はじめてブーン系小説を読む方は
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――VIP高校校則、部活動、委員会における規則――
『各部活動、委員会(以下集団)の長は、『力』のある者だけが就任権を持つ。
その『力』は基本、活動の為に使うべきだが、制限はしない。
また、その『力』を使い、他の集団の長同士が戦った場合
勝利した集団は、敗北した集団の予算、権限、その他全ての権利を剥奪できる。』
早朝、もう春と呼んでも差し支えの無い季節にも関わらず、外は少し肌寒い。
そんな中、VIP高校風紀委員長であるショボンは、日課である花壇の水遣りをしていた。
如雨露から流れ出る透明な水が、朝日を受けて輝いている。
ところが
(´・ω・`)「あれ? 肥料がもうない?」
普段使っている液体肥料が切れてしまっていた。
育てるからには最高の花を咲かせてやりたい。
そう思っているショボンにとって、これは悩ましい事態だった。
(´・ω・`)「……誰も、見てないよね?」
誰もいないのなら、その問いに答える者もいる筈が無い。
それでも聞いてしまうのは、やはり人間の性と言う奴だろう。
一通り辺りを見回し、再び花壇に如雨露を傾ける。
その口から出てくる液体は、鮮やかな緑色をしていた。
( ) 「……」
そして、校舎からその様子を目撃した者がいて
(´・ω・`)「さて、次は正門付近の掃除か。急がないとね」
それにショボンは気付かなかった。
時は流れ、朝のホームルームまで10分を切った頃、ようやくショボンの仕事が終わる。
(´・ω・`)「……ふぅ、ようやく終わったか。早いとこ教室に行こうかな」
下駄箱へ向かうショボン。
上履きを取り出し――何かがひらひらと落ちてきた。
(´・ω・`)「ん?」
落ちてきた物は、手紙だった。
ハートのシールで封がされている。
(´・ω・`)「こ、これはまさか……」
手早く封を開ける。
中には可愛らしい便箋が入っており、そこにはこう書かれていた。
『放課後、体育館裏に来て下さい』
丸みを帯びた控えめな文字は、間違いなく女の子のそれだった。
(´・ω・`)「……分かりやすい告白フラグktkr!!!」
頬を緩むのを、ショボンは抑えきれなかった。
ヘラヘラしながら階段を上っている内に、予鈴が鳴ってしまい、危うく遅刻になる所だった。
それ位ショボンは浮かれていた。
そして放課後。
(´・ω・`)「……えっと、君がこの手紙を?」
件の手紙を見せ、ショボンが問う。
とは言っても、別に相手が想像を絶するブスで、思わず聞いてしまったとか、そう言う訳ではない。
むしろ、その逆だった。
ξ ゚⊿゚)ξ「……そうです」
その女の子は、素人目にも分かるほど見事なキューティークルのクロワッサンヘアーを
それに真っ白な肌に、パッチリと大きく、ガラスの様に綺麗な目を持っていた。
少し生意気そうに尖った唇も、手を後ろで組んでいるのも、健気さを醸し出して、とても可愛らしい。
尚、コーンブロンドの髪色は校則違反だが、ショボンは華麗にスルーした。
(´・ω・`)「えっと、お名前は……」
ξ ゚⊿゚)ξ「必要ないわ」
(´・ω・`)「へ?」
ξ ゚⊿゚)ξ「だってアナタ、ここで死ぬもの」
刹那、女の子が、後ろで組んでいた腕を突き出す。
その手には、鋏が握られていた。
(´・ω・`)「うわっ!?」
ショボンが慌てて飛び退く。
鋏は空を切り……、ショボンの左腕から鮮血が噴出した。
ξ ゚⊿゚)ξ「……ちっ」
その可愛らしさからは想像も出来ないような舌打ち。
ショボンは、暫く自分の腕を眺めて
(´・ω・`)「なんのつもりかは知らないけど、……ここは人目につく。
校舎裏の、駐車場に行こうじゃないか」
脇の下を抑えながら、ショボンが言う。
脇の下には動脈が通っており、ここを抑える事は効果的な止血と言える。
……だがそれは、一風紀委員長が知っているような知識ではなかった。
何か理由でもあるのだろうか。
ξ ゚⊿゚)ξ「嫌よ。だって、アンタが本当にここを離れたい理由は――」
再び、女の子が鋏を振りかぶる。
今度はショボンも反応出来た。大きく横に跳ぶ。
ξ ゚⊿゚)ξ「――ここが狭いからでしょ!?」
鋏はまたも空を切る。
そして、今度は体育館の外壁が大きく抉れた。
(´・ω・`)「お互い様だよ。君がここを選んだ理由も、狭いからだろ?
