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( ><)無題


85 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/07(木) 23:36:42.78 ID:IVxGWW070

あるものと言ったら遠くに望む山とそこにびっしりと生えている膨大な数の木、もはや老人しかいなくて活気のない田畑、あとはうるさい蝉の声。
東京の大学に行くと言ったときに何も言わず笑顔で送ってくれた祖母へ久しぶりに顔を見せるため、僕はまたここへ帰ってきていた。

最初は普通に過ごしていても何の問題はないが数日経てば東京の生活とは打って変わった何もない虚無の波が押し寄せた。
風邪を引いたのは4日目だった。

小さな村の小さな病院に行くと若いながらも落ち着きのある医者がいた。
見知らぬ医者を目の前にして僕は、帰ってなくて数年経ったんだとここに来て申し訳なく思った。

その病院に一人しかいない看護婦が薬を処方している間にガランとした待合室でおとなしくしているとその日初めて会った彼が隣に座り
上京していた間にあったであろうさして重要でない日常のちょっとしたことを語りかけてきた。

医者が待合室で患者としゃべると言うのは些かゆったりしすぎじゃないか。
第一祖母が過度な心配をするから一応来ただけとは言っても僕は病人だ。
話を聞くどころかまともに相槌すら打てない。

そんな僕をよそに彼は何を思ったのか今だによく分からないが、
また来てくださいね、君のように若い人と話すのはなかなかできることではありませんから。とだけ最後に言った。

僕はあの時何にも話していなかったのに・・・・・・。

布団から出らるようになってから、散歩がてらにあの病院に寄るようになった。

他にすることもないので散歩が日課になっていくのはしょうがないのことだと思う。

( ><)「こんにちわなんですー。」

「あら、こんにちわ。ひょっとして座薬切れたかしら?」

(;><)「ち、違うんです!ワカッテマス先生居ますか?」



86 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/07(木) 23:39:20.89 ID:IVxGWW070

('、`*川「あぁ、先生ね。今オワタさんのところに行ってるわよ。この間腰打っちゃって病院に来れないから。お家近いから多分すぐ戻ってくるわよ」

( ><)「そうなんですか。教えてくれてありがとうなんです」

('、`*川「あら、帰るの?お昼食べていかない?」

( ><)「いいんです、お婆ちゃんが作って待ってるんです」

('、`*川「電話しておくわよ?」

そう言うと彼女は患者達の電話番号が記載された紙を探しに行ってしまった。
奥からは「見つからないわねー」と間の抜けた声がぼんやりと聞こえてきた。
ここまでしてもらって帰ることを押し付けてはいけないと、誰も聞いてはいない挨拶をしてから靴を揃えた。

( <●><●>)「ビロード、いつから我が家の一員に?」

( ><)「あっ、お邪魔してますなんです」

('、`*川「先生、今日は冷やし中華ですよ」

( <●><●>)「そう言えばお中元に貰ったそうめんはどうしましたか?」

よく来客でも来るのだろうか。医者と看護婦が住んでいると見積もっても数が多い4つの椅子の内の一つを引いて彼は座った。
看護婦と向かい合わせに座ったのは恒例のことのようだ。

('、`*川「あら、それは食べきれないからご近所さんに配ってくださいって先生が言ったじゃありませんか」

( <●><●>)「おや、そうでしたっけ?」



87 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/07(木) 23:41:35.20 ID:IVxGWW070

こんな辺鄙な土地で医者をしているのにお中元なんてもらうなんてずいぶん変な話だ。
小さなコミュニティにおいてわざわざ手に余るほどに食料を渡して、それをまた貰うなんて少なくともここではしないだろう。

縮れた麺をすする音が響く中で僕は色々考えた。2人は恋人同士なのだろうか。
そもそも若い医者が田舎に来て老人を相手にするなんて妙な話じゃないのか。

一足早く食べ終わり箸を置くと先生は言った。

「ビロード、食べ終わったら下の診療室へ来てください。どうせ暇なのでしょう?」

***********

普段と別段変わりない。家のお婆ちゃんの調子はどうだとか大学へちゃんと言っているかとか時間を潰すくらいしか役に立ちそうもない話ばかりだ。
そんな会話であるから話題が尽きて今日の昼に浮かんだ疑問が口をついてしまうのは時間の問題だった。


( ><)「そう言えば、ワカッテマス先生は何でこんなところに来たんですか?」

( <●><●>)「おや、自分の故郷にこんなところとは失礼ですね。また、座薬出しておきますよ」

(;><)「嫌なんです、ていうか座薬ってワザとなんですか!」

( <●><●>)「冗談ですよ、まさかこんなにこっちに長くいるとは思わなくて早く効くようにと出しておいたのですよ。帰るときに具合が悪くては困るでしょう」

心配してくれるのは嬉しいが質問をはぐらかせられて少し悔しい。

( ><)「それはありがとうなんです。ところで看護婦さんとは付き合っているんですか?」



88 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/07(木) 23:44:59.59 ID:IVxGWW070

昼の話の様子だと一緒に暮らしているようだ。自分も子供ではないから男女が同じ屋根の下に暮らすと言う意味くらいわかっている。

( <●><●>)「それはさっきと同じ質問ですね」

( ><)「違うんです」

( <●><●>)「いや、同じですよ。まず端的に言うと彼女は私の妻です」

否定で返されると思った言葉がこうまで肯定されると理由が気になるものだ。
僕は話の流れを変えないように何も言わずに先生を促すように見た。

( <●><●>)「少し長い思い出話をしてしまうんですがよろしいですね?ずいぶん恥ずかしいことなのですが」


外は日が傾いているのか、青に少しだけ赤が混じり始めていた。

―――――――――――――――――――――

―――――――――――――

――――――

私はインターンを終えてついに医者としての一歩を踏み出したと誇りに思っていたときです。
まだ青臭い私は打ちのめされてしまいました

「こんにちわ」

病院長の娘だそうです。
いつも黒髪を全て後ろへと撫で付けている父からは想像のできないほど色素の薄い髪に同じく色が付いてないような肌、そしてやわらかい笑顔の彼女。
私はズブズブとぬかるみに沈むようでした。



