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( ^ω^)がリプレイするようです Scene 9

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Scene9:一九四五年十月、福岡


『「――分からない。わたしには、そういう気持ちが分からない」
 そう口にした瞬間、自分が失ったものは二度とこの手に戻らないと悟った。
 時の欠落は埋めることなど出来ない。だからこそ人間なのだ。
 再び、十七の時に戻ることなどありえない。わたしは、その大きな矢に刺し貫かれた』 

                                 「北村薫 スキップ『エピローグ』」




――

―――


空には満月が輝いていた。
秋の風はほのかに冬の気配を含んでおり、暗がり道路に似つかわしいものだった。

ふとあたりを見渡せばそこに明かりは無く、月の光だけが街を照らしている。
街頭の明かりなど望むべくも無く、点在する家々の窓には空襲を警戒していた戦時中の名残からか、
いまだ部屋の明かりが外に漏れないように硬く閉ざされており、街は誰もいないかのごとく静かだった。

そんな福岡の街に降り立った内藤。

前回のやり直しとはうって変わって、彼には今、自分がどの場面にいるのかがすぐに分かった。


( ^ω^)「……綺麗だお」

満月の明かりだけが街を照らす。それでも周囲は十分に見えた。

昔、辻斬りたちは凶行の際、満月の日だけは避けたという。
その理由が今の内藤にはよく分かる。

こんなにあたりがハッキリと見える満月の夜に誰かを襲うなんて、馬鹿馬鹿しいのも大概だ。
こんな夜にはゆっくりと街を歩くに限る。

薄く笑った内藤。

ふと視線を横に向ければ、そこにはあの時のあの場所へと続く階段があった。
見上げた視線の先で、一基の鳥居が寂しげにたたずんでいる。

ここが今回のやり直しの場所。

ひとつの大きな深呼吸をあと、内藤は一段一段を噛みしめるように踏みしめて、階段を上っていった。


                     *

鳥居の先、広がっていたのは寂れた神社だった。

ちいさな本堂はボロボロで屋根からは雑草が顔を出しており、
渡った夜風にゆらゆらとゆられている。

横を見ればそこには鐘のない鐘堂。
つくための丸太だけがぶらぶらと縄につられている。

おそらく鐘は軍に徴集されたのだろう。
人々の幸せを願う宗教の鐘が、人々を殺す兵器の礎になったというのもなんとも皮肉な話だ。

つばをはき捨てるように一瞥して、
内藤は本堂へと背を向け、もと来た鳥居をくぐって、下界へと続く階段の上に腰かけた。

見下ろした視線の先。

満月に照らされた階段の下に、内藤は、彼女の姿を見た。


川 ゚ -゚)「内藤さん」

階段を上ってきた彼女は、静かに内藤の前に立つ。

彼女の顔に浮かぶのは能面のような無表情で
四、五段下にたたずむ毒田そらの姿はみすぼらしかった。

まとっているのはつぎはぎだらけの薄汚れた服。
しかし、顔だけは別物のように美しかった。

まっすぐな漆黒の長髪が銀色の満月の下でキラキラと輝いていて、
端正な顔立ちが月明かりに照らされてハッキリとした陰影を作っている。

思わず内藤はその姿に見とれてしまう。


(; ω )「(……僕にはツンがいる僕にはツンがいる僕にはツンがいる僕にはツンがいる)」


戦死した……自分を救ってくれた恩人の妹に欲情した自分の下卑た考えを振り払おうと、
自分で自分の頭を何度も叩く内藤。呪文のように幼馴染の名前を胸の中で何度も反芻する。


川;゚ -゚)「あの……内藤さん?」

さすがにその様子を不審に思ったのだろう。無表情が多い彼女も思わず心配そうな顔をする。
そんな彼女と目があって、内藤は慌てて弁解した。

(;^ω^)「あ……ち、違うんだお! 
     これは……そう! 脳みそをストレッチマンしているんだお!!」

川;゚ -゚)「……そ、そうなのか」

気まずい沈黙が二人の間に流れる。

しかし、持て余した時間など無為に流れるだけ。
やり直している自分に無駄な時を過ごす暇はないと、内藤は立ち上がりボロボロの軍服の襟を正す。

そのまま自分の下方にたたずむそらをまっすぐに見据え、本題を切り出した。


( ^ω^)「……それじゃあ、話を聞くお。
     君は僕に聞きたいことがあってここに来たはずだお?」


未来、過去、現在。すべてを知る内藤の言葉に、少しだけ驚いた表情を見せるそら。
しかし、彼女はつぶらな瞳で内藤をまっすぐ見据えると、ためらうことなく聞いた。


川 ゚ -゚)「兄の本当の死に様を教えてほしい」


( ^ω^)「……」

川 ゚ -゚)「あなたが先ほど言ったことは嘘なのだろう? 
    少なくとも、私には納得がいかない。兄は必ず生きて帰ると言ってくれた。
    そんな兄が爆弾を抱えて特攻するなどという愚かなマネをするするはずが無い」

