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ξ ゚⊿゚)ξ と ζ(゚ー゚*ζ の願い事のようです


はじめてブーン系小説を読む方はこちらへどうぞ




 自室のベッドから窓を見やるとえらく綺麗な月が見えた。

 いい加減寝ればいいのに、やたらと遠吠えをする隣家の犬が煩いクリスマスの夜。

 孤独に泣き、愛に餓えていた “私” が、かつてサンタクロースに叶えてもらった願い。
 それが、ようやく成就する記念すべき夜だ。



20071230023404.jpg



 私は妹が嫌いだった。

 いつから嫌いなのかもわからなかったし、これといって理由も無かったのだが(あるいはありすぎたのか)、
 とにかく自分でも不思議に思うほどに私は妹を毛嫌いしていた。
 憎んでいた、とすら言えるかもしれない。
 同族嫌悪、とでも言えばいいのだろうか。

 しかし同族とはいうものの、私と妹は非常にかけ離れた存在であった。
 私は元来、人見知りな性格で、妹は社交的であった。
 私は運動オンチであったが、妹は体力テストでいつも好成績を修めていた。
 私はいじめられたことがあったが、妹は無かった。

 唯一、ペン回しだけは妹よりうまかったが、とにかく思い付く限りのあらゆる事象において妹の方が優れていた。

 両親は容姿は同じでも、中身は真逆な私たちを見て、よく不思議そうな表情をした。

 私は、その表情が嫌いだった。
 更に言えば、その嫌いな表情を受け、私を見下した笑みを浮かべる妹が、殺したいくらい嫌いだった。

 そんな存在すら否定したいほどに大嫌いな妹ではあったが、
 私は妹の持つとある才能、その一点においてはひどく感嘆し、評価をしていた。

 妹は物心ついた時から、人並み外れて器用であった。
 先に断っておくと手先のことに関して、ではない(まぁ、十二分に手先も器用だったが)。
 彼女の器用さ、というのは詰まる所“世渡りの上手さ”に相違ないのだが、
 しかし妹のソレは、ただの世渡り上手とは格が違った。
 妹と世渡り上手さんの決定的にして唯一の相違点であり、私が感服する妹の器用さ。
 それは、処世に対する意識と才能だった。

 妹の頭の中には、一本の大樹が生えていた。
 無論、これは比喩であるが、この表現は的を得ていると私は思う。

 大樹は、妹を木の幹とし、他人を葉とした人間関係の相関図である。
 家族、友人はもちろんのこと、友人の友人の親に至るまで。
 日常会話から噂、たまたま耳に入った第三者同士の会話。その他ありとあらゆる情報をお互いにリンクさせたデータベース。

 曰く、担任の不倫相手は何年何組何番のナントカさんの母親、その母親は甘い物好きでよく休日に駅前へスイーツを食べに行く。
 そのスイーツはとある雑誌の何ページ目にて紹介されていて云々。

 数百、数千、ともすれば数万に及ぶ葉っぱ同士を結びつけること自体が正に狂気の代物であるが、こいつの狂気はこんなモノじゃ済まない。

 これの本当の狂気は、その葉っぱに刻まれたメモにある。

 性格、容姿、身長体重血液型から好みのタイプ、嫌いな人間に癖、利用価値。
 一度会って話すことによって刻まれる詳細なプロフィール。

 妹の本当の器用さはこれだ。
 巧みすぎるほどに巧みな話術と、異常な洞察力。そしてそれを活用するデータベース。
 表情の僅かな機微に言動、交友関係から対象を分析し、対象が妹に求める『理想の在り方』を理解、そして実行。
 相対する人間に挟まれても常に無難であり、中立。

 私はたまに妹が機械に見える時があった。それほどにそれは正常ではなかった。

 狂ってる。人間じゃない。
 ある日、私がそう言うと、


 ζ(゚ー゚*ζ「うん、あながち間違いでもないよ。そうでしょう?」


 そう言って、鼻に付く笑いを妹は浮かべた。

 不覚にも私は戦慄した。同時に、こんなモノが私と同じ世界に在ることを運命づけた神様とやらを本気で呪った。
 私にはペン回し、妹にはコミュニケーションという天才的才能がそれぞれ与えられた。釣り合っているとは到底思えない。


 ごく短期間であったが、私が神仏崇拝に傾倒したのもその頃であった。

 中学二年生という年齢もまた要因の一つであったことは間違いない。
 が、妹の存在により精神が摩耗しつつあった私に思い付く手近な救いは、神仏しかなかった。


 ζ(゚ー゚*ζ「カワイソウな人」


 暇さえあれば、数珠を片手に、十字架を前にひたすら祈っている私を見て、妹はそう言って笑った。


 ζ(゚ー゚*ζ「神様が居たら私なんかいないでしょうに」


 確かに。神様がいたら私を不幸から救ってくれる。だのに救いは訪れない。
 私が言い返せずにいると、妹は不意に真顔になり、


 ζ(゚ー゚*ζ「やめてよ、みっともない。結局、私が迷惑するんだから」


 私はその日以来、神仏への崇拝を止め、暇な時間をペン回しで過ごすようになった。
 妹の言いなりになったようで非常に不愉快だったが、妹に嘲笑されるのは、それに輪をかけて不愉快だった。
 ペン回しは、唯一優れていることをアピールしたい私の、ミジンコ程度しか残っていなかった自尊心の結果であった。


