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(,,゚Д゚) Have the death and compensate (゚∀゚ )


はじめてブーン系小説を読む方はこちらへどうぞ




前どっかの文献で見た。

『神は自分の子供だけを愛す』

とんだ親馬鹿野郎だ。

まあ別に俺は神なんて信じてねーし?

神なんて信じてる奴は心が弱いとしか思えねー。

こんな所に駆り出された時点であんな奴死ねって思ったね。

呪いで奴が殺せるなら、既に百回は奴を殺してる。

上官は奴を信じきってやがる。

毎朝奴にお祈りして、それで人が死なないと思ってやがる。

クソ食らえ。

「今この場に君達がいるのは、神の加護おかげだ」なんて都合の良いこと言いやがって。

じゃあ死んだ奴は神の加護がなかったからなのか。

クー程熱心に神を信仰してた奴を俺は知らねー。

神の加護が本当にあるのなら、ここにいるのは俺じゃねーはずだ。
おまえらでもねー。あいつだろ。

もう全員死んじまえ。



20070623060718.jpg



・・・・・・


人の呻く声がそこらじゅうから聞こえる。うるさくって眠れやしない。

あまりのうるささに耐えきれず俺は体を起こし目を開けた。
目を開けてみると、通路を挟んで正面に焼けただれた皮膚を晒し、
ピクリとも動かずベッドに寝ている人が目に入った。

ああ、思い出した。


「死んだと、思ったのにな…」

俺は誰にも聞こえないような声でそう呟いた。

おもむろに顔を左に向けると、ひび割れたコンクリートの壁があった。

そのまま体を捻り後ろを見ると、またもコンクリートの壁が出迎えてくれた。
有り難い。どうやらこのベッドは端っこに位置するようだ。

体の向きを正面に戻し、今度は部屋全体を見渡してみた。

さっきは気づかなかったが、なかなか広い。小学校の体育館ぐらいか。

ベッドが綺麗に並べられてあって、その間を医者や看護士が忙しく走り回っていた。

数えてみた所、ベッドは6列×30台だった。余す所なくスペースを使い切っている。
おかげで隣の死に損ないと手がつなげそうだ。
これまた有り難いことだ。

ポツリポツリと天井からぶら下がっている蛍光灯、それ以外は医者が使うライトのみが光を放っていた。
部屋の窓という窓には板が打ちつけられていて、昼か夜かすらわからない。

見ていて吐き気のする光景だ。死に損ないしかいねえ。
現状を把握した俺は目前の現実から逃れるため、ベッドに倒れるように寝た。

だが現実はそんなに甘くない。
視界に入れずとも、耳から周りの情報が嫌でも入ってくる。
俺は天井にある梁をあみだくじに見立てて目で追う事に集中し情報をシャットダウンした。
朝礼の時よくやったなぁコレ…懐かしい。

しばらくあみだを楽しんでいると呻き声以外の声が聞こえた。


「ギコ君、足は痛む?」

俺は飛び上がって足下に立つ看護士を見た。


「しぃ…?」

「久しぶり」


久しく見た幼なじみの疲れた顔がそこにはあった。


「びっくりしたよ。まさかギコ君が運ばれてくるなんて思わなかった」

「…」

幼なじみは苦笑いを浮かべながらそう言った。
顔をこちらに向けているだけで、その目は俺のずっと後ろにある物を見ている感じがした。
俺はそんな幼なじみに何を言っていいかわからず、黙って次に幼なじみが口を開くのを待った。


「足はどう? 痛い?」
「いや、痛みはない。大丈夫だ」

「そう。よかった」

幼なじみはそう言って微笑んだ。その目は何も見てないように見えた。

ガラガラという音と共に幼なじみの後ろの方に光がさしたのが見えた。
幼なじみが振り返って光の方向を見る。
さっき暗くて見えなかったが、どうやら向こう側の壁にドアがあるらしい。


