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( ^ω^)がリプレイするようです Scene 13


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scene 13 :二〇〇七年三月、東京


『そう、ぼくがめざすのは優勝でも、オリンピックでもなかった。
 この世界の、この時代の、この毎日の至るところに存在する見えない枠を超えること。
 越えて、自分にしか見ることのできない風景をつかむこと』

                 「森絵都 DIVE!<下>『第四部 FINAL STAGE TOMOKI』」


(;゚∀゚)「……ああ、眠い。……そりゃもう、とんでもなく眠い」

三月一日。
昨日で二月は逃げ、新たな月が訪れた。

冬の遅い朝日が照らすここは、東京都の片田舎にあるVIP署刑事課。
その部屋の扉を開け、長岡はフラフラとした足取りでトイレへと向かう。

(;゚∀゚)「畜生……あのゴルァゴルァ親父め。……おかげで徹夜しちまったよ。
     今日帰ってきたら、絶対にあんぱんと牛乳(乳脂肪分3.8%以上)を奢らせちゃる……」

用を足しながらぼやき、洗面所の鏡の前で自分の顔を確認する。

しょぼしょぼとする目がいつもより小さく感じられたが、残念なことに目の下にクマは出来ていない。

( ゚∀゚)「この顔じゃあ、『徹夜しますた!』
     って言っても、ギコさんに信じてもらえかもしれんね。
     ……こうなりゃ最終手段だな」

そう呟きながら、長岡は胸の内ポケットから水性の黒マジックを取り出すと、
真夏のデイゲームに挑む野球選手のように、目の下にクマを書き始める。


( 〓∀〓)「か……完璧だ! これなら誰が見ても徹夜明けの男の顔だ!」


自分が警官でありながら、鏡に映る不審者の顔になんの疑問を抱かない長岡。
彼は意気揚々とスキップをすると、刑事課の自分の席へと戻っていった。

( 〓∀〓)「さーて、資料をまとめたら一眠りしますか!」

そう言って座席に着いた長岡の卓上には、普段以上に文書やら何やらが散乱していた。

それこそが昨夜の長岡の徹夜の証。
昨日携帯でギコに指示された以上のことを、彼にしては珍しく実践していた。

( 〓∀〓)「えーっと、これが内藤麗羅の事故の資料。
      そんで、これが戸籍の記載方法や偽造に関する資料っと……。
      ありゃ、クリップがねーや。ギコさーん、借りますよー」

長岡は隣のギコの席の引き出しをここにいない本人に断って開けると、
そこからクリップを拝借して資料の束をまとめた。

枚数にして実に二十を超える資料。
我ながら素晴らしいものだと、長岡は満足気に頷いた。

( 〓∀〓)「さーて、あとはギコさんが来るまで仮眠を取ることにしますか。
      おっと、その前にカフェオレでも飲みましょう!」

誰もいないVIP署刑事課。

長岡は一人でギャーギャーと騒ぎながら扉を開けると、小走りで給湯室へと向かった。


( 〓∀〓)「カ~フェオレでっしょ♪ でっしょ♪ 
      ホ~ントが~嘘に~♪ 変~わ~る世~界で~♪」

徹夜明けだというのにごきげんな鼻歌を口ずさむ長岡。選曲の趣味が実に悪い。
彼は冷蔵庫にしまってあるブレンディボトルコーヒー(微糖)と牛乳を取り出す。

( 〓∀〓)「低脂肪牛乳だけしかねーのかよ……牛乳は乳脂肪分が命だってのによ……」

完全に個人的な志向を持ち出し、誰にとも無く愚痴をこぼす変質者。
そして、彼が流し台に置いてある自分のカップに手をかけたそのときだった。

隣にあった猫をモチーフにした可愛らしいカップが長岡の手にかけたカップにあたり、
そのまま重力にしたがって床へと落ち、音を立てて割れた。


(;〓∀〓)「……これはまずいことになった」


無残にも四散した猫さんカップの残骸を前に、長岡は膝をついてうなだれた。


                      *

それは半年ほど前のことだ。

真夏の糞暑い外気にさらされ汗だくになりながら、
現在捜査中のホームレス連続殺傷事件とは別の事件で聞き込みをしていたギコと長岡。
ようやくそれもひと段落して街中をぶらぶらと歩いているとき、唐突にギコが言った。

(,,゚Д゚)「そういや、給湯室のカップを買い換えようと思うんだ。ちょっと付き合ってくれねーか?」

尋ねておきながら相手の返答も待たず、
ギコは近くのおしゃれな雑貨屋へと足を運んでいく。

( ;∀;)「やくざ面のあんたが雑貨屋っスかwwwwwwwwwwwww」

と、心の中で爆笑しながら、
表面上は『はいはーい。喜んでついて行きますよー』と調子を合わせて、
長岡も雑貨屋へと足を踏み入れた。


(,,゚Д゚)「……」

雑貨屋の可愛らしいカップが並ぶ棚を前に、真剣な表情で吟味するギコ。

それが娘のプレゼントを選ぶというのであればたいそう微笑ましい光景ではあるのだが
本日のギコは自分のカップを選びに来ているだけである。

そんな彼の姿は滑稽を通り過ぎてもはやシュールですらあり、
長岡はその隣で笑いをこらえるので精一杯だった。

(,,゚Д゚)「これ、なかなかいいな」

呟いてギコが手に取ったそれは、取っ手が尻尾をかたどった、
棚に並ぶカップの中でも一際可愛らしい姿を誇るネコさん型のそれであった。

(,,゚Д゚)「どうだ、これ?」

(;゚∀゚)「は……はいw ととととても素晴らしいいいい一品だと思いますw」

(,,゚Д゚)「なんだお前? 声が上ずってるぞ?」

(;゚∀゚)「いいいいいいえw おおおお気になさらずww」

怪訝な顔をしてこちらをにらみつけるギコの恐持ての顔と、彼の手にした猫さんカップ。
そのギャップがあまりにも強烈過ぎて、長岡は笑いをこらえるので手一杯だった。

そしてギコはレジへと向かう。
そこでの一問答で、長岡の我慢は臨界点を迎えた。


レジの前に立ったギコ。

応対のために現れた女性店員は、
商品である猫さんカップとギコの顔を見比べて、少し驚いた顔をした。
すぐに表情を整えた彼女だったが、その口の端はわずかながら上ずっている。

店員「ご、五千二百円になりますw」

(;゚∀゚)(たかがカップに五千二百円……あのおっさん、バカじゃねーの?)

店員「ほ、包装はなさいますか?」

(,,゚Д゚)「それ、俺のだからそのままでいいわ。あと領収書頼む」

店員「か、かしこまりましたw。あ、あて先はどちらでww」

(,,゚Д゚)「VIP警察署で」


店員「け、警察ですかぁ!?」


女性店員の裏返った叫び。長岡の笑いの温度はついに沸点を超えた。


( ;∀;)「うひゃひゃひゃどしーwwwww
      ゲラゲラケタケタチョモランマwwwwwwwwwwwwwwwwww」

腹を抱えてその場に崩れ落ち大笑いする長岡。
ギコはそんな長岡に気を取られて気づかなかったが、ちゃっかり女性店員も爆笑していた。

笑い崩れる長岡の様子をあからさまに不機嫌な表情を浮かべて、ギコはにらみつける。

(,,゚Д゚)「……長岡。何がおかしい?」

( ;∀;)「だってあんたwwwwwww
      あんたみたいな恐持てのおっさんがそんな可愛らしいカップ買ってwwwwww
      それも署の経費でwwwww
      おまけに店員さん、あんたが警察って知って驚いてwwwww
      笑うなって言う方が無理でしょwwwwwwwwwwwwwwwwww」

(,,゚Д゚)「……お嬢ちゃん、俺、警官に見えねーか?」

店員「い、いえ! やくざだなんてこれっぽっちも思ってません!」

(,,゚Д゚)「……あのなぁ」

( ;∀;)「うひゃひゃwwwwwww 死ぬwwwwwwwwwwwwwwwwww
      ギコさんwwwww
      その可愛らしいカップ、せめて自分の金で買ってくださいwwwwww」

