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川д川九足す一は のようです


はじめてブーン系小説を読む方はこちらへどうぞ




川д川『一まーい……、二まーい……、三まーい……』


這い上がるように、その声は響いてきていた。
暗く深く、何十年も前に枯れ果ててしまった井戸の底から。


川д川 『四まーい……、五まーい……、六まーい……』


主のいない家はしんと深く静まりかえり、手入れのされていない庭は荒れ果てていた。
家を取り囲む石積みの壁は黒く苔むして、庭の隅に生えた大きな木には蔦が幾重にも巻きついていた。

そこに、その井戸はあった。


川д川『七まーい……、八まーい……、九まーい……』


よどみなく進んでいた声は、そこで止まった。
虫の音が途切れる。風すらも足を止める。
一瞬の沈黙の後、重くうめくように声は続けた。


川д川『……やっぱり、一枚、足りない……』


井戸の中から黒髪に覆われた頭が突き出し、続いて着物姿の女が姿を現した。
その白く細い腕には、全く同じ形をした九枚の皿が抱えられている。
女は井戸のふちに静かに腰掛けると、腰まである黒髪をかきあげ、呟いた。



川д川『――はい、今日の日課おわり、っと』



20071222034355.jpg




('A`)『毎日ご苦労さま』


硬くて低い声が女にねぎらいの言葉をかけた。
女が振り返ると、一人の男が庭に生えた木からすっと浮き出るようにして姿を現した。
男は血の気のない茶色の顔をしていて、濃茶の着物を着ていた。


川д川『どうもありがと。でもこれをしないと一日が始まらないから』


そう言って、女は白い顔で笑った。
この男とは長い付き合いで、もう百年にもなる。

百年も前に、女はここで死んだ。
生前はこの家で働いていたのだが、ある日井戸端で主人の大切な皿を割ってしまい、怒った主人が彼女を殺して井戸に突き落とした――らしいのだ。

自分のことなのに「らしい」と言うのはおかしな話だが、彼女には生前の記憶がほとんどない。
ただその時に受けた強い念だけが彼女をここに繋ぎとめているのだ。

しかし百年も経った今、女はそんなことはどうでもよくなっていた。

自分を殺した主人はとっくの昔に死んでいるし、この家に人が住まなくなってからも随分月日が経つ。
今更何を怨めと言うのだろう。


ただ気がかりなのは皿が足りないことだけだ。
十枚一組になっていたはずの皿は、彼女が割ってしまったので九枚しかない。

何度数えても、何十回何百回何千回と数えても、九枚しかない。
毎日毎日数え続けても、皿は増えることはなかった。

この百年間で彼女が十枚目を数えたことはただの一度もない。

しかし井戸で死んだ彼女はこの場所からは動けない。
どこかに皿を調達しに行くわけにもいかず、暇を持て余していたところにこの男が話しかけてきた。

男が言うには、彼は彼女が幽霊になる十年ほど前に庭木で首を吊ったのだそうだ。

二人はそれ以来の付き合いだった。
似た者どうし話ははずんだ。

幽霊が出ると噂が流れると、ここには誰も近づかなくなり、二人の時間はとても静かに流れていった。

しかし……それももう終わる。

一週間後には、この家は土地開発で取り壊されてしまう。


川д川『あんたともお別れね』

感慨深くもなさそうに、女は言った。男は答えなかった。

川д川『ねえ、あたしたちどうなると思う?』

('A`)『さあ……どうなるんだろう』

男はやんわりと答えた。

川д川『もう死んでるけど、もう一回死ぬのかな? それとも地獄行き? 天国ってことはなさそうよね。
    あ、そのまま消えてなくなっちゃうってのもありね』

女は脈絡もなく淡々と話した。
今の彼女にとって消えていくのは寂しくも悲しくもない。
気になるのは皿が一枚足りないままであることぐらいだ。
それすらももうどうしようもないので、諦めがつく。

年を取らない幽霊でも、百年はそれだけ長かったのだ。

女は百年を共に過ごした男の顔を見た。
すると男は女と違って何かあきらめきれない顔をしていた。

そういえば、先ほどから男は歯切れが悪かった。
あまり自分から話さない男だが、話しかければ答えてくれる。
今日は何かを考え込んで、押し黙っているように見えた。

こんなことは百年間一度もなかったことだ。


川д川『どうしたの? 難しい顔しちゃって』

女が訊ねると、男は戸惑ったように視線をそらした。

('A`)『え。ああ。あの、えっと……』

川д川『なによ。言いたいことがあるならはっきり言いなさいよ』


一週間後になれば井戸も庭木も全部なくなってしまうというのに、この男は何をそんなにためらっているのか。
女は苛立った。


('A`)『あの、これ』

男は急に顔を上げたかと思うと、懐から何かを取り出して女に差し出した。

('A`)『よかったら、使って』

川д川『なにこれ?』

それは一目ではそうとは分からなかったが、皿だった。
手触りの悪い、形のいびつな、木目が浮き出た生乾きの木の皿だった。
どこで拾ってきたのか、それは全くお粗末な代物だった。


川д川『なんのつもり?』

('A`)『え……?』


怒気をはらんだその声は、重く静かだった。
男が慌てた。

女の膝の上にあるのは、かつてこの家の主が骨董品店で大枚をはたいて買い求めた皿だ。
それと比べたら、この皿はなんとみすぼらしいことだろう。

しかし彼女の怒りはそこにあったのではなかった。


川д川『そんなにあたしがかわいそうに見えてたの? いままでずっとそう思ってたの?』


女の白い顔がみるみる歪む。
男は何かを言おうとしたが、女がそれを許さなかった。


川д川『かわいそうだった? 哀れだった? バカみたいに皿数えて? 毎日毎日百年間?
   そうねバカよねあたしもそう思うわ。でもあたしだって好きでやってたんじゃないわよ! 余計なお世話よ!』

