はじめてブーン系小説を読む方は
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( ´∀`)「とりあえず三軒、お願いするモナ」
( ^ω^)「把握したお」
( ´∀`)「それじゃ、宅配がんばってくるモナー」
( ^ω^)「いってきますお!」
快活な声を上げ、ブーンはにこにこと笑顔を振りまきながら店を飛び出る。
スクーターにまたがり、エンジンをかけ、いざ出発。
( ^ω^)「飛ぶように超特急で届けるお!」
アクセル全開で勢いよく駆け出していく。
店の鉄則、「素早く、熱々のまま、美味しいピザを届けよう!」を胸に抱いて。
( ^ω^)「ぼ~くはピザの運び屋さ~ん♪」
爽やかな風を切りながら、ブーンは気分よく自作の歌を口ずさむ。
ピザ屋のアルバイトを始めて五年。
小金稼ぎにやるつもりが、いつの間にかベテランと呼ばれるほどになった。
今では宅配の正確さ、敏速さにおいて彼に叶うものはいない。
未だに調理場に回されないのはそのせいである。
とは言え、その理由の大半はブーンの不器用さにあるのだが。
( ^ω^)「やべぇwwwwww風で流れてくるピザの匂いたまらねぇwwwwwwwww」
今回のお届け先は三つ。
まずは最寄りの目的地を目指した。
( ^ω^)「えーと、ここかお……」
辿り着いたのは中々に立派な造りのマンション。
階段を上がり、注文伝票に書かれた番号の部屋を探す。
(;^ω^)「エレベーター使えば良かったお……」
七階まで上がったところで、やっと目的の部屋を見つけた。
(;^ω^)「2702とあるから二階にあるのかと思ったお。二号舎って意味かお」
ぶつくさと文句を言いながら、ブーンは呼び鈴を二度鳴らす。
( ^ω^)「すみませーん、ピザのお届けに参りましたおー」
「はいはい、ちょっと待ってねー」
(´・ω・`)「やあ、待たせたね」
返事があってから数分後、顧客のショボンがドアを開いた。
ぼさぼさの髪の毛にだらんとしたYシャツ姿から物ぐさな性格が垣間見える。
( ^ω^)「先に商品の確認をさせていただきますお」
マニュアル通りの対応をこなしながらピザの受け渡しをする。
( ^ω^)「……イタリアーナのMサイズが一枚、ウーロン茶が一本、
締めて2200円になりますお」
(´・ω・`)「はい、じゃあこれ」
( ^ω^)「3000円、お預かりしますお」
くしゃくしゃの紙幣を受け取りながら、ブーンは何気ない気持ちで話題を振ってみる。
( ^ω^)「そう言えば、どうしてすぐに出てこなかったんですかお?」
(´・ω・`)「ああ、そのことかい」
(´・ω・`)「実はね……執筆が遅れていてね」
( ^ω^)「執筆? 何のですかお?」
(´・ω・`)「小説だよ。僕はこれでも小説家でね」
ぼさぼさの髪を掻き上げながら答える。
( ^ω^)「それは凄いですお!」
(´・ω・`)「いやいや、小説家と言っても頭に『売れない』がつくけどね」
自嘲混じりに笑うショボン。
(´・ω・`)「今書いている作品も、如何せんオチがありきたりでね……」
( ^ω^)「いつかいい作品が書けますお」
(´・ω・`)「だといいけどね」
気を許したショボンはブーンと軽く雑談した。
ピザが冷めてしまわないか、とブーンは少しだけ心配した。
(´・ω・`)「……うん、君と話していたらなんか元気出たよ」
(;^ω^)「いえいえ、宅配員のくせに出過ぎたことをしましたお」
(´・ω・`)「いやぁ、楽しかったよ。
最近は部屋に籠りっきりで担当の人としか話していなかったからね。
君と話が出来て良かったよ」
( ^ω^)「それは光栄ですお」
ブーンはそう言いながら、お日様のような笑顔を見せる。
さりげない一言だけど、人を勇気づけることが出来たから。
ピザの宅配のようなフランクな職業じゃなければ、
ここまで相手も自分の事を話してくれなかっただろう。
この仕事をやっていて良かったな、と密かに思った。
( ^ω^)「……ところで、どんな小説を書いているんですかお?」
(´・ω・`)「ああ、それはね……」
ショボンはごそごそと机を漁り、書き上がった原稿の一枚を見せた。
(´・ω・`)「これが僕の最新作、『祭・十幼児肛』さ!」
(;^ω^)「……なんですかそれは……」
