スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
[ --/--/-- --:-- ] スポンサー広告 | TB(-) | CM(-)

/ ,' 3 ある作家とある編集のある日の話   のようです act.3


はじめてブーン系小説を読む方はこちらへどうぞ





   act.3『ある作家とある編集長のある昼の話』


姓は荒巻、名はスカルチノフ。
ふさげた名前だ。勿論本名ではない。文名である。

作家として細々と飯を食う生活が続いてはや八年――長くもなく、だからと言って短くもない月日である。
然したる賞も戴かず、しかし局地的な知名度がない訳ではなく、
一般的に『中堅処』と呼ばれる立場にいる僕は、懐かしい顔と逢っていた。


川 ゚ -゚)「久方ぶりだね、ブーンくん」

( ^ω^)「半年振りです、クーさん」

( ^ω^)「やっと新刊を出せましたお」

川 ゚ -゚)「……君のことだ、それが出るまで何百回と担当を泣かせただろう?」

( ^ω^)「人聞きの悪いことを言わないで下さいお。泣かせたのではなく、あちらが勝手に泣いたのです」

川 ゚ -゚)「あはは。とりあえずはおめでとう、お疲れ様。目指すは増刷10万部だね」

(;^ω^)「と、とんでもないこと言い出さないで下さいお!」

川 ゚ -゚)「ボーイズビーアンビシャス、だったかな?」

( ^ω^)「クラーク博士ですかお。けれども僕はもうボーイと言う歳でもないですお?」

川 ゚ -゚)「男は死ぬまで少年ということで一つ」


正論らしい正論を吹っかけられ、僕は思わず笑ってしまう。
声だけは嫌に神妙で、しかしその口調が顔と合っていない――
彼女が人を茶化す時にだすその癖に、懐かしさはある。そして其れと同時に




/ ,' 3「僕は――私は、いつまであなたを、あなたの幻を追うのでしょうか?」




言いようのない痛みも感じるのだ。
――知っている。私は全て知って解っている。
その証拠に『私』はもう『僕』ではなく、目の前の彼女は私が生み出した幻なのだから。




20080325202617.jpg




だからこそここは、何もない空間なのだ。ここには白と私と幻しかない。
如何なる生物の進入を許さない、凍える北の大地のような空間なのだと。



/ ,' 3「……いつまであなたの時間を止めればいいんでしょうか?」



あの日、あの夜。
あの締め切りの日。

担当編集者であり恋人であったこの人は、
クーさんは――事故で帰らぬ人となったのだから。

だからこそこれは私の夢なのだ。
私に過去の痛みを忘れさせない為の蜃気楼なのだ。


川 ゚ -゚)「…………」


彼女は何も答えることなく、微笑むだけで終わっていた。
世界が閉じ合う最後の最後まで、『僕』がその答えを掴むことはなかったと言うのに。



――――――――――――



目覚めたら泣いていた。いつものことだと目じりに浮かんだ涙を拭う。
現在地は某出版会社の受けつけロビー。
……の、ソファーの上である。

どうやら私は、今の今までそのソファーの上で座りながら惰眠を貪っていたらしい。
尻を叩いて書かされた原稿の事を思い出す。
……連日の疲れがでた結果と言えよう。

この国はいつから労働者に優しくなくなったのだろう。
うむ、原稿を落とした私の自業自得などと言う言葉は毛頭ない。


自虐に近い考えを払拭し、改めて見渡せば、そこはただひたすらに広いロビーだった。


活気在る顔つきで往来するスーツ姿の社会人たちは、私の老いた目から見るには中々眩しい光景である。
――だからこそ、そのロビーの隅に設置された、どことなく影のある
休憩所兼持込みされた作品の品評場所は、私にはお似合いと言えよう。