(,,゚Д゚)「うるせぇ! 黙れ!!」

(;゚∀゚)「あ、あふぅ!」

レジのそばに並べてあったボールペンを手にとって、ギコはそれを長岡に投げつけた。
その先端が見事に長岡の眉間へと突き刺さる。

額にペンを生やし、まるで噴水のように血を噴出しながら、
長岡は薄れゆく意識の中で、最期の声を聞いた。

(,,゚Д゚)「あのボールペンにも領収書頼む」

(;゚∀゚)「うひゃ……ひゃ……結局これも……経費で買うのか……よw」

それが、長岡の最後の言葉だった。


                   *

(;〓∀〓)「う~ん……これは大変なことになった」

長岡が割ってしまったカップ。
それは半年前に買ったギコの大切なカップだった。
どうやら彼はたいそうこのカップを気に入っているようで、
このカップを給湯室でギコが念入りに洗っているところを、長岡は何度か目撃していた。

これを割った犯人が自分だとバレたら、今日の徹夜をギコに褒められない。
床に散らばったその破片を前に、しばらく腕組みしながら思案をめぐらす。

そしてついに、彼は最善の答えにたどり着いた。


( 〓∀〓)「知らん振りしよっと」


ギコのカップの破片を集めてゴミ箱に捨てると、
鼻歌交じりにいけしゃあしゃあとカフェオレを作り、そのまま長岡は仮眠室へと姿を消した。


                   *

( ><)「VIP署に着いたんです!」

(,,゚Д゚)「おう、すまんな。これ、代金だ。領収書を頼む」

( ><)「了解なんです! いつもご利用ありがとうなんです!」

領収書を取り出し、記入しながら話しかけるタクシーの運転手。
ギコは憮然とした表情のまま、言う。

(,,゚Д゚)「別に。たまたま見かけたから捕まえただけさ。
    機会があればまた利用させてもらうわ」

( ><)「毎度ありなんです! これからもニダータクシーをよろしくお願いするんです! 」

(,,゚Д゚)「おう。気をつけて運転しろよ。事故って俺らの仕事、増やすんじゃねーぞ」

( ><)「わかったんです! では失礼するんです!」

厳密に言えば交通事故への対応は刑事課ではなく交通課の職務領域である。
しかしそれに気づくことなく嬉しそうに笑う運転手を乗せて、タクシーは静かに発進する。

大荷物を抱えながら、相変わらず趣味の悪い色をしたタクシーを見送ると、
ギコはおよそ一週間ぶりの職場へと足を踏み入れた。


(,,゚Д゚)ノ「うーっす」

無骨な体育会系のあいさつで刑事課の室内へと入ったギコ。
その姿を、同室の刑事たちが怪訝そうな表情で見つめる。

ただでさえ疎まれている自分が、捜査中の事件を抱えながら一週間近くも有給を取って休んだのだ。
周囲の反感を買うのも仕方がない。

嘆息しながら、ギコは抱えた手荷物の一部を近くに立っていた刑事に手渡す。

(,,゚Д゚)「これ、土産だ。みんなで食ってくれ」

(;‘_L’)「え!? ぎ、ギコさんがお土産……ですか?」

(,,゚Д゚)「ああん? 俺が土産買ってくるのがそんなに不思議か?」

(;‘_L’)「い、いえ! 決してそんなことは……」


慌てて弁解する若い刑事。ふと室内を見渡すと、
ほかの刑事たちも皆一様に狐につままれたような顔をしている。

普段気の効いたことをしない自分が土産を買ってくれば驚かれるのも無理ないか。
慣れない自分の行動に対し舌打ちをひとつすると、ギコは刑事課の室内に声を張り上げる。

(,,゚Д゚)「おい、長岡ぁ! どこにいる!?」

('_L')「あ、長岡なら仮眠室にいます」

(,,゚Д゚)「ああ? なんだあいつ、サボってんのか?」

('_L')「いえ、どうやら昨日ここで徹夜したらくて」

(,,゚Д゚)「……ほう。そりゃ珍しいことだ」

あんたが土産買ってくることのほうが珍しいよ。

そこにいたすべての刑事が同じ言葉を思い浮かべる室内を出ると、
ギコはニヤリと笑いながら仮眠室へと歩を進めた。


                       *

(,,゚Д゚)「おい、起きろ」

( 〓∀〓)「……あと三時間だけ~」

(,,゚Д゚)「なげぇよ! さっさと起きやがれゴルァ!!」

訪れた仮眠室。
その真ん中に堂々と布団を敷いて幸せそうな顔で眠っていたのは他でも無い長岡。

このまま永眠させてやろうかと腰の銃に手を伸ばしかけたが思い直し、
怒鳴り声とともに敷かれた布団をギコが跳ね上げると、
その上で気持ちよさそうに眠っていた長岡が面白いように床に転がる。

(#〓∀〓)「誰だよ! もうすぐでほしのあきのおっぱいしゃぶれたのによ!!」

(,,゚Д゚)「……ほう? それはすまんことをしたな」

(#〓∀〓)「あたぼうよ! さっさと出て行きやがれ!!」

そう叫んで再び布団に包まった長岡。

そして、異変に気づいたのだろう。
長岡は布団から顔を出し、ギコの顔を二度見する。その表情が見る見る内に変わっていく。

そのまま跳ねるように飛び起きて、言った。

(;〓∀〓)ノ「いやー、おはようございますギコさん! 今日もさわやかな朝っスね!
       どうです? 一緒にラジオ体操でもしませんか!?」

(,,゚Д゚)「……残念だが遠慮しとくわ。それに今は昼だ」

(;〓∀〓)「あ~……そうなんですか~。笑っていいとも見逃しちゃったな~、あはは~……」

不機嫌な顔でこちらをにらみつけるギコから視線をそらし、
長岡はボリボリと後頭部を掻きながら、二人の間を流れる気まずい沈黙に耐えた。
それからギコは、思い出したかのように声をかける。

(,,゚Д゚)「おまえ、昨日徹夜したんだって?」

( 〓∀〓)b「え? いや~、そうなんですよ、バレちゃいました!?
       見てくださいよ、このひどいクマ!
       やり遂げた男の顔って感じがしません!?」

