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( ^ω^)無題(゚、゚トソン


774 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/28(火) 17:56:07.08 ID:p0YdibVM0

部屋の掃除機が孕んだので、昔産婆をしていた祖母を呼んだ。

日本の東の隅にある田舎から、東京へと呼び出された祖母は、
空港に降り立つなり、ぶちぶちと文句を言いながら僕に荷物を持たせた。

祖母の草臥れたナイロンのトートバックの中には、生まれてくる掃除機の赤ん坊のためだろうか。
古びた可愛らしい柄の布きれが無数に詰め込まれていた。

(゚、゚トソン「東京は暑いね。これじゃ、何もかも干からびてくたばっちまう」

( ^ω^)「東京は暑い分蒸すから大丈夫」

(゚、゚トソン「しけてるのかい。そりゃ、いい」

( ^ω^)「東京全体が、生ぬるい部屋の中のようだから」

(゚、゚トソン「ふん。風は死んでるね。こんなとこで、あかんぼ産めるのかい」

まだ一歩だって外に出ていないのに、祖母は風の事を口に出した。

( ^ω^)「わからない。孕んだのは僕じゃない」



777 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/28(火) 17:57:29.08 ID:p0YdibVM0

(゚、゚トソン「掃除機。掃除機ね。丸っこくて出口の小さいものはどうも駄目だね。
     洗濯機なら孕んでも無理やり洗濯させてやれば諦めるんだけど」

( ^ω^)「諦める?」

(゚、゚トソン「観念して自分で流しちまうのさ。
     一度に吐き出すからそのへん水浸しになるがね。
     外に出したら、ふにゃふにゃのあかんぼなんて水に溶けちまう」

( ^ω^)「水に、溶けるのか」

(゚、゚トソン「溶けるさ。洗濯機の子なんて、ほとんど洗剤で出来てるもの。
     その点掃除機の子は何で出来てるかわかったもんじゃない。
     お前の惚れた女の髪の毛だったりしたら最悪だね」

( ^ω^)「惚れた女なぞ僕の部屋に入れてないよ」

(゚、゚トソン「どうだか。家を捨てて東京に出るお前だもの」

祖母はカラカラと笑った。
口はきついが、祖母は何だかんだと気の毒な安い掃除機のために東京まで来てくれる、優しい人なのだ。








779 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/28(火) 18:00:39.32 ID:p0YdibVM0


祖母は、僕の部屋の掃除機を見るなり、
遠慮のない手つきで本体の蓋を開けて中を丸見えにしてしまった。
それは、僕が遠慮して今まで出来なかった事だった。
後ろから覗き見ると、紙パックの穴から、何か白っぽくて柔らかそうなものが、
細かくなったゴミたちの中で息づいているのが分かった。

(゚、゚トソン「ああ、育っちまってる。お前、掃除機、甘やかしたね」

( ^ω^)「甘やかすも何も、使えなくなったから放っておいたらそうなった」

(゚、゚トソン「これだから男は駄目だね。すぐ孕んだモノに優しくしたがる。
      そんなもの、何千何万何十億の無数の女たちが今までやってきた事と何一つ変わらんのに」

(;^ω^)「すまん」

(゚、゚トソン「ふん。しかし、これは、珍しい。硝子(ガラス)の子じゃないか。
      よくもまあ、こんなに上手く孕ませたものだよ。」

( ^ω^)「ガラス?」

しげしげとあかんぼを眺めながら祖母は言う。
僕は如何にも柔らかそうなそれがガラスだとは思えなかった。

(゚、゚トソン「よっぽど、恋焦がれたんだろう。かたい硝子をこうも柔くしちまったんだから」



780 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/28(火) 18:01:41.35 ID:p0YdibVM0

( ^ω^)「掃除機は、恋をすると、孕むのか?」

(゚、゚トソン「掃除機だけじゃないさ。洗濯機だって、電子レンジだって冷凍庫だって、ひとたび恋すればすぐに孕んじまう。
     人間みたいに不自由じゃないからね。まぐわいが必要ない女どもは、みんな、馬鹿で、正直だ」

( ^ω^)「しかし、恋なんて、何に?この部屋には他の掃除機なんてないのだが」

(゚、゚トソン「馬鹿掃除機はみんな女だよ。お前は、掃除機に優しくしなかったかい?」

( ^ω^)「僕が……?」

しばらく考え込んだが、思い当たる事はなかった。
週に4~5回。普通に掃除機を使っていただけだ。
ここ数週間は調子が悪くなったので、仕方なく小さな箒を買ってきて代用していた。