(´・ω・`)「うむ、よくぞ聞いてくれた!」
若干引き気味のブーンに、テンションの上がったショボンは熱く語り始める。
(´・ω・`)「これは凄いよ。
まずストーリーは一人の青年教師がたった十人の女生徒しかいない島の学校に転任し、
その土地で無垢な生徒たちを犯しまくる話。
しかし処女崇拝主義者の主人公は幼女の後ろの穴だけに照準を定める。
そして主人公は肛姦の虜になった幼女たちと島で祭を開く。
その祭は三カ月もの間夜通し行われ続け、そして感動のフィナーレを迎えるんだ!」
(;^ω^)(……どこにターゲットを絞っているんだお……)
(´・ω・`)「ただやっぱり、オチが無難すぎてね……」
(;^ω^)「どうやったら無難なオチになるんですかお」
(;^ω^)「変な人だったお……」
一軒目の宅配を終え、次のお届け先に向かうブーン。
( ^ω^)「到着したお……って……」
(;^ω^)「でっけEEEEEEEEEEEE!!!!!!」
宮殿かと見紛うほどの豪華絢爛とした佇まいの邸宅に、ブーンは少々威圧される。
(;^ω^)「こんな家に住む人が宅配ピザなんて頼むのかお」
何度も伝票を見直し、住所が間違いでないことを確認すると、緊張しつつ呼び鈴を鳴らした。
( ^ω^)「ピザのお届けですおー。門を開けてくださいお」
しかしこちらはプロ。応対はしっかりとこなす。
それがピザの宅配員としてのプライドだった。
「今開けますね」
返事と共に門が自動的に開かれる。
( ^ω^)「うはwwwwwハwwイwwテwwクwwwwww」
開かれた門をくぐり、ブーンは玄関まで歩いた。
青々とした芝生が眩しい広大な庭園を横切る。
美しく咲いたビオラの花が見えた。
(;^ω^)「ドアまでが遠いお……」
(*゚ー゚)「ご苦労様です」
顧客の女性がわざわざ玄関先に出迎えに出てくれていた。
麗しい風貌と落ち着きのある声が上品な印象を抱かせる。
( ^ω^)「えーと、しぃ様ですかお」
(*゚ー゚)「はい、そうですよ」
( ^ω^)「先に商品の(ry」
( ^ω^)「シーフードのMサイズが一枚で2100円になりますお」
(*゚ー゚)「えぇと……はい、どうぞ」
( ^ω^)「2100円、ちょうどいただきますお」
( ^ω^)(にしても……)
眩いばかりの内装を見渡し、溜息をつく。
( ^ω^)(とんでもなく大きい家だお……)
(*゚ー゚)「……あの……」
(;^ω^)「はひっ!? 何でございますかおっ!?」
(*゚ー゚)「そんなに、大きな家でしょうか」
(;^ω^)「……もしかして声に出てましたかお?」
(*゚ー゚)「ふふっ、かなりw」
くすりと笑うしぃ。
その顔からは先程の印象とは違う、どこか可愛らしい感じを受けた。
(*゚ー゚)「私、この家に一人で住んでるんですよ」
(;^ω^)「えぇっ、こんなに広い家に一人ですかお?」
(*゚ー゚)「……元は、二人だったんですけど……。
夫に先立たれてからは、ずっと一人です」
(;^ω^)「あっ……それは失礼しましたお」
(*゚ー゚)「いえ、気になさらないでください」
ブーンとしぃの間に気まずい空気が漂う。
そんな空気を打破したのは、これもまたしぃの一言だった。
(*゚ー゚)「……迷惑でなければ、少し愚痴を聞いてもらえませんか?」
( ^ω^)「僕なんかでよければ、全然おkですお」
(*゚ー゚)「有難うございます」
(*゚ー゚)「……私は資産家の娘として生まれました。
何不自由ない生活と、満ち足りた家族からの愛を受けて育ちました。
本当に幸せな人生だったと思います。
そして二十歳になった時、実業家であった夫とお見合い結婚したんです。
お互いの両親は私たちへのご祝儀としてこの家を建ててくれました。
ですが……夫は四年前に事故で亡くなりました。
それ以来、起こることは不幸ばかりで……。
両親は相次いで病死しましたし、夫のお父様とお母様も飛行機の墜落事故で
お亡くなりになりました。
いつの日か、私は周囲から『不幸を運ぶ女』と罵られるようになりました。
それからも身内の人たちは皆いなくなって……。
……私に残されたのは、この家だけなんです」
(;^ω^)(……お、重い……)
さっきよりも淀んで漂う気まずい空気。
ブーンは圧倒的に重苦しい雰囲気に押し潰されそうになる。