……と言うか、風紀委員としては、学校を壊されるのは望ましくないんだよね」
ξ ゚⊿゚)ξ「違うわ。委員長でしょ?」
(´・ω・`)「……ともかく、君が僕の要求を飲んでくれないのなら」
ξ ゚⊿゚)ξ「飲んでくれないなら、何よ?」
2人を沈黙が包み……、ショボンがゆっくりと、口を開いた。
(´・ω・`)「逃げる」
言うが否や、ショボンは身を翻し、走り出した。
目指すは校舎裏の駐車場。
ξ ゚⊿゚)ξ「あっ……ちょっ、待ちなさい!」
(´・ω・`)「だが断る」

あまりに唐突な、そして拍子抜けな逃亡に、女の子は一瞬出遅れてしまう。
彼女が自分のトップスピードで走るようになった頃には、既にショボンは校舎裏への角を曲がっていた。
そして、女の子が校舎裏への角を曲がった頃には、呼吸を整えたショボンが待っていた。
ξ ゚⊿゚)ξ(今攻められたら……、ちょっと捌ききれないかもね。相手の力にもよるけ……)
(´・ω・`)「やぁ、ようこそ校舎裏へ。この会話はサービスだから落ち着いて休んで欲しい」
ξ ゚⊿゚)ξ「……え?」
(´・ω・`)「だって、フェアじゃないじゃないか」
自分を狙っている相手に、フェアじゃない。
普通ならありえない言葉。女の子も戸惑いを隠せないでいた。
ξ ゚⊿゚)ξ(何なの? 罠? ……罠でも、乗るしかないわね)
(´・ω・`)「とりあえずさ、自己紹介でもしようよ。
名前とか、所属とか、武器とか……、あとその能力とかさ」
ξ ゚⊿゚)ξ「なっ……、嫌よ! 何で敵に……」
(´・ω・`)「いいじゃないか。どうせ僕には、もう君の能力も見当がついてるんだし」
ξ ゚⊿゚)ξ「……っ!?」
信じられない、と言った様子だった。
当然だ。まだ2回しか見せていないのに、既に見切られた。
そして、自分はまだ、相手の能力を殆ど知らない。
相当に不利だ。
ξ ゚⊿゚)ξ「……名前はツン。所属は手芸部」
どうせ知られているのなら、出来るだけ休憩を引き伸ばした方がいい。
そう判断したのか、ツンと名乗る女の子は自己紹介を始めた。
ξ ゚⊿゚)ξ「……武器は鋏、能力は『斬鉄』アタシの鋏に、斬れない物は無いわ」
(´・ω・`)「なるほど。……凄い能力だね。どんな物でも斬り裂いちゃう、か」
ξ ゚⊿゚)ξ「へ?」
(´・ω・`)「あ、ゴメン。さっき能力が分かってるって言ったの、嘘なんだよね」
ξ ゚⊿゚)ξ「なっ!? ……っ」
ツンは、声に出して驚いてしまった事を少し恥じ、そして、今はそんな状況じゃ無い事を悟った。
完全に嵌められ、能力は完全に露見した。
戦況的にも、精神的にも、完全に上を行かれた。
(´・ω・`)「じゃ、次は僕の番かな。名はショボン。お察しの通り風紀委員だ」
ξ ゚⊿゚)ξ「……って、何でアンタまで自己紹介してんの?」
(´・ω・`)「ん? だからさ、フェアじゃないじゃないか。
これまた見られちゃったみたいだけど、武器は如雨露ね」
ξ ゚⊿゚)ξ「……」
当然の疑問に、当然のように答えを返す。
ツンは、今度は別の意味で動揺していた。
そんなツンを半ば無視して、彼は鞄から朝の如雨露を取り出した。
(´・ω・`)「能力は『泉湧ク』この如雨露からは、どんな液体だろうと出す事が出来るんだ」
ξ ゚⊿゚)ξ「……そんな能力?」
(´・ω・`)「ショボイと思うかい? 構わないよ。僕は他の部活や委員会の権限なんて欲しくないんだ
この能力は、ただ委員長になるためだけの能力なんだよ」
ξ ゚⊿゚)ξ「……ご立派ね。でも、そんな能力じゃ……、自分の委員会も守れないわよ!」
完全に体勢を整えたツンが、大きく鋏を振り上げる。
(´・ω・`)「その攻撃はもう見切ってる。今度は嘘じゃないさ」
鋏は、横薙ぎに振られた。
ショボンは落ち着き払って、その場にしゃがみ込む。
ξ ゚⊿゚)ξ「嘘っ!?」
(´・ω・`)「言ったろうに、嘘じゃないって。
君のその攻撃は、所謂鎌鼬だろ? 『斬鉄』で、空気を斬ったんだ」
図星だった。ツンは、今度もハッタリだと思っていたのに。
ξ ゚⊿゚)ξ「……だったら、コイツはどう!?」
鋏を持ち変える。握り締めるのではなく、正規の構えだ。
そして再び空を斬った。
(´・ω・`)「それで何か変わるのかい?」
ξ ゚⊿゚)ξ「えぇ……、手数よ」
ツンは更に空を斬った。手早く、続けざまに2回。更に3回、4回、5回と。
