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川 ゜ -゜)は、忘れることを忘れてしまったようです


286 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/12(土) 02:59:23.63 ID:CjpG4wKh0

・・・国道二号線・案内県内ラウンジバイパス・・・


ひとたまりもなかった。
何とか車が寄せられるくらいには広くなった路肩に辿り着くことはできたのは、いっそツイてる方だったろう。
無茶にも限度があった。がたぴしぷすん、という音を立ててついにエンジンが全ての仕事を放棄した。


ボンネットが吹っ飛びそうな勢いで噴出す水蒸気。


(´・ω・`) 「あー。こりゃだめだ、水温計が振り切っちゃってるよ。オーバーヒートだ。しばらくエンジンを休めるしかないな」

ξ゚⊿゚)ξ 「あーあ。だから出てくる前に言ったのに」

川 ゚ -゚) 「またクーラント漏れだろう? これで今年に入って四回目だ。学習しないな、兄さんは」

(;´・ω・`) 「最近は調子もよかったし、いけると思ったんだけどね……」

ξ゚⊿゚)ξ  「だから言ったのに絶対絶対ぜーったいまた止まっちゃうんだからって。
        エンジン破りのラウンジバイパスなのよ? ピカピカの新車だって時々オーバーヒートしてJAF呼んじゃうのよ?
        こんなオンボロが耐えられるわけないじゃないまたエンジン冷えるまで何時間も足止め?」

(;´・ω・`) 「う、うん、ごめん」

ξ゚⊿゚)ξ  「だいたいいつもいつも甘いのよショボンは。できるかもしれないって言ってできたこと一度でもある?」

川 ゚ -゚) 「わたしが覚えてる限りでは、ない」

ξ゚⊿゚)ξ  「でしょうがっ!」



287 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/12(土) 03:01:25.18 ID:CjpG4wKh0

ξ゚⊿゚)ξ  「はぁ――、」


聞こえよがしにわざと大きなため息をついたツンが、後部座席のドアを開け、神を仰ぐように空を見て、
がつん、と車のボディを蹴っ飛ばした。


(;´・ω・`) 「わああああああああ何するの! そこ先月板金張り替えたばっかりなんだから!」

ξ゚⊿゚)ξ  「20万キロ走ったボロ車が板金1枚張り替えて何になるのよバカ。
        そんなことより、ほら」

(´・ω・`) 「? なに?」

ξ゚⊿゚)ξ  「なに? じゃないわよ。じゃんけんよじゃんけん」

(;´・ω・`) 「……ど、どうして?」

川 ゚ -゚) 「2800メートルほど前に通過した地点にコンビニがあるから、だろう、無論」

(;´-ω-`) 「……よく覚えてるね。さすがだよ……」

ξ゚⊿゚)ξ  「そゆこと。こんなとこでボーっとしててもアレだしね、VIP市はまだ遠いんだし、お腹も減ったし、」


だから、じゃんけんに敗北した負け犬を一匹買出しに行かせよう、というわけだ。
一見、すごく平等な話ではある。けど、そこには打算も勝算も山盛りなのだ。

――なぜなら、



288 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/12(土) 03:03:26.67 ID:CjpG4wKh0

ξ゚⊿゚)ξ  「ほら、いくわよー」


ツンの右手が握り拳を作り、その拳を左手で覆い、構えを取って、


川 ゚ -゚) 「うん、単純明快なのは好きだ」


クーも応じて構えを作る。


(´・ω・`) 「……はぁ……」


ため息しか出ない。だってこんなの、勝てるわけない。


『じゃんけん、ぽんっ――!』


川 ゚ -゚) 「ちょき」

ξ゚⊿゚)ξ  「ちょき」

(´・ω・`) 「……ぱーですよねー」


そしてぼくは、それはもうあっさりと敗北した。



289 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/12(土) 03:05:27.29 ID:CjpG4wKh0

