はじめてブーン系小説を読む方は
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ある日を境に、ここvip商店街にはカレーの美味しそうな匂いが漂うようになった。
それはそれはいい匂いでしたが、どこにもカレー屋なんてありませんでした。
「どこからしてるんだろうね、この匂い」
「新しくカレー屋さんでも出来たのかしら?」
「でも、この辺りにはもうお店を作るだけの土地は無いはずよ」
「きっとカレー大好きちゃんが自分の家で毎日カレー作ってるんでしょww」
「ありそうでそれはないwww」
主婦が好き勝手にぺちゃくちゃと話すのをじっと見つめる一人の青年がいました。
名前はブーン。そして彼こそが毎日カレーの匂いを漂わせている張本人でした。
(;^ω^)「目の前にあるじゃないかお、なんで皆見て見ぬフリなんだお?」
ブーンは美味いカレーを用意してお客さんを待っているのに、誰もお店には来てくれません。
彼がこの辺りの住人とトラブルを起こしたわけでもありません。
ブーンは悲しそうに下を向いて、今日も作ったカレーを一人ぼっちで食べることにしました。
せっかく作ったのに捨てるのは勿体無いからです。彼は毎日毎日、カレーを食べなければなりませんでした。
( ;ω;)「ちょっとしょっぱくなっちゃったお……」
涙をぽろぽろと零すブーン。彼はもうここでの営業は止めようかなと考えていました。
お客さんが一人も入らないなら、そもそもそこは店ではないからです。
( ^ω^)「不味くはないのになぁ。なんで誰も食べてくれないんだお……」
溜息を吐くブーン。彼は理解者のいない孤独を毎日味わっていました。
そして、彼の精神は限界にまで達していました。
それでも、彼はまだ諦めませんでした。
完全に諦めることが出来なかったと言った方が適切でしょうか。
ブーンは、きっと自分のカレーには何かが足りないんだと思い直しました。
考えてみれば、普通のカレーを物凄く上手に作るだけではどこぞの高級料理店と変わりません。
そこで彼はオリジナリティ溢れるカレーを作ることにしました。
そして、次の日の朝。
まだ少し寒いくらいの時間に、ブーンの歓声が響きました。
(*^ω^)「おっおっおっ、これはブーンにしか作れないお! 名前はブーンカレーだおっ!!」
そう、ブーンは完成させたのです。
普通のカレーとは違うカレーを。この店だけでしか味わえないカレーを。
彼は嬉しそうに鼻歌なんかを歌いながら、『ブーンカレー』が出来たことをお知らせする旗を店の前に置きました。
今日からお客さんがたくさん来てくれるはずだ、と考えるだけでもブーンは幸せになりました。
けれども、待っても待ってもお客さんは来ません。
せっかくのブーンカレーも煮詰まってしまいそうです。
( ^ω^)「誰も、来ないお……」
もう夕方になってしまいました。
ブーンは、何も言えなくなりました。瞳は潤んでいました。
そんな時です。
少々乱暴にですが、お店の扉が開かれました。
ξ ゚⊿゚)ξ「美味しそうな匂いがするわ……」
( ;ω;)「あ、い、いらっしゃいませだお!」
ξ ゚⊿゚)ξ「な、なんで泣いてるのよ?」
( ^ω^)「嬉し涙だお! それより、ご注文は何にしますかお?」
ξ ゚⊿゚)ξ「泣いたり笑ったり、変な人ねぇ。まぁいいわ。旗に書いてあった、ブーンカレーをお願い」
お客さんが椅子に座りながら注文した。
ブーンはニコニコと笑っている。
本当に嬉しそうだ。
( ^ω^)「かしこまりましたお!」
ブーンは大急ぎで用意をした。
初めてのお客さんが嬉しくて、カツを乗せてみたりもした。
( ^ω^)「はい、おまちどおさまだお!」
ξ ゚⊿゚)ξ「美味しそう……」
( ;ω;)「そ、そう言ってもらえると…… 嬉しい、お……」
ブーンはまた泣いてしまっていた。
理解者のいない孤独から解き放たれたことによる感涙だった。
もう、彼は一人ぼっちではなかった。
( ;ω;)「えへへ、お味はどうかお?」
ξ ゚⊿゚)ξ「すっごく美味しいわ! それに、普通のカレーとは違う味がする!」
( ^ω^)「そうかお…… ブーンカレーを作って、正解だったお」
ブーンはにっこりと微笑んだ。
お客さんも釣られて微笑した。
( ^ω^)「それにしても、お客さん綺麗だお。服も高級なんじゃないかお?」
ξ ゚⊿゚)ξ「勝ち組ですから、一応」
( ^ω^)「おっおっおっ、セレブってやつかお? そんな人に食べてもらえるなんて光栄ですお!」
ξ ゚⊿゚)ξ「今じゃ、ダンナの影を追い求めるだけの寂しい女だけどね……」
