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( ^ω^)がリプレイするようです Scene 11

はじめてブーン系小説を読む方はこちらへどうぞ






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scene11:幕間


時の狭間と称される一軒の小さなバー、バーボンハウス。
薄暗い店内のカウンターを挟み向かい合って、二人の男は掲げたグラスをカチンと合わせた。

(´・ω・`)「お疲れさまでした。そして、おめでとうございます」

/ ,' 3「ああ。ありがとう」

首元に赤い蝶ネクタイを締めたバーテンが賛辞の言葉を送ると、
その正面、カウンター席に座る老人が言葉を返し、グラスの中身を静かに空ける。

熱い鉛のような液体が喉元を通り過ぎ、胃の中がカーッと熱くなる。

それは皺枯れた老体が忘れていた情熱のようにも、
過去にさかのぼって憑依した若い身体がもてあましていた生きる力のようにも感じられた。

(´・ω・`)「人間にとって、言葉というものには古くから魔力があるものと
      考えられてきたそうですね。
      だからこそ言葉を、特に込められた言葉を人に伝えることは容易ではない。
      しかし、そらさんとの邂逅においてあなたはそれを成し遂げた。たいしたものだ」

自分のグラスにもテキーラを注いだバーテンは、それをちびちびと舐めるように口に含む。
対面の老人はいぶかしげに彼の顔をにらみつける。

/ ,' 3「なんじゃ、気味が悪い。お前さんでも人をほめることがあるんじゃな」

(´・ω・`)「失礼な。しかるべき事象にしかるべき評価を与える。それが私のモットーです」

老人の言葉に苦笑するバーテン。

手にしたグラスがその振動で揺れ、中の氷がカランと音を立てる。
薄暗いバーの空気が、乾いた高い音にわずかに震えた。


(´・ω・`)「実際にいたんですよ。
     今回のあなたのように『言葉』を伝えるためのやり直しをした人間がね。
     彼は、伝えられなかった求婚の言葉にずっと後悔していた。
     そこで私は彼をここに招待しました。
     ちょうど、言葉に関するやり直しのサンプルを取りたいとも思っていましたしね。
     彼の後悔は、あなたの持つそれに比べればたいしたものではないかもしれません。
     しかし、彼はその言葉を伝えられなかったからこそ
     自分の人生はおかしくなったと後悔していた」

/ ,' 3「他人から見ればたいしたことないものでも、
   その当人にとっては重大なものは世には多々転がっているもんじゃ」

(´・ω・`)「ええ、まったくそのとおりです」

遠い目をして同意するバーテンの表情に、
老人内藤ホライゾンは一つの疑問を見出した。

時の狭間、時の流れと関係のなさそうに見えるこの場所にも、時は確かに流れているのではないか?

その証拠に、今のバーテンの瞳は彼の過去を見つめている。
それは彼の中にも時が流れている証明に他ならない。

結局、時が流れない場所など存在しないのではないか?

この空間のように、他の『時の川』を自由に眺めることが出来る場所にも時は流れている。

山と山、その狭間の谷に川が流れるように、
時と時の狭間のこの場所にも、時は確かに流れているのだ。

時が流れている以上、生き物は老い、死んでゆく。

では、目の前のバーテン、時の番人とはいったい何者なのだろうか?
老いることなく永遠の時をつむいでいく存在が、時間の中に存在しうるのだろうか?

内藤の疑問に明確な答えが出るはずもなく、それは紡がれたバーテンの言葉に流された。


(´・ω・`)「彼はあなたと同じように、別の時の中の、
     彼が体験したものと同じ場面へと飛びました。
     そして求婚の相手を目の前にして、彼はどうしたと思います?」

/ ,' 3「プロポーズしたんじゃろう?」

(´・ω・`)「プロポーズ? ふふ……あっはっはっはwwwwwwwww」

バーテンは声を上げて笑い始める。
目の前で起きた予想外の出来事に呆然とする内藤。

ひとしきり笑ったあと、バーテンは再びグラスを舐めて答える。

(´・ω・`)「いやはや、失敬。
     あなたの口からプロポーズという言葉が出てくるとは思いもよりませんでした」

/ ,' 3「死ね。氏ねじゃなくて死ね。わしだってプロポーズくらいしたことあるわい」

するとバーテンはいたずらな輝きを瞳に宿し、にやりと口元を吊り上げながら聞く。

(´・ω・`)「ほう? 相手はツンさんですね? どんな言葉で求婚なさったのですか?」

/ ,' 3「昔のことなぞ、とうに忘れてしまったわい。
   というか、時の番人のお前なら知っているはずじゃろう。
   それよりなんじゃ貴様。酔っとるんじゃないのか?」