 高校に上がっても尚、私は妹と離れられずにいた。
 妹は常にクラスの輪の中に居て、私はいつも独りでペンを回していた。
 寂しい、とは思わなかった。そんな感情など、妹に対する妬み嫉みの前にはバクテリアほどの存在感しか無かった。
 正しくはそう強がっていただけ、なのだが。

 今にしてみれば、その頃から私の精神は摩耗しきりつつあったように思える。
 要するに、“私”は壊れ始めたのだ。

 幸か不幸か。親でさえ“私”には触れようとしたがらなかったので、“私”の崩壊に気付いた人間はたった一人だけであった。

 言うまでもない。

 妹だ。


 ζ(゚ー゚*ζ「姉さん、どうしたの?」


 わかっているだろうに、妹は私を見下すような口調で、そう私に語り掛けた。
 どうもしてないわ、と私がそう言うと妹は実に嬉しそうに「嘘よ」と言った。


 ζ(゚ー゚*ζ「姉さんはもう限界よ。姉さんも理解しているでしょう?」


 私は彼女の問いかけを黙殺した。

 事実であろうと、認めるわけにはいかなかった。
 認めた瞬間こそが“私”が空中分解する瞬間でもあると理解していたからだ。


 やがて私は、日常的に意識を失うようになった。


 ζ(゚ー゚*ζ「長かったわ」


 何が、と問うと、妹はやはりこちらを見下すように笑った。


 ζ(゚ー゚*ζ「姉さんが死に至るまで」


 大して驚きはしなかった。
 互いが互いに邪魔な存在なのだ。死んで欲しい、と思うのは当然だろう。
 そうね、と私は夢うつつにそう言って、くるくる、とペンを回した。


 腰掛けている自室のベッドから窓を見やると、やたら薄らぼんやりした月が見えた。

 かつてはよく聞こえた隣家の犬の遠吠えも、今はよく聞こえない。

 ああ、まるで、孤独に泣いていたあの時のような……。

 そしてフラッシュバックのように、私は一つの記憶を思い出す。

 それは、私が孤独に泣いていた時の幼少の記憶。
 共働きであった両親に満足に構ってもらえなかった私が、愛に餓え、サンタクロースに願い事をした過去の記憶。


 ξ ゚⊿゚)ξ「私に下さい。皆に愛される力を、下さい」


 私が呟くと、妹は思い出したんだ、と言って嗤った。


 思い出した。私は願い事をした。
 人一倍恥ずかしがりやで、人一倍人見知りだった私が、今日のようなクリスマスの日に願ったのだ。

 妹のようなコミュニケーション能力を、願ったのだ。


 ζ(゚ー゚*ζ「最後まで気付かないかと思ったよ。おめでとう」


 私が応えずにいると妹は苦笑した。私は黙ってペンを回し続ける。くるくる、くるくる。

 皮肉なことだ。
 確かに私の器は皆に愛される人間となるだろう。確かに私の願いは果たされようとしている。
 だが、その代償が自意識であるなら意味が無い。

 にしても、ここにきて妹を嫌いになる理由を理解することになるとは思わなかった。
 私は妹を憎んでいたのではなかった。
 自己の消滅を恐れた“私”が拒絶反応していたのだ。


 ζ(゚ー゚*ζ「最後に聞きたいことは?」

 ξ ゚⊿゚)ξ「二つ」


 妹は無視されるものと思っていたのか少し驚いたようだった。
 私は気にしない。くるくる。


 ξ ゚⊿゚)ξ「一つ。私は死んだらどうなるの?」

 ζ(゚ー゚*ζ「さあ、消えるんじゃないかしら」


 愉快そうに笑う妹。

 怒りか、はたまた別の要因か、消えかける末端の感覚にペンを取り落とす。
 わしづかみにし、強く握り締める。


 ξ ゚⊿゚)ξ「二つ。これは椅子取りゲーム?」

 ζ(゚ー゚*ζ「そう。一つの人体に二つの人格が両立するのは自然とは言わないでしょう?」

 ξ ゚⊿゚)ξ「……最後に一つだけ」


 もう一度、月を見上げる。
 何の感慨も湧かなかった。ただただ心には虚無があった。
 身を焦がすような負の感情も今はなく、私は事務的に引き金に手をかける。



 ξ ゚⊿゚)ξ「私の勝算は?」

 ζ(゚ー゚*ζ「0よ」



 ザクッ。
 躊躇いなく振るわれた右腕。
 シャープペンシルの先端が頸動脈を抉り、力任せにねじ込まれ、気道を切り裂く。

 熱した鉄を押し当てたような感覚に比例して冷たくなった脳ミソで、呆然としている妹に語り掛ける。
 お互いに概念の存在であるが故に、口頭の会話は必要ない。
 私はただ思考するだけだ。



 ξ ー )ξ「なら、私はこのゲームを降りるわ」

 ζ(  #ζ「な、なになになにな、にをな、」

 ξ ー )ξ「あんたにこの体は渡さない。私の体は“私”によって死ぬ」




 ひどく疲れた。
 今まで気付かなかったが、私は疲れていた。
 妹が絶叫する。その言葉の意味を理解しようとは思わない。

 私は最後に、無い物ねだりをした自分を悔やみながら、自ら意識を手放した。




 月が綺麗なクリスマスの夜。


 今宵も愚かな子羊が、サンタクロースに願う。







この小説は2007年12月25日ニュース速報(VIP)板に投稿されたものです
作者はID:jqkiQj9JO 氏



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[ 2010/01/02 10:09 ] ナギ戦記 | TB(0) | CM(0)

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