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( ^ω^)ブーンが丸付けをするようです


275 :( ^ω^)ブーンが丸付けをするようです:2009/05/12(火) 21:57:04.29 ID:saw2TbKD0

 綺麗な丸を、書こうと思った。

 出来るだけ――そう、限りなく真円に近いものを。

 月のように、天使の輪のように、透き通るように美しい円。

 でもそれは思っていた以上に困難なことで。

 僕には到底無理なことで。

 それでも丸を書こうと思った。

 綺麗な丸を、書こうと思った。



276 :( ^ω^)ブーンが丸付けをするようです:2009/05/12(火) 21:58:12.08 ID:saw2TbKD0



( ^ω^)ブーンが丸付けをするようです





278 :( ^ω^)ブーンが丸付けをするようです:2009/05/12(火) 22:01:04.46 ID:saw2TbKD0

 僕の仕事は丸を付けることだった。
 子供たちは僕の書いた丸を見ると、いつも声を上げて喜び、笑う。
 丸の数が少ない子もいれば、多い子もいる。
 だが、どれだけ数が違っても一人ひとりの丸に価値の大小はない。
 子供たちにこんなことを言っても分かってもらえないだろうけど。
 それでも僕は口癖のようによく言って聞かせていた。

(,,゚Д゚)「ほら、また九十点だよ。やったやった」

(*゚ー゚)「私なんか百点よ。頑張ってお勉強したんだもん」

(,,゚Д゚)「あっ、くそぅ。次は絶対に負けないからな」

(*゚ー゚)「私だって今度も百点を取るんだから」


280 :( ^ω^)ブーンが丸付けをするようです:2009/05/12(火) 22:04:03.49 ID:saw2TbKD0

 彼らは無邪気で無知で、見ていると胸の奥が温かくなる。
 心に角がない。まだ人を疑うことも妬むことも、憎むことすらも意識できないような未完成な命たち。
 つるりと滑らかな彼らの心は、きっときれいな円のようで。
 
 幸せの形とは人それぞれだが、少なくとも僕にとっての幸せは今のこの光景に相違ない。


( ^ω^)「おっおっお」


 教壇の上、僕は子供たちに囲まれながら笑みを溢す。



282 :( ^ω^)ブーンが丸付けをするようです:2009/05/12(火) 22:07:04.45 ID:saw2TbKD0

(,,゚Д゚)「あっ、内藤先生が笑ってる」

(*゚ー゚)「先生、どうしたの?」

(*゚∀゚)「ギコがしぃに負けたのを笑ったんだ!」

(,,゚Д゚)「何だとぉー?」

 ギコ君とつー君がふざけて小突き合い始めた。
 二人はクラスのムードメーカーだ。彼らはいつも皆を楽しげな空気にしてくれる。

( ^ω^)「いやいや、違うお。嬉しいから笑ったんだお」

(*゚ー゚)「先生が嬉しいの?」

 亜麻色のショートカットを揺らし、しぃ君は教壇に身を乗り出す。
 彼らが口々に喋ると、子供特有のミルクの香りが鼻を通り抜けた。



284 :( ^ω^)ブーンが丸付けをするようです:2009/05/12(火) 22:10:06.25 ID:saw2TbKD0

(,,゚Д゚)「どうして嬉しいんだ?」

( ^ω^)「みんなが喜んだり楽しそうにしてるのが嬉しいんだお」

 照れ笑いに染まる子供たち。つられて僕も、また顔が弛む。

(,,゚Д゚)「先生、テストの丸付け終わったらドッチやろう!」

(*゚∀゚)「やろうやろう!」

( ^ω^)「おっおっお」

 昼下がり、美しい日常は今日も変わりなくて。

 相変わらず僕は幸せだった。



286 :( ^ω^)ブーンが丸付けをするようです:2009/05/12(火) 22:13:03.73 ID:saw2TbKD0

 ※ ※ ※

 今日の日付を確認すると、僕は赤い油性ペンを手にした。

 暗がりの中、窓から覗く月明かりを頼りにペンを走らせた。
 残念ながら今晩は三日月だった。
 本当に、本当に残念だ。
 満月ならモデルに出来たのに。

 カレンダーを見つめる。今日の日付に真新しい赤丸。
 いざ綺麗な丸を書こうとする上で悟ったことがある。
 それは考えてはいけないということだ。
 ごちゃごちゃ考えるよりも、ふっと思い付いたような自然なタッチの方が美しく円を書ける。
 何十回も丸を付けた中で自然と分かったことだ。
 とはいえ、いざ自分が完璧な丸を書けるようになったのかというのは別問題である。 



