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/ ,' 3 ある作家とある編集のある日の話   のようです act.5

はじめてブーン系小説を読む方はこちらへどうぞ





   act.5『ある作家とある編集者のある朝の話』


姓は荒巻、名はスカルチノフ。
ふさげた名前だ。勿論本名ではない。文名である。

作家として細々と飯を食う生活が続いてはや八年――長くもなく、だからと言って短くもない月日である。
然したる賞も戴かず、しかし局地的な知名度がない訳ではなく、
一般的に『中堅処』と呼ばれる立場にいる私がふと目が覚めると、枕もとにスーツ姿の女性が立っていた。



/ ,' 3「……………………また君か」

('、`*川「またって何ですかまたって」



解り易い私の悪態に、仁王立ちしたままの伊藤ペニサスが頬を膨らませた。
まず視界に飛び込んできたのは、スカートからすらり伸びる両足に藍色のリクルートスーツ。

――そしてそれに見事着せられている少女、私の担当編集者であった。
うむ、大きなお友達がいれば大興奮する光景だろう。あいにく私にその気はないが。

 
('、`*川「先生、聞いてください! 新作の増刷が決定したんですよっ!」

/ ,' 3「なんだそんなことかい」

('、`*川「はい、そんなこっ……」


何気ない会話の応酬がそこで止まった。
彼女の意気込みを体言するかのような――胸の前で両拳を握った姿勢で、担当編集者はピキリと固まる。


/ ,' 3「…………」


それを見ながらのっそりと起き上がり、
布団の上で胡坐と欠伸をかいて腹回りをボリボリ掻き毟ってから
くぅと細く鳴った腹時計で今が朝の九時であることを確認し、
未だ瞬間冷凍されたままでいる編集者を一瞥して


/ ,' 3「どうかしたか?」



と聞こうとした瞬間である。伊藤が爆発した。

 

('、`*川 「――そっ、そんなことってなんですかそんなことってー!
      アンタ本当にその薄口醤油みたいな反応でいいんですかっ、
      汗と涙の結晶じゃないんですか!?」

/ ,' 3「ふむ、私は一つもかいた覚えがないのだが。あと薄口醤油は濃いよ?」


('、`*川 「そうですよねそう言うと思いましたとも。先生は寝て外出て書かないで
      私を泣かせた上に駆けずりまわしてただけでしたもんね。
       って言うか人の揚げ足取らないで下さいっ」

/ ,' 3「うむ、だからこの本は、君の汗と涙の結晶な訳だ。それを知らせにきたのかい?」


('、`*川 「言いたいことは沢山ありますがとりあえず黙ってください先生。
      えっと、そうですけどそうじゃないんです。
      本題はこれです。……どうぞ」


私の言葉を一蹴し、伊藤は肩から下げていた黒のリクルートバックから紙の束を取り出した。


……どうやら手紙である。
厚さも大きさもバラバラであるが、ざっと見で十通ほど。


/ ,' 3「君は私の扱いに随分慣れてきたようだね。……はて、これは?」


片手で受け取り、私はそれへ目を通した。
宛て先はすべて『東京都文京区春日町4-××-× 新都社出版業務部御中』とあり、
送り主は『京都府』『北海道』『鳥取県』果ては独逸からのエアーメールまである。


('、`*川 「ファンレターですよ、せんせい」




20080326224714.jpg



それらを無言でじっとりと見ていた私に、伊藤が笑いながら伝えてきた。
思わず眉根を寄せる。
それが何であるのか、私とて白雉ではない。重々承知しているのだ。


/ ,' 3「………………」

('、`*川 「あれ? 嬉しそうじゃないのは、私のフィルターか何かがかかってるせいでしょうか」



/ ,' 3「そのフィルタとやらを外して見てみなさい」

('、`*川 「……嬉しそうじゃないですね」

/ ,' 3「ご明察」



答え、頭を掻いた私に彼女は憮然とした表情で応対した。
それから幼い動作で腕を組み、数回頭を捻った末に言う。


('、`*川 「むー、ちょっとした矛盾を見つけたんですけど、質問いいですか?」

/ ,' 3「いいだろう聞いてやる」


これには無視である。
……寂しくなどないがつまらないなぁ、などと思っていれば、




('、`*川 「……ぜんぜん嬉しそうじゃないくせに、先生はなんで
      過去に貰ったファンレターを後生大事に保管してるんですか?」




それは核心を突く発言であった。
あー、と唸り声を出す私を尻目に、彼女は心なしか目を輝かせながら解説してくる。


('、`*川 「あ、もしかしてばれてないつもりでした?
      私はちゃんと知ってるんですからねー。
      先生が箪笥の裏に、例のアレを年代別に、しかも五十音順で整理してるの」

