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( ^ω^)がリプレイするようです Scene 14


はじめてブーン系小説を読む方はこちらへどうぞ






1_20091226210915.jpg



scene 14 : 幕間


薄暗い部屋。
立ち上がり、あたりを見渡す。

暑くもなければ寒くもない。多湿でもなければ乾燥もしていない。
室内の空気は肌をなんら刺激することなく、まさにただそこにあるだけ。
視覚を刺激するはずの光も薄暗い照明によるそれだけで、感覚を高ぶらせるまでには至らない。

生きとし生ける存在を育む場所には必ず何らかの刺激があり、
それは生命にとって必要不可欠なものだ。
胚が重力という刺激のない宇宙空間で生命としての体を成さないことが何よりの証拠。

それなのに、時の狭間、バーボンハウスにはその刺激が極端に少ない。
重力もある。光も空気もある。しかし、それらはあまりにも脆弱だ。

全てが最低限の刺激に最適化された温室のような空間。少なくとも、老人にはそう感じられた。


/ ,' 3「……時の番人か」


背後に気配を感じた。振り返らずに声をかける。

気配はわずかに動き、
周囲の空気を震わせて、老人の肌に微量の刺激を与えた。


(´・ω・`)「……お疲れ様でした」


抑揚のない、風の吹かない湖面にも似た平らかな声。

そんな彼の声に哀れみの念を感じ取ることが出来たのは、
わずかな時の間とはいえ語り合った二人の関係性による賜物なのだろう。

死して初めて生まれた関係。
その奇妙さに、老人の顔がわずかにほころぶ。

そんな老人の感情とは正反対の声が、背後のバーテンから発せられる。


(´・ω・`)「……残念でした。ツンさんに対するやり直しに限れば、
     あなたの成した行動は何の不備もない、素晴らしいものだったと思います。
     少なくとも、人が出来る最大限に近いことをあなたは成した。
     しかし、それでも及ばないくらいの可逆性が時に働いた。
     はっきり言ってこれは異常です。
     なぜここまでして時があなたの過去に固執するのか、私にはわからない」


抑揚もなく淡々と続けられる時の番人の声。
それがなぜか、老人には釈明のようにも弁解のようにも感じられた。
まるで、いたずらが見つかって慌てて言い訳をする子供のような声。


/ ,' 3「……なぜ、お前はそんなにあせっているのじゃ?」


静かに問うた老人の声に、番人は沈黙を返す。

振り返り、バーテンの顔を見た。能面のような無表情は相変わらずそのまま。
ただ、視線だけが許しを請うように揺らめいている。

能面の口が、わずかに動いた。


(´・ω・`)「内藤さん。もう、止めにしませんか?」


時の狭間を渡る声が、谷間の川を縫うようにして老人に届く。
変わらない無表情。それなのに、お前の顔はなぜそんなにまで悲しそうなのだ?

静かに見つめる老人を前に、バーテンは続ける。


(´・ω・`)「もうこのやり直しには勝算がない。いや、はじめから勝算などなかった。
     私は見誤っていました。あなたという人間の人生の価値を。
     誰にも影響を及ぼすことのないくだらない人生。
     だからこそ、あなたのやり直しは成功すると私は考えた。

     そして、あなたは哀れなほどに醜い姿をさらしながら全力でそれに挑んだ。
     結果、果たせたのは一つだけ。それも、言葉を伝えるだけという、最も安易なもの。

     これはもう、あなたの不幸が時にとって必要なものであったとしか思えない。
     もっと言えば、あなたの人生に何者かに影響を与えたとしか考えざるを得ない。
     そうなると、今後のやり直しが成功する確率はゼロに等しい。
     もはや、挑む価値はない」


バーボンハウス。時の狭間でたたずむバーテンは、
まっすぐな視線の先に、内藤ホライゾンの姿だけを見据える。


(´・ω・`)「もうここで終わりにしましょう、内藤さん。
     あなたのやり直しにかけた想いは、
     悠久の時を生きる私が責任を持って後世に伝えます。
     だからもう、お休みください。
     輪廻の輪を潜り、その先の新たな生を謳歌してください」


この場所に流れることのない時間。その代わり、沈黙だけが二人の間を渡る。
静寂という水の流れを挟み、その対岸で向き合うかのように対面する二人。


2_20091226210915.jpg



老人の声が静寂の向こう側、バーテンへと届く。


/ ,' 3「それは無理な注文じゃ。大体、ここにわしを呼んだのは他ならぬお主じゃ。
   諦めるくらいならはじめから呼ぶな。やり直しという蜜をちらつかせるな。
   人の人生を玩具にように弄ぶな」


