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とある教授のありがたいお話のようです


216 :とある教授のありがたいお話のようです[]:2009/09/26(土) 20:24:12.44 ID:JuGZucMK0

 講義室へ入り席に座ってから十五分が経ったけれど、まだ教授は現れない。
上半身を捻転させて、喧騒で満ちている講義室内を見回す。 見知った顔がいくつか目に入った。
前方にぽつんと一つだけ置かれた教壇に向けられるよう、緩くカーブを描いた机が並んでいる。

 講義室内全て(あくまで僕から見える位置)に視線を走らせたが、教授はまだ来ていないようだった。
あの教授のことだから、堂々と生徒と同じ席についているかも知れない、と思ったのだけれど、
普通に考えるとそうなった場合誰かが騒ぐだろう。 「講義しやがれ」、と。

 いやしかし「生徒と会話することが今日の講義」とか言い出しそうな教授でもある。
僕はううむと意味の無いことに少しだけ頭を捻らせた。

 最前列の席に座っている僕らは相当目立っているようだった。
そりゃあそうだろう、誰が好き好んで前列に座るか。 眠れないし、当てられる可能性が非常に高い。

 僕とて、後列三列ほど誰も座らない「席の孤島」と形容しても良いようなこの位置に好んで座っているわけではない。
「単位取得がやべえやべえ」と騒いでいた幼馴染の擬古君を無理やり大学へと引っ張ってきて、
彼が夢の国へと旅立たないための監視と、最も寝にくく最も授業が頭に入りやすいこの列を選んだのだ。

 しかし、僕の隣に座っている擬古君は「暇だ暇だ」と述べつくした後、蛍光灯に反射する木製の机に突っ伏してしまった。
僕に集まる視線が二倍になり、二人きりで座っているため囁かれる内容も二倍、耳に入る声は恥ずかしさで二分の一。
「大学教授ともあろう方が時間を守らないとは何事か!」と叫びたい気持ちを抑えようと、僕はペン回しに夢中になろうとした。

 僕の右手の上で鉛筆が二回転半して滑り落ち、机の上に転がった。 からんころんと高い音。
学生時代はもっとできたのになあ、と息を吐いて隣で寝息を立てている擬古君を見た。 僕より上手だったな、彼は。



217 :とある教授のありがたいお話のようです[]:2009/09/26(土) 20:28:29.06 ID:JuGZucMK0

 突如、空気を無理やり押しのけたような大きな音が講義室内に反響した。
反射で音の発生源である斜め前方を見ると、扉が閉められていた位置から足が突き出ていた。
擬古君が何事かと飛び起き、僕と同じように教壇に最も近い扉から出てきた人物へと視線を向ける。

爪'ー`)y-「いい眠気覚ましになっただろう?」

 扉を思い切り蹴り開けた教授は室内全員の視線を集めながらも平然と歩みを進める。
汚れた白衣、ボサボサの黒髪、来客用の緑色のスリッパ、咥え煙草、と教授の容姿はいつもと同じだ。
ただ一つ今日だけ違うことがあった。 教授は両手に大きなダンボールを抱えている。

(,,#゚Д゚)「クソ狐が……」

(*;゚ー゚)「そういうこと言わないの、現に起きたでしょ、今ので」

 蹴り開けられた扉が閉じる音が聞こえて、閑散とした室内に足音が響く。
軽い掛け声と共に木製の教壇上にダンボールが置かれた。 低い音が反響する。 結構な重量があるのだろう。
置いた後、二、三度と腰を回転させてから、ダンボールの中に半分ほど灰となった煙草を投げ入れた。

 白衣の懐に手を突っ込み、煙草を取り出してジッポライターで火をつける。
ばちん、と閉じた際の弾かれるような音を僕は好んでいた。
ギコ君にジッポライターを借りて、片手で開閉していると、数時間が経過していたこともある。

 教授は大儀そうに息をつき、扉を手で開けてどこかへといってしまった。
「あのダンボールは何に使うのだろうか」との疑問が講義室内を支配していき、ざわついてきたころに再び扉が勢いよく開いた。
ダンボールを床に置き、講義室内を一瞥し、一拍ためてから口を開いた。