ξ゚⊿゚)ξ  「きゃほ――っ!」


ぼくの出した間抜けなぱーを見るや否や、ツンはちょきをピースサインに変えて、まだ太陽も高い真夏の空に突き上げる。


(;´・ω・`) 「……じゃあ、行ってきます……」

川 ゚ -゚) 「西村園の『おい貴様、お茶』。あとぶっかけ大盛りきしめん」

ξ゚⊿゚)ξ  「あたしフォックスの微糖コーヒー。それからチキンサラダ」

(´・ω・`) 「かしこまりましたー」

ξ゚⊿゚)ξ  「あとアイスね、ギリギリくんのソーダ」

(;´・ω・`) 「アイス!? 行き帰りで絶対溶けちゃうよそんなの!」

川 ゚ -゚) 「あー、アイスいいな。わたしも。コーラ味で」

(;´・ω・`) 「い、いやだから、アイスなんて無理だって、」

ξ゚ー゚)ξ  「にひひ」


ツンが、ちょきを形作ったままの手を突き出してきた。
ちょきはぱーより強い。時として王様や教皇よりも強い。

そこのところは、天地がひっくり返っても、惑星直列が起きようとも絶対に揺るがない真理だ。



292 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/12(土) 03:07:29.67 ID:CjpG4wKh0

ξ゚ー゚)ξ  「がんばってね、ショボン兄さんっ」

(;´・ω・`) 「はい……がんばります……」


片道三キロの道を、オンボロ自動車のエンジンだって焼き殺す夏を、どうがんばって打ち倒せばいいんだろう、と思う。
アイスって。いくらなんでもそりゃないだろう。

山の腹を削って作られたラウンジバイパスのアスファルトが、西に続く山並み伝いにずうっと先まで延びている。
地球そのものが気化しているのではないかと思うほどの濃い陽炎が揺れている。


(´・ω・`) 「懐かしいね。変わらないな、この道は」

川 ゚ -゚) 「変わったさ。
      以前はガードレールなんかポールとポールの間にワイヤーを引いただけだったし、路面にグラインドなんて引いてなかった。
      中央線にキャッツアイも敷設されてなかったし、ほら。あの電波塔。あんなものはなかったよ」

ξ゚⊿゚)ξ  「…………」

(´・ω・`) 「…………」

川 ゚ -゚)、 「あ、いやごめん、つい、な」


そうだ。
ツンだけならまだしも、クーを相手取ってじゃんけんに勝てるわけなんか、ないんだ。


なぜなら彼女は、一度覚えたことを、決して忘れたりなんかしないんだから。忘れることが、できないんだから。



293 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/12(土) 03:09:31.46 ID:CjpG4wKh0

失忘病という病気は、ある時期を境目に人類の常識となった。
それはもちろん、この国、ぼくらの身辺おいても例外じゃない。現在の総理大臣を知らないヤツはいても、失忘病を知らない寸足らずなど一人もいない。
簡単に言えばそれは、忘れることを忘れる病気だ。

少し前に流行った脳を鍛える系のゲームのキャッチコピーに、「一昨日の昼ごはんのメニュー、思い出せますか?」というのがある。
笑わせる。失忘病患者は、一昨日どころか十年前に食った昼ごはんのメニューですら鮮明に記憶している。


そう。彼ら彼女らは記憶する。
彼らの歩んできた道を、彼女らの見てきたものを、絶対に絶対に忘れることはない。
イデオ・サヴァン症患者が忘れ、ペセタフロップスのスーパーコンピュータが見落とした事実すらも、どこまでも正確に、いつまでも永遠に。



(´・ω・`) 「ねえ、さっきのじゃんけんだけどさ。アレはやっぱり、クーがぼくのクセを見抜いたんだろ?
       いい加減教えてくれない? ぼくどんなクセがあるの?」

川 ゚ ー゚) 「ふふふ。教えてあげない」

ξ゚⊿゚)ξ  「って誤魔化してないでほら、ショボン兄さんはさっさと行くの。アイス溶かしたら罰金。買ってこなくても罰金」

(;´・ω・`) 「ちっ……」

ξ゚⊿゚)ξ  「ちっとか言わないの、しょーおがないでしょー、じゃんけんに負けたんだから」

(;´・ω・`) (あんな不平等なじゃんけんがあってたまるか……)



294 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/12(土) 03:11:41.87 ID:CjpG4wKh0

ξ゚ー゚)ξ  「ほらほら、サクッと行ってらっしゃいっ!」

川 ゚ ー゚) 「いってらっしゃい」

(;´-ω-`) 「……こんな時だけ笑顔もらってもうれしくない……」







少し手入れの行き届いた山道以外のなにものでもない道に、「バイパス」なんて名前はいかにも大げさだと思う。
50メートルを歩いて振り返る。
クーは開け放した車のドアに、ツンはガードレールに腰掛けて、何かを楽しげに話している。