投げかえられたのは厳しい言葉。一見すれば恨み言も取れる声。
その言葉に、バーテンは少しだけ顔をしかめた。

わずかによった眉間のしわは、無表情な彼が見せる数少ない感情の表れ。

一方で、対面する声の主たる老人の顔に、うらみの色が見えないのはなぜだろうか。


(´・ω・`)「……だからこそです」


言葉を振り絞るかのようにバーテンはつぶやく。


(´・ω・`)「私はあなたの人生を弄んだ。
     少なくとも、あなたの不幸な人生を軽んじたことに間違いはない。
     だからこそ見ていられないのです。

     果たされることのないやり直しに挑み、
     再びの陰惨な過去を前に泣き叫ぶあなたの姿を。
     繰り返される過去を前に絶望し、己の力のなさに打ちひしがれるあなたの涙を。

     私には止める責任がある。これ以上傷つかないように、あなたを守る義務がある。
     だから内藤さん、やり直しはもうこれでお仕舞いにしましょう」


そう言って再び上げた彼の顔には、目に見えるほどの苦悩が表れていた。


/ ,' 3「お主は何か勘違いをしておるようじゃのう」

(´・ω・`)「はい?」

/ ,' 3「わしは傷ついてなどおらんよ」


やれやれと言わんばかりの老人の顔。
それに対しバーテンは、素直にキョトンとした表情を返す。

目の前の彼の顔がよほどおかしかったのか、老人は老獪な笑みを浮かべて続ける。


/ ,' 3「お主は言った。
   ドクオの死は、そらさんの幸せのためには必要なものだったと。
   家族の幸せを願ったドクオの想念が、わしの想いに勝ったのだと。

   結果、わしはやり直しを果たせなかった。
   しかし、それによりドクオの願いが叶ったのであろう?
   それならばわしは、わしの後悔など胸のうちに収めておくことができる。

   ……そらさんとの邂逅では、後悔を払拭することが出来た。
   去り際の彼女の言葉に胸は痛んだが、
   そんなもの、改められた過去の前ではどうってことなかった」


(´・ω・`)「……」


呆然と聞き入る時の番人。
これまでの彼は、一方的に内藤へと持論や時についての考察を提供するだけだった。
それなのに今、彼は完全に主導権を手放し、おまけにそれを内藤に握られている。

最後の最後で立場が逆転した。
そのことが嬉しいのか、はたまた別の理由か、
老人は子供のようないたずらな笑みを浮かべ、言う。


/ ,' 3「……そして、ツンじゃ。
   あいつは死んでしまった。しかし、わしはもう傷つかん。
   あいつはわしのために生きようとしてくれた。一緒に生きようと言ってくれた。
   病魔に蝕まれた身体でわしの前に立ち、最期の最期で笑ってくれた。
   それを前にして悲しむなぞ、懸命に生きようとしたあいつに対する
   愚弄以外の何物でもない。

   ……別の『時』のわしに人生を弄ばれながら、
   それでもこの『時』のわしは頷いてくれた。
   渡辺さんの真意を知ることが出来た。
   あまつさえ、わしを待ってくれるとまで言ってくれた。
   差し伸べたわしの手を、デレは再び握り返してくれた。わしとツンの娘になってくれた。

   思い残すことなど何もない。あとは、最期のやり直しに全力を注ぐだけじゃ」


そして、時の番人の前に手を差し出す。
朗らかに笑い、想いを声に乗せる。


/ ,' 3「ありがとう、時の番人よ。
   正直、はじめはお主のことが憎くて仕方がなかった。
   しかし、今となってはお主には感謝の念しか思い浮かばんよ。

   このやり直しにより、わしはさまざまな人たちの想いを知ることが出来た。
   わしの人生も捨てたモンじゃないと思えた。

   過去は結局変えられなかった。後悔は変わらず胸に残っとる。
   しかし、過程は変えられた気がする。
   最期にデレの未来を切り開けさえすれば、わしはきっと、満足して逝ける」