「新しい人が来たみたいだから、私行くね」

幼なじみは顔だけこちらに向けて軽く手を振った。
おう、頑張れよと慌てて答え、俺も軽く手を振る。
俺の慌てた姿が面白かったのか、幼なじみはクスッと笑ってからドアの方に小走りで向かった。
後ろ姿を見て初めて気付いた。
最後に会った時はショートカットだった綺麗な茶髪が、今はボサボサで肩より下まである。
そして、あれだけ嫌っていたはずのゴムを使い、髪を後ろで束ねていた。

それからしばらくドアの方向を眺めていた。
よく見ると、微妙に光が漏れてるのが見える事を発見した。

締め切る事が出来ずそれによって出来る隙間から光が漏れるのだろうか。
それとも単なる締め損ないだろうか。

意味のない事を色々考えた。


「起きたんだ。調子はどう?」
「うおっ」

いきなり声をかけられてビクッと体を震わせてしまった。震度6。
いつの間にいたのか、松葉杖を持ったウェーブのかかった金髪の女性が足元に立っていた。ツンだ。


「お前もいたのか」
「いちゃ悪い?」
「…そんな事言ってねえよ。相変わらずだな」
「あんたもね」


思わず苦笑した。
予想通りというか何というか。


「何がおかしいのよ」
「いや、変わってねえなと思ってな。その癖っ毛も」

俺は笑いをこらえながらツンの髪に視線を移す。


「それの何がおかしいのよ。てか髪の事は言わないで。
 暗いからわからないけど、酷いんだから」
「そうなのか? よくわかねえけどな」

「…あんた、自分の足なくなったってのに、余裕ね。
 それとも気付いてないのかしら」


ツンが膝から先がなくなった俺の左足を見下ろして辛辣に言い放った。
ツンとしては、せっかく心配してやったのに、杞憂で終わったのが気に入らなかったんだろう。
けどお前それは酷いだろお前。

俺は、何も言えなくなって黙り込み、視線を落とした。


「あ…ごめん」

「…」
「…ごめんなさい」


ツンが消え入るような声でそう呟き、俯いた。
ドアの方から男の叫び声が聞こえた。先ほど運ばれた奴だろうか。
俺がそっちに顔を向けると同時に、ツンが手に持った松葉杖を突き出した。


「これ。一応、渡しとくわね」
「…おう、サンキュー」

ツンの声が震えている事には触れない事にした。
俺が松葉杖を受け取るとツンは俯いたままドアの方に早歩きで行ってしまった。

ドアの方に歩くツンを、赤ん坊のように目で追った。
そのうちツンを見失ってしまい、俺はおもむろに俯いた。
俯いてしばらくしてから初めて、自分がトランクス一丁な事に気付いた。ひよこ柄だった。


「…俺こんなセンスないパンツ履いてドンパチやってたのかよ。そりゃ足もなくなるわな」

自嘲気味に笑うと、ポタッとひよこパンツに水滴が落ちた。


「は? え?」

俺は、自分でも気付かないうちに泣いていた。

「…そうだな。ひよこパンツは泣けるな」



・・・・・・



「~~から取れた~~~、~~~の山で採れた~~~、すべてに感謝し、ここに~~~」

部屋の中心にわざわざ台を置き、その上で演説を始める信者。うざったい事この上ない。
ここは神の信者の集いか。そんなのどうでもいいからさっさと飯を食わせて欲しいものだ。
飯といってもスープだが。

「祈らないのか」

いきなり、正面のベッドの奴が寝ながら話しかけてきた。
あれから前の火傷の奴がいなくなり新しい奴が来たのだ。
こいつは右肘から先がないだけで、他は大きな外傷は見られなかった。黒いトランクスを履いている。

