はじめてブーン系小説を読む方は
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ネオンの輝く夜の街、裏路地。
人の姿はあちこちに見えるが、誰もが凍りついたように動かない。
伊藤は追っ手を撒き、この時空連続体に転移していた。
('、`*川 「まったく……多少は覚悟してたけど、
実際に四六時中追い回されるとなると面倒でかなわないわ」
( ゚д゚) 「おい、ずっとお前の世話を焼き続けている俺の立場にもなってみろ
もう少しそのあたりに配慮した発言をして欲しいものだな」
伊藤の肩にかかるリュックの中から、ミルナが呆れたように言った。
('、`*川 「いいじゃない!『執行官』だってあんたにかかれば楽勝だったでしょう」
( ゚д゚) 「何を言う。あいつらが弱いんじゃあない。俺が強すぎた、それだけのことだ」
('、`*川 「はぁ?どっちにしたって同じじゃないの」
( ゚д゚) 「……言っとくが正反対だ。どんなに強い者にだって限界というものがある。
ところで俺にとってはお前の身を案じる理由なぞ、これっぽっちも無いのだが」
('、`*川 「あら……案外冷たいわね、放り出して帰ろうかしら」
( ゚д゚) 「……フン、やってみろ…出来るものならな」
なんだかんだ言いながら、伊藤が『指名手配』されてからここ一週間の間ずっと、
ミルナが『周囲の警戒』と『索敵』を怠らず続けてくれていたということを伊藤は知っている。
('、`*川 「それより次の『場所』を探しましょう
私たちが『管理者』に見つかってここの時空連続体がリセットされるまで……」
( ゚д゚) 「なに、3分あれば十分だ。今基底サーバーのOSをいじった。
基底現実の3分がここでは3年に相当する、時間はたっぷりある」
('、`*川 「何てこと……それってあたしの脳、やばくない?」
( ゚д゚) 「ククク……お前の電脳OSにも少し細工させてもらったからな
原基時空と同じように、一日六時間の睡眠をとれば大丈夫だ
あとはログアウトするとき、余分なデータをフィードバックしなければ良いだけだ」
('、`*川 「なにそれ!?いつのまに?気づかなかったわよ!
…それにしてもあんまり気分の良いものじゃないわね、ハックされるのって、さ」
伊藤の容疑は『一級侵入』『超一級窃盗』その他であり、その罪は懲役一万二千年に相当する。
超次元企業『ワーロック』の地価金庫をハックし、『あるもの』を盗み出したのだ。
( ゚д゚) 「さあ、俺を座標の場所に連れて行ってくれ……」
その『あるもの』とは、生首
…すなわち、伝説のハッカー『コッチ・ミルナ』の頭部に他ならない。
~~~
西暦3140年、次元時空理論の進歩により、現実を演算操作の基底することが可能となった。
世界は電脳化し、細分化され、それらは無数の平行世界として独自の時空連続体をもっている。
('、`*川 「あー暇だわ……男あさりも飽きたし、お金もくさるほど稼いだし……」
原基時間にして一年ほど前、伊藤は退屈していた。
('、`*川 「毎日がつまらない!ほんとこの世界、……刺激がないのよ」
小さな頃からたぐい稀なコーディングの才能をみせ、天才と呼ばれた伊藤である。
あらゆる企業から引く手が数多あり、もちろんそれらに応え、たくさんの社会貢献もした。
だが、伊藤の住む世界『アイランド11089』はあまりに平和すぎた。
('、`*川 「ヒッキー、私、外の世界に出たいと思うの……」
(-_-) 「お嬢様、ついこのあいだも次元旅行をしたではないですか
西部劇世界、剣と魔法の世界、戦争世界、殺人鬼世界……」
('、`*川 「あんなの、どれもこれも子供だましのイミテーションじゃない!
