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SummerTime


503 :SummerTime[sage]:2009/08/29(土) 16:15:23.04 ID:v85acdjR0

 ある夏の日、何か紙を捲るような、乾いた、かさかさという音で目が覚めた。
 目の前に無造作に置かれた、背表紙が歪によれている文庫の声だった。

 直角に回転した視界を薄ぼんやりと眺めたあと、その視界を普段通りに戻す。

 頬に畳の形が残っているような気がして、指先で撫でた。

 やはりついていた。

 時計を見ると、最後に時計を見たときから半日は経過している。
 まったく役に立たない。

 本当に小さく溜息を吐く。
 何故か寒気がした。

 夏だとはいえ、薄手の襯衣に下穿きだけでいたのがいけなかったのだ。
 ブランケットなどもかかっているわけではない。
 考慮しておけばよかったと思った。

 お茶でも淹れようと思い立ち、お湯を沸かしていると長いこと使っている電話が擦れ々に歌った。


「……もしもし? あ? ああうん、元気元気。大丈夫だよ。
 ……あー、……そうだったな。ごめん。ん? ……うん、うん……ぇへえ?そうか、うん。じゃあ……え、いいの?
 あ、そか。……何だよ藪から棒に。……ん。別に……そんなのガラじゃねえし……。
 ……でも、さ。いんだよ、猫いるし。……どぅっ、ちげーよ! ……るせぇ。
 そういうの親言わねぇだろ、普通よ。……うん。兄貴子供できたろ。なら……ん。
 本、は仕事じゃん。……うん、大丈夫だよ。元気してるって。……うん、また帰るから、言うよ。
 ……大丈夫だから、元気してろよ。……じゃあね」



504 :SummerTime[sage]:2009/08/29(土) 16:16:44.23 ID:v85acdjR0

('A`)「……ふぅ」

 台所に戻ると、火にかけていたやかんが、喚きながら湯を吐きだしていた。

 暫くそれを眺め、火を止めた。
 辺りはやかんが吐いたもので気を削ぐ有様だった。

 やむなく台拭きで拭き取り、残った湯があまりに少なかったので再度沸かす。

 すんすんと啜り泣くような音がいやに耳にこびりついている。
 当分消えそうにない。

 数分待つと沸いた。



505 :SummerTime[sage]:2009/08/29(土) 16:17:35.35 ID:v85acdjR0

 啜り泣く声は、未だに離れてくれない。

 火を止めようとした手を止め、その声に集中した。
 それしか聞こえないとでも言いたそうに。

 遠くで猫の鳴き声がした。
 うちの猫だ。

 いつ止まるだろうか。
 啜り泣く声は。

 きっとこれから日が沈んでも消えないだろう。

 また日が現われたときには消えるだろうか。

 それにしても今日はあんまりひどい。


 夏、昼寝から目が覚めると決まってこの声がしていた。

 今日ばかりはどうも止まりそうにない。

 火を止めてもやはりする。

 こういうときは読書にかぎる。
 夏の夜長には本が合う。

 ――ある夏の日のこと。




[ 2009/08/29 21:39 ] 総合短編 | TB(0) | CM(1)

ドックンドックン~!ふぅん!にゃーんにゃーん
秋の夜長では?
[ 2009/08/29 23:56 ] [ 編集 ]

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