(,,゚Д゚)「ふ~ん。まあ褒めてやるよ。とりあえず、顔洗ってこい」

マジマジと自分の顔を見つめながら言うギコに、長岡はあからさまにマズイといった表情をする。
そして、慌てふためきながら取ってつけたような言い訳をする。

(;〓∀〓)「い、いや~、俺、寝起きに顔を洗わない派なんですわ! 
      死んだお袋の遺言でして……。ざ、残念だな~! 顔洗いたかったのにな~!!」

(,,゚Д゚)「まあまあ、落ち着けって。寝起きに顔を洗うのも悪いことじゃねーぜ?
    ちょうど俺もションベンしたかったから、洗面所まで付き合ってやるよ」

(;〓∀〓)「え、遠慮しときます!」

(,,゚Д゚)「そう言うなって。俺が顔の洗い方を一から教えてやるよ。
   そりゃもう、肌が擦り切れるくらいゴシゴシとな」


(;〓∀〓)「イ―――ヤ――――!!」


ギコに強引に引きずられながら、長岡の身体は洗面所へと連れ去られていった。

                   *

(,,゚Д゚)「おーい、顔洗ったか?」

(;〓∀〓)「は、はい! この通り!」

小便器に放尿しながら話しかけてくるギコ。

トイレと同室にある洗面所にて、長岡は水性マジックのクマが落ちないように、
細心の注意を払いながら適当に顔を洗っていた。

少し経って用を足し終えたギコが洗面所に姿を現し、水にぬれた長岡の顔を凝視する。

(,,゚Д゚)「……まだちょっと洗い足りてねえみたいだな」

(;〓∀〓)ノシ「いえいえ、これで十分です! ああ! 仕事がしたい!! 
        無性に仕事がしたいなあ! さあ、レッツ仕事に戻ろう!!」

(,,゚Д゚)「そう慌てるなって。これでしっかりと洗ってやるよ」

そう言ってギコが取り出したのは、手のひらサイズの毛むくじゃらの物体。
目にした長岡の顔に戦慄が走る。

(;〓∀〓)「ギコさん、それってもしかして……」

(,,゚Д゚)「ああ。タワシだ」

从〓∀〓从「あれれ~、タワシって顔を洗う道具じゃないよ~?」

(,,゚Д゚)「うるせぇ! 黙ってろ!!」


(;〓∀〓)「イ―――ヤ――――!!」


洗面所から響く長岡の叫びは、拷問を受ける咎人のそれに酷似していたという。

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                    *

(メメメ゚∀゚)「いやー、まったくひどい目に遭った」

(,,゚Д゚)「ったく、マジックでクマなんか書くなよバーロー」

VIP署刑事課のそれぞれの席に着いた二人。
隣り合わせに座る二人の間では、いつもと変わらないやり取りが交わされている。

(メメメ゚∀゚)「だってギコさんのことだから、
      目にクマでも作らなきゃ徹夜したって信じないでしょう?」

(,,゚Д゚)「徹夜したかどうかはそいつの顔を見りゃすぐにわかる」

(メメメ゚∀゚)「ふーん……どうだか」

顔面に猫が引っかいた痕のような傷をこしらえて、長岡がぼやく。
まるで先日の出来事などなかったかのように、ギコも長岡もごく自然に振舞っていた。

(,,゚Д゚)「で、その徹夜の成果は?」

( ゚∀゚)「はいはい。こちらに」

今朝方まとめ上げた資料の束を待っていましたと言わんばかりに手渡す長岡。
それをペラペラとめくりながら、ギコは少しだけ驚いた表情を見せた。


(,,゚Д゚)「ほう。やっぱり内藤麗羅の死亡は交通事故によるものだったのか……。
    まあ二十代後半の女が死ぬっていったら、病気か事故くらいのもんだよな。
    それと、戸籍の記載方法と手続き手順、そして偽造方法に関する資料か……。
    なるほど。お前にしちゃ気のきいた、なかなかいい着眼点だな」

( ゚∀゚)「でしょー!? 褒めて褒めて! 俺、褒められたら伸びるタイプっスから!!」

(,,゚Д゚)「調子に乗るな」

手渡された資料の束で長岡の頭を軽くはたいたギコ。
いつもだったら拳骨のはずなのに、はたくくらいで済んだということは、
ギコはそれなりに自分の徹夜仕事を評価しているみたいだと、長岡は内心ニヤリと笑った。

そんな長岡の顔に訝しげな視線を送りながら、ギコは続ける。

(,,゚Д゚)「内藤麗羅の生年月日は一九四五年十月になっている。
    しかし、これまで集めた情報から考えると……」

( ゚∀゚)「内藤が徴兵されたのが一九四四年十二月です。
     ですから、種付け時期としてはギリギリ有り得ないこともないですね」

(,,゚Д゚)「だが、内藤夫妻に子供がいないという証言は得ている。それはつまり……」

( ゚∀゚)「……内藤麗羅は内藤ホライゾンと内藤麗子の実子ではない」

(,,゚Д゚)「……だろうな」

突如、刑事の顔に豹変した二人。
ギコはもちろん、長岡さえも真剣なまなざしを瞳にたたえ、事件の謎に着目する。

(,,゚Д゚)「気になるのは、どうやって内藤麗羅を戸籍に実子として登録したかだ」

( ゚∀゚)「……それについて、一つだけ心当たりがあります。資料を見てください」

(,,゚Д゚)「ほう?」

そう言って、長岡はギコの手にしていた資料をペラペラとめくる。
そして、ある箇所を指差しながら説明を始めた。

( ゚∀゚)「特別養子縁組って方法があります。これは普通の養子縁組と違って、
     養子として引き取った子とその実の親との親子関係がバッサリ切れます。
     その代わりに年齢制限だとかの条件がありますが、
     認められれば戸籍には養親の実子、
     この場合で言えば内藤の実の子供として記載されます。
     専門家であればそれが特別養子縁組かどうかは調べればわかるようですが、
     一般には全くわかりません」

得意顔で説明する長岡。
その言葉に、素直に感心したといった風情でギコが返す。

(,,゚Д゚)「……よく調べたじゃねえか」

( ゚∀゚)「ありがとうございます。ただ、一つだけ問題があるんです」

(,,゚Д゚)「あん? なんだそりゃ」

すると長岡は眉間にしわを寄せ、ギコの顔をマジマジと見ながら言った。


(;゚∀゚)「……実はこの制度、出来たのが一九八七年なんですよ」


直後、長岡の頭上に特大の拳骨が落ちる。
頭蓋骨を陥没させるかのような衝撃と鈍い音が室内に響き、あまりの痛さに長岡は目に涙を浮かべる。

(;゚∀゚)「痛って~! 岡村さん、あんた何しはるんですか!?」

(,,゚Д゚)「俺は岡村じゃねぇ! 大体、その制度が施行されたされたのが一九八七年なら、
    あからさまに見当違いじゃねぇかよ!!」

( ゚∀゚)「アーイトゥイマテェーン」

舐め腐った長岡の謝罪。
ギコは腰から拳銃を取り出すと、長岡の眉間にその口を押し当てた。

(,,゚Д゚)「お前、ここで死ぬか?」

(;゚∀゚)「まあまあ、落ち着いて……。そ、そうだ! 内藤が別の女と内縁関係になって、
     その連れ子だけを認知、養子にして戸籍に記載したとかはないっスかね?」

先ほどの謝罪とは比べ物にならないまともな意見。

それに免じたのか、押し当てた拳銃をホルスターしまいながらギコは答える。


(,,゚Д゚)「有りえんことではないが、それだと戸籍にはちゃんと養子として記載されるはずだ。
   それに、何らかの方法で戸籍を偽造していたとしても、
   連れ子の内藤麗羅を内藤麗子との実子にしたのか、その理由がわからん」

(;゚∀゚)「そうなんっスよねー。そこが一番わかりませんわ」

(,,゚Д゚)「……いや、そうでもねーぜ」

( ゚∀゚)「ん? どういうことっスか?」

長岡の問い。ギコはしばらく何かを考えるかのように沈黙する。
彼は所在無く長岡の作った資料を手にし、再びペラペラとめくった。

おそらくそれは資料の中身を確認するという作業ではなく、
頭の中の考えを言葉で表す整理をするための行動なのだろう。

そして、口を開く。

(,,゚Д゚)「これは内藤麗羅が誰かの連れ子ではなく、
    孤児やらなんやらの拾い子って仮定したらの話になるんだが……」

そう言ってギコが続きを口にしようとした、そのときだった。

『バン!!』と激しい音を立てて、部屋の入り口が乱雑に開いた。


ギコや長岡だけでなく、室内の刑事全員が何事かと入り口に顔を向ける。

彼らの視線の先には、
真冬だというのに額に汗を浮かべた刑事が慌てふためいた顔をしており、
続けて彼の口から発せられた言葉に、室内の全員が一瞬のうちに凍りつくことになる。

(,,゚Д゚)「おい、うるせえぞゴルァ! いったいなんだ!?」

(;'_L')「た、大変です!
     ホームレス連続殺傷事件の犯人と名乗る男が、こちらに出頭してきました!!」

予想だにしない言葉。室内が一気に静寂に包まれた。

沈黙を続ける皆は、
放たれた言葉の意味を鼓膜から脳に伝え、反芻している最中なのだろう。

その一連の処理を最も速く終わらせた長岡が言う。


(;゚∀゚)「も、もう一回言って?」


(;'_L')「だーかーら! ホームレス連続殺傷事件の犯人が自首してきたんですよ!!」

繰り返された事実を伝える言葉に反応し、いの一番に立ち上がったのはギコだった。
彼は座っていた椅子を床に跳ね飛ばし、叫ぶ。

(,,゚Д゚)「長岡ぁ! 捜査資料をありったけ準備しろやゴルァ!!」

(;゚∀゚)「りょりょりょ、了解っス!!」

続けて、知らせを届けた入り口の刑事をにらみつけ、再びギコは吼える。

(,,゚Д゚)「おい! 犯人の詳細は!?」

(;'_L')「は、はい! 十七歳の男子高校生と名乗っています!!
     現在、第二捜査室に連行しています!!」

さらなる衝撃的な事実に、室内の刑事全員の顔がまたしても凍りつく。

呆然と固まる刑事課の室中で唯一動いているのは、捜査資料をかき集める長岡と吼えるギコだけ。


(,,゚Д゚)「っち! 十七歳かよ! こりゃマスコミが大騒ぎするぞ!!
    俺と長岡で取調べに行く! 他の奴らは報道関連を出来るだけシャットアウトしろ!!
    少年鑑別所と家庭裁判所にも連絡だ! わかったかゴルァ!?」