爪'ー`)y-「クイズの時間だ」



223 :とある教授のありがたいお話のようです[]:2009/09/26(土) 20:31:36.25 ID:JuGZucMK0

 教授はそう言って、教壇の上に置かれたダンボールから大きな壺を取り出し、教壇に置いた。
そして、同じようにダンボールに腕を入れて岩を取り出した。 拳ほどの大きさの、どこにでもあるような岩だ。
壺がいっぱいになるまで岩を詰めてから、教授は両手についた土を払い、僕を指差して聞いた。

爪'ー`)y-「この壺は満杯か?」

(*゚ー゚)「はい」

 回答を求められた僕は壺の口から岩の上部が飛び出しているのを見て、間髪入れずに返答した。

爪'ー`)y-「本当に?」

 言いながら教授は教壇の下のダンボールからバケツいっぱいの砂利を取り出した。
そして砂利を壺の中に流し込み、壺を振りながら、岩と岩の隙間を砂利で埋めていく。
ざらざらと流れる音が途絶えて、バケツを足元に置き、教授はもう一度僕に問うた。

爪'ー`)y-「この壺は満杯か?」

(*;゚ー゚)「……」

 僕は答えに窮して、答えられない。

(,,゚Д゚)「多分違うだろう」

爪'ー`)y-「そうだ」

 擬古君が言うと教授は笑って、足元のダンボールの中から今度は砂の入ったバケツを取り出した。
それを岩と砂利の隙間に流し込んだ後、三度目の質問を投げかけた。

爪'ー`)y-「この壺はこれでいっぱいになったか?」



226 :とある教授のありがたいお話のようです[]:2009/09/26(土) 20:33:49.65 ID:JuGZucMK0

 僕と擬古君は声をそろえて、「いいや、違う」と答えた。
すると教授は水差しを取り出して、壺の縁までなみなみと注いだ。 表面張力だ、と僕は思う。

 教授は、静まり返った講義室内に向かって、最後の質問を投げかけた。

爪'ー`)y-「僕が何を言いたいのか、わかるだろうか?」

 僕は手を上げた。
先ほどの汚名返上だ、とばかりに僕の脳内は素晴らしい答えを導き出していた。

(*゚ー゚)「どんなにスケジュールが厳しい時でも、最大限の努力をすれば、
     いつでも予定を詰め込む事は可能だということです」

 噛まずにはっきりと通る声で発言した後、決まった、と僕は思った。
隣の擬古君が感嘆して「おお」と口を開けているのが視界の端で見えた。
しかし、僕の想像に反して教授は真面目な表情を崩さずに言った。

爪'ー`)y-「それは違う」

 なんだと、と僕は崩れ落ちそうになる。
教授は言葉を続けた。

爪'ー`)y-「重要なポイントはそこにはないんだよ。
      この例が私達に示してくれる真実は、大きな岩を先に入れないかぎり、
      それが入る余地は、その後二度とないという事なんだ」

 君たちの人生にとって『大きな岩』とは何だろう? と教授は話し始める。



231 :とある教授のありがたいお話のようです[]:2009/09/26(土) 20:37:49.12 ID:JuGZucMK0

爪'ー`)y-「それは、仕事であったり、志であったり、愛する人であったり、家庭であったり、自分の夢であったり……。
      ここで言う『大きな岩』とは、君たちにとって一番大事なものだ。
      それを最初に壺の中に入れるんだ。 さもないと、君達はそれを永遠に失う事になる。

      もし君達が小さな砂利や砂や、つまり自分にとって重要性の低いものから自分の壺を満たしていけば、
      君達の人生は重要でない『何か』に満たされたものになるだろう。
      そして『大きな岩』、つまり自分にとって一番大事なものに割く時間を失い、その結果それ自体失うだろう。

 僕は酷く感心して「おお」と声を上げた。 「なるほど、なるほど」と頷いて、隣を見た。
すると、子供の頃、悪戯を思いついたときに浮かべていた表情をして、教授の言葉へと擬古君が意見した。

