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あるアパートのお話 その2


はじめてブーン系小説を読む方はこちらへどうぞ







20070422201416.jpg



川 ゚ -゚)「ペロ……これは上出来」

 カレーの香ばしいにおいが、狭い一室を満たしている。
備え付けの台所は、決して使い勝手のよいものとは呼べなかったが
私は気に入っていた。

何度かまわさないと点火しないコンロ
霜ばかり付いて冷えがわるい冷蔵庫
少しだけ開いてしまう食器棚。

 どこか不器用で、面倒くさい。
以前好きだったひとに、似ているのかも知れない。

川 ゚ -゚)「ちょっと作りすぎてしまったな、お裾分けに行くか」

 すんぐりとした鍋を両手で持つと、私はアパートの廊下に出た。
このアパートは全体的に古びており、忍者が抜き足で歩いたとしても
ぎしぎしと木板が軋んで、たちまち侵入がバレてしまうだろう。

川 ゚ -゚)「流石さーん、ご在宅ですか」

 私は足元に鍋を置いて、右隣に住んでいる兄弟猫の部屋の前で声をかけた。
返事がない。
仕方無いので、拳を真っ直ぐにその扉へと打ち込んだ。 
アパート全体が大きく打ち震えたかと思うと、扉が乱暴に開いた。

( ;´_ゝ`)「なんだなんだなんだ、地震か!?」

川 ゚ -゚)「こんにちは、兄者。またヘッドフォンエロゲか」

 兄者の猫耳を覆う、特殊なヘッドフォンに手を伸ばして外す。
ワイヤレスらしく、それからは妖艶な猫の鳴き声が聞こえてくる。

(´<_` )「おやクーさん。良いにおいだな、カレーか」

川 ゚ -゚)「ああ、ちょっとばかり作りすぎたのでな。お裾分けにきた」

 おぁああ゛ああぁああ゛あ゛、と高らかに鳴くヘッドフォンを兄者に返し
続いて顔を出した弟者に鍋の蓋をあけて見せた。

( ´_ゝ`)「流石に一人暮らしで給食用の鍋はデカいだろう」

(´<_` )「ま、そのお陰でおこぼれをもらえる訳だが」

川 ゚ -゚)「空いている鍋はあるか?」

( ´_ゝ`)「ん。素麺を湯がいたままの鍋を洗ってくる」

(´<_` )「とんだ夏の忘れ物だな」

 うわっ、にゅう麺になってる!
と兄者が叫ぶ声が聞こえたが、私と弟者は素知らぬフリをした。

川 ゚ -゚)「これでもまだ余るな……内藤さんは仕事、か」

 私の部屋を挟んだ隣の住人を思い出した。
最近物音ひとつしない。大方仕事が忙しいのだとは思うが。

( ´_ゝ`)「旅勃ちスペシャルがあるらしくて、ここんとこは全く帰宅していないな」

 すぐそこにある台所で、小鍋を洗いながら兄者はさらりと答えた。
因みに、兄者が言う旅勃ちとは『いい日旅勃ち』という動物界の番組で、
内藤さんはそれの司会――勃起人――をやっている。

(´<_` )「流石だな、兄者。口では嫌っていても、きっちりスケジュールを把握している」

川 ゚ -゚)「ほう、ツンデレの極みだな」

( *´_ゝ`)「べっ、別にピザ畜生のことなんか何とも思ってないですぅー!
      あんな『だおだお』言ってる内藤犬なんか好きじゃないですぅ!!
      そりゃ確かにテレビは欠かさず見ていますよ?
      でもっ、だからってスケジュールをまるっきり把握している訳ではないですぅ!
      ましてや! 俺がツンデレなんてとんだお門違いでs」

(´<_` )「兄星石、自重しろ。ウザい。
      ところで、荒巻さんは無類のカレー好きと聞いたぞ」

川 ゚ -゚)「ふむ……、あの老体に食べさせていいものか迷うが」

(´<_` )「随分トシ食ってるしな、あのジイさん……。
       伝説のネズミハンターと呼ばれていたのに
       今じゃ猫とビニール袋を間違う始末だ」

川 ゚ -゚)「あるある」

( ´_ゝ`)「あるある……あるあるあるwwwwwwww」

(´<_` )「クーさんはともかく、同属を見紛うのはどうなのか」

 台所から出てきた兄者は、足元の鍋を空けて鼻をひくひくさせた。
私の部屋から漏れでたカレーのにおいは、廊下までもを満たし始めている。

( ´_ゝ`)「肉多めで。あ、玉葱はやめてくれ、うん」

川 ゚ -゚)「兄者はすこし、赤血球を減らした方がいいんじゃないか?
     煙草ばっかりすっていると、からだに悪いぞ」

( ´_ゝ`)「俺、低血糖だから」

川 ゚ -゚)「把握した」

(´<_` )「いっそ貧血にでもなってくれたら、五月蝿くなくて済むんだがな」

 兄者が洗った小鍋に、おたまでカレーを掬って移していく。
肉球のついた手は、器用に玉葱をよけて肉とじゃがいもをさらう。
私は大したものだな、と感心しながら眺めていた。
あの青くてまるっこい猫にも、肉球があるのだろうか。
漫画でもテレビでも、その部位を見たことはないけれども。