(゚、゚トソン「昭和じゃないんだ。今時、人間に恋する掃除機なんて居ないと思うが。さぁどうだろう」

( ^ω^)「僕は、何もしてないよ」

(゚、゚トソン「まあ、相手なんてどうでもいい。もうどうせ孕んじまったんだ。ところで、産ませるのか?」

( ^ω^)「え?」

(゚、゚トソン「産ませるのか、堕ろすのか、どうするんだ?ばあちゃん呼んで、どうするつもりだったんだ?」

(;^ω^)「………」



782 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/28(火) 18:04:49.44 ID:p0YdibVM0

全く考えていなかった。掃除機が孕んだと気付いた時、真っ先に考えたのは、面倒な事になったな、と言う事だけだった。
孕んだ掃除機の扱いなど分からなかったし、ましてや赤ん坊など想像もつかなかった。

( ^ω^)「……ばあちゃん、堕ろしてくれ」

(゚、゚トソン「やれやれ。生まれたらそりゃぁ綺麗な硝子細工になるだろうに。
     勿体無いがお前が言うなら仕方ないね。
     堕ろそう。
     今日は、どこか外で泊まっといで。明日の朝には、掃除機は元通りだ」

( ^ω^)「ごめん。ばあちゃん」

(゚、゚トソン「謝るなら、この掃除機にお謝んなさい。女が孕むというのは、当たり前のことだが、そりゃあ、心を使うのだ」

( ^ω^)「うん……」

何の事はない。田舎から持ってきた古い掃除機だ。
古びて黄ばんでいるし、音だって大層煩い。

だけど、この掃除機も、紛れもない、女なのだ。

( ^ω^)「今日は、どこかホテルに泊まる。あとを、頼みます」

(゚、゚トソン「はいはい。ばあちゃんに任せといで」

そして僕は部屋を後にした。
ばあちゃんは田舎からわざわざ飛行機に乗せてきた、筋子のおにぎりを僕に持たせた。
夕方の公園でそれを齧りながら、僕はあの掃除機でガラスを吸い込んだ時の事を考えていた。



785 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/28(火) 18:07:29.51 ID:p0YdibVM0

僕はその時、酷く苛立っていて少しおかしくなっていた。
わざわざ家で叩き割るための食器を100円均一で購入したのだ。
白くて厚い、まるで洗練されていない無骨な皿だった。
僕はそれを三枚、立て続けに床に叩き付けた。
その無骨な見た目に反した、まるで小生意気で繊細な子どもの悲鳴のような音がした。

それが、とても、気持ちが良かった。

もしかしたら、その時の僕は勃起をしていたかもしれない。

それから、素手で破片を集めて、しっかりと新聞やビニール袋に何十にも包んだ。
その時は高揚していて気がつかなかったが、終わった後にふと手を見るとあちこちに細かい傷がついていた。

それが何だかおかしくて、ケタケタと笑うと、急に虚しくなって、しくしくと泣いた。



失恋した夜だった。



それから、掃除機で細かい破片を吸い取る時には、すっかり僕は元の僕に戻っていた。
掃除機に、面倒をかけてすまないね、と、声をかけてやったかもしれない。



( ^ω^)「………」




786 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/28(火) 18:08:26.24 ID:p0YdibVM0


明くる朝。
僕が部屋に戻ると、祖母は狭い台所に立って煮物を作っていた。

(゚、゚トソン「おかえり。終わったよ」

( ^ω^)「ただいま。ごめんばあちゃん」

(゚、゚トソン「何。よくあることでもないが、そう珍しくもない。掃除機も案外あっさり引き下がった。もう使えるよ」

( ^ω^)「そうか……」

(゚、゚トソン「あかんぼ、見るかい?」

( ^ω^)「うん」

祖母は力強く頷くと、電気コンロの火を止めた。
そして、エプロンのポケットの中からティッシュに包まれたそれ、を取り出して見せてくれた。

それは、繭に似ていた。

だけどもう掃除機の中で見た柔らかそうな表情は、微塵も感じられない。
ただ、硬く、そして丸くぬらりとしたガラス片である。
色は、どこか赤みがかった白だった。



788 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/28(火) 18:09:17.49 ID:p0YdibVM0

(゚、゚トソン「悪い事に、お前の血も混ざってるね」

( ^ω^)「そうかもしれない」

(゚、゚トソン「お前の子だね」

( ^ω^)「そうかもしれない」

(゚、゚トソン「掃除機、取り替えた方がいいね。もう古い」

( ^ω^)「そうかもしれない」


笑い話にもならないが、
僕が失恋して、掃除機が孕んだ。
それを祖母に、堕ろしてもらった。

僕は掃除機に、小さくごめんと謝った。



[ 2009/07/30 21:07 ] 総合短編 | TB(0) | CM(3)

こういうの好きだ
[ 2009/07/30 21:53 ] [ 編集 ]

シュールな世界だな
好きだけど
[ 2010/01/03 13:07 ] [ 編集 ]

なんだこれゾクゾクする
[ 2010/05/29 21:53 ] [ 編集 ]

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