(´・ω・`) (――うん、今日は大丈夫そうかな)


それだけならば、失忘病はとても優秀な「才能」だと言えたろう。
失忘病は、「病」だ。クーは、紛れもない「病人」だ。

正直言って、時々、ぼくですらそこのところを忘れそうになる。
クーたちと過ごした10年間は楽しかったし、平穏だったからだ。


――そして平穏だった時は、VIP市に着いた瞬間に、或いは終わってしまうのかもしれない。



295 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/12(土) 03:13:43.05 ID:CjpG4wKh0

ああ、無力だ。
結局、ぼくたちはクーを止めることができなかった。

ぼくらが止めるのならば一人でも行くと言った、クーのダイヤモンドのような意思が怖かった。
ぼくらの生まれ育ったVIP市に行くことが、クーにとってどんなに悪いことか分かっていても。

オーバーヒートだってもちろんわざとだ。少しでもVIP市に着く時間を遅くしようという醜い執着だ。
ツンの、いつもよりもキツめのツッコミも、あれは明らかにクーにそれと悟らせないための芝居だった。


(´・ω・`) 「…………」


携帯電話のカメラを構える。
安いレンズとCCDと、トロいオートフォーカスと頭の悪いオートホワイトで記録できる映像は、クーの記憶なんかよりもずっとおぼろげなものなのだろうけど。

いつまでも色褪せることのない記憶じゃなく、記録として、今は。
笑いあうツンとクーの姿を、残しておきたかった。




ぱしゃり。



298 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/12(土) 03:15:43.19 ID:CjpG4wKh0







     川 ゚ -゚)は、忘れることを忘れてしまったようです


          1話 すすめ







299 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/12(土) 03:17:44.65 ID:CjpG4wKh0

・・・四十五分後・・・


3キロの復路を、走って走って走った。
がしかし、気合を入れたってできることとできないことがあった。
そもそも前提条件に致命的に無理があったのだ。

当たり前の話だ。だから言ったのに、


ξ゚⊿゚)ξ  「あーもうっ! アイス溶けちゃってるじゃない、ショボンのバカデブのろま!」

(´;ω;`) 「うっ、ひどいひどい、無理だよう! 無理に決まってるよう! それにそんなにデブじゃないよう!」

ξ゚⊿゚)ξ  「知ってるんだからね、前回の会社の健康診断でメタボって言われたんでしょ?」

Σ(;´・ω・`) 「ぎっくうっ!?」

川 ゚ -゚) 「ちなみに血圧と血糖値も割と危険だった」

(;´・ω・`) 「な、なんでキミらぼくの検診結果なんて知ってるのさ……」

川 ゚ -゚) 「だってショボンは、いつも仕事の鞄をテーブルの上に置きっぱなしにする。片付けてたら出てきた」

ξ゚⊿゚)ξ  「そういうところがツメが甘いってのよ。
        ……あーほら。やっぱり。お箸の数が足りない」

(;´-ω-`) 「うう……」



300 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/12(土) 03:19:45.70 ID:CjpG4wKh0

ξ゚⊿゚)ξ  「はーもう。しょうがないなあ。お箸、交代で使おっか」

川 ゚ -゚) 「うん、別に構わない」


(´・ω・`) 「……はっ」

ξ゚⊿゚)ξ  「今度はなに?」

(;´・ω・`) 「……アイスを溶かさないことに頭がいっぱいで、自分の分買ってくるの忘れた……」

ξ;゚⊿゚)ξ  「……本物のバカだわ……」

川 ゚ -゚) 「兄さん。半分食べていい。あとかまぼこは全部あげる。嫌いだから」

(´;ω;`) 「マジですか!」

川 ゚ -゚) 「うん」

ξ゚⊿゚)ξ  「ああもう、そんなに甘やかしちゃダメだってば。いいのよダイエットにもなるし、」

川 ゚ -゚) 「んー。でも、お腹が減って運転に集中できないのも困る。わたしもツンも運転できないし」


(´;ω;`) 「クーはいい子だなあ。クーはいい子だなあ」

(´;ω;`) 「大事なことだから2回言いました」

ξ゚⊿゚)ξ  「やかましいっ!」



305 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/12(土) 03:57:10.73 ID:TbuRPDy0O