その言葉に反応したのか、
固まっていた室内の刑事全員が立ち上がり、一斉に行動を開始する。

ギコは長岡を見た。
山のような捜査資料を抱えたその顔が、ギコの瞳にコクリと頷く。


(,,゚Д゚)「……よっしゃ! 行くぞ長岡ぁ!!」

( ゚∀゚)「了解っス!!」


そして、二人は一気に駆け出した。


                      *

一般的に取調室とは、暗い、
まるで拷問所にも似たイメージをもたれているが、実際はそんなことはない。

部屋自体は狭い個室ではあるが、中身はしっかりと整理整頓されている。
カツ丼なんてものはもちろん出ない。

ただ、取調室というものがいまだ恐ろしいイメージのままで大衆の脳に根付いているのは、
その部屋の主たる刑事達の、事件究明に対する恐ろしいまでの執念がそうさせているのだろう。

見張りについた刑事の背には、閉ざされた硬い扉。そして、狭い取調室。
その真ん中、事務用の粗末な机をはさんで、ギコと長岡、そして犯人の少年は対峙していた。

(,,゚Д゚)「さーて、まずは改めて確認させてもらう。
    お前さんがホームレス連続殺傷事件の犯人で間違いないんだな?」

(;・∀ ・)「……」

犯人と自称する少年は地味な配色の私服に身を包み、身体を震わせながら顔をうつむけていた。

(,,゚Д゚)「そんなに怯えなさんな。なにもお前さんを取って食おうってんじゃない。
    俺の名前はギコ、こっちが長岡。お前さんを担当させてもらう刑事だ。よろしく頼むぜ」

(;・∀ ・)「……」

そう言ってギコが差し出した手を見ようともせず、少年は顔をうつむけたまま。
ギコは握り返されることのなかった手を戻すと、ベテラン刑事に見合った穏やかな口調で話を切り出した。

(,,゚Д゚)「……それじゃあ、とりあえずお前さんの名前と年齢、
    家族構成、ついでに学校名も教えてもらおうか?」

(;・∀ ・)「……」

(#゚∀゚)「黙ってねーでさっさと答えやがれ!!」

(;・∀ ・)「ひっ!!」

いつまでたっても何も言わない少年に業を煮やしたのか、身を乗り出して激昂する長岡。

いつもはおちゃらけているこいつにしては珍しいことだと思いながらも、
ギコは身を乗り出した長岡を手だけで静かに制止する。


(,,゚Д゚)「いきなりすまんな。こいつは若いせいか血の気が多くてよ。勘弁してやってくれ」

(#゚∀゚)「……」

あんたに言われたくねーよ。らしくねーな。
そんなことを思いながらも、長岡はしぶしぶ、乗り出した身体を椅子に預ける。

(,,゚Д゚)「さて、改めて聞こう。お前さんの名前と年齢、家族構成、学校名は?」

(;・∀ ・)「……斉藤またんき。十七歳。パパとママ、それに弟。学校はニュー速高校」

ぼそぼそとくぐもった小さな声。
聞き取りづらいことこの上ない声をなんとか耳に入れ、ギコは内容を調書に書き入れる。

(,,゚Д゚)「へー、ニュー速高校か。ここいらじゃ有名な進学校じゃねぇか。
    お前さん、頭いいんだな。で、そんなお前さんがどうしてこんな凶行に及んだんだ?」

(;・∀ ・)「……」

ようやく開いたかに思われた少年の口が再び固く閉じられた。
軽いため息を一つつくと、ギコは長岡の方を向き、あごを動かしてあることを促す。

すぐさま長岡は机上に載せた山のような資料の中から数枚の被害者の顔写真を取り出し、
少年の目の前にずらりと並べた。

(,,゚Д゚)「これはホームレス連続殺傷事件の被害者の顔だ。見覚えはあるか?」

(;・∀ ・)「……」

並べられた写真。
しばらくはそれを見ようともしない少年であったが、
室内の重苦しい沈黙に耐えかねたのか、うつむけた顔のまま上目遣いで写真を眺めてゆく。

すると、彼の視線の動きがとある一枚の前で一瞬だけ止まった。そして


(;∀ ;)「うわああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


突如頭を抱えだし、怯えた叫びを上げて泣き始めた。


(;,,゚Д゚)「お、おい! どうした!?」

(;∀ ;)「来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな
      来るな来るな来るなあああああああ!!」

突然の少年の叫び。
続けて彼は椅子から転がり落ちると、部屋の隅まで這うようにして移動し、
頭を抱え、ぶつぶつと何かを繰り返しつぶやきながら震え始める。

(;,,゚Д゚)「っち! 長岡、写真をしまえ! カウンセラーも呼んでこい!!」

(;゚∀゚)「りょ、了解っス!!」

机上の写真をひったくるように回収すると、長岡は取調室から飛び出していく。
長岡の去り際、その中の一枚が彼のポケットからこぼれ、取調室の床にひらひらと落ちた。

入れ替わるようして、慌てながら入ってきた見張りの刑事が尋ねる。


(;'_L')「な、何が起こったんですか!?」

(,,゚Д゚)「……こっちが聞きてぇよ。しかし……」

ギコは床に落ちた写真を拾い上げ、傍らに立つ刑事の前に突きつけた。

(,,゚Д゚)「間違いなく、こいつが関係している」

(;'_L')「……」

突き出された写真。

事件唯一の死亡者である内藤ホライゾンの顔は、
そんなことなど関係ないと言わんばかりの無表情。

カウンセラーが来るまでの間、
ギコは静かに、部屋の隅で震え続ける少年の姿を眺めていた。


                       *

( ゚∀゚)「ギコさん。取調べの許可が降りました」

(,,゚Д゚)「はやいな。今日はもうダメかと思ったぞ」

喫煙所で一服していたギコ。
喫煙者を隔離するために設けられた家畜小屋にも似たその扉を開け、長岡がギコに告げた。

まだ吸いかけのタバコの火を名残惜しそうに眺めながら灰皿に捨て、
ギコは彼とともに取調室へと向かう。

( ゚∀゚)「少年は一時的には落ち着きを取り戻したみたいっスけど、
     カウンセラーは今日の取調べは無理だと判断したっス。だけど署長が無理やり……」

(,,゚Д゚)「取調べを続行させろってか? ったく、あの署長らしいな。
   大方、出来るだけ早く少年をここから追い出したいんだろう」

少年の叫びからおよそ六時間。日はすっかり沈んでいた。

その間にVIP署付きの新聞記者がことのあらましを察知し、
いまやVIP署の玄関前には、あふれんばかりの報道陣が我先にと詰め掛けていた。

このまま少年をここで預かっていたら、報道陣の対応はすべてVIP署がこなさなければならなくなる。
そう判断したVIP署署長は、本日中に少年の身柄を少年鑑別所に移すため、早期の取調べを強行した。

少年鑑別所に身柄とその後の権限を移譲すれば、
報道陣を最低でもVIP署と少年鑑別所の二つに分散させることが出来る。

(,,゚Д゚)「ったく、せこいこと考えやがるな、署長も」

( ゚∀゚)「現場としては、じっくり腰を据えて取調べをしたいところなんですがねぇ」

(,,゚Д゚)「まあ、本音を言えばそうなんだがな。だが、少年犯罪は警察だけでなく、
   少年鑑別所、家庭裁判所、下手すりゃ逆送致で検察まで関わってくるデリケートな問題だ。
   今回に限っては、署長の判断もまんざら捨てたもんじゃねぇ」

コツコツと署内の廊下を歩く二人。
細長く続いていくその先に、少年がいるであろう第二取調室と、見張りの警官の姿が見えた。

(,,゚Д゚)「しかし、時間がないとはいえ、聞くべきところはしっかり聞くぞ。気合入れろよ?」

( ゚∀゚)「ラジャー!」

長岡がおどけたように敬礼をしてみせる。
その姿を鼻で笑いながら、ギコは取調室へと足を踏み入れた。


                     *

(・∀ ・)「……殺す気なんてなかったんだ」

取調室に足を踏み入れて数十分後。
長い沈黙を破り、少年はぽつりぽつりと話を始めていた。

(・∀ ・)「はじめは、ただ誰かを傷つけたいだけだったんだ。
     深夜に公園を歩いていたらホームレスがいた。ばれないように顔を隠して、
     すれ違い様におなかをサクッと刺すだけでそいつは簡単に倒れて、
     それでなぜか胸がすっとして、それから病み付きになった」

ギコ、長岡は何も言わず、少年の顔を見つめながら話を聞く。

(;・∀ ・)「本当に殺す気なんてなかった。
      実際、僕は致命傷になるところは絶対に刺してない。
      ネットで調べた安全な箇所を刺したから本当だ!
      あのホームレスの時だってそうだったんだよ!」