(´・ω・`)「ふふふ。そうかもしれませんねぇ」

/ ,' 3「バーテンが酒に呑まれてどうする?」

(´・ω・`)「そう言われると返す言葉もございません。
     しかし、喜ばしい出来事の際に酔うのは人間の礼儀ではないのですか?」

/ ,' 3「お前さんは人間じゃなかったんじゃないのか?」

(´・ω・`)「ふふふ。それもそうでしたね」

そう言って寂しげに笑うバーテン。

内藤には、その姿がやはり人間に見えてならなかった。


(´・ω・`)「さて、続きをお話しましょう。
     結局、彼は求婚……
     あなた流で言うとプロポーズの言葉を口にしなかったんですよ」

小馬鹿にしているような、からかっているような何ともいえない口調だったが、
それよりも内藤は話の内容に興味をそそられた。

老人は何も言わず、ただ続きを話すよう促す。

(´・ω・`)「『なぜあなたはやり直しを果たさなかったのか?』
     彼がここに戻ってきた後、私は問いました。
     『怖かった』と、彼は自嘲しながら答えました」

/ ,' 3「怖かった?」

(´・ω・`)「ええ。彼は怖かったのです」

老人の疑問の声に、バーテンははっきりとした口調で返した。

(´・ω・`)「一度死に、失うものなど何もなく、未来も知っている。
     それなのに彼は怖かったのです。
     実際にやり直しの場面に対峙して、彼は足が震えたそうです。
     求婚を拒まれることも当然怖かったでしょう。しかし、それだけじゃなかった。
 
     彼が一番怖がっていたのは彼女の未来だったそうです。
     後悔ばかりの人生を歩んできた自分が彼女を幸せに出来るのか。
     自分の歩んだ後悔の道に彼女も引き込んでしまうのではないか。
     そう思うと、彼は何も言えなかったそうです」

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/ ,' 3「愚かじゃな」


即座に答えた老人の声。
バーテンは驚いたのか、ほんの少しだけ眼を見開いた。

/ ,' 3「どんな綺麗事を並べようが、それは結局、
   そいつには覚悟がなかったというだけじゃ。彼女を幸せにすると言う覚悟がな。
   わしはツンに生きてほしかった。それは何よりわしの幸せのためにじゃ。
   しかし、それはわしのわがままじゃ。
   自分のわがままに誰かを巻き込むときに、人は必ず覚悟をしなければならん。
   『わしはわしの幸せのためにお前を巻き込む。そのかわり、必ずお前も幸せにする』とな」

バーテンは空になったグラスを置いて笑う。

(´・ω・`)「クサい台詞ですね。クサすぎてギップルが出てきそうです」

/ ,' 3「年寄りの戯言じゃ。見逃せ」

(´・ω・`)「それじゃあ、見逃すついでに一つ答えてください。
     あなたはそらさんとの邂逅において、何を覚悟していたのですか?」

バーテンの問いに少しの間を置くと、老人は言葉を選ぶように答えた。


/ ,' 3「信じる覚悟……かの」


(´・ω・`)「信じる覚悟?」

/ ,' 3「ああ。覚悟とはちと違うかも知らんがの。
   彼女、そらさんはドクオの妹じゃ。
   あいつの妹ならばどんな真実を知っても強く生きていけると信じた。
   彼女なら、わしのわがままで発した言葉さえも跳ね除けて
   前に進んでいけると信じたのじゃ」

(´・ω・`)「あなたの言葉を跳ね除けるだけのバイタリティがそらさんにはあった。
     それはつまり、あなたの言葉は彼女の人生を変えるだけの力を有していなかった。
     突き詰めて言えばそういうことだ。あなたはそれを自覚していたのですね?」