・・・30分後・・・


ξ゜⊿゜)ξ  「どう? 走りそう?」

(´・ω・`) 「…………」

川 ゜ -゜) 「? 兄さん?」

(´・ω・`) 「…あ、うん。クーラント漏れもテープでなんとか補修できたし、走れそうだよ」



川 ゜ ー゜) 「そうか、よかった」



(´゜ω゜`) 「――――、」


クーの言葉を聴いた瞬間、突然肋骨の中が真空になったような感覚に襲われた。
「落ちる夢」から目覚めるときの、あの感覚にすごく良く似ていた。

自分たちが今なにをやっているのか。
「車が動かない」という最後の免罪符がなくなった今、ぼくは今ようやくその実感を得ているのかもしれない。

もう戻れない、もう戻れない、もう戻れない、


ξ゜⊿゜)ξ  「……ショボン」



306 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/12(土) 03:59:19.50 ID:TbuRPDy0O

(´゜ω゜`) 「……つ、ツン、」


あれ、どうしよう。足も声も震えている。
このままクーを車に乗せて、強引にUターンして有無を言わせず道を引き返すという選択がどうしようもなく魅力的に思えてくる。

ぼくには、ぼくにだけは、それができる。そして、そうするべきだ。

失忘病患者を生まれ故郷に連れて行く?
そんなの、絶対に正気の沙汰じゃない。


ξ゜⊿゜)ξ  「ショボン!」


ぱしんっ!


(´・ω・`) 「……ツン、」

頬に感じた熱さを痛みだと理解するのに、ぼくはツンにはたかれたのだと気づくのに、2秒もかかった。


ξ゜⊿゜)ξ  「バカも大概にしなさい。ここに来て全部無駄にする気? 今さらビビってんじゃないわよ。
        あれからもう10年よ。10年間、あたしたちは守り通してきたの。

        それがこんなことで引っくり返ってたまるもんですかっ」



307 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/12(土) 04:02:09.16 ID:TbuRPDy0O

川 ´ -`) 「……大事な約束があるんだ。あの町に行かなきゃいけないんだ」

(´・ω・`) 「クー、」

川 ´ -`) 「兄さんたちに心配をかけてるのは分かってる。でも、とても大事な約束なんだ」

(´・ω・`) 「……うん」

ξ゜⊿゜)ξ  「クーがVIPに忘れ物をしたっていうなら、みんなで取りに行くの!
        それで、また絶対みんなで帰ってくるの! そう決めて家を出てきたんでしょ!?」

(´・ω・`) 「…………うん」

ξ゜⊿゜)ξ  「VIPを出るあの時、あたしたちはクーを病院に閉じ込めることもできた。

        でもそれはしなかった。ショボン、あんたが言ったことよ」


覚えてる。
クーが覚えきれないくらい、楽しいことをたくさんしよう。だから、おいで。ぼくはそう言ってクーに手を伸ばした。


川 ゜ -゜) 「……あの一言はね、兄さん。わたしにとっては、」

(´・ω・`) 「――ごめん、クー。ぼくがどうかしてた」


クーがその手を取ったあの日から、ぼくがクーにどれだけのものを与えられたのか。それは分からないけれど。



308 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/12(土) 04:04:38.36 ID:TbuRPDy0O

クーがどうしても行かねばならないというなら、行こう。
アクセルを踏んで、VIPまでの50キロの道を行こう。

クーの信頼を裏切ろうとしたぼくをツンが助けてくれたように、クーのことはぼくら2人で守りきる。
そこには慈悲だとか善意だとか、そういう最低限の理屈もいらない。ぼくらは家族だから。家族になれたから。それだけで充分だ。



(´・ω・`) 「……さあ2人とも、乗って。早くしないと夜になっちゃう」

ξ゜⊿゜)ξ  「よく言うわよ足止めの張本人が。ああもう暑かった、とりあえずクーラー最強にしてね」

(;´・ω・`) 「あ、いやちょっとそれは、エンジンに負担かかるからしばらく無理……かな」

ξ# ⊿ )ξ  ブチッ


がつんがつんがつんがつんっ!


(´゜ω゜`) 「わあ、だから車を蹴らないでってばっ!」

ξ#゜⊿゜)ξ  「おらさっさと行くわよバカぁ―――っ!」



309 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/12(土) 04:06:17.66 ID:TbuRPDy0O







     川 ゜ -゜)は、忘れることを忘れてしまったようです


          1話 すすめ     おしまい









[ 2008/07/12 12:32 ] 総合短編 | TB(0) | CM(0)

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