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何故か( ゚д゚)達は…


52 :何故か( ゚д゚)達は…:2009/04/19(日) 12:14:36.44 ID:qq73fD4PO

 その老婦人が寝たきりになってから、だいぶ月日が経っていた。
 いつも通りの時刻に帰宅の準備をしていると、急に彼女はおれの名前を呼んだ。

( ゚д゚)「何ですか」

 かばんのジッパーを閉めて振り返ると、真っ白な部屋が燃え上がるような金色に染まっていた。その奥、小さな出窓に寄り添うように配置されたベッドの中で、彼女がこちらを向いている。おれは不穏なものを感じて、急いで隣に腰掛けた。



55 :何故か( ゚д゚)達は…:2009/04/19(日) 12:17:14.34 ID:qq73fD4PO

 老婦人は顔の右側だけが西日に強く照らされていた。こめかみから鼻梁に向かって伝っているその光は、渇いた大地に流れ込む川のように見えた。
 カーテンを閉じようとすると、彼女はおれの伸ばした腕を掴んだ。おれは上げかけた腰を再び元に戻し、改めて彼女の顔を見た。
 彼女は薄く口を開いた。



57 :何故か( ゚д゚)達は…:2009/04/19(日) 12:19:56.73 ID:qq73fD4PO

ζ,,゚ゝ、ソン「…やはり私は、あなたに今のお仕事が似合うとは思えません。あなたは、もっとあなたの優しさを生かした職業に就くのがよろしい」

 いつも以上に弱々しい声が、これから彼女に訪れるものをはっきりと示していた。覚悟してはいたものの、いざ来ると分かると途方に暮れた。
 だが、おれが黙っていたのは、むしろ胃が落ち込むような罪悪感のせいが大きかった。



58 :何故か( ゚д゚)達は…:2009/04/19(日) 12:22:32.60 ID:qq73fD4PO

 老婦人は、ゆっくりと息を吐き出した。目が少し微笑んでいた。

ζ,,゚ゝ、ソン「私は…あまり幸せではありませんでした。人生のほとんどを無駄にしてしまいましたから。
 でも、最後にあなたと過ごしたことで、随分救われました。
 楽しかったです。有難う」

 気位の高い彼女にそれを言われることが名誉であることはよく分かっていた。だからこそ、その言葉は刃物のようにおれの胸をえぐった。



59 :何故か( ゚д゚)達は…:2009/04/19(日) 12:25:35.42 ID:qq73fD4PO

( ゚д゚)「…おれは」

 喉がひどく渇いていた。心臓が派手な音をたてている。

( ゚д゚)「おれは、あなたが思うような良い人間ではありません。
 おれはあなたに様々なことを隠しています。俺自身のことだけでなく、あなたのことについても。しかもおれは、自分の保身のためにそうするのです」



61 :何故か( ゚д゚)達は…:2009/04/19(日) 12:28:34.45 ID:qq73fD4PO

 言い終わってからすぐ、おれは自分の卑怯に吐き気がしていた。
 しかし、老婦人は、驚いたわけでも、怒っているわけでもないようだった。彼女はただ、おれの目をじっと見つめていた。日に照らされた彼女の顔は、皺の陰が消し飛んで、随分と若返って見えた。
 ふいに彼女は手を伸ばして、おれの頬に触れた。冷たい指先に、はらわたの千切れるような苦痛を感じた。



63 :何故か( ゚д゚)達は…:2009/04/19(日) 12:31:31.03 ID:qq73fD4PO

 おれは日に照らされた老婦人の目尻を凝視していた。彼女の言葉を受けて、抑えつけていた自我が多少雄弁になっていた。ちゃちな正義感と、現実にこなさなければならないこととの葛藤があった。
 光の照らす位置が変われば、再び彼女の皺は姿を現すだろう。またそうあるべきなのだ。彼女にはそれを顔に刻む権利と義務がある。その年輪は彼女の人生を象徴しているのだから。



66 :何故か( ゚д゚)達は…:2009/04/19(日) 12:33:45.68 ID:qq73fD4PO

 だが、彼女に還元すべき秘密は、喉の奥にせき止められていた。おれは何度も口を開いては、閉じた。
 最期が、迫ってきていた。おれは焦りを感じた。冷や汗がじっとりと体を濡らした。
 すると突然、老婦人がおれの手の甲をあやすように撫でた。



67 :何故か( ゚д゚)達は…:2009/04/19(日) 12:36:12.51 ID:qq73fD4PO

ζ,,゚ゝ、ソン「…これから、もっと苦しいことがあなたを待っているでしょう。
 でも、良心を忘れないで下さい。
 私にしたような振る舞いを、これからも続けて下さい」

 その声は小さく、震えていたが、はっきりと部屋に響いた。



69 :何故か( ゚д゚)達は…:2009/04/19(日) 12:39:49.65 ID:qq73fD4PO

 おれは何度も頷いた。そうしながら、彼女の次の言葉を待っていた。おれを許す言葉の続きが聞きたいのではなかった。ただ、彼女が生きていることに対する、出来るだけ多くの証拠が欲しかった。
 だが、もう彼女の声が聞こえてくることはなかった。彼女はゆっくりと口角を上げ、一度だけ深くおれに頷きを返した。
 その後、彼女はふっと顔から力を抜いた。



70 :何故か( ゚д゚)達は…:2009/04/19(日) 12:42:41.26 ID:qq73fD4PO

 静けさだけが残った。長い間をかけてその現実を理解すると、体の奥から激情がこみ上げてきた。耐え難いほど苦しかったが、同時にひどく幸福だった。おれはその得体のしれない感情に打ちのめされ、部屋がすっかり暗くなるまで、ただ身を任せるしかなかった。
 涙が頬を冷やしていた。




何故か( ゚д゚)達は言葉に出来ないものを抱えているようです


[ 2009/04/19 22:13 ] 総合短編 | TB(0) | CM(0)

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