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(*゚ー゚)天井


352 :天井:2008/07/14(月) 00:09:34.61 ID:9mbrE+Cj0

 気が狂いそうになる程に白い天井を、ただずっと眺めていた。
 いつからかこうしていて、そう長くないこれからも、きっとこうして過ごすのだろう。
 「もう退院しても大丈夫ですよ」。
 先日、そう私に告げた医者がいた。
 初めて出会ったのは、私が小学生になった頃だったから、もう七年間の付き合いだ。
 それは私にとって、同時に死刑宣告でもあったのだけれど、天井を見つめるだけの日々に意味があるとも思えない。
当然のように何の感情も湧いてはこなかった。

(*゚ー゚)「……」



353 :天井:2008/07/14(月) 00:10:00.69 ID:9mbrE+Cj0

 折角自宅に帰ってきたというのに、私の体は思うように動かない。
 最近は、体に釣られたのか、精神さえ思い通りにならなくなってきた。
 こうして天井と睨めっこしているだけなら、病院にいたって同じだ。
 その事で当り散らしてしまうのが嫌で、私は家族をも遠ざけた。

(*゚ー゚)「天井がなければ、空が見えるのに……」

「――早く死なないかなぁ」。

 私がそう呟いて、溜め息を漏らすのと同時――

『……あの、』

 それに重なるようにして、小さく声が聞こえた。



354 :天井:2008/07/14(月) 00:10:31.36 ID:9mbrE+Cj0

 小さく、それでも意味のある、確かな声が聞こえた。
 急な事で反応もできずにいる私に、追い討ちをかけるように声は続く。

『あの、元気出して欲しいお。”死ぬ”なんて言っちゃ駄目だお』

(*゚ー゚)「……誰? どこにいるの?」

 動けない私の視界には、天井以外の何も映らない。
 どこか間延びしたその声は、家族のものでも、私の知る他の誰かのものでもなかった。

『あ、怖くないお! えっと、僕は――』

(*゚ー゚)「そっか……もうお迎えが来たんだ……」

 唯一、心当たるのはそれだ。
 死期の近付いた人間は、天界からの迎えに連れられ極楽浄土へ向かうという。
 あるいは、地獄へ送るための死神か――自分の体がそう長くない事など、とうに知っている。



355 :天井:2008/07/14(月) 00:11:01.57 ID:9mbrE+Cj0

 家族ですら余り出入りのないこの部屋に現れるとしたら、そのいずれのどちらかだろう。

『……そ、そんなもんだお』

 声は少しだけ悩むような間を置いて、そう言った。

(*゚ー゚)「私はいつ死ぬの? 私には……未練も何もないよ。早い方が良いくらいだよ」

 声はやはり意味深な間を置いて、

『……分からないお』

 と言った。



357 :天井:2008/07/14(月) 00:11:32.15 ID:9mbrE+Cj0

『えーと、ぼ、僕は新米なんだお! だから、君はもしかしたら死なないかも知れないお! 元気出すおっ!!』

(*゚ー゚)「ふふ……変なの」

 思わず笑みが零れる。
 声はやけに必死に、更には「元気を出せ」と言う。
 迎えに来て置いて、その物言いは余りに滑稽だった。

『今、笑ったお? うはっ、もっと笑うお!! ……でも、何が面白いんだお?』

 声はいかにも嬉しそうに、そして、心から不思議そうに言った。
 私の発言ひとつひとつに一喜一憂するその声は、何故だか私にとって愉快だった。

(*゚ー゚)「はは……あ……何だか眠くなってきっちゃった……」



359 :天井:2008/07/14(月) 00:12:02.17 ID:9mbrE+Cj0

『ゆっくり寝るお! 寝る子は育つんだおっ!!』

 笑いながら、眠りに就く。
それは恐らく久しぶりの事で、とても幸福な事だ。
そう遠くない未来、訪れる永遠の眠りを前に、私は同じ事が出来るのだろうか?
 考えながら、私は眠った。
 夢の中に現れた死神は、声に良く合う優しい顔で「きっと大丈夫だお!」と言った。
私は精一杯の笑顔で頷く。
 きっと、何もかもが大丈夫なのだと思った。



360 :天井:2008/07/14(月) 00:12:34.04 ID:9mbrE+Cj0

 翌朝、「おはよう」と声をかけると、やはりどこかから「おはよう」と寝ぼけた声が聞こえた。
こういった朝の挨拶も久しぶりだ。
幼稚園で「挨拶はお互いを晴れやかにします」とか何とか、そんな事を学んだのを、唐突に思い出した。
 今の私は、それが真実であると断言出来る。
そう思うと、ベッドで過ごした七年間も無駄ではなかったのかも知れない。
それを教えてくれた「死」という現実も、恐らく無駄ではない。

