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( ^ω^)無題


21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/20(月) 22:57:26.44 ID:FgWf0wbT0

( ^ω^)「お……?」

ふと気が付くと、彼は見知らぬ空間にいた。
何故だか、彼は自分のものではない視点から、その光景を見つめていた。
例えるなら丁度映画のように、自分の右斜め上方辺りにカメラが配置されていて、
そのカメラが捉えた映像を眺めているようだった。

ひとまず、彼は周囲を見回してみる。
とは言え彼の行動は形だけで、実際には右斜め上方からの傍観者視点で、
既に辺りがどのような様子なのかは分かっていたのだが。
無駄だと思っても、彼の行動が止まる事は無かった。

その空間は、長方形の黒ずんだ石を組み積みして構築された一本道の洞窟のようだった。
壁や床にはびっしりと苔か何かの植物が生えている。
天井からはぽつりぽつりと水滴が滴り落ちて、洞窟の中に気味の悪い旋律を奏でていた。

何が発生源なのかすら分からない鼻腔を突く異臭や、
足元の少しぬかるんだ感覚が、彼に伝わっていく。
視覚は傍観者のようなのに、何故か触覚や嗅覚は自分自身の物が働いていた。



22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/20(月) 22:58:41.91 ID:FgWf0wbT0

( ^ω^)「……お?」

不意に、彼が疑問符を付属した言葉を零す。
聴覚は、どうやら傍観者の物が適用されるらしい。
自分で発した筈の声を、彼はどこか他人事の感覚で耳に捉えた。

しかし、何故自分がそんな声を発したのか、
彼は自分自身でさえ分からない。

自分が何か違和感を覚えたのは見て取れるが、
それ以上はどうにも分からなかった。

と、出し抜けに、彼の前方で何かが揺らめいた。
傍観者の視点から確認してみると、どうやら彼はその『何か』に感づいて声を漏らしたらしい。

人間ではとても真似出来そうにない、地鳴りのように低く恐ろしい声が、響いた。

その声を合図にしたかの如く、彼の視点は傍観者の物から外れ、
本人の物へと挿げ代わった。

突然の異変に、何故か彼は違和感を覚えなかった。

或いは、違和感を覚える以上に、目の前にいる『何か』が気に掛かったのだろう。
傍観者の視点とは違って、自分自身の視点は暗闇に慣れておらず、
目を凝らして彼は正面を注視した。


赤い半固体の、ゲル状の物質が、彼の目に映り込んだ。



23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/20(月) 22:59:25.80 ID:FgWf0wbT0

図らずも、彼は目を剥いて息を呑む。
そして、直後に歯を食い縛り、身を翻して駆け出した。
何故だか分からないが、逃げなければいけないと思ったのだ。

ここで、再び傍観者の視点が帰ってくる。先ほどと違う所を挙げるならば、
今度は自分自身の視点も保ったまま、
つまり二つの視点が同時に働いている事だった。

何とも奇妙な感覚だったが、違和感を覚えている暇は無い。

彼はひたすらに走った。
だが、自分自身の視点には途方も無い暗闇が。

加えてもう一つの視点からは、
段々と距離を詰めてくる赤いゲル状の物質が、見えていた。

形容し難い絶望が、彼を襲う。

ゴールは見えない。
けれども、正体不明の物質が迫り来る様はしっかりと見えてしまう。

何だって、一体こんな目に遭わなくてはならないのか。
そもそも、本当に逃げなくては駄目なのか。

一抹の疑問が頭を過ぎるが、足を止めてしまって取り返しの付かない事になったらと思うと、
逃げ続ける他に道は無かった。

幸い、理由は分からないが彼は疲れを覚える事など無く、走り続ける事が出来た。
体力には自身が無い筈だったが、そんな事は関係ないと言わんばかりに足は動く。
呼吸も乱れる事はない。



25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/20(月) 23:00:14.25 ID:FgWf0wbT0

赤いゲルも自分との距離を縮めては来るのだが、絶対に追いつく事は無かった。

しかし、彼に安心は訪れない。

相変わらず洞窟の終わりは見えないし、
いつ追いつかれるか分からない恐怖は彼の心を着実に蝕んでいく。

いっそ足を止めてしまおうと思っても、どうなってしまうのか分からないから、踏ん切りが付かない。

このまま終わりの無いマラソンが続くのかと、彼がふと考える。
同時に、恐らくはその通りなのだろうと、根拠の無い確信が心に根付いた。

もし終わりが来るとすれば、それは始まりの時と同じように、
気が付けばどこか違う場所にいた。
そんな風なのだろう。

――例えば、見覚えのある部屋で、ベッドの上に寝転がっているとか、だ。
[ 2009/04/20 23:27 ] 総合短編 | TB(0) | CM(0)

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