FC2ブログ










( ФωФ)罪人斬りと罪人殺し、のようです


436 :( ФωФ)罪人斬りと罪人殺し、のようです[]:2009/09/27(日) 15:50:38.59 ID:qzvvFCn30

 藁の敷物の上に、鎮座している男の姿がある。
 それは親殺しの罪を犯し、死罪となった男だった。

( ФωФ)「最期に言い残す事は?」

「…………」

 鎮座した男は何も応えない。ただ、虚ろな目でロマネスクを見るばかりだった。

( ФωФ)「……無いようだな、では」

 反応が無いと見るや、ロマネスクは刀を握り締め、そう言った。
 刀を両手で持って構え、男の首めがけて振り下ろす。
 男が最後に見えたものは、閃光のように月の光で輝く斬り筋だった――

///

( ФωФ)「……ふう」

 穢れた体を洗い流すのかように、檜の風呂に入る。
 ロマネスクはいわゆる首切り役、処刑人である。
 それは斬る対象が罪人とはいえ、“人殺し”と忌み嫌われる職業。

 この仕事を始めたばかりは嫌悪感、罪悪感に苛まれた。
 “仕事”が終わった後は吐き気に襲われ、胃の中が無くなるまで吐いた事もあった。
 だが、人間は慣れる生物で、四年もすればすっかり慣れてしまった。



438 :( ФωФ)罪人斬りと罪人殺し、のようです[]:2009/09/27(日) 15:54:08.45 ID:qzvvFCn30

( ФωФ)「…………」

 風呂から上がり、数々の傷がある鍛えられた肉体を拭うと浴衣で包む。
 寝室の障子を開け、木製の椅子に腰をかけながら夜空を眺める。
 そこには一片の雲もなく、ただ輝き続ける無数の星と丸く、青い月がロマネスクを照らしていた。

 この夜空を見ると、何もかも忘れられる。
 死を直前にした男の虚ろな目も。
 斬った時の感覚、刀から伝わるその人間の最期の叫び、震えも。
 全て、忘れられる。

 まどろんだ意識の中で、さらに輝く月がかつて愛した女性の顔と重なったように見えた。

///

( ФωФ)「…………」

 次の日、ロマネスクは黒い胴服を着、じき来るであろう友人を待っていた。
 遠くへ行った十年来の友人が、暇を見つけたからと来る事になったのだ。
 その友人はもう奉行になっており、裁きを下す立場になったらしい。

 その反面、三度の飯より刀の試し切りが好きだということで有名。
 ロマネスクのような執行人がいるにも関わらず、自分が裁いた罪人は自分で斬らないと気がすまないという。
 その数は優に百を超えるとまで噂されている。
 嬉しそうに罪人を斬るその姿は、“罪人殺し”という不名誉な異名と呼ばれているそうだ。

 今日は珍しく、いつもより寒い。
 囲炉裏に炭を継ぎ、火をさらに燃え上がらせる。



440 :( ФωФ)罪人斬りと罪人殺し、のようです[]:2009/09/27(日) 15:57:07.04 ID:qzvvFCn30

「御免下さい」

 その時、玄関から足音と共に声が聞こえる。

( ФωФ)「只今参る」

 どうやら来たようだ、とロマネスクはそう言いながら玄関の方へ足を向けた。
 玄関の扉を開くと、そこには三度笠を被っており、藍色の合羽を着ている男がいた。

( ФωФ)「久しいな。それにしても渡世人のようだな、ギコ」

(,,゚Д゚)「全く。だが、十年振り会って早々それは無いだろう、ロマネスク」

( ФωФ)「お主がそのようなものを身に着けていなければいい話よ」

 ギコの違いない、という言葉を合図に一方は静かに、一方は豪快に笑いあう。
 ここで話すのも何だから、と二人は一緒に玄関から茶の間まで向かった。

 しばらくの間は十年振りに会ったという事で、秘蔵していた上等の酒をお互いに杯をあけながら談笑した。

 楽しそうに奉行をした時の小話を話すギコは、噂されている“罪人斬り”とはかけ離れたものだった。
 まるで、もう一人の人格がいるのではないか、と思うほどに底抜けに明るかったのだ。
 それとも、全く後悔していなく、自分が悪いとは思わないほど図太い性格なのだろうか。