288 :( ^ω^)ブーンが丸付けをするようです:2009/05/12(火) 22:16:08.57 ID:saw2TbKD0

 今書いた丸の横にはズラリと同じような赤丸たち。
 それらの上にも同じく、列なった丸、丸、丸。
 今日は月末。
 一面を丸に覆い尽くされたカレンダーは壮観だった。
 このままいつまでも見とれてしまいそうで、思わず身震いする。 

( ^ω^)「…………」

 医者に診断された日から始めた日課だった。
 苦痛じゃない。
 だが心の奥底では悲しさが濁って腐り始めていた。 

 麻痺していたのだ。

 自分の命をカウントするという狂気じみた行為も。
 何食わぬ顔をして学校で子供たちと触れ合うのも。



289 :( ^ω^)ブーンが丸付けをするようです:2009/05/12(火) 22:19:10.47 ID:saw2TbKD0

 遠くない未来にある死――そのリアリズムを失ったせいなのだ。

 初めはバツを付けようかと思っていたがやめた。
 それではまるで、死ぬまでの時間が間違っていたかのように思えたからだ。

 そして思った、どうせ付ける丸なら美しい方がいいと。
 死ぬまでに、見たこともないくらい綺麗な丸を書こうと。

ξ゚⊿゚)ξ「ブーン、起きてるの?」

 ベッドの上でツンが起き上がった。
 長い睫毛をしばたかせ、寝癖の付いてしまった髪を撫で付けている。

( ^ω^)「おっ、ごめんお。起こしちゃったかお」

ξ゚⊿゚)ξ「ううん、私はいいの。ブーンこそ大丈夫なの?」

( ^ω^)「ちょっと寝付けなかっただけだお。大丈夫だお」



291 :( ^ω^)ブーンが丸付けをするようです:2009/05/12(火) 22:22:51.18 ID:saw2TbKD0

 ゆっくりて立ち上がったツンは僕の肩に毛布をかける。
 しっかりと開ききっていない眼は少し腫れていた。また泣いていたのだろうか。

 辛いことだ。

 もう治ることもない僕には神様にお願いすることは意味がなく、仏様の慈悲をもらうこともない。
 ただ唯一与えられるのは人の優しさだけで。
 そしてそれは彼らの悲しさの裏返しなのだ。

 そう考える時ばかりは、死に対し摩耗してしまった僕の心も息を吹き返す。

ξ゚⊿゚)ξ「ブーン……泣いてるの?」

( ^ω^)「……大丈夫だお」



292 :( ^ω^)ブーンが丸付けをするようです:2009/05/12(火) 22:25:18.89 ID:saw2TbKD0

ξ゚⊿゚)ξ「ねえ、やっぱり化学療法を受けない?
 お金なら気にしなくていいし、少しだけでも延命出来るなら……」

( ^ω^)「……いいんだお。僕はウチのベッドで眠りたいんだお
 ツンの気持ちも嬉しいけど、僕に延命は必要ないお」

ξ゚⊿゚)ξ「そう……そうなのね。ごめんなさい」

 ツンは憂いを秘めた瞳に涙を溜めていた。

 それがなにより辛かった。



294 :( ^ω^)ブーンが丸付けをするようです:2009/05/12(火) 22:28:10.30 ID:saw2TbKD0

 ※ ※ ※

 程なくして、僕は入院した。

 授業中に血を吐いたのだ。

 クラスは悲鳴と混乱に渦巻き、無垢な眼を涙でいっぱいにした子供たちは口々に、「大丈夫?大丈夫?」と僕の周りで騒ぎ立てていた。
 あぁ、なんということだろう。子供たちを怖い目に合わせてしまった。

 真っ赤に染まった手を見ても、僕が最後まで考えていたのは他人のことだった。

 病院のベッドは冷たくて、寂しくて、怖くて嫌だ。
 窓から見える景色も穏やかだが、見慣れたものじゃない。
 家の寝室から見える、ツンと二人で花を植えた小さな庭の方が安心できる。
 痩せて随分と軽くなった身体を起こしては、景色を見てそう思った。