それを自覚し、さて一眠りしたしそろそろ帰るか、と腰をあげた瞬間だった。



「あ、よう。ソファーで寝息立ててるのは誰だと思えば久方ぶりだなぁ!」



かなり無頼な感じの口調で声をかけられた。
聞き覚えはある。検討もつく。
その方向に顔を向ければ、咥えパイポに黒のスーツの女性がこちらに歩いてくるのが見えた。


……うむ、予感は当っていた。
運が悪いのか良いのかの判断は私には出来ないが。


こちら歩いてくる女性――知り合い、と言うよりは私の上司にあたる人間だった。
姓は高岡。名はハインリッヒ。
ふざけた名前だ。しかしこれで本名である。
彼女は29歳にして編集部長を勤める敏腕女性であり、私とは都合五年ほどの付き合いになる。


あった時から変わらぬ仕事着は、男物の黒スーツ。
彼女なりの「男女平等参画社会」を表したものらしい。うむ、若干ピントがずれていなくもないな。


――彼女はこちらに寄るなり私の隣に腰掛けた。
どかり、と無遠慮な音がする。
香ってくるマルボロの葉の匂い。




……パイポの意味、なくね?




从 ゚∀从「ようよう先生様。見たぜ新作。煽り文がかなり衝撃的だったよ。
      『ミステリーの申し子、荒巻スカルチノフが叩きつける挑戦状。
       前人未到の時刻表トリックに挑め!』…………なぁ」

/ ,' 3「実に愛が感じられるな」

从 ゚∀从「大きく出たとも言うがな。アンタがミステリーの申し子ねぇ」


ケタリと一つ愉しげな笑いを漏らし、高岡は足を組んだ。
これで高岡がタイトなスカートなどはいていれば実に扇情的な行動なのだろうが、
高岡が召しこんでいるのは色気も何もない男物のスーツである。
うむ、ため息すら出てくるな。



从 ゚∀从「で、どうだ? アンタの担当、ペニサス伊藤は。お前の自尊心に見合ってるやつか?」



下世話な笑いに顔を変え、高岡は問うて来た。
ペニサス伊藤――彼女は俗に新人編集者と呼ばれる人種であり、
業界きっての『原稿沈滞作者』と名高い私とは 半年ほどの付き合いになる女性である。
ゆえに私たちの間柄は、新人編集者と担当作家。


私は、私の自尊心は常時地を這っているが。そう前置きをし、

 

/ ,' 3「――なあ、高岡。ハインリッヒよ。いつまでだ?」

从 ゚∀从「おいおい、お前は入稿したその日に次の締め切りのこと考えてんのか?」


とっさに破顔した高岡を尻目に、私は繰り返した。
思い出すのは、先刻まで見ていたあの夢の話。


/ ,' 3「いつまで、なんだろうな……」


言って、私は顔を上げてロビーの高い天井を見上げた。
三階までの吹き抜け。――高い。
それから目頭に昇って来た涙に蓋をするように双眸を瞑る。
待っていたかのように闇から、隣から、高岡の声が響いてきた。



从 ゚∀从「……おまえ、まさかまだ」



高岡の問いに返すことなく、私はそろりと息を吐く。
  


私はいつになったら、未練がましくしがみ付くあの思い出から抜け出せるのだろう?

この世界が閉じ合う最後の最後まで、『僕』がその答えを掴むことはないのだろうか?





そう思った瞬間、「せんせい」、と誰かが私を呼んだような気がしたのだ。




それは一体、誰の声だったのだろう。





          了





この小説は2008年3月22日ニュース速報(VIP)板に投稿されたものです
作者は◆YcgYBZx3So 氏

続きはこちらからどうぞ



ご意見等あれば米欄にお願いします


[ 2009/12/28 21:21 ] ナギ戦記 | TB(0) | CM(0)

コメントの投稿


更新は止まっていますがコメントはご自由にどうぞ
修正・削除依頼等、何かしらの連絡はコメントもしくはメルフォよりお願いします
拍手だと高確率で長期間気づきません

スパム対策のため"http"と"@"を禁止ワードに設定しています
URLを書き込む際は"h"を抜いて投稿してください













管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

この記事のトラックバックURL
http://gyokutonoyume.blog116.fc2.com/tb.php/2889-51298592


上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。