「いや、祈ってるさ」

俺は適当に答えた。
嘘をついてはいない。別に祈ってない訳じゃないからだ。

「そうかい」

「お前は祈らないのか」

「ああ、面倒だろ?」

男はベッドに寝ながら、ダラダラ演説をしている信者に顔を向けた。


「神さまありがとう~って馬鹿らしい」
「同意だな」
「神さまなんて人間の作った虚像だ。んなもん信じるほうが馬鹿げてる」


男が言い終わらないうちに演説が終わった。
俺は待ってましたと手の中にある皿を口に持っていきスープをすする。

スープをすすっていると前の男がまた話しかけてきた。


「まったく、左手一本じゃ食いづらいよ」

「大変そうだな」
「ああ。でもあんた足だろ? どっちもたいして変わらないさ」
「そうだな」

「まあ、大変だけど死ぬよりましだ。知ってるか?」
「何をだ?」
「俺らみたいに五体満足じゃなくなった奴は兵士じゃなくなるらしい」

「…有り難い話だな」
「だろう? これ聞いた時は人生で初めて神さまを信じたね」


そういうと男はニヤリと笑った。
つられて俺もニヤリと笑った。


「俺はジョルジュ。宜しく」

「ギコだ。こちらこそ」



「明日にでも工場か田畑に駆り出されるらしいぜ?」
「明日…早いな。…まあ確かに俺らみたいな健康な奴はここにはいられねえか」
「うは、ちげーねー」

「お仲がよろしいのね。同じベッドにして差し上げましょうか?
 そうしてくれると助かるんだけど?」


カートを押しながらツンが話に入ってきた。皿を回収しにきたようだ。
初対面なのに関係なく物を言えるツンは何時も凄いと思う。
だがジョルジュも負けていなかった。


「いやいや、俺と君が同じベッドで寝ればそれで万事解決!」
「おあいにく様。私には心に決めた人がいるのよ」
「あらーそうかい。そりゃ残念」

ジョルジュはわざとらしく溜め息をつく。

「しぃは?」
「寝てる。会いたいならあと三時間ぐらい待ちなさい。あの子見回りだから」

「おk! 俺は待つぜ!」

ジョルジュがダンディーな顔で親指の立てられた拳を天高く掲げた。
だが触れない事にする。

「そうか。ありがとう、ツン」
「あら、今日は素直ね」
「うるせえ」

ツンがカートを押してフェードアウトした。
ジョルジュはダンディーな顔のままで固まっている。



・・・・・・



消灯から一時間は経っただろうか。こっちにライトを持って歩いてくる人影が見える。
恐らくしぃだろうと思い、俺はゆっくり体を起こした。
すると、人影が少し驚いて声を出した。


「ギコ君、起きてたの?」
「ああ。ジョルジュ、しぃが来たぞ」

俺が言うより早く、半分寝ねていたジョルジュが飛ぶように体を起こした。

「おお! 貴女がしぃさんですか! お美しい!」
「ふふふ、どうも。こんばんは、ジョルジュさん。しぃです」
「こんばんは! ジョルジュといいます! ギコ君の親友のジョルジュです!」

「ジョルジュさん、面白い人ですね」


しぃがふふっと笑った。俺は久しぶりにしぃの笑顔を見た気がした。

「しぃ、大丈夫か? 疲れてねえか?」

「ん、大丈夫だよ。それよりギコ君、お夕飯の時ちゃんとお祈りした?」


ベッドに手をついて、しぃが俺の顔を覗き込むように見てきた。
まずい。
俺はしぃと目が合うと嘘がつけない。そしてしぃは、いつも俺に対して顔を近づけて話す。非常にまずい。


「いやいやしぃさん、彼ほど熱心にお祈りしてた奴はいませんでしたよ」

「え? ほんと?」


しぃが振り返ってジョルジュに尋ねた。ジョルジュは真っ直ぐしぃの顔を見返している。
俺は呆気にとられてジョルジュを見ていた。


「そりゃもう、俺なんか彼に怒られたぐらいですよ」
「昔は私に怒られて嫌々お祈りしてたのに。ギコ君が?」

しぃがじりじりとジョルジュに近づいて行く。

「あーと、聞けば、彼は、どうやら戦場に出てから信仰が深まったようで」

しぃに迫られ、苦しそうに笑顔を作っているジョルジュ。俺は固唾を飲んで行く末を見守った。

「俺が今生きてるのは神の加護としぃさんのお祈りのおかげ、と、今日1日で二回聞きました」

「…ギコ君が…」


俺は思わずジョルジュにGJサインを出した。ジョルジュもニヤリと笑いウィンクを返してきた。

「ほんとに?」

しぃが急に振り返って問いかけてきた。俺は慌てて手をしまった。

「あ、ああ」
「へー」

しぃは嬉しそうな顔をしながら俺のベッドの脇に来ると、俺の右手のすぐ近くに腰掛けた。

「じゃー朝もしっかりお祈りしてるんだ?」

ベッドに腰掛けたまま体をひねって、俺の右手に手を重ねて話しかけてくるしぃ。またしても近い。
俺はつい「あ、いや…」と漏らしてしまった。
それを聞いたしぃの顔がみるみるうちに曇っていく。