突然、出会った頃のような能面に戻り内藤を問い詰める時の番人。
自分だけに収斂された双眸にたじろぎながらも、老人は肯定の頷きを返す。

/ ,' 3「そこまで深くは考えなかったが、まあそうなんじゃろうな」

(´・ω・`)「そうですか。それならば言いましょう」

/ ,' 3「何をじゃ」

(´・ω・`)「今回のあなたのやり直しが成功したわたしなりの考察を、です」


番人はカウンターの上で両手のひらを組むと、その上にあごをのせた。
能面に設えられた唇が静かに答えを語りだす。

(´・ω・`)「おそらく、今回のやり直しであなたの放った言葉は彼女に対して、
     もっと言えば時の流れに対して何の影響ももたらす力のないものだったのでしょう。
     あなたが死してなお後悔していた言葉は、時にとっては取るに足らないものだった。
     だからこそ今回のやり直しは成功した」

自分のこれまでの後悔を否定する言葉を並べる番人。
正直言うと、内藤はうすうすそれに気づいていた。

三度やり直しの場面に立ち、バーテンの回りくどい言葉を耳にしてきたのだ。
人並み以下の頭しかない自分だって、三度目のやり直しがうまくいきすぎたことはわかっていた。
だからこそ、何か裏があるのでないかとは疑っていた。

しかし、実際に他の誰かの口から言われれば流石にショックは大きい。

番人は続ける。


(´・ω・`)「おそらく彼女を、時を変える本質的な問題は別のところにあったのでしょう。
     そして、それはあなたの言葉ではなかったのかもしれない。
     もしかしたら彼女自身が放った言葉だったのかもしれない。
     それは時か、もしくは彼女に聞かなければわかることはないでしょう」

内藤は大きくため息をついて、うつむいた。

確かに自分は後悔を払拭した。
それに何の悔いもないし、むしろ喜びの方が大きい。

しかし、ずっと自分が抱え込んできた後悔に何の意味もないといわれれば
後悔を払拭した喜びも半減するようだった。


(´・ω・`)「想念という言葉があります」

/ ,' 3「壮年? ワシのことか?」

(´・ω・`)「違います。あなたは老年、つまりじじいです。私が言ったのは想念です」

うつむけた顔を上げれば、老人の前に広がるのは相変わらずの能面。
イントネーションから単語の違いを即座に訂正し、バーテンは静かに続ける。

(´・ω・`)「辞書的な意味で言えば、瞬間に浮かんでは消える想いの事です。
     しかし、私は想念をもっと別の意味、魂が込められた想いと解釈しています。
     それは主に言葉を媒体として人に伝えられますが、それだけではありません。
     想念を発した人物の体験、人格、そして命をも媒体として伝えられるものです。
     内藤さん。あなたは『説得の様式』というものをご存知ですか?」

/ ,' 3「そんな小難しいことなぞ、わしが知るわけなかろう」

いきなり話題が飛んだことにムッとする内藤をよそに、バーテンはさらに続ける。

心の内で『わがままの究極はこいつかもしれん』と悪態をつきつつ、老人は聞く耳を傾けた。



(´・ω・`)「説得の様式には三つの種類があります。

     一つは話し手の人格によるもの。
     一つは聞き手をある一定の気持ちにさせることによるもの。
     そしてもう一つは、話それ自身の中で与えられる証拠、
     もしくは見せかけの証拠によるものです。

     これはあなた方の世界の哲学者、アリストテレスにより提唱された理論です。
     過去の独裁者、特にアドルフ・ヒトラーはこの理論をうまく実践した人物として
     知られています」

/ ,' 3「それがなんだというのじゃ!」

『バン!』とカウンターを叩き鳴らし立ち上がった内藤ホライゾン。
眼下にある能面で固めた時の番人をにらみつけ、激昂する。

/ ,' 3「わしのやり直しを否定し、後悔を否定しておいて、自分勝手に話を進めるな!」

(´・ω・`)「うん。とりあえず落ち着いて聞いてほしい。
     これは今後のやり直しに大いに役立つであろう話だ」

そう断言されると流石に言い返す言葉もなく、老人はバツが悪そうに再びカウンター席に腰掛ける。

同じ目線にまで下がった番人が語る。


(´・ω・`)「説得の様式は以上の三つ。
     しかし私は、説得にはもう一つの様式があると考えます。
     それも究極の説得様式です。それこそが、先ほど述べた想念による説得です」