どれもこれも時空連合内部の世界でしょ、あんなの『外』じゃないのよ」
(-_-) 「いけませんお嬢様、一般形而度の低い世界への渡航はいかなる理由があれ、
時空連合条約によって禁止されています!重罪ですよ!」
この世界が平和なのは、超次元企業『ワーロック』の管理システムの優秀さのお陰でもある。
時空間コードへの違法操作などを除けば、通常の犯罪などは理論上起こり得ないのだ。
伊藤は自室にこもり、自分で作った旧時代のコンピューターを立ち上げた。
博物館にでもありそうな旧式のディスプレイに光がともり、チャットウインドウが開いた。
「ようお嬢様、十年ぶりだな……いや、そっちじゃ三日しかたっていないのか」
('、`*川 「はぁ…毎日毎日が退屈で茹っちゃうわ
平和な世界も考え物よねぇ」
「ククク……ぜいたくな悩みだな、さすが温室育ちは違うぜ」
一見時代遅れのテキスト通信だが、その実、『外』と繋がっている違法通信である。
たったの数キロバイトの通信なので、『次元埃』にまぜてデータを転送しているのだ。
ある日偶然、どこの誰とも知らない相手と繋がった、奇跡の通信だ。
('、`*川 「私、外を…『現実』を見てみたいのよ……もし見れたら死んでもいいわ」
「それは本当か」
('、`*川 「まぁね」
「ククク……そうかそうか、俺が連れていってやろう……『現実』へ。
もしお前が、俺をしばる鎖から解き放ってくれたら、の話だがな」
通信の相手の名は、ミルナと言った。
伊藤はその後、『ワーロック支部』より本社の仕事のスカウトを請ける。
『中央世界』にある本社へ転移した際、ここぞとばかりに地価金庫より『ミルナの首』を盗み出したのだ。
~~~
('、`*川 「ここの世界は…ずいぶんレトロなところなのね」
( ゚д゚) 「『ノスタルジア12083』…2000年代の日本を体現した世界さ。
ここにいる者たちは記憶の書き換えを受け、あたかもここで生まれ育ったように暮らしている」
('、`*川 「へぇ、物好きもいたものね……おっと」
ドン!
動かない『通行人』の一人と肩がぶつかってしまった
( ^ω^) 「……」
( ゚д゚) 「やっちまったな、こいつは基底時間で一分後、物凄いデータのバックロードを受けるぜ」
('、`*川 「あちゃー、ごめんね、脳が破裂して死んじゃうかも」
そんな運命にある男性のとなりには、優しいまなざしを向ける金髪の女性がいる。
ξ ゚⊿゚)ξ「……」
('、`*川 「この子の彼氏かな?悪いことしちゃったな」
( ゚д゚) 「まぁ、やっちゃったものはしかたない」
繁華街を抜け、街の外れにやってくる。
('、`*川 「ねぇ、座標の場所ってちょっと遠すぎるわよ」
( ゚д゚) 「まあ、このペースだと、あと半年は歩いてもらう計算になるな」
('、`*川 「げげっ……せめて自動車くらい使わせてよ」
( ゚д゚) 「無理」
伊藤はミルナの首の入ったバッグを背負い、ひたすら歩いた。
街を出て川を渡り、草原を横切る。
('、`*川 「……疲れたわ」
( ゚д゚) 「そろそろ休憩を取ろうか」
('、`*川 「おなかすいた…」
( ゚д゚) 「飢え死にはしないから安心しろ、お嬢様め」
('、`*川 「なんとひどい…」
どうもこの世界のルールからは『飢え死に』が省かれているそうだ。
伊藤は歩き続ける。一週間がたち、二週間がたち、一ヶ月がたった。
靴の底は磨り減り、足にはまめがいくつもできている。
('、`*川 「……」
伊藤は日に日に喋らなくなった。明らかに不機嫌なのが見て取れる。
( ゚д゚) 「おいお嬢様、『敵』が俺たちに気づいたようだ」
('、`*川 「……あっそう」
( ゚д゚) 「抗生戦士が三人アクセスしてきているのを確認した。
核爆級の強敵だ……相手もなりふりかまっていられないようだな」
('、`*川 「面倒だからやっちゃってよ、コードは書いてあるから」
かつてはそのスリルを楽しんでいた権力との戦いにも、伊藤は飽きてしまっているようだ。
( ゚д゚) 「了解、始末するぜ」
伊藤が呼び出したデバイスより、ミルナがコードを読み取る。
( ゚д゚) 「こいつは……すごいよな……ククク……許して欲しいなら地べたに頭こすりつけて謝れよ!」
ミルナがコードを実行すると、それまで歩いてきた後ろの空間が少し歪んで見えた。
~~~