/ ,' 3「今の君の発言のみをコピーアンドペーストしたら、私の人格について万人が誤解するだろうね」


('、`*川 「先生の人格なんて割りとそんなものなので誤解ではなく正解だと思います」

/ ,' 3「今日の編集君は珍しく強気だ。……さて、質問に答えようか」


寝巻きである甚平の袖へ腕を収め、重厚そうに頷く私。
言われていないにも関わらず、その前に正座する編集くん。
図柄的に言えば、寓話を聞かせる村の長老と童である。……うむ、言い得て妙だ。


/ ,' 3「真意は蔑ろにするものではないと、昔誰かに教えられたような気がするんだよ」


一言一句をかみ締めるように言う。そして気づいた。

それは存外に懐かしい響きを持っているのだと。
それは彼女から齎された、人生を照らす暖かな光なのだと。


ややあり、彼女が問うてきた。


('、`*川 「……真意、ですか?」

/ ,' 3「ああ。応援者から送られる言葉は、総じて心の底から出た言葉なんだそうだ。
    『純粋な行為、或るいは悪意は、送られる側もそれ相応の覚悟を持ってして挑まなければならない』」


私の返答を連れたのは、とても穏やかな声だった。
こんな声を出せたのかと、自分自身ではっとする。
意識して言っていない分の本心が出たのか。……いや、よもやそんなことが。
 



('、`*川 「……真剣に受け取ったこと形にするために、大事に保管しているってことですか?」




思っていれば、彼女の声で現実に引きもどされた。
息をつき、


/ ,' 3「形にする、と言うか忘れないためだろうね」


そして続ける。


/ ,' 3「人は忘れる生き物だから」



『忘れることのできる生き物だから』。

あえてその言葉を言わず、だけれど放置することなくそっと胸の奥に仕舞い、
私は枕元の畳で正座したままの彼女と布団の上に散らばるファンレターを見た。
 
そこに詰まっているのは真意の好意か、或るいは悪意なのか。
がく、と伊藤が頭を垂れた。
次に聞こえてくるのは、深いため息。



('、`*川 「…………えと、ですね。唐突にすみません。
      もし、先生が私を知るよりも早く、私は先生のことを知ってた、って言ったら
      …………どう思われますか?」


頭を垂れたままの彼女が言った。
袖に収めていた右手を出し、顎をさする。瞬間、チクチクとした感触が肌から伝わってきた。
爽快感は皆無である。感触は坊主の頭に似ている。


/ ,' 3「藪から棒だな。ソウルメイトかい?」

('、`*川 「先生みたいな人と前世も知り合いですか。
      ああ、悪夢以外の何者でもありませんね。
      って、話の腰を鯖折りしないでくださいよ! えっと、だから、です、ねぇ……」


伊藤は顔をあげ、しどろもどろになりながら言葉を選んでいた。
心なしか視線が泳いでいるような気もする。



/ ,' 3「なんだい、はっきりしない」


釈然としないながらも言葉を促し、私はふと思い到った。



/ ,' 3「そういえば、過去に貰ったファンレターに君とよく似た名前が……」

('、`*川 「ひっ!」



浅く息を呑んだ彼女に全ての合点が行く。
なるほどそう言うことなのか、と心中で頷き、箪笥まで這いその裏を漁った。
箪笥の裏にあるのは、彼女が言った通り――過去に送られてきたファンレターである。

そして私は八年前のあ行。記念すべき第一号目を取り出した。


広げ、内容を読み上げる。



/ ,' 3「『荒巻スカルチノフ先生へ、はじめまして、伊藤ペガサスといいます!
     先生の作品を呼んでミステリの、そして読書の楽しさを理解したように思います。
     特に主人公であり、破天荒な探偵の長岡は大変魅力的な……』」

 
('、`*川 「わ、わーわーわーわー!! ぬわー!! ぬわー! ほー!!!!」


謎の奇声を発しながら両手をぶんぶん振る伊藤ペニサス、もといペガサス。
……ふむ。


/ ,' 3「…………編集くん」

('、`*川 「…………はい先生」



即座に正座した伊藤に、私は告げる。




/ ,' 3「ペガサスは、はっきり言ってないと思う」

('、`*川 「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁあん!!!!」




決定打であった。
ううう、と伊藤は唇を噛む。彼女の心中は見え透いている。
墓穴を掘った自分自身を相当恨んでいるだろう。後悔といってもいい。


 

/ ,' 3「はっはっはっはっ」

('、`*川 「スルーするか、適当に流したら勝てるって編集長言ってたのにー!」



立ち上がり、拳を握り締めて涙目になる担当編集者。

――どうやらまた新たに墓穴を掘ったことには、気付いていないようである。
そういうところまた彼女らしいと言えばらしいのであるが、
体面と表面のカバーで生きてゆく社会人としては、どうなのであろうか。