差し出された老人の手。
静寂という、時間という川の向こう側から差し出されたその手は、対岸を結ぶ橋のよう。

しばらく老人の皺だらけの手を見つめていたバーテン。

そして、彼は手を握り返した。二人は固い誓いを交わす。


(´・ω・`)「……あなたがそう言うのなら、私にはもはや何も言うことはありません。
     どうか、あなたのやり直しに幸あらんことを」

/ ,' 3「ふん、お主らしくない。はじめの頃のように堂々と憎まれ口の一つでも叩いてみんか」

(´・ω・`)「ふふ……それでは遠慮なく」


握った内藤の手を離し、番人は照れたようにひとつ咳払いをする。
そのままいつもの能面へと戻り、老人の顔を指差して言う。


(´・ω・`)9m「さあ、ゆきなさい、哀れな内藤ホライゾンの魂よ。
       再びの時の流れの中にその身を落とし、精一杯にあがいてきなさい。
       流れ行く時という川の力に抗いながら、ひと欠片の未来をつかんできなさい」

/ ,' 3「ああ、それでこそのお主じゃ」


満足げに頷く老人。眼前の番人の顔が、少しだけ笑った気がした。


そして、『パチン』と指なりの音がした。

同時に室内の薄暗い照明が落ち、番人の姿が闇に沈む。

老人を包み込むのは黒の世界。
最後に、闇の向こう側から番人の声が聞こえた。


(´・ω・`)「覚えていますか? 以前私が申した、時の可逆性についての説明を」

/ ,' 3「ああ、覚えとる。一言一句、鮮明にな」

(´・ω・`)「……ならば、もはや言うことはありません。どうか、無茶だけはなさらぬよう」

/ ,' 3「ひょひょひょwwww 善処しよう」


闇に溶けた老人の笑い声。

そして、二度と見ることがないであろう走馬灯の光が、彼の眼前に広がった。



狭い室内で食事を取る親子の影絵。

大都会東京。苦労して見つけた宿舎付きの職場。
その狭すぎる部屋で、初めての食事をとった時のものだろう。
卓上に並ぶ粗末な食事をおいしそうに平らげる麗羅。
今思えば、人生最後の幸せなひと時の始まり。
それを前に、そのときの自分はどんな顔をしていたのだろう。


さまざまな機械が並ぶ広大な敷地中で汗をぬぐう自分の影絵。

職場であった工場で働いているときのものだろう。
自分が歯車の一部であることはわかっていた。
使い捨てられる部品に過ぎないともわかっていた。
それでも最愛の娘のために、ただがむしゃらに働き続けてきた。


狭い呑み屋で誰かと話しこんでいる自分の影絵。

底辺の労働者ばかりが集う安っぽい居酒屋で呑んでいた時のものだろう。
そんな自分に話しかけてきた怪しげな男。彼は自らを裏家業の人間だと名乗った。
娘を実子として戸籍に記載したいと言うと、いやらしい笑みを浮かべ話を切り出してきた。


役所の前で紙を広げている自分の影絵。

麗羅が実子として記載された戸籍を前に微笑んだときのものだろう。
裏家業の人間まで使って偽造した。その代償として、貯金のすべてを投げ出した。
それでも自分は、麗羅が自分とツンの娘だという事実を、確かなものとして遺しておきかった。


ランドセルを背負う幼子の影絵。

ようやく戸籍に登録された麗羅が、小学校に入学したときのものだろう。
枯れはじめていた桜の花びら。
春風に舞い散るその花の色が、嬉しそうに笑う彼女の頬と同じ色をしていた。


小さな一戸建ての玄関の前で立ち並ぶ親子の影絵。

狭かった宿舎を出て、新しい家に引っ越したときのものだろう。
安い一階建ての借家に過ぎなかったけれど、ようやく二人だけの家が持てた。
故郷で過ごしたツンとの家を思い出し、少しだけ泣いた。


男から書面を受け取る自分の影絵。

職場から昇進の辞令を受け取ったときのものだろう。
ようやく自分にも肩書きが与えられた。居場所が出来た。社会に認められた。
麗羅のために頑張り続けようと、改めて誓った。


台所に立つ少女の影絵。

職場から帰ってきた自分のために食事を作ってくれている麗羅の姿だろう。
幼かった彼女もすでに思春期を迎えていた。
やりたいこともあっただろう。友達やボーイフレンドと遊びたかっただろう。
それでも自分が帰る頃には家にいて、笑いながら手料理を差し出してくれた。


緊張しているかのように肩を縮める男性と、その傍らに立つ女性の影絵。

二十代の終わりを迎えた麗羅が、自分の前に婚約者を連れてきたときのものだろう。
いつまで一人身なのかと心配していた。そんな彼女が連れてきたのは、
自分のような過去を持つ人間とは対極の位置にいる、朗らかな笑顔の誠実そうな男性。

