどまである長いフード付きのマントを着た青年だ。
顔全体を見ることは出来なかったが、口元が兎の様な形をしていて、微笑んでいる様に見える。



208 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 04:36:09.75 ID:Fi8MQeBX0

「ようこそ、サン城へ!王様への面会はこちらで受付を行ってからお願いします!」

しっかりと、ハキハキした声で喋り、笑顔を絶やさずに言った。
アイアンケイン付きの兜を被っているため、顔全体が相手に見えることは無いが
それでもこの街の印象を落とさないよう、常に注意しながら挨拶を行う。
仮にもこの城の憲兵なのだから、この国の評価を落とす様な真似は死んでも出来ない。
それほど、私はこの国を愛しているのだ。そして、それは自分の誇りでもある。

休憩所に青年を誘導して、机の上に置いてある紙に
名前、年齢、用件を記載する欄に書き込みをお願いした。
これはこの国独自の取り決めであり、この書き込みと、
簡易なボディーチェックで、不審物が無い限りは謁見の権利がある。
さらさらと記載して、青年は紙をこちらに渡してきた。

「ふむ、お名前はブーンさんと言うんですね。いい響きです。
年齢はまだ…17歳ですか!ここまでは何方かと一緒に?」

細かい気配りをしつつ、青年に質問する。
自分から何かを行う場合は、常に粗相の無い様注意するのも憲兵の仕事だ。
謁見の際、緊張して何を言うのか忘れてしまう人も居るくらいなのだから
気を余り張り過ぎないように管理するのも、重要だと思う。
時々厚かましい、とか余計なお世話、なんて言われたりもするが、慣れっこなので気にしない。



209 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 04:36:58.60 ID:Fi8MQeBX0

青年は、特に頷いたり、返事をしたりはしなかった。
まぁ、こういったケースも良くあるから、気にはしない。

「謁見内容は……書状、ですか。中身を拝見させて頂いても?」
(  ω )「それは困るお、勅命故、王様以外に見られては困る物だお」

青年はこの時初めて返事をくれた。
尾語の「お」って言うのは訛りだろうか?

(  ω )「一刻も早く取り次ぎを願いたいお。ボディーチェックとかも早くやってくれお」
「おっと!申し訳ありません。」

折角王様に謁見するために着たのに、待たせたとあっては衛兵の名折れだ。
今日は減点1だな。

「それでは、少々失礼します。」

まずは腕から、と思った矢先に不審な感触があった。
見てみると、白銀と、漆黒で染まった篭手だった。

「これはこれは、冒険者さんですか。
対色のナックルガードとは珍しいですね。」



210 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 04:38:01.81 ID:Fi8MQeBX0

その後も胸、腹、背、足と調べてみたが、同じようにレガースがあっただけで
特に凶器が見つかったりはしなかった。

「大丈夫みたいですね……それでは、ご案内致します。」

場内を歩きがてら、冒険者が丸腰と言うのはどういう事なのだろうか。などと考えていた。
その時は特に気にしなかったが、いくらこの近辺が比較的平和とは言え、
城外にでれば野党や獣が溢れている、当然危険が多いのだ。
無論、城内に武器や、刃物などの持ち込みは禁止されているため、所持していても
受付の時点で預かる事になっている。
しかし、彼は冒険者、もしくは用心棒と言った出で立ちをしている。
そうなれば、どんな場所であれ最低限護身用のナイフくらいは持っていても良い様な物だが。

考えながら城内の入り口を開け、エントランスの中央にある広い階段を上り、左側の扉から螺旋階段を登って行く。
2分ほど登ると、吹き抜けの神具殿を通り、その先の階段を少し登ると謁見場となる。
この神具殿で、少し足を止め説明を行う。衛兵として、細かい気配りが重要なのだ。

「えー、ここが我が国の神具殿となります。
起源は500年ほど前の王から、嘗てこの地を平和に導いた一人の
勇者<<エインフェリア>>が残した神の財産だと言われており、
言葉は『繁栄』と言われています。この言葉が何を意味しているかは
解りませんが、今のこの国の状態を表している、とされています。」

ここまでは順調な滑り出しだ。この調子で残りも行きたい。

(  ω )「物理的な豊かさを意味している言葉と捉われがちだけど
     正確には貧困の克服を意味している……だお」

と、思った矢先の発言だった。



211 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 04:39:27.59 ID:Fi8MQeBX0