漏れてくる苦笑いをかみ殺し、私は愉快な気持ちで言葉を紡ぐ。



/ ,' 3「付け焼刃で攻略できる程、私は脆くないのだよ。
    勝ちたくば修行をすることだ。
    何事も経験だろう? ……その点からいけば、私は実に君に貢献していると思うよ」

('、`*川 「ええ、今身を持って先生の鬼畜さを味わいましたからそれは言わなくて結構です。
      いつか、いつの日か私を足蹴にしたことを後悔させてあげますからね先生。
      今はそうやって高見でのほほんと笑っているがよろしいです」  
 
/ ,' 3「それはそれは楽しみだな。スローガンは好々爺然とした風貌に騙されない、かね?」

('、`*川「先生の場合、人の悪さが口調からにじみ出てるのでそれはいらないと思います」

/ ,' 3「はっはっはっはっ」

('、`*川「そこ笑うところですかね!?」


いつもに戻りつつある会話とテンポ。
半年間ずっと浸かっていたその流れは、『馴染んだもの』と言うにはあまりにも心地よすぎる。

――――故に私は問うのだ。
浅ましくも渇望する答えを手に入れるために。それに手を伸ばす。



/ ,' 3「時に編集くん。この世に『変わらないもの』はあると思うかい?」



その質問に、彼女は怒りの色を消して真面目な顔を瞬時に作った。
それから、信じられないことに――――笑った。



('、`*川 「変わらないもの、なんてないですよ」



聞きなれたそのフレーズ。だけれども、それが彼女の返答の全てではなかった。
彼女は笑顔のままでこう続けた。


('、`*川 「あるのは、変わるものと変われないものだけです」


言葉を失った。
言葉を売ることを生業としているこの私がだ。
辛うじて漏れてきた吐息にも似た『あ、』は、相手に届く事無く宙に消えた。
狼狽を察されないために摩り替えた言葉は、非難に近い。


/ ,' 3「……辛辣な言葉だなぁ。それはいろいろな物を突き放す」

('、`*川 「そうですね。でも、これが私の真意ですから」


多少強張ったそれではあったが、彼女は笑っていた。

 










           『千日紅の花言葉は『終わらない愛情』なのです』












他人に答えを求めたことを叱咤されたような心持ちだった。
これはかなり精神的に来る、が。
だが、不快ではない。――決してない。



/ ,' 3「……君が担当編集者で、本当によかったと思う」



笑っていた。
自嘲を含んだそれではなく、純粋な笑いとして笑っていたのだ。
――久々に笑顔を自覚したような気がする。
気持ち晴れ晴れとまではいかないが、久々な感覚と感触だった。


('、`*川 「それ、嫌味か皮肉ですか?」

/ ,' 3「私の真意だよ」


不信そうに眉をしかめる彼女にそう言うと、一転、彼女の瞳が輝く。
……まるでラムネのビードロを取り出した子供か何かだ。
 

/ ,' 3「……ありがとう。目が覚めた」


その時ふと頭をよぎったのは、『セイレーンの声』である。
――セイレーンとは海に住む人の頭と鳥の体を持つ化生で、
その声に魔力を持たせ船乗りを眠りに誘い、或るいはその行く道を惑わすという。


……そういえばここ数日、私が目覚める時にはいつもどこかに彼女の姿があったような気がするのだ。


枕元に立っていたり、電話とかで叩き起こされたりが具体例である。
うむ、私が原稿を落とさなければそれもなかっただろうがどうでもよい。


差し詰め彼女は私にとってのセイレーンと言う事だろうか。


目覚めのセイレーン。


ペガサスの名を持っていた彼女を表す言葉としては、的を得ているような気もしないではない。
 



/ ,' 3「ありがとう、伊藤ペガサスくん」




一瞬固まり、それから 『最後で台無しですこのクソジジイ』 と敬老精神の欠片も感じられない
罵詈雑言を撒き散らす編集くんを見ながら(頬が赤いのは羞恥心によるところか)、私は思った。



千日紅。

変わるもの、変われないもの。

終わるもの、終わらないもの。

どれが誰で、誰がどれなのか。



考えれば考えるほど、暗澹たる気持ちになる。
胸の奥がずずんと重くなる。――気付いたのだ。
 








――――――――――それは緩やかな失速
               そして確かな変質であるのだと―――――







           了





この小説は2008年3月25日ニュース速報(VIP)板に投稿されたものです
作者は◆YcgYBZx3So 氏

続きはこちらからどうぞ

番外編はこちら



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[ 2009/12/28 21:27 ] ナギ戦記 | TB(0) | CM(0)

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