( ФωФ)「ところで」

 尽きる事のない話題を中断し、お猪口を置いて言った。



441 :( ФωФ)罪人斬りと罪人殺し、のようです[]:2009/09/27(日) 16:00:43.05 ID:qzvvFCn30

(,,゚Д゚)「なんだ?」

 また何か面白い小話だろうか、と返事をする。
 黒いはずの胴服が夕暮れの色に包まれており、その姿は神々しくにも見えた。
 そして、思わずギコの表情が硬くなるほど、真剣な雰囲気を醸し出していた。
 縦に走る太刀傷が目立つ眼から、光に反射して光り輝く眼光に気づいた。

 ギコは顔をやや顰める。
 何か、大事な話をすると、直感したからだ。

( ФωФ)「お主の噂、虚か? それとも……真か?」

 それと対照的に、ロマネスクは眉一つ動かさず、相変わらず低い声で言った。
 噂、と言われてギコは思い出す。

 あの血生臭い、“罪人殺し”の現場を。



444 :( ФωФ)罪人斬りと罪人殺し、のようです[]:2009/09/27(日) 16:03:02.53 ID:qzvvFCn30

(,,゚Д゚)「お主の罪、実に重い……お主も分かっておろう?」

「…………」

 縄で縛られた男から、返事の声が聞こえてこない。
 ただ、ギコに嫌悪の眼差しを返すだけだった。
 その眼差しの中に、「死」という恐怖がほんの一瞬ではあるが、ギコには見えていた。

(,,゚Д゚)「最期に、何かあるか?」

 口を吊り上げ、冷徹な微笑を浮かべながら言った。
 その場にいた皆も、戦慄が走るそれはまさに“罪人殺し”の顔だった。

「地獄へ落ちろ」

 死の恐怖を誤魔化し、吐き捨てるように、唾を飛ばしながら言った。

(,,゚Д゚)「『地獄へ落ちろ』、それが最期の言葉か。悲しき男よ」

「構うか――」

 その男の言葉は、そこで途切れた。
 ギコの一閃が、男の首に走ったからだ。
 憤怒、恐怖、嫌悪。負の感情がごちゃ混ぜになった鬼のような貌をした首が、体から滑り落ちる。

 その貌を見て、ギコはにたあ、と不気味な笑みを浮かべた。
 それは自らのした行為による快感に、酔っているようにも見えた。



446 :( ФωФ)罪人斬りと罪人殺し、のようです[]:2009/09/27(日) 16:08:05.37 ID:qzvvFCn30

 斬る時の感触、刀から伝わる斬った人の最期の震えを。
 思い出せば、ギコにとっては決して、心地よいものではない。
 だが、斬るその時はどうしても快感の波に震えてしまう。
 自分があのような行為をしたとは思えない。

 まるで、もう一人の自分、人格が存在しているようだ。
 そんな御伽噺があるものか、と現実から目を背けて否定した。
 しかし、ロマネスクに問いだされると、否定したはずの“罪人殺し”の人格がある。
 その現実を嫌でも認めざるを得ない。

(,,-Д-)「……真だ」

 もう一人の人格が、それは認めたくない、と否定した。
 だが、ロマネスクの眼光はそれを許さなかった。
 目を瞑り、観念したように言った。

( ФωФ)「……そうか、罪深いとは思わんか?」

(,,゚Д゚)「……何を坊主のような事を。罪科が、俺を斬らせているのだ。
     それに、無礼を承知で言うが、果たしてお主が言える立場だろうか、と俺は思う」

 目を開ける。そこには、先程よりも一層強くなった眼光があった。
 その眼光に耐えられず、左へ視線を向けて誤魔化すように言った。

( ФωФ)「成程、確かに一理ある」

 そう言うと、ロマネスクの眼光も消え、そのまま黙ってしまった。
 これ以上、何か言ってくるだろうか、とほんの少し構えていたギコは拍子抜けてしまった。



447 :( ФωФ)罪人斬りと罪人殺し、のようです[]:2009/09/27(日) 16:11:49.07 ID:qzvvFCn30

 自分が呼ばれている“罪人殺し”とロマネスクの職業である“罪人斬り”。
 殺しと斬りの差は一体、何だろうか
 おそらく、狂気と正気の違いだろうな、とギコは座布団の上に鎮座しているロマネスクを見て思った。