/ ,' 3「……」

(´・ω・`)「言霊思想にも通ずるものですが、
     人の想いがこめられた言葉には恐ろしいまでの力があります。
     それは人の人生を変えるだけでなく、
     時の流れにさえ影響を及ぼしうると私は考えます」

/ ,' 3「……」

(´・ω・`)「内藤さん。私はあなたに問います。
     あなたがそらさんに投げかけた真実の中に、
     あなたはあなたの想念が込められていたと言えますか?」

/ ,' 3「……」


心の奥の奥まで見透かすような番人の瞳。
それを前にして、偽りの言葉など出せるはずがなかった。

真実を告げたい。
後悔を払拭したい。

想いはこめた。
それに嘘はない。

しかし、それが番人の言う想念にあたるものかといわれれば核心は持てない。

言葉に詰まり、黙してうつむく。
静けさがバーを支配する。

そしてそれは、まるで赤子の眠る部屋の扉を母親が開けるときのように静かに、
バーテンによって破られた。


(´・ω・`)「その後、毒田そらは結婚し、須名そらと姓を改めます。
     彼女の夫は企業家で、彼の援助を受けて、
     彼女はおろか彼女の家族までもが皆幸せな生を送りました。
     そしてあなたが死んだ今なお、彼女は元気に生きながらえています」

思いも拠らず告げられた事実に、内藤はハッとしてうつむけた顔を上げた。

続けて時の番人の顔を見て、
その顔に宿ったわずかな笑みを前に、それが真実だと確信する。


そうか、そらさんは幸せな道を歩んだのか。

ドクオ、聞いたか? 
お前が願った家族の幸せは果たされたぞ。

お前の想いは無駄じゃなかったぞ。


熱くなった目頭を押さえ、目を瞑る。
閉じたまぶたの裏に、嬉しそうに笑うドクオの顔が見えた気がした。

バーテンの声は続く。


(´・ω・`)「しかし、幸せな道を歩んだ彼女にも一つだけ後悔がありました。
     それはあなたに投げかけた言葉です」

/ ,' 3「……それはなんじゃ?」

(´・ω・`)「『なんで……なんであなたは生きているの!? 
     兄さんだけが死んで、なぜあなたは生きているの!?』
     あなたに投げかけたこの言葉を、彼女は今なお後悔しているのです」

なにを馬鹿なことを。

そんなことは気にしなくていい。
わしに投げかけた言葉なぞ気にすることなく、存分に生を謳歌してほしい。

目じりにたまった涙が零れ落ちるのを防ぐため、天井の先にあるはずのそらを仰ぐ。

しかし、それがかなうことはなかった。


(´・ω・`)「内藤さん。私は、あなたの言葉には想念が込められていたと思いますよ」

/ ,' 3「!?」

(´・ω・`)「『そらさんに幸せになってほしい』 
     あなたがそう願ったからこそ、過去は変わらなかった。
     だからこそあなたの言葉は時に影響を与えなかった。

     ドクオさんにしてもそうです。
     ドクオさんを救いにいったあなたの言葉に、想念は確かに込められていた。
     しかしそれ以上に、家族に幸せになってほしいという
     ドクオさんの想念の方が強かった。

     だからこそ時はドクオさんが死ぬ方向に流れて、
     結局は何も変わらなかったのでしょう。
     そしてあなたを放り込んだ別の時の流れにおいても、
     きっとそらさんは幸せな生を歩むのでしょう」


/ ,' 3「おお……おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

3_20091226203802.jpg



こらえていた涙がしずくとなって零れ落ちた。
一度堰を切ったそれはとどまることなく、しわがれた頬を伝い流れていく。

時の狭間を老人の低い嗚咽の声が漂い、満たしてゆく。

番人は立ち上がり、言う。


(´・ω・`)「そして何より想念が込められていたのが、はじめのやり直し、ツンさんとの邂逅です。
     あなたの込めた想いが時にどのような影響を与えたのか、
     私は楽しみでなりませんよ」