彼になら娘を任せられる。漠然とそんな気がした。
胸に寂しさはつのったけれども、それでもなぜか、笑っていられた。



そして、走馬灯は映し出す。


助手席でぐったりと首を垂れて動かない麗羅と、彼女の頬に手を伸ばす自分の影絵。


結婚式を翌月に控えた五月。
皆が浮かれる黄金の週をあえて外し、その月の最後の休みに最後の家族旅行に出かけた二人。
借りた車のフロントガラスの先。飛び込んできた対向車を前に、ハンドルを右に切った自分。

強い衝撃に少しだけ気を失った。
身体の激痛に目を覚ました自分の前にあったのは、物言わぬ物体へと変わり果てた娘の身体。

潰れた下半身とは対照的に無傷だったその死に顔だけが、妙に色鮮やかだった。

3_20091226210915.jpg


ここだ。
自分の最後の後悔はここだ。

ここで自分は、彼女だけは救わなければならなかった。
自分は死んでもかまわない。
これから幸せな人生を歩むであろう彼女を、なんとしても生かさなければならなかった。


影絵が色を帯びる。
人生最後の幸福の終わりに、鮮やかな色が宿る。


わしは……僕は、リプレイするんだお。


一九七四年五月。
最愛の娘、不条理に閉ざされた六月の花嫁の未来を、僕は、開きに行くんだお。






作者注※以下、本編とは『直接的』な関係はありません。
     読んでも読まなくても、先を読み進める上で何の支障もありません。

     ただ、もしかしたら不快な想いをされる方がおられるかもしれません。

     その点を考慮に入れて読み進めてくれる方がいらっしゃるようでしたら
     あと少しだけお付き合いください。





(´・ω・`)「内藤ホライゾン。一九二八年生まれ。没年は二〇〇六年。
     母国の西の果て、山と海に囲まれた港町にてその生を受ける。

     造船業に従事していたあなたの父は、港から見える水平線の先、
     故郷では見ることの出来ない地平線の彼方に果てない未来の夢を見たのでしょうか?
     あなたにホライゾンという名を与えます」


(´・ω・`)「お世辞にも裕福な家庭とは言えなかった。
     それでもあなたは、真面目で厳しい父、温和で優しい母、
     生まれたときからの付き合いである津出麗子とその家族、
     その他善良な人々に囲まれ、素直で明るい、笑顔のよく似合う少年へと育っていきます。

     学校の成績は中の中。運動も中の中。
     童顔のふっくらとした頬を除き、体格も中肉中背。特筆すべき点は何もない。
     しかしあなたは、その名に違わぬまっすぐな心根の青年へと成長していきました」


(´・ω・`)「しかし、時代は回る。
     戦火は善良な国民の下へと飛び火し、あなたの幸せを奪ってゆく。

     先にあなたの父が徴兵され、やがて死亡の報が届けられました。
     そしてあなたもまた、
     泥沼へと落ち込んでゆく時代の流れなすすべもなく巻き込まれ、徴兵されます。

     届けられた紙。血の色をしたその赤は、
     時がもたらした精一杯の嘲りだったのでしょうか?」


(´・ω・`)「そして、徴兵前夜。あなたは幼馴染である津出麗子を呼び出します。
     あなたは彼女を前に敬礼すると、
     『これまでありがとう』と、感謝の言葉だけを述べました。

     決して『生きて帰ってくる』とは言わなかった。
     それは時代の風潮だけでなく、あなたの胸の内にあった漠然とした生への諦めが、
     あなたをしてその言葉を言わしめなかったのでしょう。

     うつむけた顔を上げ、目に涙を浮かべながら、津出麗子はつぶやきます。
     『必ず帰ってきなさいよ』
      それでもあなたは、最後までそれに対する肯定を口にしなかった。

     翌日、揺られる列車から見た彼女の姿に、あなたはいったい何を想ったのでしょうか?」


(´・ω・`)「漠然と死を覚悟していたあなたは、やがてそれを正してくれる青年と出会います。
     毒田勇男。
     とある出来事によって親しくなったあなた方は、共にあまたの屍の上を歩きます。

     硫黄島。故郷から遠く離れた灼熱の島。
     のちに悲劇の島と語り継がれるその場所で、あなたは彼と、一つの誓いをします。

     『必ず生きて故郷に帰り、残されたものを幸せにする』

     薄暗く蒸し暑い地下基地の中に、あなたと彼の希望の声が響きました」


(´・ω・`)「しかし、毒田勇男は死ぬ。
     共に逃げ出そうと駆け出した地下基地の狭い廊下。
     その先にあった光を見た直後、陥落した入り口。

     その隙間からまるで雑草のように生えた彼の右腕。
     閉ざされた未来をつかむかのようにまっすぐと天に伸びるその右腕。
     そこに握られていた血に染まった小さなお守りを前に、あなたは慟哭します。