(*゚ー゚)「……ごめんなさいね、湿っぽい話しちゃって……」
(;^ω^)「いえ……構いませんお……」
(*゚ー゚)「……思えば、夫との結婚生活はたったの数年間でした」
(;^ω^)(帰りたいお……これ以上話を聞いていたら鬱になるお……)
そんなブーンの事はお構いなしに、しぃは独白を続ける。
(*゚ー゚)「お見合いでの結婚でしたし、二人の間に愛なんてないと考えていました。
……ですがそれは違いました。
私は、夫の事を深く愛していたんです。
たった一人になってから、夫がどれだけ私の中で大切な人だったか分かりました。
……まるで、酸素みたいですね。
目には見えないから、普段は気付くことは出来ませんけれど、
なくなっちゃったら、生きていけないんです。
……でも、もう遅いんです。
居なくなってから気が付いたって……」
(;^ω^)(もう駄目だお……なんか死にたくなってきたお……)
(*゚ー゚)「そんな私の元に訪ねてくる人は、庭師の方ぐらいです。
……あっ、それと貴方もですねw」
(;^ω^)「はぁ……」
妙に明るい語調のしぃに、全く生気のない返答をするブーン。
(*゚ー゚)「本当は、もっとたくさんの方と触れ合いたいんですけどね……。
私に近寄ると、不幸がうつっちゃいますもんね」
(;^ω^)「あの、その……」
重苦しい空気に耐え切れなくなったブーンは、思い切ってしぃに提案してみることにした。
(;^ω^)「人にたくさん来てほしいなら、この家の庭を開放してみるのはどうですかお?」
(*゚ー゚)「えっ……」
(;^ω^)「こんなに美しくて、花がいっぱいの場所なんか都会には殆どないですお。
だからきっと多くの人が訪れますお」
(*゚ー゚)「でも、本当に私なんかの所に来てくださるかしら……」
( ^ω^)「それは、お客様の心持ち次第だと思いますお」
(;^ω^)(つーか、その暗い話題をやめてほしいお……)
(*゚ー゚)「……そうですね、それもいいかもしれませんね。
庭師の方と相談してみます」
( ^ω^)「おっ、僕の意見なんかでいいんですかお?」
(*゚ー゚)「ふふっ、とても素敵なアイディアでしたよw」
( ^ω^)「そうですかお……あっ、そろそろ次の配達がありますんで……」
(*゚ー゚)「あら、もうですか。もう少しお話したかったのに……」
( ^ω^)「ですが、うちのポリシーは
『素早く、熱々のまま、美味しいピザを届けよう!』ですので」
(*゚ー゚)「あらあら、残念ですけどそれでは仕方がないですね。
……それじゃ、ピザは美味しく頂きますねw」
( ^ω^)「それでは、失礼しますお」
頭を深々と下げ、手を振るしぃを尻目にそそくさと豪邸を後にする。
その帰り道で目に入ったものは、やはり鮮やかな緑だった。
(;^ω^)(上手い事逃げ出せたお!)
無事に二軒目までを終了し、残る最後の目的地を目指す。
華麗なスクーター捌きであっという間に到着した。
さすがは最速の宅配員、といったところか。
( ^ω^)「なんというボロさ……」
目の前にあったのはオンボロのアパート。
いかにも歴戦の戦士といった感じの雨ざらしの壁が悲壮さを漂わせる。
(;^ω^)「呼び鈴すらないのかお。つーかドアノブが取れかけてるお」
やむを得ず、どんどんと扉を叩き顧客の名前を呼ぶ。
( ^ω^)「ドクオ様ー! ピザの宅配に参りましたおー!」
(;^ω^)「あっ、ちょっとへこんじゃったお」
('A`)「あいよ、さっさとピザ置いて帰ってくれ」
( ^ω^)(うわぁ……凄く感じ悪いなりぃ……)
出てきたのは、ラフな格好をした無愛想な男。
煙草を咥えながらやる気のない声を漏らす。
('A`)「ほら、さっさとピザ出してくれよ」
( ^ω^)「先に(ry」
('A`)「そういうのいいから、早くして」
(#^ω^)(UZEEEEEEEEE!!!!!!)
しかし慌ててはいけない。
こっちは接客業だ。
どんなお客様にも丁寧かつ親切な応対を心がけるべし。
( ^ω^)「グルメデラックスのMサイズが一枚で、1900円になりますお」
('A`)「ほい、これ」
(;^ω^)(小銭ばっかかお……数えるの面倒くさいお……)
ブーンがせっせと勘定していると、突然ドクオのポケットから携帯の着信音が鳴った。
( ^ω^)(おっ?)