 最後の時を安らかに家で過ごそうという僕の願いは、どうやら叶わないらしい。



301 :( ^ω^)ブーンが丸付けをするようです:2009/05/12(火) 22:39:04.09 ID:saw2TbKD0

 ベットの傍でカサカサと千羽鶴が揺れている。
 クラスの子供たちが一生懸命折ってくれたものだ。
 赤、青、黄色、緑。真新しい折り紙の鶴は艶やかで美しい。

 虹のように。

 陽の光の帯のように。

 薄く開けた瞳の中で、色とりどりの折り鶴が隊列を作って舞い踊る。
 くるくると回転し、いつの間にかそれらは煌めく虹色の円となって回転を始める。
 美しかった。素晴らしい贈り物だった。
 もの寂しい庭を眺めるよりもずっと楽しくて、満足な時間を僕は過ごした。



303 :( ^ω^)ブーンが丸付けをするようです:2009/05/12(火) 22:42:04.75 ID:saw2TbKD0

 ――――――――

 ――――

 ――


ξ゚⊿゚)ξ「……ブーン」

 目が覚める。

 隣にはツンが居た。隣には千羽鶴たちが行儀よく吊り下げられている。
 あの美しい光景は夢だったようだ。ふぅと軽くため息をつくと、僕は瞼を閉じながら返答した。

( ´ω`)「ツン……ごめんだお。せっかく来てくれたのに……眠ってしまってたお」

ξ゚⊿゚)ξ「ううん、いいの、いいのよ」

( ´ω`)「ごほっ、ごほっ……本当に、ごめんだお。今日もあまり長く……喋れそうにないお」



308 :( ^ω^)ブーンが丸付けをするようです:2009/05/12(火) 22:45:10.98 ID:saw2TbKD0

ξ;⊿;)ξ「うん、うん、いいの、私こそごめんなさい。
 ブーンがこんなに苦しそうにしてるのに、私……何もできないなんて」

 骨張ってきた僕の肩にツンの柔らかい二の腕が絡まった。

ξ;⊿;)ξ「でも傍にいるわ、最後までずっと……一緒にいるからね」

 しっかりと抱きしめられる。ツンの胸の音がよく聞こえてきた。
 とくん、とくんと。少し速くて、でも力強い。

 生きている音がする。

 もう僕からは聞こえなくなってきた音だ。



309 :( ^ω^)ブーンが丸付けをするようです:2009/05/12(火) 22:48:10.46 ID:saw2TbKD0

 ※ ※ ※

 入院してもう一週間だった。

 今日は少し気分が良かったので、看護婦さんに頼んで無地のノートとボールペンを持ってきてもらった。
 看護婦さんは快く引き受けてくれた。周りのみんなも相まって優しい。
 いつも笑顔で僕の車椅子を押してくれたり、巡回もしょっちゅう来てくれる。

 わかってる、タイムリミットが近いのだ。

 医者に言われた期限よりはちょっとだけ早いけど、何より自分が一番分かっていた。
 もうとっくに覚悟してきたことだし、今更喚く元気も足掻く意味も無い。

 だから、丸を書こう。

 残された時間をそれだけに、ただそれだけに。

 丸を書くためだけに使おうと、きめた。



311 :( ^ω^)ブーンが丸付けをするようです:2009/05/12(火) 22:50:18.23 ID:saw2TbKD0

 ※ ※ ※

 それからのぼくは、食事をして寝るまではずっと丸を書き続けた。
 起きている間は全ての時間を丸付けに捧げると決めたのだ。
 ペンを持つ手が震えて、思うように書けない。
 汚い丸だったが、それでも今の僕には精一杯の美しい丸で、それが愛おしくて、悲しくて――