89 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/07(木) 23:47:26.41 ID:IVxGWW070

「あなた、ずいぶん不思議な方ね。ここの人たちはみんな目が鋭いのにどこか抜けているのね」

会ったのは新人の歓迎会でした。まぁ、最も人命を預かる立場なので全ての人が居られた訳ではありません。彼のフィアンセもそのうちの一人でした。

「どこに惹かれたのですか?」

子供のような嫉妬心で僕は聞いてみたのです。

「父が決めたのよ。ここに私が来るのも父が決めたの。本当は彼も来るはずだったのだけれど受け持ってた患者さんが急に体調崩してしまったのですって」

僕は、僕は・・・・・・完全に阿呆でした。彼の魅力を語りださずに自分の不自由を語る彼女に悲劇を重ねてしまいました。
世界が悪と正義で分かれてしまっていると考える子供のように、力の継続を願う男達と囚われの女を彼女に重ねてしまったのです。

こうなるともうだめでした。僕はしばらく彼女と話して、そして最後にまた会いたいなどと冗談めいてしかし目だけは真剣に言ったのです。
すると、彼女は包み込むような微笑で言いました。

「私も貴方とのお話がするのが好きみたい。貴方面白いもの。ねぇ、連絡先交換しましょうよ」


再び会ったのがその一週間後。外で会う彼女はずいぶん刺激的な出で立ちでした。

バーのカウンターでお酒を飲み彼女の愚痴を残さず聞きました。
親の決めた相手は病院の若手でも腕利きだという理由だけの他はまるで冴えないと言うこと、自分が嫌だと言ってもきっと厳しい父は許しはしないということ、本当は相手は自分で決めてしまいたかったのにということ。

フフ、愚かですよね。相手は僕じゃないという可能性も考えられなかったのです。そんなことを言われる僕はきっと彼女にとって特別なんだろう・・・・・・そう思っていたのですよ?

「ねぇ、街中って少し寂しいと思わない?」
肩が触れ合えばそこが焼けるようでした。

え?あぁ、その後はなんてことはありません。結ばれましたよ、心がではありませんが。そんなに顔を赤くしないでくださいよ。



90 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/07(木) 23:50:08.75 ID:IVxGWW070

こっちが恥ずかしいじゃないですか。まぁ、私も若かったのですよ。さっきも言ったと通り、その後は何事もありませんでしたよ。

ただ・・・ただ終わった後に泣かれました。
「私は忘れるからもうこんなこと止めましょう」ってね。

私は罪悪感に襲われました。
救い出すつもりが汚してしまっていただけなんですからね。

あっ、すっかり外が暗くなりましたね。少し省略して話しますね。

で、僕は病院を辞めて知り合いの紹介でここに来て彼女と出会い結婚しました。

びっくりしないでくださいよ。これに関しては罪の意識があってまともな顔をして話せないのですよ。
まぁ、妻に結婚を迫られた際にこの話をして僕は彼女から離れようと思ったのですけど「そんなん子供じゃないんだから1つや2つあって当たり前だろうが」と言われましたよ。
別に私の贖罪のつもりではありませんが彼女は結婚して数年足らずで別れたそうですよ。知り合いに聞いた話ですが。

理由は知りません。

申し訳ないことをしたとは思います。でも、今は幸せですよ。

***********

短い答えの代わりに出た少しだけ長い昔話が終わる頃には月が綺麗で、彼はそれを見て少しだけ微笑んだ。

( <●><●>)「帰らないと心配されますよ」

( ><)「もう、子供じゃないんです」

( <●><●>)「私もあの時そう思ってましたよ。さぁ、また明日」



91 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/07(木) 23:53:25.82 ID:IVxGWW070

診察室のブラインドを閉めた足で、彼は僕を追い出すように病院の玄関へと向かった。


( ><)「今日はありがとうなんです」

('、`*川「あら、ずいぶん長く話していたのね」

( <●><●>)「ちょっと昔話をね」

( ><)「それでは、また明日なんです」

('、`*川「あれ、明日も来るの?お昼用意しておこうかしら」

(;><)「流石に明日は夕方に来るんです」

( <●><●>) 「待ってますよ、それではまた」

暗い夜道を転びながらも何回も振り返り、寄り添う2人に手を振りました。

***********

('、`*川「あなたが昔話をするなんて珍しいわね」



92 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/07(木) 23:56:25.58 ID:IVxGWW070

( <●><●>) 「私の若い頃に似てたので」

('、`*川「あら、あの年頃の子はみんなそういうものよ。」

( <●><●>) 「そういうものですかね」

('、`*川「あなたはちょっと遅かっただけよ」

( <●><●>) 「まったくひどいですね」

('、`*川「でも、必要なことよ」

( <●><●>) 「まぁ、そうでしょうね」

('、`*川「戻りましょう」

( <●><●>) 「えぇ」

夏だというのに夜風は肌にひんやりと吹きつけてきて、少年の帰省の終わりをゆっくり告げようとしていた。







93 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/07(木) 23:59:13.93 ID:IVxGWW070

お題

・無知は罪
・分かっているつもり
・not found
・それは座薬です

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支援ありがとうございます

[ 2009/05/08 21:39 ] 総合短編 | TB(0) | CM(0)

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