ところが、ドクオは全く出ようとしない。
むしろ『出たくないのでは』と思わせるほど、音を完全に無視している。
( ^ω^)「あの……出なくていいんですかお?」
恐る恐るブーンは聞いてみた。
('A`)「……いいんだよ、どうせ親父だしな」
( ^ω^)「ですが……」
('A`)「言うことは同じことばっかだからいいんだよ。
田舎に帰って来い、そればっかりだ」
半分怒り気味にドクオが答える。
携帯から鳴り続ける明るいメロディーが不釣り合いだった。
( ^ω^)「……僕が言うのもなんですが、ちゃんと話した方がいいと思いますお」
('A`)「あぁ!? いちいちうるせぇんだよ!
親父はな、俺に家業の畳屋を継がせようとしているんだよ。
俺はそんなもん全然興味ねぇし、何より今更職人を目指したって遅いだろうが!
……俺はな、安月給だがちゃんと仕事もある。仕送りだってしている。
親孝行なんざ、それで充分だろうよ!」
(;^ω^)「……」
流れる沈黙。
聞こえてくる音は携帯から流れる旋律だけだった。
('A`)「……まっ、確かに何年も顔を見せてないのは悪いと思ってるけどな……。
でもそれも、遅いんだ。完全に会う時期を逃しちまってるんだよ。
俺はいつもそうだ。何をやったって遅いんだ。
本当に……情けねぇ……」
最後の弱々しい一言に、はっと反応する。
( ^ω^)「……そんなことは、ないと思いますお」
('A`)「んあ?」
ブーンが突如としてその口を開き、言葉を紡いでいく。
( ^ω^)「何をやるにも、遅すぎるなんてことはありませんお。
僕はこうしてピザの宅配員をしているから、よく分かりますお。
当店のポリシーは『素早く、熱々のまま、美味しいピザを届けよう!』ですお。
おかげさまで、お客様から『配達が遅い』とクレームがついたことは
ありませんお。
だって僕たちはいつも懸命に、出来る限りのことをしているんですお!
それが例え、時間的には少し遅かったとしても……。
相手に喜んでもらえたなら、それは遅いだなんてことはないんですお」
熱弁を振るうブーン。
( ^ω^)「畳屋を継がなくても、お客様が顔を見せるだけでご両親は喜ぶと思いますお。
それがいつになったって、遅くなんかないんですお」
真摯な態度で、そう言い切った。
('A`)「……なぁ」
( ^ω^)「おっ?」
('A`)「あんた、なんでピザの宅配なのにそこまで踏み込んでくるんだ?」
(;^ω^)「おおっ!?」
ここでようやく、ブーンは自分の発言の大きさに気が付いた。
(;^ω^)「申し訳ございませんお! 失礼なことを申しましたお!」
('A`)「……いや、失礼なんかじゃねぇよ」
もう鳴り止んだ携帯を握りしめて、ドクオが呟く。
('A`)「いつだって遅くなんかない、か……。いいこと言うじゃねぇか」
ドクオの手に包まれた携帯は、音を発することはなかったけれど、
その代わりに優しい熱を感じ取っていた。
('A`)「俺、後で電話掛けなおすわ」
(;^ω^)「あうあう、僕は大それたことを……」
('A`)「何言ってんだ。俺は感謝したいぐらいだよ。
あんたの言葉、ちょっと感動しちまったぜ」
(;^ω^)「おっおっ」
('A`)「まっ、とにかく……掛けなおすのはこのピザを食った後だな」
( ^ω^)「あっ、そうですお。なるべく熱々のままお召し上がりくださいお」
('A`)「ああ、そうするさ」
ドクオはピザの容器を手に、ブーンに最後の一言を告げた。
('A`)「あんたの店のピザ、また今度頼むよ」
最後の宅配を終え、スクーターに腰掛け一息つく。
(;^ω^)「なんか、今日はいろいろとあったお……」
そうぽつりと呟いたところで、今度はブーンの携帯が鳴り響いた。
( ^ω^)「もしもし?」
( ´∀`)『ブーン君、宅配は終わったモナー?』
( ^ω^)「おー、丁度今終わったところですお」
( ´∀`)『新しく注文が入っているモナ。急いで帰ってきてほしいモナー』
( ^ω^)「了解だお。すぐに戻りますお!」
腕時計を見るとまだ正午を過ぎたばかり。
これからが忙しくなる時間帯だ。
( ^ω^)「飛ばすおー!」
澄み切った青空の下、ブーンの乗ったスクーターは走り続ける。
熱々のピザと、たくさんの夢を運びながら。
この小説は2007年8月10日ニュース速報(VIP)板に投稿されたものです
作者はID:PHG84p3f0 氏
作者がお題を募集して、それを元に小説を書くという形式のものです
お題・部屋
・酸素
・Yシャツ
ご意見等あれば米欄にお願いします