ハッキリと言い切った彼女の言葉に対し、内藤は少しの怒りを覚えた。
彼は本題に入る前に、ひとつだけ、言った。

( ^ω^)「……そらさん。僕も特攻なんて愚かな行為だと思いますお。
     だけど、その一言で片付けてはいけないお」

川 ゚ -゚)「……」

( ^ω^)「僕たち兵隊は、
     上官から命令を下されれば自分の想いなど関係無しに行動しなければならないお。
     特攻もそうだお。
     特攻した兵隊たちの中にも僕たちと同じように愚かな行為だと思っていながらも、
     そうせざるを得なかった人たちがいっぱいいるんだお。
     そんな人たちの想いも考えないで、
     特攻という行為を『愚か』の一言で済ませてはいけないお」

少しばかり怒声が混じったことに、内藤はバツが悪そうに頭をかいた。
二、三度顔を両手で叩いて、気を引き締めて、続ける。


( ^ω^)「怒って悪かったお。君が聞きたいことはそんなことじゃなかったおね。
     それじゃあ、本当のことを言うお。ドクオ……君の兄さんは……」


( ^ω^)「僕が殺したお」


川;゚ -゚)「なっ!」

想像すらしていなかった言葉を聞き、そらの瞳が大きく見開かれる。
思わず一歩を踏み出したその足はプルプルと震え、今にも内藤に飛びかからんとしている。

川 - )「……もう一度言ってくれ」

( ^ω^)「何度でも言うお。ドクオは僕が殺したお。いや、僕が殺したも同然だお」

踏み出した足に力を込め、そらは内藤に向かって一直線に階段を駆け上がった。
そのまま内藤の胸倉をつかむと、至近距離で彼をにらみつける。

川#゚ -゚)「……kwsk話せ。内容しだいでは、私はあなたをこの階段から突き落とす」


( ^ω^)「好きにすればイイお」

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内藤とそらは至近距離のまま、ゆっくりと立ち位置を変えた。
内藤が階段を背にし、そらが神社の境内を背にした。

そらが胸倉をつかむ手を離し内藤を軽く突くだけで、彼は簡単に階段の下へと転がり落ちてゆくだろう。
そんな危険な状況にもかかわらず、内藤はいつもどおりの間の抜けた笑顔で続ける。

( ^ω^)「ドクオは日本軍の敗戦を確信して米軍に投降することにしたお。
     僕はそれに賛同したんだお。
     ……このまま僕たちが戦い続けて死ねば日本が勝つというのなら、
     僕たちはそんなことを考えなかったかもしれないお。
     だけど、あそこで死ぬよりも僕たちは
     ……ドクオは、故郷へ生きて帰って、君たちを幸せにしたいと言っていたお。
     だから僕たちは米軍に投降しようと基地を出たお」

見据えたそらの顔が歪む。瞳から静かに涙がこぼれる。
胸倉をつかむその手は震えはじめ、込められた力は弱弱しくなっていく。

彼女のその変化は、いつかの内藤とまったく同じだった。


( ^ω^)「僕たちは基地を抜け、迫り来る米軍の前に立って投降を申し出たお。
     一度は僕たちに発砲した米兵だったけど、
     僕たちに武器が無いことを知って撃つのを止めたお。
     そして、いざ投降しようとしたとき、基地の上官が僕に向けて発砲したお。
     本当なら僕が死んでいたお。だけど、ドクオは僕をかばって……」