「驚きました……言葉の意味を御分かりになられるんですか。
もしや解読士の方ですか?」

(解読士とは、神具、大源、幻想などに宿る真意を辿る、辿れる者の事を指す。
現在この世界では一部の人間を除いて、これらの解読を行う事は不可能とされているため
天性の才能があるか、神により近い位に立つものだと言われている。)

(  ω )「いいや、違うお。それより早く謁見場へ連れて行って欲しいお」

「あ、申し訳ありません。こちらです。」

また自分の話に集中して、待たせてしまった。減点2だ。

(  ω )「……か。」

何かを呟いたみたいだが、よく聞き取れなかった。



212 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 04:40:05.26 ID:Fi8MQeBX0

階段を上がり、先にある大きな扉を押して開いた。
門を抜けると、左右と王座の後ろにステンドグラスがあり
それには、我が国の歴史を刻み込んでいる。
王座の後ろは決まって、現在の王が描かれており、左右の
ステンドグラスには、歴代の王達が顔を並べている。

その中央の王座に、我が国の王は座っている。

「ようこそ、お客人。」
王は威厳のある声で、白いフードの青年に挨拶した。
フードの青年は片膝を付き、頭を下げて礼をする。
いくら自由の国とは言え、友達ではない。あくまで一般人と王様だ。
それを若いながらも捉えていて、農民や商人とは違う、と言う事も解った。
だが、その礼に何故か不気味な物を感じて、鳥肌が起った。

(  ω )「サン王に、我らランパート王からの書状をお届けにあがりましたお」



213 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 04:40:45.11 ID:Fi8MQeBX0

そういうと青年は私に書状を渡し、私はそれを王に渡した。

「うむ、ご苦労であった。……!!」

書状を見た王の顔が見る見る険しくなっていく。
そして、それは今だ嘗て見た事の無い、形相となっていた。

(  ω )「ついては、ここに返事をお聞かせ願うため……ですお」

「……そうか、衛兵。」

そう言うと王は手を払い、謁見場にいた全ての兵を外に待機させた。
一体あの書状には何が書かれていたのだろうか。
そして、あの白いフードのブーンと言う青年は何者なのだろうか。
今の私に、それを知る術は無かった。

それから半刻ほど過ぎた頃。丁度太陽が真上まで上がった位だろうか。
白いフードの青年が、扉を開けてそのまま出て行った。
王の様子も気になったが、取りあえず青年の後ろに付いて行って、城の外まで
出るのを確認する事にした。



243 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 12:40:24.95 ID:rkGKmf/y0

「王にどの様な書状をお渡ししたのですか?」

(  ω )「…」

それだけ聞いて、回答を得られぬまま結局城門まで出てしまった。
特に預かった物も無かったので、そのまま引き止める事も無く西の桟橋の方まで付いて行った。
そこまで行く必要は無かったが、何故か彼が気になっていたのは事実だ。
煉瓦で出来た倉庫の細い道を歩き、青年はこちらに振り返った。

(  ω )「…何のようかお?」

無論相手は自分の事に気がついていたし、自分も相手に聞いた答えを貰っていなかった。

「いえ、あれ程険しい顔を為さった王を見た事は初めてでして……
ともなれば、どの様な内容だったか気になるのです。」

自分の思った事をそのままに伝えた。
これまで衛兵として5年ほど王を見てきたが、いつも穏やかで
誰にでも平等な優しさを見せた王と同一とは、あの時は思えなかった。



245 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 12:42:23.57 ID:rkGKmf/y0

(  ω )「それを聞いて、どうするお?」

「どうもしません。答えられないなら、そこまでですね。」

青年はその場で少しだけ考え、そして振り向き歩き出してしまった。
顔だけこちらに捻ると

(^ω^ )「戦争が起こる。貴方見たいな素直な人は早く逃げた方がいいお。」

そんな事を言って、港へと消えていった。
この時の彼の言葉は、後の真実だと私は思った。



247 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 12:45:13.23 ID:rkGKmf/y0

白いフードの青年が来た日から、3日ほど経っただろうか。
城内は慌しく、普段は行われていた謁見も、青年が現れたその日から閉鎖した。
彼は一つの書状を渡し、そして去っていった。