「して、ないの?」


\(^o^)/


「いや、彼は、やっぱり戦場では毎朝祈るのは難しい、毎朝は祈れないと言ってましたよ」


しぃが「そうなの?」と聞いてきた。
俺はボソボソと「ああ…」と答える。それが精一杯だった。
頑張れジョルジュ。お前だけが頼りだ。

「毎朝祈る時間がとれないのがつらい、祈らせてくれない上官が腹立たしいとも言ってました」
「へー」


ジョルジュが頑張ってくれて助かった。俺は急いで別の話題をふる。

「しぃ達はいつからここにきたんだ?」
「んーと。ギコ君が行って、ちょっと経ってから、かな」
「ツンも一緒にか?」


よかった。
どうやらうまく話題を変える事が出来たようだ。

俺達はそれからしばらく雑談した。

聞けばしぃとツンは一緒にここに来たらしい。まあ同じ地区で家も近けりゃ必然か。
あとはツンの思い人の話。
さっきは触れなかったが、しぃ曰わくこの戦争が終わったら結婚しようと言われたとかなんとか。…。

見回りの時間は平気なのかと聞くと、ここが一番最後に見回りする場所だから大丈夫と言われた。
「ギコ君が運ばれて来たときに、ツンちゃんがギコ君のベッドをここにしてくれたの」と嬉しそうに続けた。
これは明日ツンに礼を言わなければ。

そして話題がこれからの事になった。
五体満足じゃなくなった兵は明日から工場通いだという事を話した。


「なら、毎朝ちゃんとお祈りしないとね。宿題だよギコ君」

「…ああ」

しぃの抜け目のなさに脱帽。


「やっぱお祈りってそんな大事なもんなんですかねー?」

ジョルジュがいきなり口を開いた。俺もしぃも驚いてジョルジュを見る。

「僕、前に文献で見た事があるんですよね。『神は自分の子供だけを愛す』って」
「……」
「それからなんか、お祈りは意味あるのかなーなんて」

「ジョルジュさん、それは誤解ですよ」
「そうなんですか?」

「はい。神の子供は人間、いえ生ける物全てですから」

「……」


「だから、信じる者は、全て救われます」


しぃがはっきりした口調でそう言った。


「…俺も、真面目にお祈りするか。やる事ないしな」
「そうよ? ギコ君ちゃんと朝起きなさいね」
「ああ。大丈夫だ」

「じゃあ明日朝一緒にお祈りしようか。ジョルジュさんもご一緒しませんか?」
「しぃさんが宜しければ是非とも!」

「じゃあそろそろ寝ましょうか。もう遅いですしね」

「はい!」


ジョルジュはしぃの姿が見えなくなるまでブンブンと左手を振っていた。
といっても暗いのですぐ見えなくなったが。


「可愛い人だな」

俺が名残惜しそうに何時までもしぃの持つライトの光を見ていると、ジョルジュがそう言った。
ジョルジュも同じようにライトの光を見ているようだ。


「…ありがとなジョルジュ、助かった」
「お前も大変だな。適当に嘘とかついてごまかせねーのか?」
「ああ、昔からな。あいつの目を見ると駄目なんだ」

俺は向こう側でライトの光が消えるのを見届けてから顔を正面に戻した。
ジョルジュは既にこちらを向いていたようだ。

「彼女悲しませちゃ駄目だぜ? ちゃんと毎朝お祈りしろよ?」

ジョルジュがへらへらと笑いながら言った。
俺はむすっとしてジョルジュを睨む。

「うるせえ。寝るぞ」

俺はそう言ってベッドに寝る。

「そうだな。朝早く起きてお祈りしねーと」

足側からジョルジュの茶化したようなセリフが聞こえた。
俺はそれを無視して、寝る事にした。



・・・・・・



朝。
左足を失ってから初めて松葉杖を使って歩く事になった。
と言うのも、近くに礼拝堂があり、そこにわざわざ祈りに行くらしい。
正直ダルかったが、約束してしまった手前、行かざるをえない。