川 ゚ -゚)「ふむ、まだまだ余ってしまうな」

 小鍋に溢れそうなほど、カレーが盛られている。
それだけでは足りなかったのか、急遽用意した茶碗やコップにも
満タンにカレーが注がれて、兄者までもがカレー塗れである。

( ´_ゝ`)「カレーうどんに、カレーチャーハン、カレー投げ……
      なんでも出来そうだな、これだけあれば」

(´<_` )「時に待て。なんだ、カレー投げって」

( ´,_ゝ`)「弟者よ、そんなことも知らないのか」

(´<_` #)「その顔はやめろ、殺意が芽生える」

( ´,_ゝ`)「世間知らずな弟者よ、教えてほしいか?」

(´<_` #)「屋上へ行こうぜ……久し振りに、キレちまったよ……」

 弟者が兄者の首根っこを掴んで、ずるずると引きずって行く。
残された私はいつもの光景に手を振り、荒巻さんのところへ向かうことにした。

このアパートに引っ越してきたとき、荒巻さんは三番目に古い住人だった。
しかし時は過ぎ、一番目と二番目の住人は出て行ったり亡くなったりして
彼は長寿者になった。人間に換算すると約九十歳だそうだ。

川 ゚ -゚)「荒巻さん、いらっしゃいますか」

 どれよりも古びれた感じがする扉を、かるくノックした。
返事はない。耳を押し当てると、テレビの音がかすかに聞こえた。

川 ゚ -゚)「いるのか……?」

 私はそうっとドアノブを捻り、扉を開けると隙間から顔を出す。
変なにおいはしない。
ただ、埃くさい。ずっと、掃除をしていないのだろうか。

川 ゚ -゚)「玄関が白いな」

 それはどうやら埃のようだった。
私が一歩踏み出すと、さわあっと埃が舞い、靴の周りに散った。
どうしたものかと思いながら、靴を脱いで部屋にあがる。

川 ゚ -゚)「お邪魔します。荒巻さん、クーです」

/ ,' 3  「……けふ、クーちゃんか。どうしたんじゃ」

 荒巻さんは白いからだを、テレビにむけて床でねころんでいた。
けだるげで、咽喉に何かつっかえているような掠れた声。
テレビには内藤さんが映っていた。先週放送していたものだ。
 部屋には座布団とテレビデオと、炬燵だけあった。
それ以外の家具は必要がないのか、部屋は誰のところよりも広くみえた。

川 ゚ -゚)「荒巻さんがカレー好きだとお伺いしまして、お裾分けに来ました」

/ ,' 3  「おお……、そいつは有難い。ワシの大好物なんじゃよ。
     済まんがの、クーちゃん。台所に器があるんじゃ、それに入れてくれんか」

川 ゚ -゚)「器、ですか。わかりました、探してきます」

 台所は片付いており、すぐにその器は見つかった。
何故なら、他の食器や台所用品が全く無いのだ。
ただひとつ、置かれていたのは、猫用の黄色い器だった。

川 ゚ -゚)「妙な配色をしているな」

 中や縁は黄色をしていたが、裏底は淡い桃色をしていた。
私はひっくり返したり、傾けたり、じろじろ眺めてみる。
すると今にも消えそうな文字があった。ひどく滲んで読みにくい。

川 ゚ -゚)「……すかるちの、ふ?」

 荒巻さんの名前だろうか。
そう呼ばれているところを、聞いたことはないけれども。
私が台所で器と睨めっこしていると、荒巻さんがのそりと起き上がって
背中をまるめながら、ゆっくりと歩いて隣に立った。

/ ,' 3  「昔、そう呼ばれてたんじゃよ、スカルチノフ、と。
     ……へたくそな字じゃろう、小学生だったからのう」

川 ゚ -゚)「飼い主さん、ですか」

/ ,' 3  「ああ、かわいい娘さんでのう……
     くるくるとした巻き毛を、今でも覚えているぞい」

 欠けた爪先で、荒巻さんは器に書かれた名前をなぞった。
想い出を手繰り寄せるような、丁寧さで。

/ ,' 3  「ツンちゃん、というのがワシの最初で最後の御主人じゃ……
     カレーが好きでの、夕食にでると必ずワシにも分けてくれた。
     ほら、……元々は桃色じゃったのに、黄色いのはカレーのせいなんじゃよ」