(,,゚Д゚)「あのホームレスってのは、内藤ホライゾンのことだな?」

そう言って、ギコは少年の前に内藤の顔写真を突き出す。
それを見て、今度は叫び声を上げることはなかった少年。

その代わり、半ば狂乱したかのようにうろたえながら、瞳から涙を流し始める。


(;∀ ;)「……あの日から、あのじじいがいつも夢に出てくるんだ!
     刺したとき、あいつは僕に向かって言ったんだ!
     『お前がわしを葬ってくれる死神か!? 
     さあ、刺せ!! そのナイフでわしの体を滅多刺しにするんじゃ!!』
     あいつは夢の中でもそう言って、僕を見てニヤニヤと笑うんだ!!」

机の上で頭を抱え、ガタガタと震えながらも話し続ける少年。
救いを求めるかのごときその声を前にしても、ギコと長岡は依然として表情を崩さない。

(;∀ ;)「……怖くて夜も眠れなかった。
     一日中部屋の中で起きてても、いつもあいつの声が頭の中から離れないんだ。
     あいつが死んだのは僕のせいじゃないのに、
     何で僕がこんな目に遭わなくちゃ行けないんだよ!」

言いたいことはすべていい終えたのだろうか?
それから少年は頭を抱えて、机の上に突っ伏して震え続けるだけだった。

何度目かの沈黙。

室内には、調書に文字を書き連ねるギコのペンの音だけが響く。
やがて、調書を書き終えたギコがペンを置く。
その乾いた音を合図に、ずっと仏頂面を崩さなかった長岡がボソリとつぶやいた。

( ゚∀゚)「……それでここに逃げてきたってわけか? 情けねぇ男だなぁ、おい」


(;∀ ;)「!?」

頭を抱えていた少年の震えが止まり、同時に上げた瞳が長岡の顔面をにらみつける。
敵意と憎しみに満ち溢れたその視線をものともせず、長岡は平然と言ってのける。

( ゚∀゚)「しかもおめぇ、話の内容からして不登校の引きこもりだろ?
     ま、お前見てたら、話を聞かなくてもわかるがな」

(#;∀ ;)「……」

再び始まった少年の震えは、先程のような恐怖によるものではない。
誰の目からも明らかにわかる、長岡に対する怒りによるものだ。
しかし、それさえも鼻で笑い、長岡は淡々と続ける。

( ゚∀゚)「どうせいじめかなんかだろ? ホームレスを刺したのは、その腹いせってとこか?
     つくづく小せぇ男だな。そんな根性してるからいじめられるんだよ」

(#;∀ ;)「うあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

(;゚∀゚)「!!」

長岡の罵声の直後、少年は突然、奇声をあげ始めた。
勢いをそのままに、間に机を挟んで対面する長岡に向かって身を乗り出すと、
彼の首元を両手で締め上げ、床に押し倒す。

反動で倒れた椅子と机に、傍らいたギコの身体が床へと押し飛ばされる。

ガシャガシャと机や椅子が散乱する音が室内に響き渡り、
整然としていた取調室の雰囲気は先程までとは一転して緊迫したものへと変わった。


(#;∀ ;)「お前なんかに……お前なんかにわかってたまるかあああああああああああ!!」

床に仰向けに倒れた長岡に馬乗りになり、少年は彼の首を絞めながら叫び声を上げる。

(;,,゚Д゚)「な、長岡ぁ!!」

(;゚∀゚)ノ「……」

(;,,゚Д゚)「……!?」

床から跳ね起きたギコが長岡の上にまたがる少年に向かって飛び掛ろうとしたそのとき、
長岡は『待ってくれ』と言わんばかりに、ギコに向かって手のひらを広げた。

首を絞められ、青ざめていく長岡の顔。

それでもなぜか強い意志の光を瞳に宿している彼の視線に動きを止め、
ギコはなんとか飛び掛る衝動を押さえ、長岡が限界に達するまで傍観しようという苦渋の決断に至る。
その代わり、いつでも少年に向けて行動を取れるようにスタンバイした。

一方、少年はそんなギコに気づくそぶりすら見せず、
押し倒して首を絞めた長岡を憎しみの双眸でにらみつけ、泣き叫ぶ。


(#;∀ ;)「僕は何もしていないのに! 
      みんな僕を見てキモいって言って笑うんだ! 無視するんだ!!
      笑われながら一人で昼食を食べる僕の気持ちがお前にわかるか!?
      机に落書きされて! 教科書めちゃくちゃにされて! 
      後ろゆび指されながらニヤニヤ笑われる僕の気持ちがお前にわかるか!?
      それでも独りで教室にいなきゃいけない僕の苦しみがお前なんかにわかってたまるか!!」

憎しみは言葉にのり、空気をわたり、また戻ってきては少年の憎しみを増幅させてゆく。

首を絞める少年の手に力がこもる。
長岡の顔が、ますます青ざめてゆく。

(#;∀ ;)「どうせお前はいじめっ子だったんだろ!? 
      そんなお前に僕の気持ちなんかわかるわけないよな!?
      いじめのせいで成績は下がって、パパやママからは失望されて、
      最後には弟にまでバカにされる始末だ! 
      今の僕には居場所なんてどこにもないんだよ!!」


(;'_L')「な、何事ですか!?」

激昂する少年。
先ほどから続く室内の轟音と叫びに、流石にしびれを切らし飛び込んできた見張りの刑事。
その刑事を制止し、ひたすらに長岡を見守り続けるギコ。

真っ青に染まった長岡の顔。

もう限界だと、ギコが少年に向かって飛び掛ろうとした直前、
途切れ途切れにつぶやかれる長岡の言葉に、ギコは再び動きを止められた。

(;゚∀゚)「……その報復に……ホームレスを刺した……ってわけか?」

(#;∀ ;)「!!」

(#゚∀゚)「……ふざけんじゃねぇ! おらっしゃあああああ!!」

(;∀ ;)「う、うわっ!!」

あおむけに押し倒された長岡が馬乗りになる少年の身体をブリッジで払い落とす。
突然の抵抗になすすべもなく、少年は床に背中を強打して倒れた。

(;゚∀゚)「ゲホッ! ゲホッ! おぇ!! ……ったく、死ぬかと思ったぜ」

長岡は喉元を押さえ、苦しそうに何度か咳をしながら立ち上がり、床に転がる少年を見下ろす。
そして、彼にしては珍しい真剣な表情で、少年に語りかける。


( ゚∀゚)「お前の言いたいことは大体わかった。まあ、同情の余地はあるわな。
     だけどよ、なんでお前、
     刺したのがクラスの連中や家族じゃなくてホームレスだったんだ?」

(;・∀ ・)「……そ、それは」

床に転がった少年は仰向けのまま、視線だけを長岡からそらせる。
あきれたように一つ嘆息して、長岡は続ける。

( ゚∀゚)「どうせ抵抗されるのが怖かったんだろ? そうだよなぁ。
     クラスの連中も家族も、みんなお前より強い立場の人間だもんな。
     そんな奴らに反抗する勇気もない弱っちいお前には、そりゃ無理な注文だ」

(#・∀ ・)「ぼ、僕は弱くなんかない!!」

(#゚∀゚)「じゃあなんでホームレスを刺したんだ!? 言ってみろよ!?
    どうせホームレスが自分より弱いとでも思ってたんだろ!? 
    こいつらなら刺してもいいって思ってたんだろ!? ふざけるのも大概にしろ!!
    てめぇがてめぇを見下していた連中を刺したっつー方が、まだ救いがあるぜ!!」

少年をまっすぐににらみつけ、強烈な怒鳴りを上げる長岡。
少年は反論が見つからないのか、黙って口をもごもごとさせるだけ。




144: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/06(金) 22:36:00.29 ID:tdiAoXof0

(#;∀ ;)「お前になんか……僕の気持ちがわかるもんか……」

ようやく声になった言葉は抽象性にまみれており、
もはや少年の顔に戦意など欠片も感じられない。
それでも長岡は止めることなく、追撃の罵声を容赦なく浴びせかける。

( ゚∀゚)「おーおー、『自分が世界の不幸をすべて背負ってます』とでも言いたげな顔だな?
     ……甘えてんじゃねーぞ?」

ドスのきいた低い声を上げると、長岡は突然にギコの顔を指差した。

いきなりのことに何事かと目を見張るギコ。
次の長岡の言葉に、彼の感情は大きく揺さぶられた。

(#゚∀゚)「このおっさんを見てみろ! 
    ブッサイクな厳つい顔で、安月給で、いい年して下っ端で、
    嫁さんとは離婚寸前で、子供もいなくて、
    俺以外のほかの刑事からはウザがられてんだよ!   
    それでもこうやって逃げずにマトモに生きてるんだよ!
    犯罪ギリギリの性格の悪さでもな!!」