     その悲しみは国を越え、言葉を越え、
     敵味方の垣根さえも越えて、周囲の米兵にも伝わります。

     魂の抜け殻と化したあなた。米兵は悲しげな視線を投げかけ、あなたを捕虜にします。
     思えばあなたの不幸の始まりはここから……
     いえ、赤紙を手にした時からだったのでしょう」


(´・ω・`)「それから終戦までの時間を、あなたは捕虜として過ごします。
     おめおめと生き延び、生き恥を晒す自分に絶望しながらも、
     それでもあなたは生き続けます。

     やがて十五年戦争も幕を閉じます。内藤さん。
     あなたは玉音放送を聞きましたか?
     耐えがたきを耐え、忍びがたきを忍んだあなたに対して、
     戦争は一体何をもたらしましたか?」


(´・ω・`)「『川の流れのように、ゆるやかにいくつも時代はすぎて』いく。 
     かつてこんな歌がありました。
     内藤さん、きっとあなたも耳にしたことがあるでしょう。

     このように、時とはよく川の流れに例えられます。
     一度流れ去った時は二度と元には戻らない。
     ゆるやかに、けれどもひたすらに未来へと流れてゆく。
     そんな時の流れの中で、あなたは再びの母国へと帰り立ちます。

     破壊された町、蹂躙された命。
     崩れ落ちたあまたの瓦礫の上には、
     それでも前に進もうとする人間の意志だけが残されました。
     生き残ったあなた方は狂ったように働き、
     やがて母国に異常なまでの繁栄をもたらします」


(´・ω・`)「エコノミックアニマル。狭い日本、そんなに急いでどこに行く。 
     獣と揶揄されたあなた方が作り上げた未来の先で、
     子供たちはどこへたどり着きましたか?

     高度な医療。自動化された生活。公平な教育。
     掃いて捨てるほどの食料。多種多様な娯楽。

     一見すると、この上ないしあわせへと子供たちはたどり着いたように見えます。
     しかし、果たして本当にそれでよかったのでしょうか?」


(´・ω・`)「崩壊したモラル。腐敗した政治。
     金だけを求め、人の精神的豊かさを犠牲にする経済。
     母なる海や大地は汚染され、夜空に瞬いていた星の河はまったく見えなくなりました。

     発達しすぎた世界に子供たちは未来への希望を抱かなくなり、
     彼らは刹那的な快楽の中へと落ち込んでいきます。

     そんな彼らの間では、頑張ることは嘲笑の対象となり、
     如何に世を楽に渡っていくかが追い求められ続けています」


(´・ω・`)「親が子を殺し、子が親を殺す。
     デジタル化したテレビの中では、今日も誰かが誰かを殺しています。

     あなたが必死に守りたがっていた命に、
     あなたが必死に追い求めた未来に、かつての価値は無くなりましたよ? 

     そんな未来を見て、あなたは、毒田勇男は、いったい何を想っているのですか?」


(´・ω・`)「母国の土を再び踏むことになったあなた。
     踏みしめた土は、一体どんな感触でしたか?

     揺られる列車。すし詰めにされた人々に紛れ、
     あなたは毒田勇男の故郷へと降り立ちます。
    
     終わった戦争の残り火に怯える暗い町。
     月明かりだけが照らすその町での毒田そらのと一件。

     『嘘つき!なんであなたは生きているの!?
      兄だけ死んで、なぜあなたは生きているの!?』

     投げかけられた恨みの言葉。あなたはそれに何も返しませんでした。
     しかし、本当は何を想ったのですか? 何を返したかったのですか?」


(´・ω・`)「……そして、たどり着いた故郷。過去の名残を一切残さない荒野の町。

     流れる浦上の川は死体と血、人の脂で埋め尽くされ、
     人間は虫けらのように死んでゆく。
     汚染された空気は生き残った人々、津出麗子の身体に死の宣告をもたらします。