(  ω )『仰せの通りに……』

あの時の私の決断は間違えていたのだろうか。
一国の主として、まさかこんな事態になる事を考えていなかった訳ではない。
だが、それが余りにも唐突過ぎた。
この国で戦闘出来る兵など、他国と比べてしまえばそれまで。
戦争が始まれば、ただでは済まない。
元々貿易国として繁栄させたこの国は、戦力を保持する必要など無く。
自警程度の戦力さえあれば良かったのだ。
他国とも旨く渡り合った。苦しい思いも散々した。
なのに、この仕打ちだ。もはや笑うしかあるまい。

しかし、返事を返してしまった以上、もはや逃げる事も適わない。
このままでは国諸共滅ぶのを待つだけだ。

一瞬の光にですら、縋るしか在るまい。

謁見場から出て、正面にある神具殿まで歩き、膝を付く。

「この国に、再び争いを招く事を……お許し下さい。」



249 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 12:47:04.36 ID:rkGKmf/y0

それから一週間後、予想通りの結果が訪れた。
我らがサン国と、隣国ランパート国で戦争が始まった。
とはいえ、すぐに戦争が始まるわけではない。
隣国と言っても、ここからは三日ほど掛かる距離がある。
何より我らには勇者<<エインフェリア>>の存在がある。
彼らは争い起こりし時、その身で国の剣となり、盾となる存在だ。
それは国についている神具<<シンボル>>に由来した英雄だとの事。
実際には見た事は無いが、我が国の神具は『繁栄』。
ともなればそれに相応しいだけの強さと、精神を持っている。
我が国が出来てから500年の間、この国は繁栄し続けた。
ならばそれだけの強さを持つ勇者が、負けるわけが無い。
そう確信している。だが一つだけ、気がかりがある。



251 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 12:50:55.89 ID:rkGKmf/y0

あの白いフードの青年が、あの時呟いていた言葉だ。

(  ω )『『はんえい』が『はんえい』…か。』

多分、そう言っていた。しかし意味までは解らない。
恐らくはその言葉通りなのだろうが、繁栄が繁栄?

(  ω )『物理的な豊かさを意味している言葉と捉われがちだけど
     正確には貧困の克服を意味している……だお』

……もう考えるのはよそう。
これ以上考えた所で、すでに戦争は始まってしまったのだ。
これを止めるためには、我が国か、相手国が滅ぶ以外に道は無い。

ならば私は、この国のために、この国と共に進もう。

最初から決まっていたはずの言葉を、もう一度自分の心に刻み込んだ。



253 :ここと>>247はサブパートです:2008/08/17(日) 12:52:51.55 ID:rkGKmf/y0

(  ω )「確かに、書状を渡して参りましたお」

「ならばいい、して返事は?」

(  ω )「応じる事は出来ない、と。戦場はサク丘を越えた先にあるシードル草原にて」

「解った、それでは勇者<<エインフェリア>>よ」

(  ω )「はい」

「我が国の勇者として、恥じぬ戦いを。そして確実な勝利を齎せ」

( ^ω^)「……仰せのままに」



256 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 12:54:48.58 ID:rkGKmf/y0

そうして、この日を迎えた。
夜空の星が、我らを照らしている。
こちらは歩兵が三千、騎馬が五百、弓が千ほどの少数勢力。
国を持つにしては少なすぎる軍勢だが、恐れることは無い。
まだ見ぬ勇者が、我らには付いているのだから。

今日この日、この時。シードル草原にて決戦が行われる。
自分は王の護衛として、戦場に出ることになった。
戦を行うにあたって、王は常に先陣に立たねばならない。
それは兵の指揮を上げると共に、決して降伏はしない。
そういう意味も持っているからだ。
我が軍勢は負けない。万が一にも、だ。

そうして待っているうちに、少しずつ地面の揺れが大きくなっているのに気がついた。
――近い。直感的にそう感じ取れる。
周りの兵士達もピリピリし始め、その瞳は自分となんら遜色の無いものだ。

勝とう。

誰かが呟いた気がした。



258 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 12:58:14.68 ID:rkGKmf/y0

敵の先陣部隊が見えてきた。
シードル草原から城までは下り坂となっており、敵の全戦力を確認する事は出来ない。
歩兵三万、騎馬一万、弓一万五千。
闇夜の目算でその程度なら、その倍はあると考えて良いだろう。
どちらにせよ、この軍勢で勝つ事は適わない。
だが、兵士達に負けると言う気概を持つ者は誰一人としていない。
ただ静観する王が、その戦力の切っ先に向け、