幾重もの鎌鼬が、ショボンを襲う。
(´・ω・`)「甘いね」
まだ、ショボンは落ち着いていた。
何事も無いかの様に如雨露を掲げ、呟く。
(´・ω・`)「『水』の生成」
如雨露の口から水が噴き出る。
それは空中に広がり……、『道』を作り出した。
水を斬り、姿を現した鎌鼬を、ショボンは的確な動きで避ける。
(´・ω・`)「さて、諦めてもらえないかな? 僕からは手を出すつもりはない」
ξ ゚⊿゚)ξ「……ふざけないで! こうなったら……接近戦よ! もう手加減は出来ないからね!」
ツンがショボンへ向けて走りだし、鋏を振るう。
だが、鋏自体のリーチはそれ程長くない。
ショボンは全ての攻撃を捌いていた。
(´・ω・`)「うーん、仕方ないな。『オイル』の生成」
ショボンが呟き、今度は如雨露からドス黒い液体が流れ出る。
勢い余ったツンはそれに足を踏み入れ……
ξ ゚⊿゚)ξ「きゃ!?」
足を滑らせ、見事に尻餅をついた。
ξ ゚⊿゚)ξ「いたた……」
(´・ω・`)「『オイル』の消失。『瞬間接着剤』の生成」
ξ ゚⊿゚)ξ「え? あ、ちょっと! そんな!」
ツンの制服と地面は完全に張り付いてしまった。
ツンが必死でもがくが、最早身動きは取れなくなっていた。
(´・ω・`)「これで、もう何も出来ないよね。大人しく説得されてくれると助かるんだけ……」
ξ#゚⊿゚)ξ「怯むと、思うの?」
(´・ω・`)「え?」
ξ#゚⊿゚)ξ「これしきの事で……、アタシが怯むと思うの!?」
繊維の裂ける音がした。ツンが立ち上がる。
制服は、そしてスカートも、ズタボロになっていた。
(´・ω・`)「君……なんでそんな真似を? 制服を斬っちゃったら……」
ξ#゚⊿゚)ξ「アンタに勝てば、何の問題も無いのよ!」
(´・ω・`)「僕に勝てば……? 一体どう言う……」
ξ#゚⊿゚)ξ「うるさい!」
ツンが突きを繰り出す。
正確に心臓を狙っていた。
(´・ω・`)「やめて欲しいな。僕は君と戦う理由が無いんだ」
ξ ゚⊿゚)ξ「……じゃぁ、理由があれば戦うのね?」
(´・ω・`)「……?」
訳が分からず、言葉に詰まるショボン。
答えを待たずに、ツンは話を続けた。
ξ ゚⊿゚)ξ「理由、作ってあげるわ! これでどうよ!」
そう叫ぶと、彼女は校舎に向き直り、これまでに無いほど激しく、大きく鋏を振るった。
最大級の鎌鼬が校舎を襲い
『×××』や『ピーーー』や『禁則事項』的な文字を刻み込む。
さながら公衆便所の壁のようだ。
ξ ゚⊿゚)ξ「ハァ……ハァ……、どう? これで、戦う理由は十分じゃない?」
ショボンは愕然としていたが、やがて
(´・ω・`)「……貴様」
とだけ呟いた。
ξ ゚⊿゚)ξ「な、何よ! 凄んだって、怖くなんか無いんだか……」
(´・ω・`)「黙れ。……死を持って我が校の風紀の礎となれ」
ショボンの目は虚ろに据わっている。
ツンを睨み、ブツブツと呟いているその様は、狂気の沙汰としか言いようが無かった。
(´・ω・`)「『オイル』の大量生成」
ツンを中心に、夥しい量のオイルが撒き散らされる。
うろたえるツンには目もくれず、ショボンはポケットに手を突っ込む。
そうして100円のライターを取り出した。おそらくは没収品だろう。
(´・ω・`)「逃げ場は無いぞ。くたばれ」
それだけ言って、ショボンはライターを地面に叩きつけた。
回転ドラムが、乱暴にフリントを削り、火花が生ずる。
今度は道などと言う、甘っちょろい言葉では到底形容できない。まさしく、火の海が出来上がった。
ξ ゚⊿゚)ξ「ひっ!? ……嫌! そ、そうだ。真空!」
縦に鎌鼬を放つ。
真空によって、火の海に道が生まれた。
急いでそこを駆け抜ける。
(´・ω・`)「飛んで火にいる夏の虫。ん? 逆かな?」
ξ ゚⊿゚)ξ「しまっ……!」
火の海はフェイクだった。ショボンは見越していた。
真空を作り出すツンならば、火の海から脱出する事さえも。
(´・ω・`)「『オイル』の消失」
一瞬にして火は消え去り
(´・ω・`)「『液体窒素』の大量生成」」
液体窒素。科学に疎い人間でも、何となく聞いた事はある筈だ。
超低温を誇り、ほぼ全ての物質を凍らせる液体。
それが今、ツンの頭上から降り注いでいる。
ξ ゚⊿゚)ξ(真空を……駄目、間に合わない!)