『ウイルスバスター』クックルは、自分の戦闘の腕前にかなりの自信を持っていた。
( ゚∋゚)「……」
これまで多くの犯罪者をその腕で逮捕してきたし、殲滅してきた。
/ ゚、。 / 「…これは!?」
(;^^ω)「な、何だホマ」
他の二人とて同様である。
そんな彼らが驚き、躊躇しているのは……
(゚∈゚ )(゚∈゚ )(゚∈゚ )(゚∈゚ )(゚∈゚ )(゚∈゚ )(゚∈゚ )(゚∈゚ )
/ ゚、。 / / ゚、。 / / ゚、。 / / ゚、。 / / ゚、。 / / ゚、。 /
(ω^^ )(ω^^ )(ω^^ )(ω^^ )(ω^^ )(ω^^ )(ω^^ )
これまで一度として予想だにしなかった事態。
目の前に突如現われた、無数の『自分達』のゆえであった。
~~~
伊藤が歩き始め、半年がたった。
雨が降ったり風邪を引いたり、ときに倒れたりもしながら、伊藤は歩き続けた。
( ゚д゚) 「よく頑張ったな、ここだ」
('、`*川 「……ついた?」
そこは山の頂上、小さな祠であった。
( ゚д゚) 「この世界が何故人気があるのわかるか?その秘密がここにある。
ここはもう一つ形而度の低い世界への扉になっている…
つまり、より『現実』に近い世界から直接、『リアリティ』のある世界観を学んでいたのだ」
('、`*川 「へぇ、『管理者』自身が違法行為をしてるなんてね」
( ゚д゚) 「ここはそれらが違法化される以前、かなり古い時代からある世界なのだよ」
('、`*川 「じゃあさっそくあたしを連れて行ってよ、この先へ」
( ゚д゚) 「ああ、待っていろ、準備に三日ほどかかる……」
やがて伊藤たちは、『ノスタルジア12083』を後にした。
~~~
( ゚д゚) 「おい、起きろ」
頬をぺちぺちと叩かれる。
('、`*川〔…うーん、もう少し寝させてよ…〕
( ゚д゚) 「着いたぞ」
('、`*川〔……ここは?〕
伊藤が眼を覚ましたとき、目の前にはミルナが立っていた。
部屋の中には大小のたくさんのコンピュータがひしめいている。
( ゚д゚) 「ここは『現実』の一歩手前の世界だ」
('、`*川〔って、あんた体がついてる!〕
( ゚д゚) 「……形而上の世界では、俺の身体感覚の進入が拒否されていたからな」
('、`*川〔へぇ、こうして見るとあんた、なかなかハンサムじゃない〕
( ゚д゚) 「……ククク、体ってやつはほんとうに便利だぜ」
ミルナは少し照れた様子で、屈伸運動をしている。
('、`*川〔ところであたしの体、これどうなってるの?〕
伊藤はその場から身を起こそうとしたが、起きられなかった。
自分の手足が、いや胴体さえもが見当たらない。
( ゚д゚) 「この次元ではお前の身体情報が存在できないのさ
なに、いままでお世話になったから、これからは俺が運んでやるよ」
('、`*川〔……仕方ない、頼んだわ〕
~~~
ミルナは伊藤の頭を手に持って、部屋の外に出た。外は真っ白の雪が積もっている。
( ゚д゚) 「……嬉しいな」
('、`*川〔……??、どうしたの〕
( ゚д゚) 「いや、寒さを感じるなんて何十年ぶりか、何百年ぶりか……」
スノーモービルを起動し、ミルナはそれにまたがった。
白い雪の平面のうえに、跡が刻まれてゆく。
('、`*川〔ところで、『現実』にはどうやってたどり着くのよ〕
( ゚д゚) 「『ワーロック』に行くんだ」
('、`*川〔えっ、『ワーロック』?」
( ゚д゚) 「もともと形而上の『ワーロック』と現実の『ワーロック』は一つだったのだが、
お前たちの原基時間で千二百年ほど前に向こうが反乱を起こして独立し、分裂したんだ」
('、`*川〔ミルナ、あんたも『ワーロック』の人間なの?〕
( ゚д゚) 「察しが早いな、その通りだ」
しばらく雪原を走っていると、大きな白い建物が見えた。
中に入ると、何人もの人たちが笑顔で出迎えた。
( ´∀`) 「ミルナ、おかえりモナー」
( ・∀・)「やあご苦労様、コーヒーいるかい?」
( ゚д゚) 「ただいま…ありがとう、いやはや今回のダイビングも疲れたよ
数百年ぶりのコーヒー……うまいな」
ミルナは伊藤の頭を自分のテーブルに置くと、コートを脱いで、コーヒーを口にした。
('、`*川〔ねぇ、ここはどこ?〕
( ・∀・)「お嬢さん、真の『ワーロック』へようこそ!