(,,゚Д゚)(……こいつ、後で絶対に殺す)

揺さぶられたのは怒りの感情。
怒りのバロメーターが振り切れるのを理性で何とか押しとどめるギコ。

しかし、怒りの度合いを表すその針は、次に発せられた長岡の言葉で一気にゼロへと戻される。

(#゚∀゚)「俺だってな、物心もつかないうちに親父が死んで、お袋は目の前で殺されたんだ!
    引き取られた親戚の家では厄介者扱いだった! 
    おかげで性格もすさんじまって友達も出来なかった!!
    それでも必死に生きてきたんだよ!
    てめぇみたいに逃げちゃいなかったんだよ!!」

(,,゚Д゚)「……」

呆然とした。
知らなかった。想像すら出来なかった。

いつもアホ面で、どこでもおちゃらける能天気野郎で、
周囲を明るくさせるくらいしか能のない長岡のそんな過去が。

嘘だろうと思って長岡の顔を見る。

その表情に欠片もふざけたところは無く、
さら次に発せられた言葉は、ギコでさえも震え上がるほどのものだった。


(#゚∀゚)「自分だけが不幸だって思ってんじゃねーぞ!
    誰だって、生きていく中で何度もつらい目にあってんだ! それに耐えてんだ!!
    てめぇが殺した内藤だってそうだ!
    あいつだって何かに耐えて必死に生きてきたんだ!!
    人間、誰だってもだえて苦しんで、それでも前を向いて笑ってまっすぐ生きてんだよ!!
    ニュー速高校通えるだけの頭があって、なんでそんなこともわかんねーんだ!!」

3_20091226204508.jpg



仮に時の番人がこの場にいたとすれば、
彼はきっと、長岡の言葉を『想念』と表現したであろう。

しばしの間、ただ立ち尽くすだけのギコ。
目の前の長岡の足が少年へと一歩踏み出したそのとき、ギコは知らず知らずのうちに動き出していた。



(,,゚Д゚)「……もういい。そこら辺にしとけ」

(;゚∀゚)「ギコさん……」

肩を怒らせながら、肩で息をしながら
少年をにらみつける長岡のその肩に手をやり、ギコは静かに彼を制した。

そのまま、床の上で上半身だけを起こして怯えた瞳でこちらを見つめる少年の前にしゃがみこみ、語りかける。


(,,゚Д゚)「馬鹿な親。馬鹿なクラスメイト。お前を助けようともしない先公。
    確かにお前の置かれた境遇は不憫なもんだ。同情するよ。
    だが、お前は若い。お前はこれからでも十分に人生をやり直せる。
    だから、絶対に死のうなんて考えるな。
    死んで人生やり直そうなんて、そんな糞みたいな考えはするんじゃねーぞ?」

(;∀ ;)「……」

そう言って、少年の肩にやさしく手を置いたギコ。
少年の表情が涙で見る見る崩れていく。

顔をしかめ、少年の泣き顔から眼をそらしたギコ。

しかし、再び少年へと上げたその顔は、
普段ギコから怒鳴られ慣れている長岡でさえも縮み上がりそうなまでに、恐ろしい表情だった。


(,,゚Д゚)「だが、おまえには罪を償ってもらう。
    傷つけられたホームレスの痛み、そして、お前が殺した内藤ホライゾンの人生の分までな」


怒り、憎しみ、殺意。

言葉では言い表せないほどの負の感情を乗せたギコの低い声。
鋭い豹のような眼光でにらみつけ、止めを刺すよう告げる。


(,,゚Д゚)「少年だからって罪が免除されると思うなよ? 
    てめえには絶対実刑つけてやるからな。てめえに刺されたホームレスの痛み。
    てめえが終わらせた内藤ホライゾンの人生。そして残されたもんの悲しみ。
    その重さを……甘く見んなよ?」

(;∀ ;)「……」

矢のように射抜いてくる豹の瞳と、
日本刀のように鋭く胸の中を切り裂いてくるかのごときギコの声。

それを一身に受けた少年は、
先程までの怒りではなく、完全なる恐怖による震えを全身で体現する。

完全に抜け殻状態になった彼を一瞥して立ち上がると、
これまでただ呆然と立ち尽くすだけだった見張りの刑事に声をかける。


(,,゚Д゚)「おい、フィレンクト。
    被疑者を護送車で鑑別所に連れていけ。マスコミには注意しろよ」

(;'_L')「は、はい!」

その言葉に慌てて少年を立ち上がらせ、部屋の出口へと向かっていく刑事。

彼に連れられていく、力の抜けきったフラフラとした足取りの少年の背中に向けて、
最後にギコは、言った。

(,,゚Д゚)「……おい、坊主。
    お前が終わらせた一人の人間の人生の重さに、逃げずに真っ向から向き合ってこい。
    それが終わったら、また戻ってきて人生をやり直せ。……頑張れよ」

(;∀ ;)「……」

一瞬だけ立ち止まった少年の背中。

それは何も答えることなく、すぐに出口の向こう側へと消えていった。


                       *

それからもギコたちの仕事は続いた。

押しかけてくるマスコミへの対応。調書の洗い出し。
捜査資料の少年鑑別所、家庭裁判所、そして警視庁への提出。
津波のように轟々と押し寄せてくる仕事の数々に、VIP署内は総員で対応した。

マスコミの来訪は夜が明けても絶えることが無く、
何気なくつけた朝のニュース番組には、自分たちの職場であるVIP署が中継されていた。

(,,゚Д゚)「まるで見世物小屋だな」

慣れない冗談を言ってはみたものの、疲れきっていた同室の面々は何も声を発しない。

何気なく長岡に目をやると、二日連続で徹夜の憂き目に遭った彼は、
昨日切望していた正真正銘のクマを目の下にこしらえて、自席の上にぐったりと倒れていた。


(,,゚Д゚)「ご苦労さん。そろそろあがるぞ」

(;〓∀〓)「……やっと休める」

(,,゚Д゚)「ところがそうでもないんだな」

(;〓∀〓)「はあ!?」

机に突っ伏した顔を高速で上げた長岡。
視線の先では、ギコがさも当然といった顔をしている。

(,,゚Д゚)「世話になったホームレスの連中に一報入れなきゃなんねえだろ?
    もう通り魔の危険は無くなったってな」

(;〓∀〓)「そんなの明日でもいいでしょう!?」

(,,゚Д゚)「ああ!? 善は急げって言うだろうが! 黙ってついて来い!!」

(;〓∀〓)「一人で行ってくださいよ~。俺、もうここで寝ます~……」

力なくつぶやいて再び机の上へと突っ伏した長岡。
彼の首根っこをつかんで無理やり引き起こし、ギコは叫ぶ。

(,,゚Д゚)「バカやろう! 寝たら死ぬぞ!!」

(;〓∀〓)「死にませんよって痛って! 痛って! 痛ってええええええええええええええ!!」

ギコの愛の往復ビンタが、長岡の両頬に炸裂した。


                       *

(,,゚Д゚)「大丈夫か? 目は覚めたか?」

(#)∀(♯)「ええ。大丈夫じゃないけど、目は覚めました」

午前十時。
空気は冷えるが太陽の日差しが心地よい朝の公園を、ギコはまんじゅうとともに歩いていた。

風景を眺めながら散歩する老人、ベンチで軽食をとる社会人、ベビーカーを押す母親。
公園には、実にいろいろな人々が思い思いの朝を過ごしている。


『なぜ、こいつの顔はこうも安らかなのだ?』


思えば、すべてはここから、この疑問から始まった。

己の葛藤の顕在化、感情の爆発、そして様々な過去を持つ人々との出会い。

内藤ホライゾンという老人の人生をたどる中で、それにまつわるたくさんの人生の一端を垣間見てきた。
そして、知らず知らずのうちにギコもまた、己の人生へと向き合うことになった。

他人から見ればセンセーショナルなだけで、時の流れの中ですぐに忘れ去れてしまうような事件。
それが、一人の刑事の人生に忘れられない出会いを与えた。

( ゚∀゚)「ホームレス連続殺傷事件も解決しちまいましたね」

公園を闊歩しながらこれまでの慌しい二ヶ月を振り返るギコに、長岡が名残惜しそうな声を上げた。
自分と同様、長岡にも何か思うところのある事件だったのであろうか?