(*゚ー゚)「……私が死ぬのは、きっと無駄じゃないんだよね」

『お……?』

 呟きは、誰に届くでもなく消えた。



361 :天井:2008/07/14(月) 00:13:04.06 ID:9mbrE+Cj0

 時計の針がカチカチと鳴る。
 随分と早く目覚めてしまったようで、思わず声を掛けてしまった「声の主」に、少し悪い事をした気がした。
 それでも声の主は私を元気付ける為か、しきりに声を掛けてきた。
それに応えるように、私もたくさん話をした。
 幼い頃の事。
 両親の事。
 交通事故で死んだ、姉の事。
 ――私の病気の事。

(*゚ー゚)「私まで死んじゃったら、お父さん達悲しむかなぁ……」

『……』

 そうさせない為にも、親には私を「いらない子」だと思わせる必要がある。
 そう思ってずっと過ごしてきたし、それが間違いだとは思わない。



371 :天井:2008/07/14(月) 00:51:27.00 ID:9mbrE+Cj0

『本当にそうなら……親をこの部屋から遠ざける事なんてなかったお。好きなだけ当り散らしたら良かったんだお』

(*゚ー゚)「そうだね……でも、」

 「嫌われるのは、やっぱり怖いよ」。
 私の喉が、弱々しく震える。
 自分の物とは思えないほど、儚気な声だった。

『君は優しすぎるんだお……』

 声はそれきり止んだ。
 それだけの事で、この部屋は随分と静かだ。
 こんなに喋ったのも、やはり久しぶりの事だった。
 それだけの事で疲れてしまったのか、やはり私は眠った。

 ――私が再び眼を覚ましたのは、眠る前の静寂が嘘と思えるような轟音が響いたからだ。



372 :天井:2008/07/14(月) 00:51:57.34 ID:9mbrE+Cj0

(*゚ー゚)「何の音……?」

 尋ねる私に、声は優しく「君は優しすぎるんだお」と言った。
 眠る前に聞いたのと同じ台詞だ。
 いつものように視界を占める天井は紅。
今が夕方である事を示している。ちょうど両親が仕事に出ている時間だ。
 私は、ひとりでこの音の正体を暴かなければならない。

(*゚ー゚)「ねぇ……どこにいるの?」

 形を持たない死神に向けるには、可笑しな台詞だ。
 それでも私がそれを確認したのは、

『君に……空を見せてあげるお!』

 その声が、その音が、私の上――天井から聞こえた気がしたから。



375 :天井:2008/07/14(月) 00:53:37.42 ID:9mbrE+Cj0

 辺りに再び音が響く。
 その音は、一定のリズムで。
 まるで、何かを叩くように。
 完膚なきまでに、破壊し尽くすように。

『君に、空を、見せるんだおッ!』

 私の視線の先、天井の一部がごっそりと持ち上げられる。
 ぱらぱら降った砂が、真っ白い布団を汚すが、そんな事は何の気にもならなかった。

( ^ω^)「僕はブーン……”死神”じゃないお。僕は――」

 その夕日が、余りにも綺麗で――。




376 :天井:2008/07/14(月) 00:54:08.54 ID:9mbrE+Cj0

(*゚ー゚)「じゃあ、部活頑張ってね!」

 あの夢の様な邂逅から、もう一年になる。
 病魔もすっかり成りを潜め、随分と回復した私は、同級生に混ざって登校できるまでになっていた。
 流石に部活動に参加する訳にはいかないが、こうしてゆっくりと、景色を楽しむ事はできる。

『僕はブーン……”死神”じゃないお。僕は――』

 あの日、あの優しい声は言った。
 真っ赤な茜空を背に、夢で見た優しい顔で言った。

( ^ω^)「”ベッドの下の斧男”……。そんな風に呼ばれた事もあったお」

 その手に斧が握られている事に、私は初めて気付く。
 同時に天井を破壊したものの正体も。



378 :天井:2008/07/14(月) 00:54:38.96 ID:9mbrE+Cj0

(*゚ー゚)「……きれい」

 久々に見る夕日は、信じられないくらいに綺麗で、私は思わず声を失った。

( ^ω^)「元気……出たかお?」

(*;ー;)「……ふ、うん」

 自分でも知らないうちに、私は泣いているようだった。
 きっと、「久しぶりに光を見ると、慣れていない眼が涙を流す」というやつだ。そうに違いない。
 私がそうしているうちに、死神――斧男は消えていた。
 彼が一体何だったのか、ついに私が知ることはなかった。

(*゚ー゚)「私は元気だお。また遊びに来るおー……」

目の前に際限なく広がる夕日を見ていたら、何故かその事を思い出した。



[ 2008/07/14 13:48 ] 総合短編 | TB(0) | CM(0)

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