( ^ω^)「どういう意味だお?」
ξ ゚⊿゚)ξ「ダンナはね、それはもうとても凄い料理人だったの」
( ^ω^)「だったって、過去形かお?」
ξ ゚⊿゚)ξ「ええ。今ではもう空の上よ。妻を置いてっちゃったわけ」
(;^ω^)「つ、辛いこと思い出させてごめんなさいだお」
ξ ゚⊿゚)ξ「いいのよ、別に。私、こんな愚痴を聞いてくれる優しい人をずっと探してたんだもの」
(*^ω^)「ブーンなんかでよければいくらでもお話を聞くお」
ξ ゚⊿゚)ξ「私はね…… さっきも言ったけど、ダンナの影を追い求めてるの」
お客さんの顔が、寂しそうな顔になった。
ブーンは黙って話を聞いている。
ξ ゚⊿゚)ξ「ダンナは美味しい料理をたくさん作ってくれた……」
ブーンが、お冷を彼女に差し出した。
お客さんはお冷を一口だけ飲むと、話を続けた。
ξ ゚⊿゚)ξ「私は、ダンナが死んでしまったって信じたくなくて……」
お客さんがお冷を一気に飲み干した。
ξ ゚⊿゚)ξ「美味しい料理がある限り、『ダンナは生きてる』って考えることにしたの」
( ^ω^)「旦那さんが美味しい料理を作ってくれてるんだ、と思うことにしたのかお……」
ξ ゚⊿゚)ξ「そういうことね。それから、私は美味しい料理を食べ歩くことにしたわ」
お客さんが、ブーンの顔をじっと見る。
ξ ゚⊿゚)ξ「美味しいものを食べる度に、『これはダンナの料理だ』って思い込んだ」
ブーンも、お客さんの顔を見つめ返す。
ξ ゚⊿゚)ξ「そうすると、ダンナが目の前にいるような気分になれたから……」
( ^ω^)「このお店に入ったのも、旦那さんを追い求めてなのかお?」
ξ ゚⊿゚)ξ「そうね。でももう食べ歩きは終わりよ」
お客さんが椅子から立ち上がった。
そして、ブーンを見据えて微笑む。その時ブーンは何故だかデジャヴを感じた。
ξ ^⊿^)ξ「本物のダンナに、会えたから……」
彼女の体が薄く光った。
何事か、と驚くブーン。
ξ ゚⊿゚)ξ「あなたは、あの、人に…… そっくり……」
(;^ω^)「あ、ああ!? なんでお客さん消えちゃうんだお?」
ξ ^⊿^)ξ「ありが、と…… ブーン、カ、レ……」
次の瞬間、お客さんの体が一瞬にして消えていた。
(;^ω^)「ひょ、ひょっとして幻だったのかお?」
でも彼女は確かにブーンのカレーを食べてくれていた。
その証拠に、食べかけのカレーもあるし、中身のなくなったグラスもある。
( ^ω^)「不思議体験だったお……」
そう言いながら、ブーンは何気なく彼女の食べ残しを口に運んでみた。
( ^ω^)「お客さんが、食べてくれた……」
そう呟いた時、ブーンの体は光りだした。
お客さんに起きた現象とまったく一緒だ。
(;^ω^)「な、なんだおこれ!?」
自分の体が消えてゆく。
だがしかし、ブーンは心が満たされるような感覚を味わっていた。
( ^ω^)「このまま消えちゃっても、悔いはないお……」
そう言った次の時には、彼の体は消え去っていた。
そして、食べかけのカレーも、作っておいたブーンカレーも、グラスも何もかもが一緒に消えた。
これは、死なのだろうか?
カレー職人、新しいジャンルのカレーを完成させ、そして死……
否、そんなわけはなかった。
実を言えば、ブーンも、そしてあのお客さんも『霊体』だったのだ。
死後、悔いが残っていると霊体でこの世に残れると言われている。
ブーンは、『自分のカレーを誰かに食べてもらいたくて』、死んでもこの世に留まった。
霊だから当然生きている者には店さえ見えないのだが、彼はまだ自分が死んだとは思っていなかったようだ。
あのお客さんは、『もう一度ダンナに会いたかったから』霊体で彷徨っていたようだ。
霊だったからこそ、ブーンの店を見つけられたのだろう。
そしてブーンにダンナの面影を見つけ、満足出来たのか天へと昇ることになったのだった。
「カレーの匂い、急に消えちゃったね」
「消えたその日は、なんだか今まで以上に美味しそうな匂いがしてたんですって」
「一度は食べてみたかったなぁ」
ブーンもまた、お客さんと一緒に天に昇った。
自分のカレーを美味しいと言って貰えたのだから、それだけで彼は満足だったようだ。
あの二人は、互いに『理解者』となり、孤独を消し去った。
満たされた二人の魂は、天に召された。
今では安らかに眠っているだろう……
-FIN-
この小説は2006年12月4日ニュース速報(VIP)板に投稿されたものです
作者はID:x8IDDHB80 氏
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