リハビリと思って礼拝堂まで歩く事にする。
ジョルジュはどんなに強く揺すっても起きなかったので置いてきた。多分寝たフリだ。逃げやがったこの野郎。



・・・・・・



「どうだった? 久しぶりに愛の営みは出来たか?」

殺してやろうかこの野郎。
手に持った朝飯も食わずにニヤニヤしながら馬鹿な事を聞いてくるジョルジュ。
やはり今朝は狸寝入りだったようだ。


「お前は…」
「おっと待て待て、怒るなよ。2ヶ月も逢えなかった恋人同士の奇跡的な再開…
 それを邪魔するのは野暮ってもんだ。なぁ」
「く…」

「お前が逆の立場だったらどうだ。まさかこんな所で最愛の人と再開するとは…。
 そんな美しい奇跡を、お前は、踏みにじるのかーッ!」


ジョルジュが憤怒の形相で俺を指差しながら大きな声を出した。

「俺の立場で考えても見ろ! 俺は間違ってねー。最善の選択をしたね」

ジョルジュはそう言って納得したように頷いた。

確かにジョルジュの言う事は一理ある。ここは大人しく引き下がる事にした。
礼拝堂までかなり歩いたのには目をつぶろう。

「…悪いがお前が期待しるような事は何一つ無かったぞ」
「なにぃ? 嘘をつけ。2ヶ月ぶりだってのに…」
「悪いがな、俺達は、礼拝堂に、祈りに、行ったんだ。周りは人だらけだ。
 ツンにも会ったし、そんな事は出来なかった」

「なるほど。ツンちゃんに会ったのか。それは誤算だな。行けばよかった」

ジョルジュはしばらく悔しそうな顔をした後、皿に入ったスープを音をたててすすった。
俺もため息を一つついてからスープをすすった。昨日と同じスープだった。



・・・・・・



「じゃあ。出来るだけ会いに来る」
「それは嬉しいけど…無理はしないでね」
「ああ。わかってる」

「僕も会いに行きますよ!」
「あんたは別に来なくていいわよ」

工場に向かう前に、別れの言葉を交わしていく。
工場はここから近い所にあるようで、頑張ればここにも通えるようだ。

神よ、感謝します。


「また来ますからね~!」

トラックの一番後ろで荷台から身を乗り出し、笑顔で右手を振るジョルジュ。
肘から先がない腕を振るジョルジュは見てて痛々しく、俺はジョルジュの首根っこを掴んで荷台に座らせた。


「なんだよ、淡泊な奴だな」
「うるせえ」

俺は荷台に寄りかかると、初めて周りの視線に気付いた。
全員、恨めしそうにこちらを見ている。
俺はその目達に、軽く気圧されてしまった。

だが、いきなり全員が目を伏せた。
隣を見ると、ジョルジュが殺気立った目で、いつでも飛びかかれるように臨戦態勢に入っていた。
目に迷いがない。本気の目だ。
止めなければ死人が出るかもしれない、そう思わせる程の目を、ジョルジュはしていた。


「ジョルジュ、やめとけ」

「…」

ジョルジュはゆっくりとその場に座った。

走ってる最中に周りを見ていたが、視界に入って来るものの殆どが廃屋だった。
俺は自分の故郷を思い出し、こんな光景になってない事を心から祈った。



・・・・・・



工場に来てから一週間は過ぎただろうか。
そろそろこの臭い緑の作業服にも慣れてきた。

朝起きてお祈りし、工場で支給された飯を食い、作業をして、夜また支給された飯を食って、工場で寝る。
それの繰り返しだった。

しぃとは毎朝会っていた。
聞けば、この辺りの建物は礼拝堂を中心に建てられたらしい。
しかも工場と礼拝堂が予想以上に近く、松葉杖を使う俺でも30分程度で行けたのだ。
だから毎朝礼拝堂へお祈りしに行けば、その都度しぃに会えた。
神よ、ありがとう。

