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はじめてブーン系小説を読む方は
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(´・ω・`)「……告白、ありがとう。
でも、僕はいまのところ、誰かと付き合う気はないんだ。
ごめんね」
僕が言い切らない内に、女のコはぼろぼろ泣き始めた。
屋上にあたたかな、やわらかい春の風が吹く。
腕を伸ばして、近距離にある彼女の涙を指で拭った。
それくらいしか、僕がしてあげられることはない。
(´・ω・`)「ごめんね」
もう一度、声に深みを含ませて言った。
悪いなどとは、これぽっちも思ってないけれど。
そうすることが、正しいのだと僕は知っている。
女のコが僕の胸で泣き続けている。
泣きたいのは、なんだか僕のほうだよ。
(´・ω・`)「ほら、涙を拭いて。もうすぐ授業が始まっちゃうよ」
ちいさい子供をあやすような仕草で、背中を撫でた。
まるい背筋。おさない肩。ふわふわとした甘いかおり。
それらは僕にないもの。
僕が、欲しいもの。
('A`)「色男はつらいね」
女のコが出ていった扉を見ていると、声が空から降ってきた。
見上げると、ドクオが出入り口の上から顔を覗かせている。
(´・ω・`)「……君がいるから、屋上は嫌だったんだけどね」
('A`)「そりゃすまんかったな」
僕は大げさに溜息を吐いて、裏手にある梯子へと足を進めた。
雨風に打たれ、錆付いたその梯子は、握ると鉄のにおいがプンとした。
('A`)「これで何人目だ?」
(´・ω・`)「……さあ、いちいち覚えてないよ」
('A`)「俺も一度くらいは言ってみてェ科白だな」
梯子を上り切ると、下にいるときよりも視界が開けたような気がした。
周りを囲むフェンスが無くなったせいだろうか。
ドクオは制服のポケットから、くしゃくしゃになった煙草を取り出している。
(´・ω・`)「におい、つくよ」
僕はドクオからすこし離れた場所に腰を落とす。
と言っても、ここは狭いからさほど距離は遠くない。
カチリとライターの音がした。
それから、煙草のけむりが流れてくる。
('A`)「大丈夫、お前の制服と取り替えっから」
(´・ω・`)「これでも僕、風紀委員なんだけど」
そういやそうだった、とドクオは口端をゆるめて笑った。
その横顔に、僕の胸が痛く締め付けられる。
('A`)「しっかし、勿体無いことするよなァー」
(´・ω・`)「何がだい?」
('A`)「可愛かったじゃん、さっきのコ」
(´・ω・`)「……ドクオはああいうコが好きなの?」
('A`)「そうだな、守ってあげたくなっちまうタイプが好きだ」
ほとんど即答気味に答えられて、僕は呼吸が苦しくなる。
背中をコンクリートに預ければ、空がどこまでも青くみえた。
深呼吸すると、ぬるい風と煙草の微かなけむりが肺に染みこむ。
僕は、ドクオのことが好きだ。
男女の幼馴染なんて、漫画やゲームにありがちなことだけど
僕たちの場合は男同士の幼馴染だった。
両親が共に忙しく、家でひとりになることが多かった僕を
彼はよく遊びに連れ出してくれた。
公園で誰よりも、おおきな砂のお城を作ったり
ひと駅分の切符だけ買って、どこまでも電車に乗ったり
遠くの町まで自転車で走って、迷子になって途方に暮れたり。
ふたりでいるのが当たり前だった。
でも、それは当然なんかじゃなくって。
高校生になってから、僕とドクオは少しずつ離れていった。
勿論、僕がそう望んだわけじゃなく。
周りの環境が、僕たちをごく自然に離れさせた。
あたらしい友達とか、さまざまな授業とか、ちっぽけなプライドとかが。
(´・ω・`)「ちょっと昔までは、気の強いお姉さんタイプが好きだったのにね」
('A`)「ありゃ駄目だ、やっぱ男が女を引っ張ってかねェとな」
ドクオはさっぱりとした表情で言うと、灰色のけむりを吐き出した。
僕はするすると思い出していた。
彼が初恋を打ち明けてくれたときのことを。
('∀`)「ショボン、聞いてくれよwwwww」
(´・ω・`)「どしたの、やけにご機嫌だね」
夕暮れせまる公園で、僕たちはブランコに乗っていた。
互いのランドセルを柵に並べて。小学五年生の春。
('∀`)「俺ww好きなコが出来たwwwwww」
(´・ω・`)「えっ、……」
('∀`)「ヒャヒャヒャヒャwww誰だと思う?wwwww」
ドクオは何がおかしいのか、楽しそうに笑ったままブランコを漕ぐ。
たかく、たかく。桜の枝にぶつかってしまいそうなぐらい。
(´・ω・`)「……」
僕、じゃないことは明らかだった。
だから、ドクオが好きになったであろう女のコの名前を
僕の口から紡ぐのは、到底無理なことだった。
そんなの、言えるわけがないだろう。
好きなひとが好きになったであろう、誰かの名前を口にするなんて。
僕じゃない、他の誰かなんて。
(*'∀`)「わかんねェーかwww新任のクー先生だよwwww
ショボンにゃ大人の魅力ってのは早かったかwwwww」
(´・ω・`)「……うん、わかんない。かな……」
ショボンはオコサマだな、と言って口端でゆるく笑っている。
そうやって笑う顔が、僕は好きだった。
でも、この瞬間からそれを見るたびに切なくなる。
ドクオの気持ちがどんどん上昇していく。ブランコと一緒に。
僕は地べたぎりぎりを、止まるか止まらないかの速度で漕いでいる。
('∀`)「俺、クー先生が大好きだ」
一段とたかく飛び出していったドクオとブランコは、
まあるいオレンジ色の太陽に吸い込まれていく。
僕は、遠くなる背中をぼんやりと見ていた。
手が、届かない。
ずっと近くにあると思っていたのに。
(´・ω・`)「ねぇ、ドクオ。僕にもそれちょうだい?」
('A`)「んァ? お前、煙草喫えたっけか」
いつから、ドクオは僕のことを名前で呼んでくれなくなったのだろう。
ちいさな雲が太陽を隠して、僕の視界に影が落ちる。
(´・ω・`)「喫えないけど。喫ってみたくなった」
('A`)「あんま金ねェから、無駄にしたくねェんだよな」
ドクオがのそのそと立ち上がって、僕の隣で屈みこんだ。
そして、ちいさな雲が通り過ぎて太陽が再び照らし始めたとき
彼が薄い唇に咥えていた短い煙草を、僕の唇に押し当てた。
('A`)「これでも、喫っとけ」
湿ったフィルター。
痺れるような味。
白く揺蕩うけむり。
(´・ω・`)「……苦いね」
('A`)「そうだろ、そうだろ」
どこか自慢気に言って、ドクオはごろんと隣で寝転がった。
乾いた唇に、彼の煙草が張り付いたように感じる。
伝えたい言葉があるのに、僕の口から出ては来なかった。
ドクオのことが好きだ。どうしようもないくらいに。
でも、言えない。
この関係が崩れることが、恐ろしくって。
「とても、苦いよ」
太陽のひかりなのか、それとも煙草のけむりなのか。
青い空が滲んでみえたから、
僕はフィルターを噛み締めて、片腕を顔に乗せた。
この小説は2006年5月2日ニュース速報(VIP)板に投稿されたものです
作者はID:Hn57v12K0 氏
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