(,,゚Д゚)「ああ。そうだな」

そんなことを尋ねようかとも思ったが、なぜだかそれはためらわれて、
結局ギコは曖昧な同意の声を上げるだけにとどまった。


( ゚∀゚)「……結局、内藤麗羅って何者だったんスかね」

(,,゚Д゚)「……わかんねえわ。こればっかりは、どんなに捜査してもわかんねえと思う」

つぶやいて、立ち止まる。
視線の先には、広葉樹の植え込まれた遊歩道。

その先に、老人の最期の場所がある。

(,,゚Д゚)「内藤麗羅が孤児か拾い子か、はたまた連れ子なのか養子なのか。
    それは結局、どうでもいいことなんじゃねえかと思う」

遊歩道を前に立ち止まり、以前長岡にダサいと形容されたコートのポケットからタバコを取り出す。
続けてライターを取り出そうとしたが、残念なことにそれはどこにも見当たらない。

(,,゚Д゚)「しまったな……署に忘れてきちまったか」

( ゚∀゚)「ありますよ」

そう言って長岡はズボンのポケットからギコのライターを取り出し、火をつけてギコの前に差し出した。

( ゚∀゚)「ギコさんの机の上に忘れてあったんで、持ってきました」

(,,゚Д゚)「お前にしては気がきくじゃねぇか」

部下の手から差し出されたライターでタバコに火をつける。
悪くない。少しだけギコの顔がほころぶ。

吐き出した一番目の煙が一瞬だけその場に浮いて、ゆっくりと遊歩道の先へ流れていく。
それを追うようにして、二人も広葉樹の囲む遊歩道へと歩き始める。

( ゚∀゚)「そーいや、昨日、ギコさん言いかけてたでしょ?
     内藤ホライゾンが内藤麗羅を内藤麗子との実子にしたわけとかなんとか」

(,,゚Д゚)「ああ、そういやそうだったな」

( ゚∀゚)「聞かせてくださいよ」

木漏れ日が心地よい遊歩道。
さらさらと風にざわめく草木の揺れが、木漏れ日の照らす地面をグラデーションのように彩ってゆく。


(,,゚Д゚)「……内藤麗羅が内藤ホライゾンの実子じゃないのは間違いねぇ。
    だが、あいつが別の女と結婚して連れ子を認知したとも俺には思えねぇ。
    あいつは多分、内藤麗子以外の女とは生涯結婚はおろか、
    肉体関係すらもたなかったはずだ。
    ……これはあくまで俺の推測に過ぎないんだがな」

( ゚∀゚)「……ずっと内藤について調べてきたあんたがそう思うんなら、そうだったんでしょ」

耳に届いた長岡の声。
それが少し照れくさくて、ギコは顔を隠すように二本目のタバコに火をつけた。

(,,゚Д゚)「多分、内藤麗羅は孤児院から……いや、孤児院だと家庭裁判所が絡んでくるか。
    そうなるときっと、どっかで拾った子だったんだろう。いずれにしても、
    内藤は彼女を自分と内藤麗子の実子として戸籍に記載した。
    おそらく何らかの偽造によってな」

そう言って、またギコは立ち止まる。

彼の視線の先には、遊歩道から外れた植え込み。内藤ホライゾンの、最期の場所。


(,,゚Д゚)「きっと内藤は、内藤麗羅が自分と内藤麗子の子っていう事実を
    何らかの形で残しておきたかったんだろう。
    やっぱり、自分が好いた女との間に、
    男だったら何かしらの形を残したいって思うはずだ。
    それが内藤にとっての、麗羅って娘の存在だったんじゃなかったのかなって、
    俺は思う」

遊歩道からはずれ、植え込みの奥を目指す二人。

その先にあったのは、老人の寂しい最期など知らないかのようにようやく咲き始めた、
空き缶に挿された一輪の青い花。

おそらく、ホームレスの連中が置いていったのだろう。
その前にしゃがみこみ、ギコは三本目のタバコに火をつけた。

しかし彼はそれを味わうこと無く、枯れた花の隣へと静かに置く。

(,,゚Д゚)「内藤さん。あんたがタバコを吸っていたかは知らねぇが、これは俺からの餞別だ」

目を瞑り、手を合わせる。しばらくの黙祷。

そして、続ける。


(,,゚Д゚)「あんたのこと、いろいろと調べさせてもらったよ。……つらい人生だったな。
    戦友を失い、その妹からは罵声を浴びせかけられ、最愛の妻は死に、そして娘も死んだ。

    事故の記事、読ませてもらった。誰もが見落とすような小さな記事だったよ。
    あんたが運転する車が、いきなりはみ出してきた対向車とぶつかったんだってな。
    あんたは奇跡的に助かった。だけど、一緒に乗っていた娘の麗羅は死んでしまった。

    後悔しただろう。世界をうらんだだろう。降り続ける不幸の雨に絶望しただろう。
    そんなあんたが笑って死んだわけ、今ならわかる気がするわ」

ポツリポツリとつぶやくギコ。
しゃがみこむ彼の後ろに立つ長岡は、静かにその声を聞いていた。


(,,゚Д゚)「あんた、それからずっと死にたがってたんだろう?
    それから何年も何十年も生きて、そしてついに、お前を殺してくれる人間と出会った。
    そりゃ笑うよな。ようやくつらいことだらけだったこの世からおさらば出来るんだ。
    無理もねぇ。  
    正直、そんな風に笑って死ねたあんたが、俺には少しうらやましかったよ」


長岡の眉が少しだけ動いた。同時に眉間にしわがよる。

やっぱりあんたは枯れちまったのか? もう昔のあんたじゃないのか?
そう言いたげな彼の瞳が、悲しげな視線をしゃがみこむギコの後姿に送る。

しかし、ギコの後姿は依然として大きいまま。
幼い頃に見た、ずっと追い続けてきた背中となんら変わりない。

枯れた男の背中にはとても見えない強い存在感。

その背中が、再びの言葉を形作る。


(,,゚Д゚)「だけどよ、やっぱり俺は、あんたみたいに笑って死にたくねぇわ。
    俺はダメな男だけどよ、あんたみたいに人生を諦め切れないんだわ。

    俺はあんたのように世界に絶望しながら笑って死ぬんじゃなくて、
    どんなに見苦しい姿だったとしても、人生悪くなかったって思いながら死にたい。

    やり直したい過去もある。後悔だってたくさんある。
    だけど、俺はそれも全部ひっくるめて、前を向いて、笑って、まっすぐ生きたい」


ゆっくり、だけど力強く、ギコは立ち上がる。
そのまま後ろに立つ長岡へと振りかえって、言う。


(,,゚Д゚)「長岡。きっと俺はこれからも冴えないダメ刑事のままだ。
    しかしな、俺は俺の信念に従う。
     誰に何を言われようが、俺は俺の刑事道を突き進む。

    俺には上手な世渡りの仕方だとか、出世の仕方なんてものはお前には教えてやれない。
    だが、俺の生き様だけは伝えることが出来る。
    それでもお前、俺についてくるか?」


ひたすらにまっすぐな、深く、黒い瞳。
まるで、空の彼方まで続いていく飛行機雲見つめるかのような、遠い瞳。

その先に長岡は、あの日と変わらない、力強い意志の光を見た。

不器用で、愚直なまでにまっすぐで、
だけど決して己の道から逸れることの無い、一人の男の人生を見た。

そこから目をそらさず、同じようにまっすぐに目の前の瞳を見据える。
口の端を上げ、わずかな笑みを浮かべながら、長岡は言う。


( ゚∀゚)「……俺のこと、覚えちゃいませんか?」


(,,゚Д゚)「……ああ? 何の話だ?」

( ゚∀゚)「ちぇ……やっぱり覚えてませんかw」

不思議そうな顔のギコ。
それを見て、少しだけ寂しそうな笑みを浮かべながら、長岡は続ける。

( ゚∀゚)「昨日、取調室で言ったでしょ? 俺、親父がいなくてお袋も殺されたって。
     そのときに俺を救ってくれたのが、昔のあんただったんスよ」

(;,,゚Д゚)「……おまえ……まさか」

今となっては遠い昔。
駆け出しの頃の記憶が、徐々に浮かび上がってくる。

あの日の少年の顔が、はっきりとした形を帯びてくる。

( ゚∀゚)「そのときにあんたは、俺にあんぱんくれながらこう言ったんス。
     『お前はもう十分に強い。だから前を向いて、笑って、まっすぐ生きろ』って。

     その言葉のおかげで俺、こうやって刑事やってるんです。
     あんたみたいな男になりたくて、
     ずっとあんたの背中を追っかけて、ここまで来たんです。
     まあ途中すさんだ時期もあって、
     人生に負けそうになったこともありましたがね」