だが会えるという事は行かなければバレるって事でもある。
そんなに喜んでばかりもいられないような気もするな。

まあ、しぃに会うためなら頑張れるはずだ。
ノロケサーセンwwwwwwww


今日も1日、工場での単調な作業が終わりを告げた。
支給された飯を食い、自分の毛布にくるまった。
目を閉じてゆっくりと明日の事を考える。

明日も早く起きて礼拝堂に礼拝堂に行かなければ。
そういえばジョルジュはどうしたのか。工場に来た日以来見ていない。
まあ、失った部位が違うのだから、作業が違うのも当たり前か。
明日、ジョルジュを礼拝堂に誘ってみるか。




・・・・・・




俺は突然目が覚めた。
見ると青い作業服を着たジョルジュが小声で俺の体を揺さぶっていた。


「ギコ、起きろ。ギコ」
「な、なんだ?」
「いいから起きろ。早く。行くぞ」

ジョルジュはそういうと俺の手を掴み、引っ張り上げた。
俺はいつもとは雰囲気の違うジョルジュにただならぬ気配を感じ、素直に従う。


「わかったから松葉杖を取らせてくれ。…行くって、どこへだ?」

「いいから工場を出ねーと。あとこれ持ってくれ」

ジョルジュは俺にメロン大の白い布にくるまった物を渡してきた。重さも丁度メロンぐらいだ。


「わかった。…これはなんだ?」
「あとだ。開けんなよ」


俺はジョルジュに肩をかしてもらい、工場を出る。
工場の入り口のそばに、黒いジープが一台置いてあった。
ジョルジュはそれに乗ると、お前も乗れと言ってきた。俺は当惑しながらもジープに乗り込む。

ジョルジュはジープをすぐに発車させた。
黒いジープはひび割れた深夜の道路をガタガタ音をたてて進んでいく。

「なんなんだ? 一体」
「ここから10分くらいの所に丘がある。そこに着いたら全部話す」



・・・・・・



車が速度を落とし、止まった。
ジョルジュの言う丘に着いたようだ。ジョルジュはエンジンを止めるとゆっくりとジープから降りた。
俺もジョルジュに続いてジープから降り、ジョルジュのそばに座る。

丘を埋め尽くす雑草が、月に照らされている。
視界に広がるのは、かつて人が住んでいたであろう、廃屋となった街並みと、星が爛々と輝く夜空だ。

しばらくしてから、足を揃え左手をポケットに入れて立っているジョルジュが、口を開いた。


「綺麗な夜空だ」
「そうだな」


「…なぁギコ。あれ、見えるか?」


ジョルジュがポケットから手を出し、自分の右前を指差す。
指の先には崩れてはいないが、ボロボロの建物が建っていた。


「あれは…工場か?」
「ああ。あと気付いてるかもしれねーけど、正面に礼拝堂がある」

「あれか」
「そっからちょいと左に行けば、しぃさん達に会える」
「…こんなに近くにあったのか」


「見てろ」


三つの建物を指差したジョルジュの左手は、主のポケットから無線機のようなものを取り出し電源を入れた。

俺に見えるように、ジョルジュはそれのスイッチを押した。


瞬間


三つの閃光が見え



三度爆音が轟いた。



熱風が肌に触れる。
目の前で、先ほどジョルジュが指差した建物が炎上していた。
気付いたら俺は、ジョルジュに掴みかかっていた。


「お前!」


ジョルジュの胸ぐらを掴んだと同時に、パンッという乾いた音が聞こえ、右膝に激痛が走った。
俺の意志とは無関係に、俺の体は前に倒れ込んだ。


「っ…!」
「ギコ、安心しろ」

痛みに声をあげる俺を無視し、ジョルジュは車の助手席から
工場で俺に渡してきた白い布にくるまれた物を取ってきた。
それを地面に置き丁寧に布を開いていく。ジョルジュは中から出てきた物を俺に見えるように掲げた。