(,,゚Д゚)「水の替わりに酒も入れることが出来るんだよな?」

爪'ー`)y-「確かに、砂のようなつまらないもので人生を満たしてしまっても、そこに酒の入る余地はあるね。
      人によっては、酒だけで満たされる人生だってあるだろう。
      さらに、煙草なら煙だからいくらでも入る。 器の中の体積を消費することも気にする必要も無く、吸えるのさ」

(,,゚Д゚)「中身が汚れますよ」

 擬古君と教授は二人で大笑いして、僕を含めた講義室内の人間は呆れた表情を作っただろう。
きっと誰もが思ったはずだ。 「ああ、途中まではとてもいい話だったのになあ」、と。



232 :とある教授のありがたいお話のようです[]:2009/09/26(土) 20:42:20.53 ID:JuGZucMK0

                      □□□

 擬古君と並列して、擬古君との帰り道を歩く。
彼は上機嫌で鼻歌を歌っていた。 肌寒くなってきた季節だと言うのに、半袖で風を切っている。

(*゚ー゚)「やけに上機嫌じゃないか。 無理やりにでも引っ張ってきた甲斐があったよ」

(,,゚Д゚)「ん? あぁ、教授にいたく気に入られてな。 どうやら無事進級出来そうだ」

「今度飲む約束も取り付けた、奢ってくれるそうだ」と続けた、かなり上機嫌である。
僕はどちらかというと気持ちが沈んでいた。 もちろん、教授の言葉について自分で考えた結果だ。
規則的にコンクリートを靴で叩く音と軽快なメロディーをなぞる音に、僕の声を割り込ませる。

(*゚ー゚)「『順番を自分んで決める』とか『入れ替える』だとか、
     まるで、砂利から岩までよりどりみどりのスーパーマーケットみたいだよね」

 擬古君は少し首を傾げたが、すぐに講義の件だと理解したらしく、鼻歌を中断した。

(*゚ー゚)「実際は、全部自分の判断で入れられるわけじゃないし、壷に入れられるのは自分だけじゃない。
     最初は、親だったり、先生だったり、友だちだったり、近所の大人だったり、そのうち恋人だったり――、
     もういろんな人が、どんどん勝手に放り込んでいくんだよ。

     望んでもいない大きな岩を入れられて、困ることもあるだろうし。
     小さな砂を入れられるクセがつく場合もあるだろうし。

     ましてや、その中身を『入れ替える』なんていうのは、
     現在のこの世界との結びつきをすべて断ち切らなくてはいけないわけだから、口で言うほど簡単なことじゃないよね。

     僕らは、値札のついた品物じゃないんだから」



233 :とある教授のありがたいお話のようです[]:2009/09/26(土) 20:43:57.36 ID:JuGZucMK0

 理解、納得は出来ても、実行までは出来ないと思うな、と僕は言葉を終わらせた。
静寂。 ただ冷たい空気が僕たちの体を通り過ぎていく。
僕はマフラーに顎をうずめて一息吐いた。 暖かい温度がそこを中心にじんわりと広がる。

(,,゚Д゚)「だからこそ、だからこそ、だ」

 わざとらしく、いいにくそうに、擬古君は言葉を切った。
二秒間置いてから、無理やりひねり出したような、声が聞こえた。

(,,゚Д゚)「自分の大事なものになるべく早く気づいて入れておきなさい、って話しじゃないの。
     俺の大事なものは、俺の壺の中に入ってるから大丈夫だよ。 今のところは全部、ちゃんと必要なものだ」

 決心がついていない者の背中を不意に押したかのような、そんな声色だった。
僕は彼に顔を向ける。 僕より頭一つ分高い擬古君の顔を見上げると、彼は顔を真っ赤に染めていた。
それを見て、言葉の意味をなんとなく察して僕の頬も熱を持った。

 本格的に寒くなってきた季節、水色の空の下、僕達は並んで歩く。

 もうすぐ、九月が終わる。



 とある教授のありがたいお話のようです 了



[ 2009/10/04 10:24 ] 総合短編 | TB(0) | CM(1)

なんかいいね。
[ 2009/10/05 21:06 ] [ 編集 ]

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