そこまで言葉を発したとき、内藤は鼻の奥がツンとするのを感じた。

機械のように淡々と事実を語っているつもりでも、
過去の光景はいやがおうにも押し寄せ、内藤の感情を刺激する。

目から涙がこぼれ落ちるのがハッキリと分かった。

だけど、次に発した声に嗚咽が混ざらなかったのは、自分でも本当に不思議だった。


( ;ω;)「……僕の身代わりになって……死んだお」


とたん、内藤の身体は階段の方へと押された。

思わず後ろに踏み出した片足はつま先しか地面についておらず、
このままそらに押されれば、内藤は間違いなく落下する。

しかし、彼に恐怖は無かった。

目の前で泣きながら怒りの表情を浮かべる恩人の妹に殺されるのなら、それは仕方の無いことだと思えた。
むしろ、自分にふさわしい死に様だとすら思えた。

一方、悲しげに見つめる内藤の視線の先で、
彼女は激しく取り乱し、涙でグシャグシャにゆがんだ表情で叫ぶ。


川 ; -;)「嘘だ! 嘘だ嘘だ嘘だ!! 絶対に嘘だ!!」


叫びながら、顔を悲痛にゆがめながら、それでも救いを求めている彼女の瞳を見て、
内藤はただただ申し訳なくて何も言えなかった。

戦場から逃げ延びた自分がふがいなく、助けられ生き延びた自分が情けなくて、
内藤は至近距離から迫ってくる彼女の叫びに目をそらした。


川 ; -;)「兄さんは……仲間に殺されたというのか……?」

(  ω )「……そうだお」


内藤の胸倉をつかむそらの手が離れた。
彼女はそのまま地面にしゃがみこむと、あたりに響くコオロギの鳴き声よりもかすかにつぶやく。


川 ; -;)「なんで……そんなの……おかしいよ……」


その声に、先ほどの力強さなど微塵も感じられない。
ただ一人の少女のか弱さだけが、そこにはあった。


内藤はやり直しを果たした。


その結果が、これだった。


地面にひざをつけ、両手で顔を覆い、ひたすらに泣き声を上げるそら。
そんな彼女の肩に手をやり、内藤は自分が行うべき最後の行動を果たす。

(  ω )「そらさん……これを」

投げかけた声に顔を上げた彼女に対し、内藤はなにかを握らせた。

川 ; -;)「……これは?」

(  ω )「君がドクオにあげた御守りだお。ドクオは死ぬ間際までこれを握っていたお」

川 ; -;)「……う…あ……」

鮮血で真っ赤に染まっていた御守りは酸化し、黒く変色していた。
受け取った御守りを両手で支えるそらの声は、もう声ではなくなっていた。

(  ω )「僕と君はもう二度と会うことは無いお。だから僕は君の未来を知らないお。
     だけど、ドクオは国賊だと罵られようと、君たちを幸せにしたいと言っていたお。
     だから、お願いだお。そらさん、幸せになってくれお。
     ……いや、君は幸せにならなければならないお。
     それがドクオに対する、せめてもの手向けだお」


川 ; -;)「う…あ……うああああああああああああああああああああああああああああああああ」


そらは御守りを握り締めると、大声を上げて泣いた。
その姿はあまりにも痛々しく、内藤には直視することがかなわなかった。

もう自分に出来ることはなにもない。
内藤は彼女に背を向けて階段を下ろうとする。

そんな彼の手に、暖かい何かが触れた。
それは彼の手首を強く握りしめ、離す素振りは無い。

(  ω )「……どうしたんだお?」

川 ; -;)「……」

顔だけ振り返ると、視線の先には、
地面に両膝と左手をつき、右手で内藤の手首をつかんでいるそらの姿があった。

彼女はうつむけた顔を上げると、恨みの形相を浮かべ、言った。


川 ; -;)「なんで……なんであなたは生きているの!? 
     兄さんだけが死んで、なぜあなたは生きているの!?」


はじめの人生でも言われた言葉。
再びのそれを聞くと、内藤は彼女の手を振り払い、歩き出した。


川 ; -;)「答えてくれ! なんであなたは生き残って……兄さんだけが……」


背中に突き刺さる悲しい言葉。
階段の中段まで差しかかったそのとき、最後に内藤は立ち止まり、振り返ることなくつぶやいた。


(  ω )「そんなの……僕が知りたいお」

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階段を下り、暗い夜道に入った。
もう、そらの泣き声は聞こえなくなっていた。


                          *

三度目のやり直し。
それは、自分に限って言えば満足できる代物だった。

言いたいことは言えた。最後に投げかけられたそらの言葉も、仕方の無いことだと覚悟はしていた。
胸はやはり痛むけれど、それでもはじめの人生よりははるかにマシだった。

ただ、彼女にだけは申し訳なかった。
ドクオの本当の死に様など、彼女にとっては知らないほうが幸せだったのかもしれない。

今回のやり直しは自分の自己満足、薄っぺらな正義心を満たすだけの作業に過ぎなかった。
そんな身勝手なことに付き合わせられた彼女が、今回の一番の被害者だと内藤には思えた。

しかし、それでも彼は満足だった。

身勝手だと言われようがかまわない。自己満足だと罵られようがかまわない。
自分は後悔を払拭できたのだ。

過去の空白、遣り残した隙間を埋めることができた彼の胸は、達成感に満ちていた。

ただひとつ、胸に残るしこりがある。
だけどそれは、自分がどうこうできる問題ではない。

立ち止まり、空を見上げた。

夜空に雲は無く、光り輝く満月を彩るかのように星たちがまたたいている。


(  ω )「そらさん……幸せになってくれお」


星に願いを。
放たれた想いは天に届いたであろうか?

世界が色をなくした。

内藤の意識は、静かに時の流れから離脱した。

                      



この小説は1944年12月某日から2007年3月某日にかけて時の狭間で記録されたものです
作者は78 ◆pSbwFYBhoY 氏
Scene 10 はこちらへどうぞ

記事元はオムライスさんになります



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[ 2009/12/26 20:34 ] ナギ戦記 | TB(0) | CM(0)

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