(´・ω・`)「エターナルフォースブリザードとはいかないが、君は死ぬよ」
ξ ;⊿;)ξ「いやぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」
結局ツンが出来た事は、目を瞑る事位だった。
長い時間が流れ……
ξ ゚⊿゚)ξ「……あれ?」
いつまでたっても、液体窒素は降って来なかった。
(´・ω・`)「……申し訳ないね。取り乱してしまって。
液体窒素は、寸での所で消させてもらったよ」
ξ ゚⊿゚)ξ「……アタシ、生きてるの?」
(´・ω・`)「……あぁ」
その言葉を聞くなり、ツンはショボンにしがみ付き、泣き出してしまった。
そんなツンの頭を、ショボンはよしよし、と叩く。
ξ ;⊿;)ξ「ひぐっ……ぐすっ……怖くなんか、怖くなんか無かったんだからぁ!」
(´・ω・`)「……本当にごめんよ」
2人は暫くそのままだった。
やがてツンは泣き止み、ショボンから少し離れた所に座った。
ショボンも、その隣に座る。
ξ ゚⊿゚)ξ「負けちゃったかぁ……」
(´・ω・`)「……君は、風紀委員の権限で何をしようとしたんだい?」
ξ ゚⊿゚)ξ「……手芸部は、部員皆が、各々の心を込めた服を作るわ。でもこの学校は……」
(´・ω・`)「私服禁止、だったね」
ξ ;⊿;)ξ「そうよ。分かる? 私達の気持ちが。
どんなに頑張って作っても、自分達は、それに袖を通す事すら出来ないのよ!?」
ツンが再びしゃくり出す。
今度の涙は、恐怖じゃない。悔しさからだった。
(´・ω・`)「……まだ、手はあるよ。いたってシンプルな手がね」
ξ ;⊿;)ξ「え? ……何?」
(´・ω・`)「制服に関する取り決めは風紀委員が決める。そして僕は風紀委員長だ。
……明日、校長先生に書類を出すよ。
制服の撤廃に関するアンケート、勉強面、生活面へのメリット
それら全てを纏めた書類をね。……もちろん、でっち上げで」
それだけ言うと、ショボンはチラッとツンの方を見る。
案の定、ツンはキョトンとしていた。
大きな目を更に大きく見開いていて、凄く可愛らしかった。
ξ ゚⊿゚)ξ「……どうして?」
(´・ω・`)「君達が、心を込めて作った服を、見てみたくなったんだ。それに……」
ξ ゚⊿゚)ξ「それに?」
(´・ω・`)「そうしないと、君は明日からジャージ登校を余儀なくされるからね。
風紀委員として、それは避けたいのさ。ホラ、制服はそんなだし」
それを聞き、ツンは自分の現状を確認する。
ξ ///)ξ「あっ! ……っ」
(´・ω・`)「それは、流石にマズイよね。とりあえず今日は、これを着て帰りなよ」
ショボンが自分の制服をツンに掛けた。
ξ ゚⊿゚)ξ「これ、いいの?」
(´・ω・`)「どうせ明日からは私服通学だしね。じゃ、バイバイ」
ξ ゚⊿゚)ξ「あ、うん。……ショボンは、まだ帰らないの?」
ツンがどこか寂しそうに聞いた。
(´・ω・`)「うん、まだ仕事が残ってるし」
ξ ゚⊿゚)ξ「え? どんな?」
(´・ω・`)「こんな。『コールタール』の生成。『セメント液』の生成」
ξ ゚⊿゚)ξ「あ……」
ショボンの仕事、それは即ち、修復作業だった。黙々と地面にコールタールを撒き散らす。
ξ ゚⊿゚)ξ「えっと……ゴメンね?」
(´・ω・`)「いいよ。これも仕事のうちだし。それに……結構、この仕事、気に入ってるんだ」
夕日に背を向け、バケツにセメント液を注ぎながら、ショボンは楽しそうに笑いながらそう言った。

この小説は2006年4月23日ニュース速報(VIP)板に投稿されたものです
作者はID:ln3WQcio0 氏
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