川 ゚ -゚)「道理で裏底と色がちがうわけですね。
     ……いま、ツンさんはどこに?」

/ ,' 3  「クーちゃんは素直な娘じゃのう、大抵はそこにツッコまんよ」

 そう言いながら荒巻さんは、ほがらかに笑った。

 私は他人から無遠慮だとか、愛想が悪いとか、毒舌だとか言われてきた。
思ったことを、口に出しているだけ。
それの何がいけないのか、私には判らなかった。

「クーといると、傷付いてばっかりだ」

 傷付けたいわけではなかった。
好き好んで傷を与えたいなどと、思ったことなんて。

 私の周りから、ひとり、またひとり、遠ざかっていく。
私みたいに強くないから、私とはいっしょに居られないと言って。

 望まれないのならば、追うこともない。
そうして私はこのアパートに越してきた。
自分に素直に生きる動物たちが住まう、この場所に。

/ ,' 3  「変に気遣われるよりか、よっぽどいいわい。
     クーちゃん、ワシとツンちゃんの話を聞いてくれるかの?」

川 ゚ ー゚)「ええ、是非お願いします」

 あ、私もカレー食べます。
自分の部屋から炊飯器とお皿、それと廊下に置いたままの鍋を持ってきて
私は荒巻さんの部屋で、炬燵に入りながら想い出話を聞いた。
ちゃんと、彼の分には玉葱を抜いて。


 雨の日に拾ってもらったこと。
 間違って玉葱を食べて、ツンさんに抱かれて病院に行ったこと。
 ダンボールで小屋を作ってもらったこと。
 ランドセルで爪を砥いで怒られたこと。
 恐ろしいシャワーも、ツンさんといっしょなら大丈夫だったこと。

 
 荒巻さんはよく食べ、よく話してくれた。
私はそんな様子に嬉しくなって、どんどん器にカレーをついだ。
もちろん、自分のお皿にもどんどんついで、鍋はすっかり空っぽになった。


 数日後、荒巻さんは息を引き取った。
発見したのは内藤さんで、
スペシャル番組のビデオを渡しに行った際のことだった。
電源の入っていない炬燵に入りながら、ねむるようにして亡くなっていたそうだ。

 百万回生きたねこのようには、そうそうならない。
老衰は確実に、誰にでも。訪れるのだから。

( ^ω^)「荒巻さん、やすらかな顔だったお……」

(´<_` )「長生きしたな、ジイさん。
      ……大往生と言えども、切ないな。やっぱり」

( ´_ゝ`)「俺さ、荒巻のジイさんを、ほんとうのジイちゃんのように思ってた。
      カエルの捕まえ方とか、猫避けペットボトルの倒し方とか
      いろいろ教えてもらったんだぜ」

川 ゚ -゚)「私もだ。種族は違えども、……おじぃちゃんってあんな感じなんだろうな」

 私たちは荒巻さんの部屋に集まり、話していた。
掃除されて以前来たときとは違い、すっかり綺麗になっていた。
新しい住人がくるまで、座布団と炬燵とテレビは置いてもらうことにした。
さっさと片付けられてしまうのは、何だか嫌だった。
想い出までもが、片付けられてしまいそうで。


(´<_` )「ジイさん、天国でネズミ追っ駆けてるかな」

( ^ω^)「伝説の走り、だったかお?」

( ´_ゝ`)「凄かった。ありゃマッハの速度だ。
      もう一回見たかったなぁ、あの華麗な爪さばき」

川 ゚ -゚)「そんなに凄かったのか、荒巻さん」

 どうやら猫の世界では有名だったようで、
兄弟猫は伝説のネズミハンターが、どれだけ素晴らしかったかを語ってくれた。
私も、内藤さんも。
白い毛並みを揺らして走る、荒巻さんの勇姿を脳裏に思い浮かべた。


( ´_ゝ`)「そういえばカレーは喜んでもらえたか?」

川 ゚ -゚)「ああ、すごく喜んでくれたぞ。何度もおかわりしてくれた」

(´<_` )「そうか、すこぶる美味かったからな。また食いたいぐらいだ」

( ^ω^)「おっおっ、僕も手作りカレー食べたいお!」

川 ゚ ー゚)「私のカレーは高いぞ?」

 ニヤリと私が笑うと、内藤さんはギャラ低いんだおーっと嘆いた。
すると兄者がニヤニヤしながら内藤さんのギャラ内訳を
事細かに説明し始めて、内藤さんが兄者の口を押さえた。
てんやわんやの状況に、部屋中が笑いに満ちた。
テレビの上に飾ってある荒巻さんの写真さえも、小さく笑ってみえるほどに。



 荒巻さん。

 私を素直な娘だと言ってくれて、ありがとう。

 そちらでツンさんには逢えましたか。

 美味しいカレーをたくさん、食べてください。

 荒巻さんの大事な器に、たくさん入れて食べてください。


 私たちもいずれ、荒巻さんのところへ行きます。

 そのときは大好きなツンさんを、紹介してください。

 あと、伝説のネズミハンターの腕っ節も拝見したいです。



 では、またいつか。






この小説は2007年4月18日ニュース速報(VIP)板に投稿されたものです
作者はID:T6DZVfHUO 氏

その3はこちら


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[ 2009/12/29 10:11 ] ナギ戦記 | TB(0) | CM(0)

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