僕たちはミルナ君たち『ダイバー』のバックアップの仕事をしているよ」
( ´∀`)「君たちの次元は、ここと比べて時間の流れが65535倍も違うんだモナ。
ミルナはほんとうに良く仕事してくれてるモナ!」
( ゚д゚) 「ククク、まぁしばらくダイビングは御免だな……
今回は首だけにされて、地価金庫に数百年放置プレイだぜ……
気が狂うかと思ったよ……お嬢さん、ほんとうにに助かった」
( ´∀`)「モナからもお礼を言うモナ!」
('、`*川〔それはそれは、どういたしまして〕
( ゚д゚) 「ところで、お嬢さんが『現実』を見たいそうだ、モララー頼めるか?」
( ・∀・)「ああ、まかせておくれ」
モララーと呼ばれる男に抱えられ、頭だけの伊藤は建物の地下へとおりてゆく。
そこには大きなスーパーコンピューターが何台も並んでいた。
('、`*川〔……これは?〕
( ・∀・)「君たちの暮らしてきた世界を、外側から眺めた気分はどうだい?」
('、`*川〔……へぇ、いや…特に感想は無いわ〕
伊藤は自分でも驚くほど、覚めた目でそれを見ていた。
気づき始めていたのだ。
『現実』と『現実感』との間の、大きな差異に…。
( ・∀・)「無感動だなぁ……で、現実が見たいんだっけ」
('、`*川〔まあ、それが最初から私の目的だったんだけどね〕
( ・∀・)「じゃあ準備するから待っててよ」
モララーはそう言うと、コードを引っ張ってきて伊藤の頭に繋げた。
( ・∀・)「いくよー」
~~~
薄暗い部屋のなか、古ぼけたラジオから声が聴こえる。
「荒巻さん、荒巻さん、こちらモララー、どうぞ」
/ ,' 3「はいはい、きこえとるよ」
荒巻と呼ばれた老人が椅子から立ち上がり、デジタルカメラとマイクをセットし、
テレビをつけた。
('、`*川〔……〕
テレビの画面には、ひとりの少女が映った。
/ ,' 3「こりゃ綺麗なお嬢ちゃんじゃのう……
初めまして、わしゃ荒巻というものじゃ」
('、`*川〔伊藤です…初めまして、そこが『現実』ですか?〕
/ ,' 3「ここが現実じゃ。そして人類はわしの他、百人ほどしかおらん」
('、`*川〔はあ、そうですか〕
/ ,' 3「わしは趣味でコンピュータをちょっといじっとるで知ったのだがの、
あんたらの住んでる世界の存在をしっとる者も、こっちにはおらんわい」
('、`*川〔……〕
~~~
伊藤がモララーに連れられて地下から戻ってきたとき、ミルナが話しかけてきた。
( ゚д゚) 「やあ、どうだい?『現実』はどうだった?」
('、`*川〔……うーん、まぁこんなもんだろうとは想像していたけれど……ね〕
( ゚д゚) 「がっかりしたかい?」
('、`*川〔……少しね〕
( ゚д゚) 「ところで伊藤さん、提案があるのだが」
('、`*川〔……!?〕
今まで「お前」と呼ばれてきた伊藤に、ミルナは初めて名前で呼びかけた。
( ゚д゚) 「…キミも俺たちと一緒に、『ワーロック』で働かないか?」
~~~
- - -原基時間三年後。
(-_-) 「お嬢様!」
('、`*川「何よヒッキー、今プロテクトを破るのに忙しいのよ」
(-_-) 「いけませんお嬢様、そんな強引なやり方では足がついてしまいます!
抗生戦士150人に囲まれたくなかったら、もっとマシなやり方をして下さい!」
('、`*川「なに?あたしのやり方に不満があるっていうの?」
(-_-) 「まったく……多少は覚悟していましたけど、
実際に四六時中追い回されるとなると面倒でかないません!」
(;´∀`) 「モナ!ずっと君たちの世話を焼き続けているモナの立場にもなってみるモナ!
もう少しそのあたりに配慮した発言をして欲しいモナモナモナ!!」
ヒッキーの肩にかかるリュックの中から、モナーが呆れたように言った。
それに対し、伊藤が元気な声をあげる。
('、`*川「いいの、多少はこうやって無理をしたほうが、『現実よりも現実っぽく』感じられるのよ!」
終わり
この小説は2008年1月29日ニュース速報(VIP)板に投稿されたものです
作者はID:xiSPDifi0 氏
作者がお題を募集して、それを元に小説を書くという形式のものです
お題・あいつらが弱いんじゃあない。俺が強すぎた、それだけのことだ
・許して欲しいなら地べたに頭こすりつけて謝れ
ご意見等あれば米欄にお願いします