――剣を、振り下ろした。

同時に沸き起こる怒声と、地震。
一万にも満たない戦力は、一つの槍と化して坂を下り行く。
元々兵力では勝てないのだ。ならば知才を用いてこれを倒す。短期決戦だ。
無論相手は動揺するだろう。よもや高々五千程度の兵隊が突撃してくるのだ。
だが、これは陽動に過ぎない。本来の目的は別にある。
突撃した先頭部隊の中で、何名かが大きなタルを転ばしながら進む。
それには、火薬と油が入っている。



259 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 13:00:44.55 ID:rkGKmf/y0

いくら大群とはいえ、こちらは貿易を生業とする国だ。
武器もそうだが、こういったものはいくらでも手に入る。

そして、坂を下る敵に取って、相手の戦力や動きが見て取れると言うのは大きい。
しかし、同時にそれは視覚的な混乱を齎す事になる。
自分達の国側が北として、シードル草原が南になる。
この季節において、この状況下での火刑は何よりも恐ろしいものとなるのだ。
先頭の部隊が敵と衝突する寸前。左右に裂け、引き返すと同時に紛れ込んでいた工作兵達が
火薬と油の入った樽を草原方面に蹴り転がし、同時に松明を投げ込む。

直後、大きな爆発が起きた。
爆音と共に油に引火した炎は、乾燥した草に燃え移り、吹き付ける北風がその範囲を拡大していく。
最初の火薬樽の爆発によって、吹き飛んだ者。油が掛かり、燃え移った者。
それぞれの悲鳴が夜空を駆け巡る。――作戦は成功だ。
兵とは多ければ多いほど統率が取れないもの。ましてや下りを利用して駆け下りたのだから
自らその炎へと身を投じる羽目になるのだ。これで戦力の大部分を削いで、炎を利用して
敵陣へと突撃を掛ける。こういった奇襲以外での勝利はよもや期待出来ないのだ。
ならば形振りなど構っていられない。出来るだけの事をすべきだ。



261 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 13:04:42.68 ID:rkGKmf/y0

「敵軍は怯んでいるぞ!弓兵、前へ!」

五百ほどの弓兵が、一斉に矢を放つ。
戻ることも出来ずにただ矢の餌食になる兵隊達。
逃げようにも、前には炎、後ろには味方といった状況で、身動きすら満足に取れない。
さらに立ち止まればそのまま炎に焼かれるとあって、敵は徐々にだが後退せざるを得ない。
仮に長期戦ならば、この戦法を繰り返していればやがて兵は逃げていくだろう。
だがシードル草原の草が燃えきった後、同じ戦法は通用しない。
そうなれば草原と言う加護を失った我らには、もはや篭城以外の手は無い。
しかし食料は無限では無い。結局の所こうするしか他に、手立てが無かったのだ。
だが、今はまさに作戦通りの流れだ。このまま一気に片を付けなければ――!
勢いに乗り、歩兵部隊が一気に敵を貫かんと攻め立てる。

しかし、そこまでだった。

草原の後方に位置する私には、それが見えたから。白いフードの、姿が。



263 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 13:07:20.57 ID:rkGKmf/y0

遅れて現れた白い矢は、馬より早く、風を裂き、正面の炎を吹き飛ばしながら坂を下る。
両腕には白銀と漆黒の刃。正面には五百ほどの歩兵。
彼はそれを難なく、切り伏せ始めた。
白銀は肉を裂き、漆黒は血を啜る。
人と言う速度を遥かに凌駕した速度と力を持って、数と言う群れを狩る。
それは旋風だった。巻き起こる風が齎す刃は、いとも簡単に人を裂き、飛ばす。
直感的に、それを感じ取れたのは何故だろうか。
これが――勇者<<エインフェリア>>だと。

半刻を経たずして、そこには死骸だけが転がった。
皆魂の無い、肉塊と化している。

( ^ω^)「僕はエインフェリア・ブーン」

彼は、そう名乗った。



265 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 13:11:05.89 ID:rkGKmf/y0

あれ程燃え上がっていた炎は、一陣の風によって完全に勢いを失っていた。
それもその筈。その風が台風なのだから。
いくら知力を集めても、天災に勝つ事など出来る訳が無いのだ。
そんな天災が、まさかこんな子供だと誰が思うだろうか。