     それでも立ち上がる人々。
     愛した故郷の町を復旧させ、過去の傷を新たな町の礎としました。

     再会した幼馴染。徐々に生まれ変わっていく故郷。
     互いの両親を失い、それでも支えあいながらあなた方は生きていきます。

     めでたく夫婦の契りを交わしたあなた方。その営みの先に子が出来なかったのは、
     原爆という悪魔の残した傷跡によるものだったのでしょうか?」


(´・ω・`)「時が経ち、しばしの平安の中をあなたは生きます。

     その中での、あなたを好いてくれる女性との出会い。
     あなたは戸惑いながらも、内藤麗子と共に彼女との親交を深めてゆきます。

     父の跡を継ごうとしたのかは定かではありませんが、
     あなたは造船所に職を見つけます。
     そして徐々に、だが確実に、あなたはあなたの社会を築いてゆきます」


(´・ω・`)「しかし、それも終わる。内藤麗子の死。
     毒田勇男以来、再びあいまみえた大切な者との今生の別れ。

     絶望に打ちひしがれたあなたは、故郷の町から逃げるように去ります。

     その去り際、渡辺という女性から投げかけられた声。
     それに対する返答となんら違わず、
     あなたは流れるように母国の首都へとたどり着きます」


(´・ω・`)「その街で、あなたは出会う。最愛の妻の生き写しのごとき少女に。
     ひょんなことから出会った彼女を前に、
     あなたは堰を切ったかのように泣き崩れます。

     そして、あなたは言う。『おいで。僕が君を、守ってあげる』

     そんなあなたを前に、彼女は何を想ったのでしょう? 今となってはわかりません。
     ただひとつだけ確かなことは、彼女があなたを信じたこと。

     彼女に麗羅という名を与えたあなたは、
     その後の人生を彼女のためだけに捧げ、生きてゆきます」


(´・ω・`)「静かで、地味で、時代の風潮に逆らうことなく流れていった
     それからのあなたの二十年弱。それがあなたの人生最後の、幸福なひと時。

     しかし、それもついに終焉を迎えます。

     彼女を幸せにする。そのバトンを次の世代の男性へと託そうとした最後の最後で、
     あなたは彼女を、最愛の娘である麗羅を失います」


(´・ω・`)「それからのあなたの人生は見るに耐えません。

     仕事を止め、酒におぼれ、結婚するはずだった娘に託そうとした貯金や
     彼女の死の代償たる保険金は底をつき、家を失い、何もかもを失い、
     最後には路上を寝床とするホームレスへと落ちぶれてしまいました。

     地平線の名を持つあなたの心根はどんどんと荒んでゆき、
     やがてあなたは偏屈で寡黙な、孤独な老人へと姿を変えてゆきます。

     それでも死ねず、細々と生きながらえ、
     終わりは通り魔に殺されるというあっけないもの。

     誰に尋ねても不幸と答える、それがあなたの人生でした」


(´・ω・`)「そして、あなたはやり直します。

     再びの時の流れへとその身を落とし、
     私が託したやり直しという名のペンを握り、時の筋書きを書き直そうと動き出します。

     けれども、待っていたのは毒田勇男、内藤麗子との二度目の別れ。
     毒田そらからの変わらぬ罵声。
     繰り返される過去の悲劇に、老いたあなた意識は再び直面します。

     私はそれに耐えられなかった。私はそれから目を逸らそうとした。
     しかし、そんな弱い私に向けて、あなたは言ってくれました」


(´・ω・`)「『自分は傷ついてなどいない』 

     そう言い切ったあなたの瞳に、
     私は生といういばらの道をたどってきた命の力強さを感じました。

     最良の未来を追い求めるその瞳に、
     私は知らず知らずの内にたじろいでしまっていたのでしょう。
     その結果として、最後にあなたにタブーを伝えられなかった私自身が
     私はあまりにも憎く、そして何よりも悔やまれます。

     お願いします。あの方法だけには手を出さないでください。
     どうか、どうか、お願いします」


(´・ω・`)「……いまさら謝ってもせん無いことですね。

     内藤ホライゾン。私はあなたを信じます。私はもう目を逸らしません。
     あなたの成す最後のやり直しを、私はこの目にしかと焼き付けます。

     あなたに時の神クロノスの加護があらんことを、
     あなたのリプレイが最良の結果に終わらんことを、私は切に願います。

     そして、あわよくば、私に人間の持つ可能性を見せてください。お願いします」





この小説は1944年12月某日から2007年3月某日にかけて時の狭間で記録されたものです
作者は78 ◆pSbwFYBhoY 氏
Scene 15 はこちらへどうぞ

記事元はオムライスさんになります



ご意見等あれば米欄にお願いします

 
[ 2009/12/26 21:11 ] ナギ戦記 | TB(0) | CM(0)

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