いつの間にか傍らに立っていた番人。

彼は内藤の肩をポンと叩くと、
さらにいつの間にか部屋の真ん中に設えられていた走馬灯を指差す。

(´・ω・`)9m「さあ、行きましょう。
       あなたの成したやり直しの結果を確かめに」

/ ,' 3「あう……あう……」

声にならない声は、若かりし頃、困った時の口癖でもあった。

しかし、迷いはない。
老人は涙をぬぐい、力強く一歩を踏み出した。


                   *

淡い炎が暗いバーを照らす。

それがゆらゆらとゆらめき、確かな一基の明かりとなったとき、
走馬灯はゆっくりと映し出す。


粗末な建物の前で立ちすくむ自分の影絵。

約一年ぶりに故郷の駅に降り立ったときのものだろう。
以前の名残を残さない廃墟の町に呆然とし、絶望した。
通り過ぎた冬の色を含んだ風が、絶望をさらにかきたてた。


こちらに駆け出してくる少女の影絵。

原爆投下から二ヶ月。
いまだ瓦礫の点在する町を抜け、
消し飛んだ我が家の跡地にたどり着いたときのものだろう。

その隣、家とも呼べない粗末な寝床の前に立っていたツン。
瓦礫の中でも生き延びようとする強い瞳が自分を捉え、泣きながら駆け出してきた。
胸に飛び込んできた彼女のぬくもりが、ただうれしかった。


小屋を目の前にする自分とツンの影絵。

冬に備え、瓦礫の中から使えるものを集め、
何とか家と呼べるものを作り上げたときのものだろう。

帰るべき家が出来た。ともに歩むべき人が出来た。
瓦礫の中からでも希望を見つけて生きていくのだと、二人で誓った。


山の上、巨大な岩がそびえる草原で対峙する自分とツンの影絵。

忘れもしない。忘れられない。
ツンにプロポーズしたときのものだ。

終戦から数年。
造船所に職を見つけ、貧しくも生きていけるだけの収入を得た自分。
休日に大好きな草原へとツンを誘い、いざプロポーズをするとなると、足が震えた。声が震えた。

結局、泣きながら発した言葉は「ぼぼぼ、僕と結婚してくだしゃい!」

彼女はひとしきり大笑いすると、笑いながら言ってくれた。

「しょうがないわね。あたしがいないとあんた、何にも出来ないんだから」


こちらに乗り出して訴える少女と、たじろぐ自分の影絵。

近所の女学生、渡辺さんに告白されたときのものだろう。
お世辞にも男前と呼べず、ツン以外に女っ気のなかった自分には全く寝耳に水のことだった。
丁重にお断りしたが、彼女は頻繁に自分の家を訪れるようになり、
いつの間にかツンと仲良しになっていた。


床に横たわるツンと、それを囲む自分と渡辺さんの影絵。

突然ツンが倒れ、それきり立ち上がれなくなったときのものだろう。
心配に顔を歪める自分と渡辺さんを他所に、ただの過労だろうと笑っていたツン。

思えば、彼女の笑顔を見たのはそれが最後のことだった。



そして、走馬灯は映し出す。


横たわるツンと、泣き叫ぶ自分の影絵。

想像を絶する苦しみに、叫びもだえる力すらなく死んでいった彼女。

夏に萌える草木のように美しい栗色の髪は抜け落ち、ふくよかな身体は痩せこけ、
口と鼻からは体液を垂れ流し、見えない両目は虚空をさまよっていた。

あらゆる苦しみの末にたどり着いた、あまりにも哀れな最期。

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ここだ。
自分の最大の後悔はここだ。

はじめのやり直しは、すべてのやり直しはここに通じていた。

影絵が色を帯びる。
二度と見たくない光景に色が宿る。
悲惨な末路を迎えた彼女が、それを前に泣き叫ぶ自分の背中が、はっきりと見えた。


わしは……僕はそこに、確かめに行くんだお。


一九五〇年八月。
自分の想いの結末を、最愛の人の未来を託したあの日の言葉の行方を、僕は、見届けに行くんだお。

 



この小説は1944年12月某日から2007年3月某日にかけて時の狭間で記録されたものです
作者は78 ◆pSbwFYBhoY 氏
Scene 12 はこちらへどうぞ

記事元はオムライスさんになります



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[ 2009/12/26 20:40 ] ナギ戦記 | TB(0) | CM(0)

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