「ほら」

それはしぃだった。
首から下がなくなった、しぃの頭だった。


「しぃさんならここにいるから」


「…お前がやったのか?」
「ああ。ギコの為にちゃんと連れてきてやったんだぞ? ほら」

ジョルジュはしぃの頭を投げてきた。
俺はそれを受け取ると、急にしぃが死んだ事を実感してしまった。
頭が真っ白になった。


「…なんで、しぃが」
「おう、聞いてくれるか」


聞いてもいないのに、ジョルジュが語りだした。


「俺、神さま全く信じてねーんだ」

「クーって奴がいて、そいつが神さまの狂信者だったワケ」
「すんげー良い奴だった。俺の唯一の親友だった。最高な奴だった!」


子供のような笑顔でジョルジュが叫ぶ。俺はジョルジュが何を言ってるか理解しようと必死だった。


「俺はクーに言うワケよ。神さまなんているわけねー、信じる奴は馬鹿だって」
「でもクーは『神さまはいる。だからジョルジュと会えた』って」

ジョルジュは目を細めて、礼拝堂を見続けている。


「嬉しかったねー。俺もなんか神さま信じてみようと思っちゃったもん」

「でも」

「クー死んじゃったんだよねー」

「あれだけ熱心に信じてたのにねー神さまをねー」



「あれだけ、熱心に、信じてたのに!」

目を見開き眉根にしわを寄せ、肩を震わせてジョルジュが叫ぶ。


「戦争で! 戦場にいる、神なんてこれっぽっちも信じてない俺が生きて、今ここにいるのに!」
「農家で! 朝も早くから熱心に神に祈って夜も何時間も神に祈ってたあいつが死んだ! 殺された!」

ジョルジュは俺に背を向け礼拝堂の方にゆっくり歩いていく。


「世の中、間違ってる!」


ジョルジュは反り返って、両腕をあらん限りに広げ叫んだ。なおもジョルジュはうろうろと歩き続け、声を大きくして話す。


「吐き気がするね神なんて」
「腹立ったからさ、みんな殺そうと思ったね」

「あいつより神を信じてない奴が生きるのはおかしいだろ? 神さま的に考えて」

「俺は自分の腕が吹っ飛んだ瞬間に覚悟した」
「敵軍に潜り込んで、敵を全員殺してやろうって」
「上手くいったよ。敵兵の服ひっぺがして、怪我したって言ったら治療まで行ってくれた!」


そこまで言うとジョルジュは歩くのを止め、俺の方を向いて狂ったように笑い出した。


「ハハハはははは! 神さまありがとう~ってさ、まるで馬鹿みたいに感謝したね」
「するとそこには、飯時にろくに祈りもしねーで生きてる奴がいやがった」
「見るとそいつは、恋人と再会までしてるじゃねーか」


鋭い目つきで、真剣な顔で、言った。



「殺そうと決めた」



満面の笑みで、本当に幸せそうな顔で、言った。



「恋人の方だけをな」



そこまで言うと、ジョルジュはゆっくり歩いて、車に乗り込んだ。
車から身を乗り出し、ジョルジュが叫ぶ。


「ギコ、しぃさんに感謝しろよ。しぃさんが一生懸命お祈りしてたからお前を生かそうと思ったんだ」


エンジンが唸り、車が走り出す。

あとに残されたのは一本の松葉杖と俺、そして、しぃの頭だった。

俺は、もう見えなくなったジョルジュに向かって呟いた。


「悪魔…」


月に照らされた丘に、俺の声が消えていく。




~fin






この小説は2007年6月16日ニュース速報(VIP)板に投稿されたものです
作者はID:vx1Va9UmO 氏
作者がお題を募集して、それを元に小説を書くという形式のものです
ちなみにタイトルがなかったので、それっぽいタイトルを付けました


お題
・神は自分の子供だけを愛す
・宿題
・悪魔


ご意見等あれば米欄にお願いします


[ 2009/12/31 13:04 ] ナギ戦記 | TB(0) | CM(0)

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