 えもいわれぬ沈黙が流れる中、ギコは流れてくる風に寒気を感じ、囲炉裏に炭を継ごうとした。
 しかし、炭が大きく火箸で挟めない。
 仕方なく素手で掴み、囲炉裏へ放り込んだ。

 そして、汚れてしまった手を手ぬぐいで拭いた。

( ФωФ)「……何故、手を拭うのだ?」

 何故そんな事を、とギコは言おうとしたが消えたはずの眼光が再び見えた。
 あの目に、眼光に見つめられると下らぬ事や嘘をつけない。
 昔からそうだったな、とギコは思った。

(,,゚Д゚)「手が汚れたからだろう」

( ФωФ)「では何故手が汚れたのだ?」

(,,゚Д゚)「……炭を触ったからに決まっている」

 しつこいな、と思いながらも返答する。
 ロマネスクはこういう細かい事を気にする性格ではなかったはずだ。
 それでは一体、何故手が汚れた事を執拗に問いだしてくるのだろうか、とギコは思った。

 だが、次のロマネスクの言葉でその意味を理解した。



448 :( ФωФ)罪人斬りと罪人殺し、のようです[]:2009/09/27(日) 16:15:37.41 ID:qzvvFCn30

( ФωФ)「さて、その事だ。炭が触ると手が汚れるのは炭がさせる事だろう。

       同じようにいくら罪科が人を斬らせるとはいえ、斬ればお主が汚れてしまう。

       ましてや、お主はその汚れを一心に引き受けてくれる首切り役という火箸がいながら、

       何故、何故お主は手を煤だらけに、汚れさせるような真似をするのだ?」

 ロマネスクは顔を朱色にして必死に語る訳でもなく。

 ただ、いつものように淡々と、低い声で話す。
 そんな中には切実な願いが込められていた。
 ギコという人物が、これ以上汚れないようにと。

 寡黙だったロマネスクが、こんなにも喋るのは初めてだった。
 それに驚き、そしてギコは自らのした行為を後悔し、恥じた。

(,,-Д-)「……すまなかった。おかげで、俺は自分の間違いを認める事が出来た」

 鼻を啜り、俯きながら言った。
 恥によって赤らめた頬に、囲炉裏の炎に反射して光る涙が流れる。
 ロマネスクはギコの杯に酒を注ぎ、肩を優しく叩いた。

( ФωФ)「……夜はまだ始まったばかり。さあ、飲もう」

(,,゚Д゚)「……ああ!」

 その夜は、ギコにとって今までの人生の中で、最も安らげる時間だった。



450 :( ФωФ)罪人斬りと罪人殺し、のようです[]:2009/09/27(日) 16:17:06.43 ID:qzvvFCn30

 ――ある日から、“罪人殺し”と呼ばれていた男は、罪人を“殺す”事をやめた。
 夢で神に警告されただの、自らの間違いに気づいただとか、噂話は耐えない。
 真の理由も、奉行をやめて行方不明になってしまった今、闇の中に消えた。

 ただ、確かな事は二つある。

「ギコハハハ! お主の剣筋、未だに衰えておらぬな!」     

「ふっ、お主こそ」

 ある友人と共に、どこかで剣道道場を開いているという事。
 そして、未熟な男女たちに剣の、人生の師として慈愛を持って、教えているという事だ。



   ( ФωФ)罪人斬りと罪人殺し、のようです -了-



[ 2009/10/04 10:35 ] 総合短編 | TB(0) | CM(0)

コメントの投稿


更新は止まっていますがコメントはご自由にどうぞ
修正・削除依頼等、何かしらの連絡はコメントもしくはメルフォよりお願いします
拍手だと高確率で長期間気づきません

スパム対策のため"http"と"@"を禁止ワードに設定しています
URLを書き込む際は"h"を抜いて投稿してください













管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

この記事のトラックバックURL
http://gyokutonoyume.blog116.fc2.com/tb.php/2611-9050112d