呆然と立ち尽くすギコ。
目の前の長岡の顔が、記憶の奥底に眠っていたかつての少年の面影と重なっていく。

( ゚∀゚)「あんたがいなけりゃ、俺も今頃、昨日のガキみたいになってたと思います。
     人生がうまくいかないのを全部他人のせいにして、周りも自分も傷つける。
     そんな人間にね。

     あのガキと俺は紙一重なんですよ。
     だから昨日の俺は、同属嫌悪みたいな形で怒り狂っちゃったんでしょうね。

     あいつの不幸は、あんたみたいな大人が側にいなかったこと。
     俺の救いは、あんたが俺にあんぱんと言葉をくれたことっス」


そう言って所在無く後ろ髪を掻くと、長岡はギコの前に手を差し出して、最後に言う。

( ゚∀゚)「正直言うと、最近の情けないあんたを見ていて俺は失望していました。
     だけどこの前の携帯からの怒鳴り声、昨日の見た変わらなくウザいあんたの顔、
     そんで今のあんたの背中を見て、あんたはあのときのまんまだなって思いました。
 
     そんなあんたがずっとそのままでいてくれるって約束してくれるなら、
     俺はいつまでもあんたの背中を追い続けますよ」

照れくさそうに笑いながら、それでもまっすぐにこちらを見据えてくる長岡。

その瞳には、かつての自分の言葉に力強く頷いた少年、幼い頃の長岡の瞳の輝きが宿っていた


視界がにじみ、何も見えなくなった。
身体が芯からブルブルと震え、嗚咽の声が止まらなくなる。

目の前に、あの少年がいる。

不条理に母親を殺されて、父親もそのときすでにいなかった。
つらいことがたくさんあっただろう。生きているのが嫌になったときもあっただろう。
それでも世界を憎むことなく、こうやって彼は今、自分の目の前に立っている。

お世辞にもしっかりした大人だとは言えない。
けれども彼はいつも馬鹿みたいに笑いながら、
刑事というまっとうな職に就き、日々をまっすぐに生きていくれている。

おまけに、彼をそこまで導いたのは、かつての自分の言葉だったという。

間違ってはいなかった。
自分がこれまで歩いてきた道は何も間違ってはいなかったのだ。

自分のこれまでの人生が長岡という価値を生み出した。
そして、彼はこれからも自分についてきてくれるという。

この先も、自分は何かを残していける。
過去を否定することなく、未来だけを向いて生きていける。

にじむ視界の先に、道が見えた。
誰のものでもない、自分だけが見ることができるであろう、未来が見えた。

そしてその先に、内藤とは別の意味で笑いながら死んでいく、自分の姿が見えた。


(,,;Д;)「……」

無精ひげを伝うしずくがあごの先から地面へと落ちる。
差し出された長岡の手をしっかりと握りしめ、涙声でつぶやく。


4_20091226204508.jpg



(,,;Д;)「……ありがとう……ありがとう」

(;゚∀゚)「ちょwwww 泣くなよおっさんwwwww 
    それより手が痛いwwwww つぶれるwwwwwwww」

(,,;Д;)「……ああ……ああ」

ギコに握り締められた手がよほど痛むのだろう。長岡は脂汗をかきながら本気で叫ぶ。
それでもギコは長岡の手を握り締め、顔をうつむけて静かに泣き続けるだけ。

見得、外聞、社会的立場。
ありとあらゆる枠を取り払って感涙するギコ。

見てるこっちが恥ずかしくなったのか、長岡はからかいの声を上げ始める。

(;゚∀゚)「ちょwwwww ギコさんきんもー☆」

(,,;Д;)「……ありがとう……本当にありがとう」

長岡の嘲笑が全く耳に入っていないのだろう。
ギコはただひたすらに泣きながら、歓喜の声をつぶやき続ける。

その姿に、長岡は妙案を思いつく。


( ゚∀゚)ノシ「いいってことよ! 気にすんなって!!
      それよりギコさん、今日俺にあんぱんおごってくれませんか?」

(,,;Д;)「……ああ……ああ」


ギコの肩をバシバシと叩く長岡。
そして、予想通りのギコの返答。長岡はしてやったり的な笑みを浮かべ、さらに続ける。


( ゚∀゚)「ついでに牛乳もおごってくれますよね?」

(,,;Д;)「……ああ……ああ」


( ゚∀゚)「うまいラーメン屋見つけたんですよ!
     一杯千円だけど、おごってくれますよね?」

(,,;Д;)「……ああ……ああ」


こいつはいける! そう確信した長岡は、とっておきの言葉を口にする。

( ゚∀゚)「それと昨日、ギコさんのお気に入りのカップ割っちゃいました! 
    ごめんなさーい!! だけど、もちろん許してくれますよね!?」


(,,;Д;)「……ああ……ああ……」





















(,,゚Д゚)「………………………………ああん!?」




突如豹変したギコの声。
続けて長岡の手を最大限の握力で握り締め、先ほどまでとは別の意味で身体を震わせるギコ。

(;゚∀゚)「ちょwwwwww 手がつぶれるwwwwwwwwwww」

(,, Д )「てめぇ……今なんて言った……」

(;゚∀゚)「あ……あはは~……何だっけかな~……忘れちゃったな~……」

うつむき、肩を震るわせるギコ。
彼は長岡の手を離すと、己の腰に装着したホルスターへとその手を伸ばす。

同時に身の危険を感じ取った長岡が、ズリズリと後ずさりながら言う。

(;゚∀゚)ノシ「いや……違います……そ、そう! フィレンクトです!
      フィレンクトの野郎がギコさんの猫さんカップを割りやがったんですよ!!
      あいつめ! なんて野郎だ! 腕の一本や二本じゃすまさねぇ!!
      というわけで僕、ちょっと署に戻りますね! さ、さようなら~!!」

そう言って長岡が回れ右をして駆け出そうとしたそのときだった。
ドスのきいた、聞くだけで死んでしまうザキのような声があたりの空気を震わせる。


(,, Д )「長岡……」

(;゚∀゚)「……なんでしょう?」

(,, Д )「てめぇが行くところは署じゃねぇ……」

(;゚∀゚)「えーっと……それでは、わたくしはどちらに向かえばよろしいのでしょうか……」




(,,゚Д゚)「地獄だ!」




( ;∀;)「イ―――――――ヤ――――――――!!」





長岡の叫び声、そして甲高い銃声が朝のさわやかな公園へと響き渡った。



(,,゚Д゚)「長岡ぁ! 待ちやがれゴルァ!!」

(;゚∀゚)「勘弁してくれよとっつぁ~ん!!」


遊歩道をにぎやかな色に染めながら、猛スピードで走り去っていく二人の刑事。
その様子を、木の枝の上に寝転がり退屈そうな瞳で眺めていた二匹の白猫の母子がいた。

二匹は枝の上からピョンと跳ね下り、空き缶に挿された一輪の青い花の前に降り立つ。

その花の名はムスカリ。

花期を迎え始めたこの花の青は、老人の絶望を代弁する涙の色か。
それとも、どこまでも未来へと続いてゆく、絶えることのない空の色か。

傍らでくすぶっていたタバコの火が、風に吹かれて静かに消えた。

わずかばかりに暖かいその風に、これから訪れる春のにおいを感じたのであろうか?

木漏れ日の先、淡い水色に染まる二月の朝空に向けて、
二匹の母子は嬉しそうに一つ、ニャーと鳴いた。


5_20091226204508.jpg






この小説は1944年12月某日から2007年3月某日にかけて時の狭間で記録されたものです
作者は78 ◆pSbwFYBhoY 氏
Scene 14 はこちらへどうぞ

記事元はオムライスさんになります



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[ 2009/12/26 20:48 ] ナギ戦記 | TB(0) | CM(0)

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