( ^ω^)「……逃げろって言ったのに、逃げなかったのかお」

遠くからでも透き通る様に聞こえてきた。
それは誰でも無い、私に向けられた言葉。
慈悲無く切り殺した兵隊を他所に、慈悲深くこちらに投げかけてくる。

「……私は、この国に生まれ育ったのだ。逃げ出す事など何故出来ようか」

足が震えて、止まらない。声も震えて、裏返りそうだ。
だが、死んでいった者の前で醜態は晒せない。

( ^ω^)「そうかお……」

残念そうにそう言って、もう私を見る事は無かった。



267 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 13:14:06.21 ID:rkGKmf/y0

( ^ω^)「さて、王よ」

そうして、彼は彼の目的のため動き出した。
そういえば結局、この戦争の原因はランパートの
王が出した書状とだけ聞かされて具体的な内容までは聞いていなかった。

「……解っておる、余興はここまでだ」

王はどこから出したのか、謎の鎖を右腕に絡み付けていた。

「出でよ、『繁栄-Prosperity-』」

言うと同時に、絡みついた鎖は意思を持ったかのように赤く染まり。
前方には魔方陣が展開された。

( ^ω^)「強制召還とは、大層な事をするお」

そして少しずつ、その魔方陣は形になっていく。
腕を形成し、脳を構成し、皮膚を再現する。
しかしそれは、



269 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 13:16:13.30 ID:rkGKmf/y0

(#゙;;-`)「ぐあああああああああああああああ!!!!!」

とても、勇者と言える姿では無かった。
髪は長く手入れされておらず、ボサボサで、髭も伸び放題の顔。
再生されたはずの皮膚は焼け爛れ、構成したはずの脳は理性を失い、腕は向いては行けない方向に向いている。
そしてその手には真っ赤に染まった大斧が握られている。

これが……我らの『繁栄』の姿なのか。

( ^ω^)「なるほど、やっぱり束縛封印してたのかお」

「元より、これ以外に我が国を育て上げる方法は無かった」

話に付いて行けない。彼らが何を言っているのか、まるで理解出来ない。
それは当然なのだろう。何故なら自分が生まれる遥か数百年前の話なのだから。

( ^ω^)「五百年と言う月日の中で、残った魂は闘争だけ…悲しい話だお」

「……争いを避けるためでもあったのだ。」

( ^ω^)「予想通り、『繁栄』が『反映』された姿になってるお。
      物が溢れた分だけ、心が貧しくなった象徴…だお」



271 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 13:19:43.60 ID:rkGKmf/y0

五百年前、この地に繁栄を齎す勇者が現れた。
彼の者は大地に富と幸を与え、人に自由を与えた。
彼が住まう土地はやがて、新の繁栄を齎した。
しかし、人間はそれで良しとしなかった。
彼の者は自らが作った牢獄の中に幽閉された。
光が差し込む事も無く、暖かな食事が出ることも無く。
ただ暗闇の中でずっと叫んでいた。
自分が助けた、人間と同じように。



『助けて下さい、神様――』



(#゙;;-`)「ぐおお…!!!!」

( ^ω^)「っと、悠長に語ってる暇じゃなかったお。…」

ブーンはほんの少しだけ目を閉じ、祈りを捧げた。そして、

( ^ω^)「……今度は、安らかに眠るお」

(#゙;;-`)「ぐぉわぁああァアアアアああああ!!!!!!」

本当の戦は、始まった。



273 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 13:23:52.04 ID:rkGKmf/y0

(#゙;;-`)「ぐおおおおおおおおおおァアァアア!!!!!」

その大斧によって繰り出された一撃は、地を抉り、揺らす。
先ほどまでの青年の戦いを見た後だと、なんと幼稚な物だったのかを認識せざるを得ない。
片腕で振り回されるそれは暴風、いや、その一撃事態が爆塵を引き起こす。
狙いこそ定まっては居ないが、付近にある全ての物を蹴散らし、粉々に消し去る。
それほど威力がある一撃一撃を、ブーンは何事も無いかのように全て捌いていた。

( ^ω^)「ふっ!はぁぁ!!」

それ所か、その攻撃を物ともせず、大斧を受けた剣を流し、一撃を決めに行く。
彼の腕はナックルガードで覆われている、そう思っていたが違う。
正確には肘から下全てが元々ある武器だ。
何故なら手首から下、それがあの時みた手では無く、白銀と漆黒の剣になっている。
元々、彼の肘からは無い物なのだ。それに、あの剣が装備されている。
対を成すそれが流れる様は、まさに芸術と言って良い物だ。
視覚で追う事の出来ない閃光が、空いた脇腹を裂かんと空を切る――!



