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しぃは寄り道をするようです


408 :しぃは寄り道をするようです:2009/03/12(木) 01:53:23.18 ID:cuNDzeZ30

 さようならの挨拶と同時に、クラスメイトたちは教室を飛び出していった。手には使い古したボールを持っている。
 これから運動場で、流行りのドッヂボールをするのだろう。

 ――いいなぁ。

 少女は教科書をランドセルに詰め込みながら、みんなと遊ぶ自分を思い描こうとした。けれど、どうやってもボールを受け止めたりする自分がわからない。混じって応援したり、走って転んだ
り。彼女のなかで、そんな体験をしたことは一度たりともなかったからだった。
 下駄箱で靴を履き替えていると、聞きなれたクラスメイトたちの声が少女の耳に届いた。それから逃げるようにして、昇降口を飛び出す。

从 ゚∀从「あ! しぃちゃんも遊ぼうよー!」

 一人で校門に向かうしぃに、ハインが声をかけた。ハインはしぃに声をかけつつも、瞳の先はいつやってくるかわからないボールに向けられている。
 しぃは知っている。ハインは悪い人ではないのだけれど、自分を誘うのは、ただの「社交辞令」なのだと。

(*゚ー゚)「ありがとう。でも、今日は用事があるんだ」

从 ゚∀从「ええっ。今日もかー」

 ハインは落胆すると、それじゃあまたねと手を振って、遠くに飛んだボールを取りに走った。
 しぃはその姿を目で追った。

(*゚ー゚)(私がボールを拾って、それを投げて、誰かに当たって、同じチームからやったーと声があがって・・・・・・。それって、どんな感覚なのかなぁ)

 今日の予定は、ピアノが一時間あって、その後に塾だ。早めに家に帰って、発表会の練習と塾の予習をしなければならない。

 それが面倒臭いとか、疲れるとか、彼女はそんな感情を随分前に捨ててしまっている。
 母親はこの一人娘をとても可愛がっていて、かわいらしい洋服をたくさん買い込んだりしている。しぃはそれを拒んだりはしない。むしろ、自分が恵まれた環境に生まれたのだと思っている。
 そんなお母さんが買ってくれる洋服を汚さないよう、外ではなるべく遊ばない。そんなのは誘われたときの、断る言い訳でしかなかった。
 なぜだか、自分が遊びに加わると嫌がる子たちがいるからだ。しぃは、もちろん気づいている。



409 :しぃは寄り道をするようです:2009/03/12(木) 01:54:54.59 ID:cuNDzeZ30

 信号が赤くなった。

 ぴたりと立ち止まった彼女の横を、何かが勢いよく通り過ぎた。驚いて目を凝らすと、それは風のような速さで走るギコであった。塾の鞄を背負っている。
 彼はしぃと学校のクラスは違うが、塾では同じクラスだ。
 とにかく、ギコという少年は頭がいい。生まれ持って天才なのだろうな、としぃは思っている。
 授業はいつも遅刻、来ていても居眠りばかりする。だというのにテストでは常に満点なのだ。先生はいつもご立腹だが、彼が満点をとる以上、怒ることができないのだ。

(*゚ー゚)(何であんなに急いでるんだろう)

 あっちは塾と反対である。しぃは駆け足で横断歩道を渡り、再び目を凝らす。
 ギコは、神社に向かって走っていた。

(*゚ー゚)(こ、これって、ストーカーっていうのかな)

 しぃは好奇心に胸を膨らませ、神社の鳥居をくぐっていた。しかし、ギコの姿は見当たらない。

(*゚ー゚)(でも、こういうところには異次元の入り口とかあったりして・・・・・・)

 彼女はファンタジーが大好きだ。いつも読む本では、このようにミステリアスな雰囲気で、なにかしら起こるものだと、彼女は思っている。ただの思い込みでしかないけれど。

(*゚ー゚)(せっかくだから、探検していこうかな)

 よいしょ、とランドセルを背負い直して、彼女は神社の道を進んでいく。といっても、探検に相応しいほど広いわけではない。数分で、ぐるりと周り終えてしまった。

(*゚ー゚)(探検といっても、これじゃあ、あっけないなぁ)

 空を仰ぐと、まだ日は沈まないようだった。



410 :しぃは寄り道をするようです:2009/03/12(木) 01:56:42.30 ID:cuNDzeZ30

 ファンタジックなものでも落ちて無いかと、辺りを見回す。そのとき、背丈ほど高い雑草が目についた。

(*゚ー゚)(あの奥に、何かないかな)