314 :( ^ω^)ブーンが丸付けをするようです:2009/05/12(火) 22:52:04.70 ID:saw2TbKD0

 ※ ※ ※


 次の日にツンが来て、また泣いて抱きしめてくれて。

 僕は丸を書いていて。


 そのつぎの日には子供たちがきて、またうつくしいおりづるをくれて。

 ぼくは丸を書いていて。


 そのつぎのつぎの日には、かぞくがきて、ちちが、ははが、ないて。

 ぼくは丸をかいていて。



315 :( ^ω^)ブーンが丸付けをするようです:2009/05/12(火) 22:54:02.91 ID:saw2TbKD0


 そのつぎのつぎのつぎのひにはつんが

 つぎのつぎのつぎのつぎのひにもつんが

 つぎのつぎのつぎのつぎのひはさいごのひで


 ぼくはずっとまるをかいていた


 つぎのひはなかった
 


316 :( ^ω^)ブーンが丸付けをするようです:2009/05/12(火) 22:56:13.33 ID:saw2TbKD0

 ※ ※ ※


 ブーンが亡くなった後、私はしばらく立ち直れそうになかった。
 お義父さんやお義母さんも悲しみにくれていた。でも、私よりもずっと強い人たちだった。
 泣いてばっかりで何も出来なかった私を励ましてくれて、少しづつだけれど家の片付けや、お葬式の準備を手伝って頂いた。
 お葬式は質素だったけど、たくさんの参列者が来てくださった。
 特に、もっていたクラスの子供たちが少なからず、お線香を上げに来てくれていたことは、きっと彼も喜んでいると思う。
 私は真っ赤に目を腫らして、ブーンの遺影を抱えながらずっと考えていた。

 ブーンは息を引き取る最後まで、ずっとノートとペンを放さなかった。
 誰が来ても、にこりと弱々しく笑いかけて、最後にはノートに向き直る。
 試しに二・三ページめくってみた。中にはたくさん丸が書かれていて、それだけだった。



318 :( ^ω^)ブーンが丸付けをするようです:2009/05/12(火) 22:58:13.59 ID:saw2TbKD0

 それで充分だった。

 私は、ブーンが最後に何を思って丸を書くことに執着していたのかは分からない。
 それでも、その丸付けは彼が最後の命の灯を捧げるに値するものだった――そう思う。

 いつの間にか、もう式は終りに向かっていた。

 もうすぐ出棺だ。

 私はお義母さんに遺影をお願いすると、断りを入れてお棺を開けさせてもらった。
 ブーンの痩せ細った顔が見える。でもその顔は相変わらず優しげで、うっすらと微笑んでいる気もする。

ξ゚⊿゚)ξ「ブーン、安らかに眠ってね」



319 :( ^ω^)ブーンが丸付けをするようです:2009/05/12(火) 23:00:10.35 ID:saw2TbKD0


 一枚。


 一枚だけ切り取ってきたノートの最後のページ。
 そこに書かれたページいっぱいの大きな丸は、何だかとても綺麗で。
 せっかくだからブーンに持って行ってもらおうと思った。

 私はブーンの胸元にそっとページを置いて、お棺を閉じる。

 さよならは言わなかった。



320 :( ^ω^)ブーンが丸付けをするようです:2009/05/12(火) 23:02:07.57 ID:saw2TbKD0

 ※ ※ ※

 僕は何もない空間にいた。

 自分がどうしてここにいるのか、どうやってここに来たのかなんてことは分からない。

 ただ真っ暗な「どこか」をゆっくりと、ただ流れるままに漂っている。 
 ふと、視界が青く染まる。
 絶望のように僕を包み込んでいた黒い世界が、一筋の蒼光に吹き飛ばされていく。


( ^ω^)「あぁ……」


 それは雄大で、美麗で、究極だった。
 青く透き通ったそれは美しい球だった。本当に、まるで神様のように美しかった。
 その外観は僕には計り知れないスケールで、飲み込まれそうになる錯覚を覚える。
 手を伸ばせば届きそうで、決して触れれない。



321 :( ^ω^)ブーンが丸付けをするようです:2009/05/12(火) 23:04:10.27 ID:saw2TbKD0

 虚空の闇に浮かんだ蒼い丸が、僕を見つめている。

 幸せだった。

 僕は腕を大きく回し、球のアウトラインを指先でなぞるようにする。
 今までに感じたことのない、快感だった。
 これが僕の求めていた軌跡なのだ。
 これが僕の求めていた形なのだ。

( ^ω^)「…………」

 意識が霧散していく。

 もう悔いはなかった。

 僕はこれまでに浮かべたことのないような満面の笑みを浮かべ、消えていった。







323 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/12(火) 23:06:58.30 ID:saw2TbKD0

これでおわりんりんです

お題は

・神様にお願い
・仏さまの慈悲
・人の優しさ

でした

現行でもこんなたくさんの支援貰ったことないよ 有難う
質問感想とかあったらどうぞ 


[ 2009/05/12 23:09 ] 総合短編 | TB(0) | CM(0)

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