275 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 13:26:24.48 ID:rkGKmf/y0

(#゙;;-`)「ぐるぁああああぁあ!!!!!」

だが、襲う一撃が繰り出される事は無く、次の一撃を流すため防御に移る。
速い。片腕で振るわれているはずの大斧は一撃を繰り出すたびに速く、重く、鋭くなる。
そしてそれを受け続けるブーンの負担も、次第に大きくなっていく。

圧倒的な攻めによって、攻撃を許さない。
しかもその攻め事態が防御に繋がる一撃になる。
襲い掛かる歯牙は、刻一刻とブーンの身を削る。

( ^ω^)「くっ…ぜぁ!」

それでもブーンはただ刻々と敵が繰り出す直死の一撃を捌き続ける。
何故なら解っているからだ。この戦いが長く続かない事を。

「やれ…!やってしまえ!我が『繁栄』よ!!」

王がそう叫ぶと同時に、鎖はより一層輝きを増す。

(#゙;;-`)「ぐっ、がああああああああああああああ!!!!!」



277 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 13:29:40.98 ID:rkGKmf/y0

終に大斧の一撃がブーンの護りを突破し、その身を両断せんと襲い掛かる。

が、その牙が届く事は無かった。

( ^ω^)「……終わりだお」

爆風が繰り出す一撃を、神速を持って捌く。

そして、

( ^ω^)「『幸福と不幸-Happiness and unhappiness-』」

必殺の一撃で、彼の者の首を狩り落とした。
切り落とした瞬間。彼女は一瞬だけ理性を取り戻した。

(#゚;;ー゚)『あり……がと…う…』

残った体が倒れ、首から流れる血は美しい血溜りを作り出した。



280 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 13:39:07.85 ID:rkGKmf/y0

「そんな……ばかな……」

王は愕然と、その光景に瞳を奪われていた。
私もまたそうだった。戦争が終ってみればいつもこうだ。
誰かが悲しみ、誰かが傷つく。そんな姿しか見てこなかった。
だからだろう、溢れた涙が、止まらないのは。

( ^ω^)「繁栄を築くのは人々だお。500年と言う歳月の中
人々を疎かにした王に生きる価値は無いお」

「ひっ……た、たす」

音も無く王に近づいたブーンは、一瞬にして王の首を切り落とした。
何か言おうとしていたみたいだが、そんなのはどうでも良かった。
ただ、自分を育んだ人が、自分の信じた国が許せなかった。

( ^ω^)「だから言ったんだお、素直な人は早く逃げろって」

切り落とした王の頭を掴むと、そのまま自陣へと歩き出した。

「貴方は…最初からこうなる事が解っていたのでは?」

空を掴む思いで、ただその一言だけを尋ねた。



283 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/17(日) 13:43:26.59 ID:rkGKmf/y0

( ^ω^)「僕は予知したり、予言したりはできないお。
      でも、そう思ったって事は薄々自分でも気がついていたって事だお」

その一言を聞いてはっとした。
最初から、私は最初からこの事態に気がついていたのではないか、と。
ただそれを見逃す事で、自分だけが贖罪から逃れようとしただけなのでは…と。

「……二度と、来ないで下さい。二度と!!私の前に現れないで下さい!!!」

( ^ω^)「……」

彼は赤く染まった白いフードを被り直し、自陣へ戻っていった。
残ったのは首の無い王と、王の居ない国と、国を必要としない人だけだった。

自陣へ戻る途中、僕はふと夜空を見上げた。
星が輝き、月が大地を照らす。
茂る草原は夜風に凪ぎ、焼けた大地は煙を上げて、赤い血溜りは美麗に移った。

( ^ω^)「今日は、三日月かお」

雲が、その全てを包み隠してくれた。



[ 2008/08/17 20:11 ] 総合短編 | TB(0) | CM(0)

コメントの投稿


更新は止まっていますがコメントはご自由にどうぞ
修正・削除依頼等、何かしらの連絡はコメントもしくはメルフォよりお願いします
拍手だと高確率で長期間気づきません

スパム対策のため"http"と"@"を禁止ワードに設定しています
URLを書き込む際は"h"を抜いて投稿してください













管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

この記事のトラックバックURL
http://gyokutonoyume.blog116.fc2.com/tb.php/328-5e7207cc