 背伸びしても、草に視界を遮られる。逆にしゃがみこんでみると、雑草の根が折れていることに気がついた。

(*゚ー゚)(これ、誰かが踏んだんじゃないかしら)

 しぃはそこに踏み込んで、先に進んでいく。進むと草が所々折れていて、彼女を導いてくれているようだった。

(*゚ー゚)(この先に、なにがあるんだろう)

 爆発してしまいそうな興奮を、彼女は初めて感じた。それと同時に、こんな感情があるのだと知った喜びも、彼女の中で溢れかえっていた。
 その冒険は実に短く、すぐに開けた場所に飛び出した。しかしその瞬間、

(*   )「へぶっ!」

 彼女は思いっきりずっこけてしまった。勢いよく立ちあがると、買ってもらったばかりの服は泥だらけになってしまっていた。そして、ぶつけてしまったせいで、鼻からは血が止まらくなってしま
った。口に鉄の味が広がる。

(*;ー;)「あ、ううっ・・・・・・」

 払っても泥は拭えないし、いくら手を押し当てても血は止まらない。八方ふさがりの状態に、彼女は泣きだしたくなってしまった。

(*;ー;)「ど、どうしよう・・・・・・」

「――誰?」

 彼の登場で、しぃが我慢してきた涙がぼろぼろと流れた。



411 :しぃは寄り道をするようです:2009/03/12(木) 01:58:21.98 ID:cuNDzeZ30

 ギコは目を白黒させて、やっとここにいる人物が塾のクラスメイトだと気づいたようだった。

(,,゚Д゚)「ななななんでここにいるんだよっ!」

(*;ー;)「ううっ」

 見られた。見られてしまった。
 泥だらけで、鼻血だして、立ちすくんでいる姿を見られた。
 その時の彼女は、恥ずかしさで死んでしまえそうだった。

(,,゚Д゚)「ほら! 泣いてないで! つーか泣いてたら余計血が出るだろ!」

 ギコは塾生鞄からハンカチを取り出した。今どきの男の子がそんなものを常備していることに、普段の彼女だったら驚くかもしれないが、そんな余裕はない。

(*;ー;)「あ、ありがとう・・・・・・」

(,,゚Д゚)「まったく、どうやったらこんな何もないところで泥だらけになるんだよ・・・・・・。あー! ここ、すげー汚れちまってんじゃねーか!」

 やっと涙がひいたしぃは、そういって彼女の服の汚れを落とそうするギコを見て、自然と笑いがもれてしまった。

(,,゚Д゚)「な、なに笑ってんだよ!」

(*゚ー゚)「だって、ふふ、おかしい、ふふふ」

(,,゚Д゚)「な、なにがだよっ! おいゴルァ!」

 それは、しぃにとって自分のお母さんよりもずっと、彼が母親らしく見えたのだった。

(,,゚Д゚)「――で、なんでこんなところに」



413 :しぃは寄り道をするようです:2009/03/12(木) 02:00:06.63 ID:cuNDzeZ30

(*゚ー゚)「寄り道をね、したいと思って」

 鼻血も涙も止まり、二人は地面に腰を下ろした。
 雑草から抜けた世界は、とても小さく、木に囲まれているおかしな場所だった。
 けれど、彼女にとってそんなことはどうでもよかった。自分がわずかながらも冒険をしたことが、実に嬉しかったのだ。