('A`)『ち、ちがう。誤解……』


言い捨てると、女は井戸の中に飛び込んで消えてしまった。

男は動かなかった。
たとえ動けても木の傍からは離れられないのだ。

投げ捨てられて転がった皿を拾うこともできない。

男はしばらくじっとたたずんでいたが、やがて木に溶けるようにして消えた。


最後の日は、幽霊がうんざりするほどの快晴だった。

朝早くから人が大勢集まり、色々な道具が庭に持ち込まれ、井戸の周りに積まれていった。

今日で全てが終る。

まず玄関扉が取り壊され、さらに大きな機械や乗り物が運び込まれる。
女は井戸端でそれを見ていた。木の傍に立った男もまたそれを見ていた。

あれから一週間二人は顔を合わせなかった。
生きた人間たちには、そんな二人が見えないようだった。

( ^Д^) 「なんだこれ?」

( ,,゚Д゚)「どうした?」

( ^Д^) 「皿ですよ皿。骨董品か何かですかねぇ?」

人間の一人が庭に落ちていた皿を手に取った。
不思議そうな顔をしたのは一瞬だけで、庭木の脇に積み上げられた機械の上に皿は置かれた。


('A`)『……』

川д川『……ふん』


男はそれを見ていたが、女は見ようともしなかった。

やがて細かい銀の刃が何百もついた機械がやってきた。
刃は勢いよく回りはじめ、機械は勇ましい唸り声を上げて木に迫った。

( ^Д^) 「ほんじゃ、切りますねー」

( ,,゚Д゚)「おう」


男は目を閉じた。女は何も言わなかった。
刃が喰い込む。幹に吸い込まれる。
男は目を閉じたままでいる。

硬いはずの木はあっと言う間に真っ二つになった。

機械はおとなしくなり、静かになる。木がきしみながら傾いていく。


その時だった。






――ざららららららららららららららららららららららららららららららららららららっ。



切り倒された木の中からそれは流れ出てきた。
乾いた音を連ねながら、後から後から何十にも重なって。


(;^Д^) 「うわわわっ! な、なんだこりゃ!」

( ,,゚Д゚)「どうした!?」


人間たちが驚き、作業の手を止めた。
彼らには、一見しただけではそれが何なのか分からなかったに違いない。
それはあまりにもいびつな形をしていたから。



川д川『え……!?』



しかし女には分かった。分かってしまった。

それは大量の皿だったのだ。

女は男を見た。男も目を開けて女を見ていた。


('A`)『……練習、したんだ。ちょっとだけ』


随分なちょっとだけがあったものだ。
木の中は深く抉り取られ、見事に空洞になってしまっている。

しかし女には、練習という言葉の意味の方が分からなかった。


('A`)『僕は、見てたんだ。ずっと。君がこの家に来たときから。君が……ここで死んだときも』

男は静かに言った。この百年間、たった一人の女とだけ語ってきた声で。

('A`)『何もできなくて。僕は、動くことも声を出すこともできなくて。
    呪うことも怨むこともできなくて。見てるだけしか、できなくて……。僕は……ただの、木だから……』

川д川『え……?』

女は目を見開いた。男は幽霊ではなかったのだ。

('A`)『ごめん。ずっとだましてた。だって君と』

はるか遠く見る。この百年間を映してきた目で。

('A`)『君と、話ができるようになって……嬉しかったんだ。百年間ずっと、嬉しかった。怒るかな』

女は首を振った。もう何も言えなかった。
男の体は、薄れるように消えていく。

('A`)『今も動けないのは一緒なんだけど。でも何かしたかったんだ。
    僕ができることなら、なんでも。だから……自分で』

思えば、ここから動けない者がどうやって皿を拾ってこれると言うのだろう?
百年も一緒にいてなぜそんなことも分からなかったのだろう?

男の声はもう、かすれて耳に遠い。
作業を再開した人間が、石を崩す機械に乗り込む。


('A`)『でもごめん。考えなしだった。そうだよね、あんな物渡されても困……』

川д川『――頂戴』


突然、女は男の言葉をさえぎった。
男は薄く透き通った目で女を見つめる。

川;д川『やっぱりいるから。あのお皿、頂戴……』

男ははじかれたように背後を振り返った。
皿は男の手の届くところにある。

消えかけた手でそれを掴み、女のもとに駆け寄った。

女は精一杯井戸から離れ、白い手を伸ばす。
黄色い破壊の手が迫る。

男の体はかすれてもうほとんど見えない。

消えていく。消えてしまう。消える――。


その瞬間。

きっと、二人は同じ目の色をしていた。




※ ※ ※




ニュースは報じる。
とある村の枯れた古井戸の底から人骨が発掘された、と。

発掘現場の一人は首を捻りながらこう語る。
かろうじて形を保っていたその腕には、十枚の皿が


――九枚の古い陶器の皿と、一枚の真新しい木製の皿が――抱かれていた、と。





「本当に聞こえたんだよ。嬉しそうな女の声が。『十まーい』って」





終わり






この小説は2007年10月28日ニュース速報(VIP)板に投稿されたものです
作者はID:nu0rZkuZ0 氏



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[ 2009/12/31 23:39 ] ナギ戦記 | TB(0) | CM(0)

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