(,,゚Д゚)「寄り道?」

(*゚ー゚)「うん。したことなかったから」

(,,゚Д゚)「はぁ・・・・・・?」

 彼は理解できないといった様子で、首を傾げる。

(,,゚Д゚)「それで、ここに?」

(*゚ー゚)「あ、まぁね、うん」

 笑顔で誤魔化そうとも思ったが、やはり、それは不可能だった。

(,,゚Д゚)「俺を追ってきた、とかじゃないよね?」

(*゚ー゚)「あははー」

(,,゚Д゚)「やっぱりそうなんだ。そうじゃなきゃおかしい。こんな場所、そう簡単に見つけられないし」

(*゚ー゚)「・・・・・・私、そんなわかりやすい顔してた?」

(,,゚Д゚)「うん」



414 :しぃは寄り道をするようです:2009/03/12(木) 02:01:45.75 ID:cuNDzeZ30

(*゚ー゚)「こ、ここ、すごくいいところね!」

(,,゚Д゚)「そう?」

(*゚ー゚)「うん! すっごい幻想的だなって思って」

 彼は特別ここには思い入れがないのだろうか。退屈そうに緑の地面に寝転がった。
 そんな様子を見て、彼女にある考えが浮かんだ。

(*゚ー゚)「あ、もしかして、その、ご、ごめんなさい!」

(,,゚Д゚)「なんだよいきなり!」

 すぐさまギコは跳ね起きた。

(*゚ー゚)「だ、だって、ここ、内緒の場所だったんでしょ? そこを、私が勝手に見つけたりしちゃって」

 自分だって、嫌だ。しぃはそう思っていた。
 図書室で自分が使う席を取られたりするだけで、彼女はいつも不愉快な気持ちになる。きっと、彼だって同じ気持ちのはずだ。

(,,゚Д゚)「・・・・・・まぁ、内緒の場所だけどさ」

 ばさり、と彼はまた仰向けになった。

(,,゚Д゚)「なんだかいい人みたいだし。怒るのもめんどくさいし。別に、自分一人のものにしようとしてないし」

 しぃは、自分がとても心の狭い人間だと気付かされた。

(,,゚Д゚)「それに、見つかったものはしょうがないし」



415 :しぃは寄り道をするようです:2009/03/12(木) 02:03:29.49 ID:cuNDzeZ30

(*゚ー゚)「あの、いつでも、来て、いい?」

 自分のお願いはひどく図々しいと思いつつも、しぃは彼の言葉が嬉しくて、思わず飛び出した言葉だった。

(,,゚Д゚)「いいよ、別に」

 その言葉に、彼女の眼から涙が溢れた。それは痛みでも、悲しみでもない、喜びからくるものだった。

(,,゚Д゚)「う、お、おいっ」

(*;ー;)「あ、また、私、どうしてだろう・・・・・・」

 そう言って拭う彼女の目の前に、ギコは何かを差しだした。

(*゚ー゚)「え、これ」

(,,゚Д゚)つ「あげる」

(*゚ー゚)「でも」

(,,゚Д゚)つ「あげるっていってんだろっ」

 それは四つ葉のクローバーだった。彼女は驚きのあまり、少しの間言葉を無くした。



416 :しぃは寄り道をするようです:2009/03/12(木) 02:04:28.13 ID:cuNDzeZ30

(*゚ー゚)「ありがとう! すごい! 初めてみた! 本当にあるんだね!」

(,,゚Д゚)「今寝転がったら、あったんだよ」

(*゚ー゚)「・・・・・・ここには、たくさんあるの?」

(,,゚Д゚)「え? ああ、まぁ」

(*゚ー゚)「じゃあ、ギコくんの分を見つけるね! 今度は五つ葉を!」

(,,゚Д゚)「は?」

(*゚ー゚)「私、これでも視力いいんだから!」

 さっきまで泣いていた少女には見えなかった。ギコはただ、しぃが泣きやんでくれたことに安堵した。


 日が沈み始め、二人は神社をあとにした。

(,,゚Д゚)「おい、そんな残念がるなよ」

(*゚ー゚)「・・・・・・でも、こんなにいいものもらったのに、おかえし、出来なかった」

(,,゚Д゚)「そんないいものじゃねーよ」

 並んで信号をまつ。道路を通り過ぎる車のライトに照らされたしぃの横顔を、ギコはぼんやりと見つめた。
 それに気づいた彼女が、にっこりと微笑む。



417 :しぃは寄り道をするようです:2009/03/12(木) 02:06:10.13 ID:cuNDzeZ30

(*゚ー゚)「あの、時々ハメを外すって、とっても楽しいんだね」

 唐突に、彼女は言う。

(,,゚Д゚)「・・・・・・ハメを外していたようには見えないけど」

(*゚ー゚)「私にとっては外しまくりよ!」

(,,゚Д゚)「あ、そう」

(*゚ー゚)「そうだ! 今度ハンカチのお返しもしなきゃ!」

(,,゚Д゚)「そんなことより、どうすんだ、それ」

(*゚ー゚)「服のこと? 怒られちゃうかもしれないけど、でも」

 信号が青く光る。

(*゚ー゚)「寄り道がこんなにも楽しいんだよって、お母さんに教えてあげるんだ!」

 手を振って、しぃは横断歩道を渡った。ギコは少し戸惑ったあと、小さく手を振り返した。

 おしまい。




[ 2009/03/16 22:11 ] 総合短編 | TB(0) | CM(1)

ほのぼの(=∀=)
[ 2009/03/17 01:55 ] [ 編集 ]

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